路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

 路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

【社説①・02.27】:年金の改革 与野党で負担の熟議を

2025-03-02 16:00:20 | 【社会保障施策・年金(国民、老齢、共済、障害)・医療、介護保険・生活保護・

【社説①・02.27】:年金の改革 与野党で負担の熟議を

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・02.27】:年金の改革 与野党で負担の熟議を 

 5年に1度の年金改革を、夏の参院選後に先送りする案が政府、与党内で出ている。

 全ての国民が受け取る基礎年金(国民年金)の底上げや、パートらの厚生年金加入を広げる関連法案の提出を目指しているが、現役世代や企業の負担増を伴う。

 選挙が不利になるとする与党内の反対や、野党の追及を避けるための先送り論という。

 だが、少子高齢化により年金財政が悪化するのは確実で、制度を安定させ、国民の将来不安を低減する改革は急務だ。与野党の建設的な議論を求めたい。

 保険料を支払う現役世代が減る一方、年金を受ける高齢世代が増えている。昨年の財政検証によれば、20歳以上の全国民が加入する1階部分の基礎年金は将来、特に給付水準が下がる。そこで会社員らが入る2階部分の厚生年金の積立金で、基礎年金を底上げするのが今改革の柱という。

 非正規など不安定な雇用で、基礎年金が頼りとなる就職氷河期世代が少なくないとみられ、老後生活の保障には重要な対策となる。長期的には、ほぼ全ての世帯で給付水準が底上げされる。

 もう一つの柱は、会社員に扶養されるパートらが厚生年金に加入する要件を廃止する案である。

 年収要件(106万円以上)や企業規模要件(従業員51人以上など)をなくすことで、多様な働き方に中立的な制度とし、手厚い給付を受けられる人を増やす。

 いずれも社会保障審議会の報告書を基にした案だが、自民党内で負担増への慎重論が強く、法案作成の段階で大きく後退した。

 積立金の活用は枠組みを作るものの、実施の判断は5年後の改革時に行うとし、実質棚上げする。企業要件の完全撤廃は、10年後に延ばす。5人以上が働く個人事業所への適用も新設に限り、既存事業所は当面免除とする。

 そんな穴が目立つ法案でさえ、今国会に提出せずに議論から逃げるようでは、石破茂首相が施政方針で掲げた「熟議の国会」はかすむばかりではないか。

 衆院多数派の野党も姿勢が問われる。財源の裏付けを度外視し、高校無償化や「年収の壁」見直しの減税効果だけを追うような無責任さは改めるべきだ。

 与野党で、法案作成から集中協議をしてはどうか。基礎年金の半分を占める公費の財源や、昨年の衆院選を前に封印した保険料の納付期間延長なども含め、幅広く検討してもらいたい。

 元稿:京都新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2025年02月27日  16:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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《社説①・02.03》:戦後80年 曲がり角の社会保障 安心守る仕組み再構築を

2025-02-03 02:07:50 | 【社会保障施策・年金(国民、老齢、共済、障害)・医療、介護保険・生活保護・

《社説①・02.03》:戦後80年 曲がり角の社会保障 安心守る仕組み再構築を

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・02.03》:戦後80年 曲がり角の社会保障 安心守る仕組み再構築を

 戦後の社会保障制度は、家族と企業が果たす役割を前提に形作られてきた。だが、社会のあり方が大きく変わり、制度の持続性が問われている。

 北九州市中心部で1月、福祉施設「希望のまち」の起工式が行われた。計画を進めるのは、生活困窮者支援に取り組むNPO法人「抱樸(ほうぼく)」だ。2026年夏のオープンを目指している。

「希望のまち」の起工式で、くわ入れするNPO法人・抱樸の奥田知志理事長(右から3人目)ら=北九州市小倉北区で1月14日、井土映美撮影

 2、3階は生活困窮者らを受け入れる。1階には地域の人のための相談・支援窓口を設け、子どもや障害のある人たちに居場所を提供する。

<picture><source srcset="https://cdn.mainichi.jp/vol1/2025/02/03/20250203ddm005070102000p/9.webp?2" type="image/webp" />数人のグループに分かれて、ゲーム形式で社会保障制度を学ぶ取り組み。失業や重い病気などの時には、何に困り、どうすればよいか、ボードに書き込みながら、使える制度をみんなで考える。写真は2024年10月に東京都足立区の「ふらっと・とーと」で実施した時の様子=NPO法人「Social Change Agency」提供</picture>
数人のグループに分かれて、ゲーム形式で社会保障制度を学ぶ取り組み。失業や重い病気などの時には、何に困り、どうすればよいか、ボードに書き込みながら、使える制度をみんなで考える。写真は2024年10月に東京都足立区の「ふらっと・とーと」で実施した時の様子=NPO法人「Social Change Agency」提供

 さまざまな人が集まるようにレストランを併設し、まちづくりの知識を持ったコーディネーターも常駐する。地域の人たちのつながりを促す拠点とするのが狙いだ。

 ◆家族と企業の機能低下

 日本の社会保障は、生存権を保障した憲法25条が出発点となった。1961年に国民皆保険と皆年金が達成され、老人医療費が無料化された73年は「福祉元年」と呼ばれた。

 介護や育児に関する制度整備は遅れていたが、かつては3世代が同居する大家族が支えていた。家族の存在は、78年の厚生白書で「福祉の含み資産」と位置づけられていた。

 だが、高齢化と核家族化が進み、こうした機能が弱体化した。その役割を社会で分担するために介護保険制度が創設され、子育て支援策が整えられた。

 一方、企業は、終身雇用などで老後も含めた生活を保障してきた。だが、グローバル化の進展に伴う競争激化で、そうした余裕を失ってしまった。さらに、非正規雇用が増え、働き手の暮らしはますます不安定になっている。

