【小社会・12.28】:餅つきの日に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【小社会・12.28】:餅つきの日に
きょうは餅つきを予定しているご家庭もあるだろう。「八」は末広がりで縁起がいいとされ、28日に正月の鏡餅や雑煮の餅を作る風習が全国にある。いまは出来合いを買う方が大半かもしれないが。
〈餅を搗(つ)く夫婦の阿吽(あうん)佳(よ)かりけり〉高野孝子。ついた後は家族総出で丸めていく。一家の一年の平和を実感し、迎える新年にも願いがこもる作業である。
民俗学者の新谷尚紀さんによると、江戸末期には庶民が広く雑煮で正月三が日を祝うようになった。「屠蘇(とそ)はともかく、雑煮だけはなんとしても準備するのが正月の迎え方の基本だった」という(著書「日本の『行事』と『食』のしきたり」)。
昔は餅はもちろん白米もぜいたくな食べ物で、正月など限られた日にしか口にできなかった。もち米を含めコメは特別な存在で、いただく感謝の念も、飽食の現代人よりはるかに強かったに違いない。
ことしはコメも餅も高騰した。都会を中心に店頭からコメが消える「令和の米騒動」もあった。国内のコメ消費量は減り続けているが、近年これほどコメの大切さを再認識させられた年はあったろうか。
「外人学者は、日本人の米作りは、農業ではなく、園芸だなどという」。食物史研究者の大塚滋さんがかつて著書で紹介していた。それだけ手間暇をかけて育てられるというわけだ。ぺったん、ぺったん。この年末の餅にはコメや農家の皆さんへの思いもこもるだろう。
元稿:高知新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【小社会】 2024年12月28日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。