【社説①・03.30】:農業基本計画 国民の食生活を守る施策に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・03.30】:農業基本計画 国民の食生活を守る施策に
国民が安心して食生活を送るためには、食料安全保障体制を強化する必要がある。価格の高騰が長引く「令和の米騒動」は、その重要性を改めて気づかせるものだと言えよう。
新たな農業の基本計画では、生産基盤の強化につながる具体策を詰めていかねばならない。
農林水産省は今後5年間の農政の指針となる「食料・農業・農村基本計画」をまとめた。近く閣議決定する。海外市場を開拓し、構造転換を集中的に図る方針だ。
食品産業の海外収益を2030年に3兆円へとほぼ倍増させ、農林水産物・食品の輸出額も1・5兆円から5兆円へと増やす。
カロリーベースの食料自給率は、30年度までに45%とし、これまでの数値目標を踏襲した。
だが、この目標は2000年に設定して以来、一度も実現していない。23年度の実績も38%にとどまった。実効性のある対策に取り組まねば、目標や計画は、かけ声倒れに終わってしまうだろう。
基本計画で、生産基盤の強化策の柱と位置づけたのが輸出促進である。人口減少で縮小する国内市場だけに頼っていては生産基盤も弱くなるばかりで、食料の安定供給が脅かされる。海外市場に着目したのは妥当である。
とはいえ、生産を支える農業の担い手不足は深刻だ。高齢化も著しく、今後20年で急減すると推計される。新たな就農者を増やすためにも、「稼げる農業」へと転換していくことが欠かせない。
戦略の核となるコメは、30年の輸出額を24年の7倍近い約900億円、輸出量も約8倍の35万トンへと増やすことを目指すという。
地球温暖化や災害の激甚化など食料安保を脅かすリスクは増えている。不測の事態が起きたとしても、その場合は、輸出分を国内に回せば、コメを確保できる。
だが、目標実現へのハードルは高い。米国や人件費の安い新興・途上国と比べ、日本のコメはコスト競争力が劣るためだ。
農水省は、全国30か所のモデル産地で、収量が多い品種への切り替えや先端技術を活用するスマート農業の普及を進めるという。コメの輸出戦略が成功すれば、他の農産物でも参考になる。資金支援などの施策も練ってほしい。
供給力を高めるため、実質的に続いているとされるコメの減反政策の見直しも検討すべきだ。
海外での和食人気も生かしたい。日本貿易振興機構(ジェトロ)などと連携し、需要をつかみ市場を開拓していくことが大切だ。
元稿:読売新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月30日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。