 家族と企業が果たせなくなった役割を代替する。それが抱樸の取り組みと言えるだろう。

 とはいえ、高齢化や貧困問題の深刻化で社会保障の需要は増える一方だ。多様な公的サービスの整備は進んだものの、制度自体が使いにくいという問題が顕在化してきた。

 支援を必要とする人は、原則として役所などに出向いて申請しなければならない。だが、どのようなサービスがあるのかを知らない人や、高齢者など自分で対応することが難しい人もいる。

 申請に至るまでのハードルの存在について広く問題提起しているのが、NPO法人「Social Change Agency」だ。代表理事で社会福祉士の横山北斗さん(40)は、制度を使う上でのサポートが必要だと訴える。

 その一つとして、これから社会に出る中高生を主な対象に、ゲームを通じて社会保障制度の使い方や、相談窓口について啓発する取り組みを進めている。

 例えば、家賃が支払えなくなった場合には、自治体から補助を受ける仕組みがある。横山さんは「困った時に、使える制度を探せるようになってほしい」と話す。

 デジタル技術の活用も有効だ。自治体が住民のスマートフォンなどにサービスを通知し、利用を促すプッシュ型の取り組みも広がっている。

 政府も、携帯電話の料金の支払いが遅れている利用者に相談窓口の情報が届くよう、事業者に要請している。

 ◆制度の持続性高めねば

 社会保障は転換期を迎えている。25年には団塊の世代が全員75歳以上となり、医療や介護費用が膨らむ。40年には団塊ジュニア世代が高齢期に入り、65歳以上の人口がピークを迎える。

 さまざまな制度は、保険料と税で支えられている。今後も高齢化が進む中、今の制度のままでは現役世代の負担が過大になる。

 その一方で、現役世代は社会保障のメリットを高齢世代よりも感じにくい。このため、世代間の対立をあおるような声も出ている。

 だが、だれもが年を重ねる。病気や失業といったリスクもあり、いつ支えられる側に回るか分からない。

 安心して暮らせる社会をいかに作り上げていくか。社会保障制度の持続性を高めるには、負担とサービスのあり方について議論を深めなければならない。

 互いに支え合うという原点に立ち返る時だ。

 元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2025年02月03日  02:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【政界地獄耳・01.14】:生活保護と自動車保有 団体・弁護士の努力に行政重い腰上げた

2025-01-16 07:40:40 | 【社会保障施策・年金(国民、老齢、共済、障害)・医療、介護保険・生活保護・

【政界地獄耳・01.14】:生活保護と自動車保有 団体・弁護士の努力に行政重い腰上げた

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【政界地獄耳・01.14】:生活保護と自動車保有 団体・弁護士の努力に行政重い腰上げた

 ★多くの人たちが関係のないことだろうが、不測の事態から生活保護を受ける人たちに行政の壁は冷たい。ことに自家用車を所持することに極めて厳しい。理由は<1>資産である<2>保護費からのローン返済を認めない<3>維持費がかかる<4>賠償能力がない。重度の障がいがあり就労しても賃金がままならず子供も学校に通い、そこに親の介護が加わるなど生活の困窮にはさまざまな理由がある。また不労所得にならないように厚労省や自治体の生活支援課や計画相談員は税金の支給とあって、柔軟性を持って対応するという判断を行使しづらい。

 ★三重県鈴鹿市が、母も高齢かつ病気を患い歩行が困難であるにもかかわらず、自動車の利用を同居する障がいのある次男の通院用に限定し、日々の走行距離や行き先を報告する運転記録票の提出の求めに応じなかったことを理由に生活保護を打ち切った。これに津地方裁判所が昨年3月21日、停止処分を取り消したうえで市に慰謝料等の損害賠償を命じる判決を言い渡し、名古屋高等裁判所も同年10月30日、地裁の判断を維持し市側の控訴を棄却する判決を出した。この説明だけ読めば誰もが市の判断が不当に思えるが、現実は日本中で起きていて国会でも取り上げられてきた。

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 政界地獄耳

 政治の世界では日々どんなことが起きているのでしょう。表面だけではわからない政界の裏の裏まで情報を集めて、問題点に切り込む文字通り「地獄耳」のコラム。けして一般紙では読むことができません。きょうも話題騒然です。(文中は敬称略)

 元稿:日刊スポーツ社 主要ニュース 社会 【コラム・政界地獄耳】  2025年01月14日  07:39:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・01.09】:年金制度改革 与野党が熟議尽くす時だ

2025-01-11 07:00:35 | 【社会保障施策・年金(国民、老齢、共済、障害)・医療、介護保険・生活保護・

【社説・01.09】:年金制度改革 与野党が熟議尽くす時だ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・01.09】:年金制度改革 与野党が熟議尽くす時だ 

 厚生労働省が年金制度改革に関する報告書をまとめた。5年に1度の「財政検証」の議論に基づき、働く高齢者の在職老齢年金や、厚生年金保険料の労使折半ルールの見直しなどが盛り込まれた。

 時代の変化に合わせて制度を手直しすることは必要だ。ところが、今回の焦点だった国民年金(基礎年金)の給付水準底上げは「さらに検討を深めるべきだ」という表現にとどまった。報告書を基に、国会へ法案提出を目指す政府の方針にも不透明感が漂う。

