【考察】:伝統仏教は現代人の不安に寄り添えているのか、過疎地寺院やLGBTQについて主要9法人に聞いた
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【考察】:伝統仏教は現代人の不安に寄り添えているのか、過疎地寺院やLGBTQについて主要9法人に聞いた
少子高齢化や過疎化、葬儀の簡素化で宗教の出る幕が急速に失われつつある。宗教はこのまま消えゆくのか。6月5日発売『週刊東洋経済』の特集「宗教消滅危機 消えゆく寺・墓・葬儀」では、機能不全に陥る伝統宗教、衰退する新宗教の「今」を追った。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を受け、不当寄付勧誘防止法が成立した。法律では「霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見」で個人を困惑させ、宗教法人へ寄付させることを禁じている。
旧統一教会の一連の問題は宗教界全体にネガティブな印象を与えることとなったが、宗教界の不安材料は旧統一教会だけではない。少子高齢化や都市部への人口流出によって、住職のいない無住寺や、近隣の住職が葬儀や法要の時だけやってくる兼務寺が増えているのだ。 長男が家や墓を継いでいく檀家制度をはじめ、男性中心になりがちな伝統仏教界ではLGBTQ(性的少数者)の存在にどう対応していくのかも喫緊の課題となっている。
現代では、菩提寺を持たず、僧侶と話す機会がない人も増えている。そんな時代に、宗教は人々の悩みや不安に答えられるのか。必要とされる存在になれるのか。東洋経済は伝統仏教の主な10法人にアンケート調査を実施した。尋ねたのは以下の4項目。 ① 旧統一教会問題を受けて成立した不当寄付勧誘防止法(被害者救済新法)の評価や寺院への影響 ② 過疎地で増加する兼務寺や無住寺への対応策 ③ LGBTQに対する見解、理解促進の取り組み
④ 現代人の悩み、不安に対応できているか。相談体制の有無 回答があったのは天台宗、高野山真言宗、真言宗豊山派、浄土宗、浄土真宗大谷派、浄土真宗本願寺派、臨済宗妙心寺派、曹洞宗、日蓮宗の9法人だった。
■新法への懸念も
不当寄付勧誘防止法の影響は「特にない」(高野山真言宗)、「検証が難しく、目下研究中」(天台宗)、「情報を収集している段階のため回答は差し控える」(浄土真宗大谷派)と明言を避ける法人が目立った。
一方、日蓮宗は「新法の『霊感』や『困惑』が拡大解釈されることによって、宗教行為が制限されたり、悪いものであるかのような捉え方がされないか危惧する」と運用面での懸念点を挙げた。浄土真宗本願寺派は「宗教活動や寺院運営に影響を及ぼすような問題が生じることのないよう、全日本仏教会とも情報共有し連携協力しながら、適宜適切に対応してまいりたい」と回答した。
無住寺や兼務寺の増加については、高野山真言宗は「人口減少が加速している現代社会において寺院運営は厳しい状況が続いている。過疎化地域では(無住寺や兼務寺が)顕著。一人の住職が数カ寺を兼務するなどして寺院を維持している状態」と回答。こうした受け止めは全体でも支配的だ。天台宗は「過疎化の流れは宗派の取り組みだけで改善することが困難。宗教活動が困難な法人寺院については合併、解散の手続きを促し、整理せざるをえない」とする。
浄土真宗本願寺派は過疎化が深刻な地域に「過疎対応支援員」を配置。運営が困難な寺院については聞き取りや助言をし、場合によっては解散や合併のサポートにつなげる。解散、合併する寺院の建物除去費用や事務費についても助成金を交付している。
曹洞宗は解散や合併について「何から始めてよいかわからない」という声が多く寄せられたことを受け、2022年6月、「寺院の合併・解散マニュアル」を作成、ホームページに掲載する。日蓮宗は2023年度から「寺院問題対策委員会」を設置し、寺院の再編に関する制度問題の検討を始める。真言宗豊山派や臨済宗妙心寺派も同様の委員会を立ち上げた。
■LGBTQ対応策はどこも積極的
LGBTQの理解促進についてはほぼすべての法人が積極的な姿勢を見せた。臨済宗妙心寺派はLGBTQを「現代的人権課題のひとつ」と位置づけ、宗内で実施する研修会などで取り上げている。日蓮宗も「いかなる理由があろうと性的指向並びに性同一性不一致を差別の対象とすることはない」とし、当事者や専門家を招いての研修、ワークショップを実施する。
浄土宗は「万民平等を説いた法然上人の念仏を通した真実の生き方を世界に広げ、共生社会を具現する」として、LGBTQについて浄土宗人権センターや浄土宗総合研究所などで偏見をなくす啓発活動を推進する。
曹洞宗の総合研究センターは「生きにくさ」を抱えている人々向けに僧侶や寺院がどう関わっていくかについて研修を重ねてきたところ、「セクシャルマイノリティの方の自死率が高いことを知った」という。それを受けて当事者への聞き取りや研究者による講演会を実施し、2019年には講演録「セクシャルマイノリティの生きづらさ」を刊行、全寺院に配布した。
浄土真宗本願寺派や真言宗豊山派、高野山真言宗もLGBTQに関する講習会や研修会を開き、浄土真宗大谷派は「しんらん交流館ギャラリー」で性的少数者に関する展示「いろいろな性を生きる展」を開催している。
最後の質問が、現代人の悩みや不安に対応できているかだ。
天台宗は「悩みを抱えた一般の方からご連絡をいただくことはない。問い合わせがあれば職員が対応するか、近くの寺院を紹介することになる」と回答した。
真言宗豊山派は檀信徒向けに毎月「テレフォン法話」を実施し、真言宗の教えを説いている。臨済宗妙心寺派も寺院関係者や檀信徒を対象にした相談室を設置している。
檀信徒や寺院関係者以外の一般人にアプローチする法人もある。
浄土真宗本願寺派の「いのちと念仏」相談センターでは、僧侶や門信徒だけでなく一般の人からの相談に応じてきた。自死の問題については、支援者や宗教者の言葉を集約した「宗教者からのメッセージ」を制作し、宗派内外へ発信する。
曹洞宗は公式YouTubeチャンネルを開設し、定期的に法話動画を公開している。念頭に置くのは菩提寺を持たない人や仏教に関心がない人だ。日蓮宗も一般人向けに「総合相談所」を設置し、悩みを持つ人への傾聴やカルト宗教からの脱会に向けたサポートを実施している。 野中 大樹 :東洋経済 記者
元稿:週刊東洋経済新報社 ONLINE 主要ニュース 社会 【話題・6月5日発売『週刊東洋経済』の特集「宗教消滅危機 消えゆく寺・墓・葬儀」では、機能不全に陥る伝統宗教、衰退する新宗教の「今」を追った・担当者:野中 大樹 :東洋経済 記者】 2023年06月09日 06:32:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。