《余録・02.03》:人生の価値はその長短ではない…
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《余録・02.03》:人生の価値はその長短ではない…
人生の価値はその長短ではない。とはいえ若い家族を亡くすと強い喪失感に襲われる。生きた証しを残してやりたいと願うケースも少なくない
▲京都市北区の印刷業、吉村伸(よしむら・しん)さん、由理(ゆり)さん夫妻は昨年1月、長男和馬(かずま)さんを失った。筋力が徐々に衰える筋ジストロフィーで、29年の生涯だった

▲病気に気付いたのは5歳の時である。周りに比べ脚の重そうな様子を見た幼稚園の先生から、検査を勧められた。根本的な治療法のない難病だ。本人が寝入ると毎夜、夫妻で泣いた。由理さんは思った。「うちはもう、一生笑えないんやろな」
▲せめて動ける間、外に出よう。家族は幼い妹真綾(まあや)さんと一緒に、4人でウオーキングを始めた。和馬さんはボーイスカウトに参加し、電動車椅子サッカーで活躍する。学校や病院の関係者、ボランティアの人たちの励ましを受け、家族に笑顔が戻った
▲和馬さんは高校時代に歌を作詞作曲している。タイトルは「TAKARAMONO」。<病気と知ってショックだったよ。でも今では僕の大切な宝物。病気は早く治ってほしいけど、筋ジスは僕のトロフィーなんだ>。難病になったからこそ知った愛や良心がある。歌の最後は、周りへの「ありがとう」のリフレインだ
▲両親が仲間たちと作るバンドがCD「たからもの」(非売品)を制作中で、近く完成する。うち1曲は「TAKARAMONO」だ。「不自由でも、周りに感謝しながら生き抜いた和馬を忘れないでほしい」。家族の願いが込められている。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【余録】 2025年02月03日 02:03:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。