 国民生活に関わる年金問題に後ろ向きでは困る。与野党ともに責任ある制度設計を示し、熟議を尽くす時だ。

 国民年金加入者には低所得者や学生も多く、保険料免除や猶予で実際に納付している人は約半数にとどまる。さらに、年金制度を維持するために給付水準を調整する「マクロ経済スライド」という仕組みもあって、給付額は現行よりも約3割も目減りすると危ぶまれている。

 保険料を満額納めても給付額は月約65千円と、生活保護費より少ない。保険料未納者が生活保護費を受給し、納付者の年金がそれより少ないようでは制度への信頼自体が失われかねない。年金の水準が下がれば、とりわけ就職氷河期に直面し、非正規労働者の多い世代が貧困にあえぐことも懸念される。

 今回の報告書で、厚労省は会社員の厚生年金財政からお金を回し、国民年金を穴埋めすることをもくろんだ。会社員は厚生年金は減っても基礎年金部分は増えるので、厚労省はほぼ全員が損はしないと説明してきた。しかし、実際にはここ10年ほどの間に受給が始まる世代は受取額が減る。世代間に不公平をもたらす案には、専門家の評価も割れた。今回の報告書で表現が「さらに検討」とされたのもそれが理由だろう。

 厚生年金の果実を国民年金に回すことは「取りやすいところから取る」場当たり的な対応と言わざるを得ない。国民の手取り増が求められているのに、逆に手取り減となる「年収106万円の壁」の撤廃で厚生年金への加入を促したのもそういうことなのか。

 福田康夫政権では基礎年金の全額を税方式に改める検討がされた。税方式ならば未納者はいなくなる。消費税34%分の負担増が見込まれるが、その代わりに基礎年金分の保険料もなくなる。

 自民党の河野太郎氏は総裁選で、保険料方式から税方式への転換を訴えた。将来世代への仕送りである賦課方式から積み立て方式への見直しも提案した。こうした抜本的な見直し議論を求めたい。

 欧米では年金の支給開始を67~68歳に徐々に引き上げている。高齢化が顕著な日本が65歳にこだわる理由はない。年金改革を進め、高齢者でも働きやすい環境を同時に整えていくことが不可欠だ。

 厚労省の示す案を少数与党の石破茂政権がそのまま政府案としても国民の安心にはつながるまい。与野党が抜本的な案を出しあって議論を重ね、年金制度を再構築することこそ熟議の国会と言える。

 元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2025年01月09日  07:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・01.09】:年金制度改革 与野党が熟議尽くす時だ

2025-01-09 07:00:55 | 【社会保障施策・年金(国民、老齢、共済、障害)・医療、介護保険・生活保護・

【社説・01.09】:年金制度改革 与野党が熟議尽くす時だ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・01.09】:年金制度改革 与野党が熟議尽くす時だ

 厚生労働省が年金制度改革に関する報告書をまとめた。5年に1度の「財政検証」の議論に基づき、働く高齢者の在職老齢年金や、厚生年金保険料の労使折半ルールの見直しなどが盛り込まれた。

 時代の変化に合わせて制度を手直しすることは必要だ。ところが、今回の焦点だった国民年金(基礎年金)の給付水準底上げは「さらに検討を深めるべきだ」という表現にとどまった。報告書を基に、国会へ法案提出を目指す政府の方針にも不透明感が漂う。

 国民生活に関わる年金問題に後ろ向きでは困る。与野党ともに責任ある制度設計を示し、熟議を尽くす時だ。

 国民年金加入者には低所得者や学生も多く、保険料免除や猶予で実際に納付している人は約半数にとどまる。さらに、年金制度を維持するために給付水準を調整する「マクロ経済スライド」という仕組みもあって、給付額は現行よりも約3割も目減りすると危ぶまれている。

 保険料を満額納めても給付額は月約65千円と、生活保護費より少ない。保険料未納者が生活保護費を受給し、納付者の年金がそれより少ないようでは制度への信頼自体が失われかねない。年金の水準が下がれば、とりわけ就職氷河期に直面し、非正規労働者の多い世代が貧困にあえぐことも懸念される。

 今回の報告書で、厚労省は会社員の厚生年金財政からお金を回し、国民年金を穴埋めすることをもくろんだ。会社員は厚生年金は減っても基礎年金部分は増えるので、厚労省はほぼ全員が損はしないと説明してきた。しかし、実際にはここ10年ほどの間に受給が始まる世代は受取額が減る。世代間に不公平をもたらす案には、専門家の評価も割れた。今回の報告書で表現が「さらに検討」とされたのもそれが理由だろう。

 厚生年金の果実を国民年金に回すことは「取りやすいところから取る」場当たり的な対応と言わざるを得ない。国民の手取り増が求められているのに、逆に手取り減となる「年収106万円の壁」の撤廃で厚生年金への加入を促したのもそういうことなのか。

 福田康夫政権では基礎年金の全額を税方式に改める検討がされた。税方式ならば未納者はいなくなる。消費税34%分の負担増が見込まれるが、その代わりに基礎年金分の保険料もなくなる。

 自民党の河野太郎氏は総裁選で、保険料方式から税方式への転換を訴えた。将来世代への仕送りである賦課方式から積み立て方式への見直しも提案した。こうした抜本的な見直し議論を求めたい。

 欧米では年金の支給開始を67~68歳に徐々に引き上げている。高齢化が顕著な日本が65歳にこだわる理由はない。年金改革を進め、高齢者でも働きやすい環境を同時に整えていくことが不可欠だ。

 厚労省の示す案を少数与党の石破茂政権がそのまま政府案としても国民の安心にはつながるまい。与野党が抜本的な案を出しあって議論を重ね、年金制度を再構築することこそ熟議の国会と言える。

 元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2025年01月09日  07:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①・01.07】:2025年問題 社会保障の改革に道筋を

2025-01-08 06:05:40 | 【社会保障施策・年金(国民、老齢、共済、障害)・医療、介護保険・生活保護・

【社説①・01.07】:2025年問題 社会保障の改革に道筋を

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・01.07】:2025年問題 社会保障の改革に道筋を

 福岡県朝倉市の高齢者施設「さわやかいずみ館」で、インドネシア人の女性2人が介護職として働く。入居する女性に顔を寄せ、流ちょうな日本語で優しく声をかけるエレンさん(31)は施設に欠かせない人材だ。

 2年半前に来日してから、まだ一度も帰国していない。「1カ月ぐらい休みがあればいいけど、勤務シフト上は難しい」と話す。6歳の子どもは母国で両親が世話をしている。

 政府の外国人介護人材受け入れ策として入国し、就労は通算5年に限られる。介護福祉士の資格を取れば延長が認められる。エレンさんは入居者の笑顔にやりがいを感じつつも、日本で働き続けるかは思案中だ。

 介護従事者の不足に、どの地域も頭を痛めている。介護だけではない。高齢化と少子化が急速に進むこの国で、年金や医療を含む社会保障をどのようにして持続させればよいか。難問が重みを増す年を迎えた。

 ■九州の支え手3割減

 かねて「2025年問題」と呼ばれている。

 第1次ベビーブームの団塊世代(1947~49年生まれ)の全員が75歳以上になる節目の年で、総人口のおよそ6人に1人が後期高齢者になる。

 社会保障の給付費は大きく膨らむ。25年度の約140兆円から、65歳以上の人口がピークに達する40年度には約190兆円になる見込みだ。これを保険料や公費で賄う必要がある。

 支え手である生産年齢人口(15~64歳)は減る一方だ。95年は総人口の7割程度を占めたが、22年は約6割にまで減っている。

 この基調は当分変わらない。九州7県で、50年までの30年間に3割減るという推計もある。半減する自治体も少なくない。既に医療や福祉の人手不足が深刻な地域では、さらに厳しい状況になることが懸念される。

 単身の高齢者や認知症になる人が増えるなど、課題は多様化している。人口減少や住民の結びつきが弱くなった影響で、かつてのような見守り支援ができない地域もある。

 人手不足を改善する手だてを急ぎたい。介護職の処遇改善を着実に進めるとともに、貴重な担い手の外国人が働きやすい環境を整えるべきだ。

 支援が必要な人に適切なサービスを届けるには、健康寿命を延ばし、元気に過ごせる高齢者を増やす取り組みも欠かせない。

 ■応能負担を徹底せよ

 若い世代は社会保障制度の将来に不安を抱いている。安心して負担を分かち合えるように、痛みを伴う改革に早く着手しなくてはならない。

 経団連は昨年12月、団塊ジュニア世代(71~74年生まれ)の全員が高齢者となる40年までの中期ビジョン「フューチャー・デザイン2040」を発表した。

 財源不足を克服するため、富裕層の所得税の負担強化など個人の経済力に合った応能負担の徹底を提言した。若い世代の社会保険料の伸びを抑えるのが狙いだ。

 金融資産への課税強化などで34年度に5兆円程度の財源が確保できると試算し、足りない場合は消費税増税や企業負担で補う。

 提言は検討に値する。研究機関などの改革案と併せて、国民的な議論を活発化させたい。

 忘れてはならないのは、社会保障の本質である支え合いだ。超高齢社会の共通認識としたい。

 誰もが老い、体の機能が低下する。いつ支えられる側になってもおかしくない。

 エレンさんは「周りのみんなが優しく、日本が大好きです」と笑顔を見せる。福祉は現場の人たちの情熱で成り立っている。そこにも思いを寄せる必要がある。

 社会福祉や公的扶助は、さまざまな境遇の人たちを包摂する共生社会の基盤である。

 どこに住んでいても支援を受けることができ、制度から漏れる人をつくらない。福祉国家への道筋を確かにする年にしたい。 

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2025年01月07日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説②・12.27】:年金制度改革 信頼確保へ議論深めて

2024-12-27 04:05:40 | 【社会保障施策・年金(国民、老齢、共済、障害)・医療、介護保険・生活保護・

【社説②・12.27】:年金制度改革 信頼確保へ議論深めて

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②・12.27】:年金制度改革 信頼確保へ議論深めて 

 厚生労働省の社会保障審議会が、5年に1度となる公的年金制度改革の方向性を示す報告書をまとめた。厚労省は通常国会への関連法案提出を目指す。
 
 短時間労働者が厚生年金に加入する「年収106万円の壁」では要件の撤廃を盛り込んだ。一方、最大の焦点の基礎年金の底上げは結論を示さなかった。財政負担が増すことなどに慎重な意見があったためだ。
 
 少子高齢化で年金を受け取る人は増え、支える人が減る流れは加速していく。保険料を薄く広く集めて財源を確保し、持続可能で信頼性のある制度にしていかねばならない。政府は多様な意見を聞き、議論を深めてもらいたい。
 年金の給付水準は現在、物価や賃金の上昇率よりも抑制する仕組みが適用されている。基礎年金の水準は2057年度まで下がり続ける。将来の年金世代の暮らしが脅かされかねず、底上げが課題だ。
 審議会は抑制する仕組みの適用期間を短縮し、厚生年金の積立金を活用して基礎年金を底上げする案を議論してきた。
 この場合、厚生年金の受給者が受け取る年金額は一時的に下がる。また基礎年金の財源の半分は国庫負担のため、増税が避けられないとの見方もある。
 このため「経済が好調に推移しない場合」に発動するとの考え方を示し、政府に一層の検討を求めた。
 審議会に先立ち自民党社会保障制度調査会がまとめた提言にも同様の文言があった。来夏の参院選を控え、増税議論につながることを警戒したのだろう。
 各年金の保険料はそれぞれの給付に使われる前提で徴収される。厚生年金の積立金を基礎年金の財源に充てることについて、納得のいく説明が必要だ。
 「106万円の壁」については賃金のほか従業員51人以上の企業要件も撤廃する。実現すれば財政にもプラスとなろう。
 加入により、労働者と企業は保険料を折半して払う。とりわけ中小企業には負担が大きい。政府は新たな支援策も検討してもらいたい。
 会社員らの配偶者で、一定以下の収入であれば自ら保険料を払わなくても基礎年金を受け取れる第3号被保険者制度は、縮小を基本的な方向性とした。
 
 女性が専業主婦の世帯を想定した制度で、働く女性が増えた現代では不公平だとして経済界から廃止を求める声が強い。
 
 ただ第3号被保険者には介護や健康などの事情で働けない人もおり配慮が欠かせない。救済策も含め幅広い検討が必要だ。
 
 元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年12月27日  04:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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【主張①・12.26】:基礎年金の底上げ 会社員も納得する提案を 石破首相は指導力を発揮せよ

2024-12-26 05:03:50 | 【社会保障施策・年金(国民、老齢、共済、障害)・医療、介護保険・生活保護・

【主張①・12.26】:基礎年金の底上げ 会社員も納得する提案を 石破首相は指導力を発揮せよ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【主張①・12.26】:基礎年金の底上げ 会社員も納得する提案を 石破首相は指導力を発揮せよ 

 厚生労働省の年金部会が、5年に1度の年金制度改革案を示した。だが、焦点である基礎年金(国民年金)の給付水準を底上げする改革を巡っては結論を出せなかった。最終的な決着は来年の政府与党と野党などとの調整に委ねられた。

 厚労省は部会に対し、全国民が受給する基礎年金を底上げする財源として、会社員らが拠出する厚生年金の積立金を重点的に充てることを提案していた。これに対し、経団連や連合などが反発しまとまらなかった。

 基礎年金の底上げは、若者らの将来不安への対応策だ。その財源を主に厚生年金の積立金から充てるには、会社員や事業者の理解が欠かせない。

開かれた社会保障審議会年金部会=24日、東京都千代田区

 ◆説明努力が欠けている

 年金は全国民の関心事である。年明けの調整では、石破茂首相が指導力を発揮しなければならない。首相や福岡資麿厚労相は分かりやすい発信にも努めるべきだ。

 政府は来年の通常国会への年金改革関連法案の提出を目指している。基礎年金の改革が必要なのは、このままでは給付水準が著しく低下するためだ。国民年金のみを受給する自営業者らや、現役時代の賃金が低く年金額の少ない人ほど影響が大きい。

 特に就職氷河期に社会人になった団塊ジュニア世代以降の年金水準を確実に引き上げられるかは喫緊の課題である。

 水準低下が予想されるのは、人口減や平均余命の延びなどに応じて水準を抑制する「マクロ経済スライド」の発動が長期デフレの影響で遅れたためだ。

 厚生年金の積立金をこれまでよりも多く基礎年金の財源に充てれば、過去30年の経済状況が今後も続く悲観的シナリオでも年金水準を3割程度底上げできるという。 

 だが会社員らが積み立てた財源を、より多く基礎年金に使うことで給付と負担の関係が分かりにくくなるとの批判がある。厚生年金加入者の所得捕捉は国民年金よりも厳格で保険料も高い。積立金には企業負担も含まれ、経団連や連合は慎重だ。

 厚労省が年金部会に示した案を実施すれば、約30年後には厚生年金受給者を含むほぼ全ての世帯で年金水準は上昇する。ただし、当面の間は全ての厚生年金受給者の年金水準は低下してしまう。

 この点についての厚労省の説明努力は不十分である。利点だけでなく、課題もきめ細かく示さなくては制度改正への理解は進まないだろう。

 もう一つ気がかりな点がある。部会では、「今後の経済が好調に推移しない場合に発動されうる備え」と位置づけることを巡っても議論された。

 確かに、経済成長が高めに推移すれば基礎年金の水準低下はさほど深刻にはならない。だが高成長に期待して発動のタイミングが遅れれば後々まで影響が残る。楽観的な経済見通しを排除できるかが問われる。

 ◆働き方に見合う制度に

 基礎年金の水準引き上げに関して残念だったのは、政府が議論の過程で、基礎年金の拠出期間を40年から45年に延ばす案を封印したことだ。高齢期にも働く時代に合った改革として部会でも賛成の声が多かった。

 それでも封印したのは保険料負担の長期化が一部で嫌気されたためだろうが、実際には会社員に新たな負担は生じない。収入の少ない自営業者には免除制度があり、納付すれば年金額が改善する。再検討すべきだ。

 基礎年金は2分の1が国費で賄われており、水準を引き上げるには、追加的な国庫負担も必要に なる。石破首相はこの財源確保も含めて方向性を明示しなければならない。

 一方、部会が示した改革案には、基礎年金以外の制度改正もある。進展したのは厚生年金の適用範囲を広げる案だ。

 飲食、理美容、宿泊業などの個人事業所では一般に厚生年金が適用されないが、従業員が5人以上いれば適用する方向となった。財政基盤の弱い個人事業所の負担に配慮しの水準引き上げにも寄与する。水準引き上げにも寄与する。

 年金を受給しつつ雇用されて働いた場合の措置として、年金と賃金の合計が一定額を超えると年金が減額調整される「在職老齢年金」でも進展がみられた。基準額を引き上げて手元に残る額を増やす方向だ。年金制度は、納付に見合う給付を行うのが原則だ。調整の廃止も含めて検討すべきである。

 元稿:産経新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【主張】  2024年12月26日  05:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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《社説①・12.26》:年金制度の見直し 持続性高める対策が必要

2024-12-26 02:01:50 | 【社会保障施策・年金(国民、老齢、共済、障害)・医療、介護保険・生活保護・

《社説①・12.26》:年金制度の見直し 持続性高める対策が必要

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・12.26》:年金制度の見直し 持続性高める対策が必要

 少子高齢化時代を乗り切るには、公的年金の持続性を高める取り組みが不可欠だ。

 厚生労働省が年金制度の見直し案をまとめた。来年の通常国会に改正法案を提出する。

 見直しは5年ごとに行われる。今回は、暮らしを支える年金の機能強化が焦点だった。

年金改革案をまとめた社会保障審議会年金部会=東京都千代田区で2024年12月24日、宇多川はるか撮影

 全国民が受給する基礎年金は、老後の生活の支えに十分とは言いがたい。保険料を40年払い続けた場合でも月7万円弱にとどまる。

 経済の伸び悩みなどのため、給付水準は今後、低下する見通しだ。基礎年金だけを受け取る人たちの所得の確保が急務である。

 対応策として、会社員らが受け取る厚生年金の対象者を広げる。パートなど短時間労働者が新たに加入し、給付額が上乗せされる。

 一方、基礎年金自体の底上げについては、来年の与党などとの協議に結論を先送りした。

 厚労省が提案したのは、厚生年金の積立金の一部を基礎年金に回し、財政基盤を強化する案だ。将来的には、基礎年金の給付が増えて、ほぼすべての世帯が恩恵を受ける。

 しかし、判断を先送りすれば、その後の改革がさらに難しくなるだけだ。負担増から逃げず、確実に実施しなければならない。

 基礎年金の見直しを巡っては、自営業者らが加入する国民年金の保険料納付期間を5年間延長し、65歳までとする案もあった。だが、負担が重くなることへの世論の反発を警戒し、見送られた。

 元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年12月26日  02:01:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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《クローズアップ・12.25》:次期年金制度改革 残る「週20時間就労」の壁

2024-12-25 02:07:10 | 【社会保障施策・年金(国民、老齢、共済、障害)・医療、介護保険・生活保護・

《クローズアップ・12.25》:次期年金制度改革 残る「週20時間就労」の壁

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《クローズアップ・12.25》:次期年金制度改革 残る「週20時間就労」の壁

 次期年金制度改革で、社会保険料がかかり始める「年収106万円の壁」が撤廃される見通しだ。

 手取り減少による働き控えを解消しようと、厚生年金保険料の労使折半ルールも見直し、企業が多く負担できる特例も設ける方針だが、「週20時間就労」の壁は残る。

子どもの下校時間に合わせて働くエリさん=東京都練馬区で2024年12月3日、堀菜菜子撮影

子どもの下校時間に合わせて働くエリさん=東京都練馬区で2024年12月3日、堀菜菜子撮影

 一連の見直しで、パート労働者の働き方は変わるのだろうか。

 ◆106万円の壁

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 元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【クローズアップ】  2024年12月25日  02:01:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説②・12.13】:生活保護費 物価高反映した増額を

2024-12-13 16:05:40 | 【社会保障施策・年金(国民、老齢、共済、障害)・医療、介護保険・生活保護・

【社説②・12.13:生活保護費 物価高反映した増額を 

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②・12.13】:生活保護費 物価高反映した増額を  

 憲法が保障する「健康で文化的な生活」にかなうのかが、問われている。

 困窮者支援に取り組む全国の32団体が先月、物価上昇に見合う生活保護費へ引き上げるよう政府に求める要望書を出した。

 食料品をはじめ必需品の値上がりが、生活保護受給者にとって「死活問題」になっていると訴えた。食費や光熱費などの生活扶助費の基準額を、単身世帯13%、家族のいる世帯は12・6%それぞれ引き上げるよう求めた。

 前回改定した2020年度以降の全国の消費者物価指数は3年連続で上昇し、23年度の生鮮食料品を除く食料は前年度比7・5%も上がった。

 必需品の値上がりは、所得の低い人や生活保護世帯ほど影響が大きい。受給者や支援者は危機感を強めている。政府は厳しい実態を直視すべきである。

 生活保護費を含んだ社会保障費について、年末の予算編成に向けた見直しの議論が大詰めを迎えている。

 現行の生活保護費は、低所得者層の消費実態とのバランスを理由に23年度からの減額がいったん決まったものの、特例で据え置かれた経緯がある。新型コロナウイルス禍や、21年からの物価高が反映されていないとの指摘が相次いだからだ。

 コメの価格をはじめ、値上がりは広がっており、生活費増を補う視点こそ欠かせない。

 生活保護費を巡っては、安倍晋三政権が13年に実施した保護基準額の引き下げは生存権を冒すとして、全国29都道府県で取り消しを求める訴訟が起こされている。

 地裁では、行政訴訟としては異例の原告勝訴判決が相次ぐ。昨年11月の名古屋高裁判決は、政治による恣意(しい)的な生活保護費の切り下げは「裁量権の逸脱」として違憲と断じ、原告の逆転勝訴と初の国家賠償も認めた。政府は重く受け止めねばならない。

 そもそも日本の生活保護制度は、対象となる層の15~20%しか利用しておらず、欧米より格段に捕捉率が低い。

 門前払いなど自治体の水際対策や、全体の中ではごく一部にとどまる不正受給を強調し、周りの目を気にさせる状況も問題視されている。

 ドイツでは、3カ月の物価に応じた保護基準額や課税最低限の調整が行われている。日本でも「最後のセーフティーネット」の役割を果たしうる水準が必要だ。

 元稿:京都新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年12月13日  16:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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《社説②・12.12》:「主婦年金」の改革 積年の宿題と向き合う時

2024-12-12 09:31:40 | 【社会保障施策・年金(国民、老齢、共済、障害)・医療、介護保険・生活保護・

《社説②・12.12》:「主婦年金」の改革 積年の宿題と向き合う時

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・12.12》:「主婦年金」の改革 積年の宿題と向き合う時

 来年の年金制度改正に向け、経済同友会や連合など経済団体と労働団体の双方が、「第3号被保険者」制度の段階的な廃止を政府に求めている。

 第3号被保険者とは、国民年金(基礎年金)加入者のうち、会社員や公務員に扶養されている配偶者を指す。保険料を自ら負担せずに老後に年金を受け取れる。そのほとんどが女性で、「主婦年金」と呼ばれるゆえんだ。

 会社員や公務員は第2号被保険者、自営業者や無職の人は第1号被保険者に当たる。

 3号制度の創設は1986年。当時は会社員の夫と専業主婦の片働き世帯が多かった。主婦の年金権が確立された一方、「負担なき給付」の仕組みは公平・中立の観点からかねて課題とされてきた。

 その後共働き世帯が増加。これに伴い、パート労働の妻の年収が一定額を超えると税や社会保険料の負担が生じるため、就業調整する「働き控え」が顕在化する。いわゆる「年収の壁」問題だ。

 社会保険料に関わる「106万円の壁」や「130万円の壁」の大本には、3号制度がある。

 この制度が、既婚女性の労働参加の抑制や男女の賃金格差につながり、ひいては女性の老後の生活保障を弱めてきた。

 抜本改革は積年の宿題である。政府、与野党とも年金制度改正の本丸と心得て、腰を据えて取り組まなくてはならない。

 経済界が3号制度の段階的廃止を求める背景には、人手不足が深刻になる中、女性の就労を増やしたいという切実な事情がある。

 ただし、家庭の子育てや介護の担い手が女性に偏る現状で、労働参加を促すだけではいっそう負担が増してしまう。

 男性も対等に家事や育児、介護を分かち合えるよう、経済界を挙げて働き方を見直す必要がある。子育て支援や介護サービスなど社会資源の拡充も欠かせない。働きたいと願う人が、制約されずに働ける環境を整えたい。

 今では共働き世帯が専業主婦世帯の2倍を超え、「106万円の壁」の撤廃など厚生年金への加入を促す政策も進む。第3号被保険者は減っていく見込みだが、制度を将来廃止する場合、十分に移行期間を取るなどの配慮が要る。

 第3号被保険者に限らず、育児や介護、病気などのさまざまな事情で家庭内にとどまる人は一定数いる。生活保障のあり方を広く検討する必要がある。一人一人の多様な生き方を支える社会保障へ制度を再構築する時だ。

 元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年12月12日  09:30:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①・12.12】:在職老齢年金 見直しに幅広い理解を

2024-12-12 04:03:50 | 【社会保障施策・年金(国民、老齢、共済、障害)・医療、介護保険・生活保護・

【社説①・12.12】:在職老齢年金 見直しに幅広い理解を

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・12.12】:在職老齢年金 見直しに幅広い理解を

 政府は働いて一定の収入がある高齢者の厚生年金を減らす在職老齢年金制度を見直し、満額支給の対象を広げる方針だ。
 
 減額されないよう働き控えをする人が多く、人手不足を招いているとして経済界から見直しを求める声が上がっていた。
 
 少子高齢化が進み就労を望む高齢者は増えた。元気な時は働いてもらえるよう、意欲をそぐ要因をなくすことは重要だ。
 ただ高齢者への年金給付が増えて財政は圧迫される。現役世代への影響もあろう。政府は各世代へ経緯や狙いを丁寧に説明し、理解を得る努力が必要だ。
 65歳以上の場合、現行制度では賃金と年金の合計が基準額の月50万円を超えると超過分の半分が支給停止になる。現在は約50万人が対象となっている。
 政府は基準額を62万円に引き上げる方向だ。この場合、約20万人が満額支給となる。人手不足解消に一定の効果はあろう。
 一方、給付額が増えるため将来世代の年金水準の低下が懸念される。基準額を超える高齢者は生活に余裕があるとして、見直しを疑問視する声もある。
 そもそも年金制度は第一線を退いた高齢者の生活を現役世代が支える「仕送り方式」である。そのうち高収入の高齢者には支え手になってもらおうと設けられたのが在職老齢年金だ。
 少子高齢化で支え手の現役世代が減り、健康寿命が延びて働く高齢者の需要が高まったことが今回の見直しにつながった。
 政府は年金財政の悪化を防ぐため、高齢者を含む高所得者の厚生年金保険料の上限引き上げ案も示した。
 現役世代から負担増に反発する声も聞かれるが、健康で働ける人が所得に応じた負担をする制度は持続可能な社会保障につながる。現役世代にいかに納得してもらえるかが鍵となろう。
 一方、生活苦でやむを得ず働く高齢者も多い。年金受給資格を得た後の就労は本人の意思や健康が最優先だ。働けないと肩身が狭くなるような風潮を招かぬようにせねばならない。
 高齢者は体力面などの影響で労働災害のリスクが高い。厚生労働省によると労災死傷者のうち60歳以上の割合は高まり、昨年は3割を占めた。高齢になるほど治療も長引く傾向にある。
 
 厚労省は4年前、企業向けに高齢者の労災対策指針を策定したが浸透せず、労災の歯止めになっていない。このため企業に労災対策の努力義務を課す方向で検討を進めている。
 
 高齢者を雇用する企業は安全確保に万全を期す必要がある。政府の後押しも欠かせない。
 
 元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年12月12日  04:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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【社説・12.06】:低年金の女性 就労と生活両面で支援を

2024-12-06 06:05:30 | 【社会保障施策・年金(国民、老齢、共済、障害)・医療、介護保険・生活保護・

【社説・12.06】:低年金の女性 就労と生活両面で支援を

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.06】:低年金の女性 就労と生活両面で支援を 

 政府は公的年金の財政検証で、これから高齢になる女性の年金受給額が男性より少ない見通しを示した。

 女性の低年金問題が続くことを裏付けるデータだ。働く環境の改善や生活支援につながる政策に生かしたい。

 財政検証は5年に1度、年金財政の健全性を点検するために実施している。性別、世代別の年金受給額を公表したのは初めてだ。働き方や配偶者の有無による受給額の違いがイメージしやすい。

 過去30年の経済状況を投影した試算では、1974年度に生まれた50歳の女性が65歳で受給する年金は月平均9万8千円で、男性の平均額より4万3千円少ない。6割弱が10万円以下になる。

 94年度生まれの30歳の女性は、働く人が増加するため、65歳の受給額は月平均10万7千円に増える。それでも10万円以下が半数近くを占め、男性との格差はあまり縮まらないようだ。

 結婚や出産をきっかけに会社を退職するなど、女性の厚生年金加入期間が短いことが格差の要因である。正社員で勤めても、昇給で男性との格差があれば将来の年金に跳ね返る。

 パート労働など比較的年収が少ない女性や専業主婦は、低額の国民年金だけの受給になる人が多い。

 年金受給額を増やすには、厚生年金の加入期間を延ばす必要がある。そのために出産や育児期間を経ても働き続けられる職場づくりが欠かせない。介護休業制度も充実させるべきだ。

 企業努力と行政施策だけでなく、社会全体で取り組む機運を高めたい。

 もはや家事や育児、介護を女性だけが担う時代ではない。家族で分担する意識を共有したい。

 厚生年金の保険料負担が生じないように働く時間を抑える「年収106万円の壁」は見直しに向けて動き始めた。

 厚生労働省は、厚生年金の適用対象を拡大する方向で検討している。手取りの減少を抑える手だてと、保険料を折半する企業の負担軽減策が必要になる。

 国会でも「壁」を巡る論議が活発になってきた。働く意欲と老後の安心につながる制度設計を求めたい。会社員や公務員に扶養され、保険料負担を免除される「第3号被保険者」の制度見直しも論点にすべきだろう。

 低年金で困窮する高齢女性は未婚や離婚、死別などで1人暮らしの人に多い。その数は増え続ける。

 借家住まいであれば、家賃負担で日々の暮らしが厳しくなる状況は想像に難くない。生活費を賄うために働こうとしても、加齢とともに職種は限られる。

 国や自治体は低所得者向けの住宅政策を拡充すべきではないか。低年金の男性にも役立つ。高齢の困窮者を支援するNPOを財政面から後押しすることも有効だ。

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年12月06日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【厚労省】:106万円の壁、26年に撤廃へ 厚生年金、パート加入拡大

2024-12-05 21:38:30 | 【社会保障施策・年金(国民、老齢、共済、障害)・医療、介護保険・生活保護・

【厚労省】:106万円の壁、26年に撤廃へ 厚生年金、パート加入拡大

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【厚労省】:106万円の壁、26年に撤廃へ 厚生年金、パート加入拡大

 厚生労働省は、会社員に扶養されるパートら短時間労働者が厚生年金に加入する年収要件(106万円以上)を2026年10月に撤廃する方向で調整に入った。保険料負担を避けるため働く時間を抑制する「106万円の壁」とされてきた。勤務先の従業員数が51人以上と定めている「企業規模要件」も27年10月に撤廃し、週の労働時間が20時間以上の人は年収を問わず厚生年金に加入することになる。関係者が5日明らかにした。

厚生労働省

 老後の給付が手厚くなる半面、保険料負担で手取り収入が減るといった課題がある。そのため厚労省は年収156万円未満の人に限り、保険料の一部を企業の判断で肩代わりできる仕組みを検討。企業が肩代わりする割合は任意で設定できるが、全額を負担することは認めない。肩代わりを受けても将来の年金額は変わらない。時限的な措置とする。

 ただ中小企業を中心に「経営体力のある大企業しか活用できず、待遇格差を招く」との批判があり、負担増となる企業への支援策も用意する方針だ。

 元稿:共同通信社 47NEWS 主要ニュース 経済 【厚労省・会社員に扶養されるパートら短時間労働者が厚生年金に加入する年収要件(106万円以上)を2026年10月に撤廃する方向で調整に】  2024年12月05日  21:38:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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