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【大分地裁】:危険運転の適用に道開く「実質的危険」とは 大分194キロ事故判決、大きな先例となるか

2024-12-02 07:00:00 | 【裁判(最高裁・高裁・地裁、裁判員制度・控訴・再審請求)、刑法39条】

【大分地裁】:危険運転の適用に道開く「実質的危険」とは 大分194キロ事故判決、大きな先例となるか

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【大分地裁】:危険運転の適用に道開く「実質的危険」とは 大分194キロ事故判決、大きな先例となるか

 大分市の一般道で令和3年、時速194キロの車が起こした死亡事故で、大分地裁は11月28日の判決で、危険運転致死罪の成立を認めた。過去の裁判では、猛スピードでも進路の逸脱がない場合、危険運転には当たらないとされてきたが、大分地裁はこれを覆し、ハードルが高すぎると批判されてきた同罪の適用に新たな視点を提供した。高速度事故を巡り、今後同様の司法判断が広がるか注目される。

花が供えられた大分死亡事故の現場周辺=11月28日午後、大分市

 ◆「制御困難」の意義

 裁判での主要な争点は被告の元少年(23)=事故当時(19)=の運転が、同罪の要件である「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」に該当するか否かだった。

 猛スピードだったとはいえ、被告の車は直線道路をそれることなく進み、右折車と衝突。このため弁護側は「車線に沿って直進できていた」として制御困難にはあたらないと主張し、過失致死罪にとどまると訴えた。

 過去の裁判で、同じく進路逸脱の有無が焦点となったのが、津市の直線道路で平成30年、時速146キロの車がタクシーに衝突して5人が死傷した事故だ。

 名古屋高裁は令和3年、制御困難とは「自車を進路から逸脱させたことを意味する」と判示。事故を起こした車が進路を逸脱していなかったことを理由に、1審に続いて危険運転致死傷罪ではなく過失致死傷罪を適用していた。

 ◆進路逸脱なしでも可

 これに対し今回の大分地裁判決は、制御困難の意義について、ハンドルやブレーキ操作のわずかなミスで進路を逸脱して事故を起こす「実質的危険性」がある高速度での走行を指すとし、実際に逸脱がない場合も、制御困難に含まれるとの判断を示した。

 

 そのうえで、現場道路は15年以上改修舗装されておらず「わだち割れ」(路面の凹凸)が生じていた▽一般に速度が速くなれば揺れが大きくなり、ハンドル操作の回数も増えるところ、被告は法定速度の3倍以上の高速度で走行した▽夜間運転は視力低下や視野狭窄(きょうさく)を招くが、事故の時間は夜間で、付近も暗かった-といった事情を挙げ、実質的危険性を認めた。

 弁護側は過去にも一般道を170~180キロで複数回走り「操作に支障が生じたことはなかった」とも訴えたが、実際に進路逸脱がなくても、実質的危険性が認められれば制御困難にあたるとし、過去の「結果」は「評価を左右しない」と重視しなかった。

 ◆東京高裁の判断枠組みを応用

 一方、こうした大分地裁判決は令和4年の東京高裁判決を参照する形で示された。

 車がカーブを曲がり切れず、対向車線にはみ出した事故で、物理的にカーブを曲がることが不可能な「限界旋回速度」以下でも、危険運転を適用できるかが争点に。東京高裁は限界旋回速度以下でも制御困難に当たりうると認定し、危険運転を適用した。今回の大分地裁判決は、この東京高裁の判断枠組みを直線道路の事故に取り入れた形だ。

 東京都立大の星周一郎教授(刑事法)は大分地裁判決について「法解釈上、蛇行やスピンが生じる『直前の状態』でも危険運転の適用は可能といわれてきたが、実際に適用されたのは知る限り初めて。現場が完全な直線道路で認めたのは一歩踏み込んだ判断といえる」と分析する。

 ◆「非常に画期的」

 「制御困難な高速度」を巡っては、津市のケース以外でも100キロを超える死亡事故で「過失」と判断された事例があり、かねて一般感覚との乖離(かいり)が指摘されてきた。

 危険運転致死傷罪の要件の在り方を議論する法務省の有識者検討会は11月下旬、高速度の数値基準の設定などを盛り込んだ報告書をまとめ、法改正に向けた動きが本格化している。

 宇都宮市の国道で令和5年、時速160キロ超の車がバイクに追突した事故も今後、危険運転致死罪で審理される。遺族の代理人を務める高橋正人弁護士(第二東京弁護士会)は大分地裁判決を「非常に画期的で大きな先例。直線道路での追突、(右折車と直進車の)『右直事故』で同罪が成立しやすくなる」と評価した。 

 ◆大分194キロ死亡事故

事故で亡くなった小柳憲さん(遺族提供)

 大分市の一般道で令和3年2月9日午後11時ごろ、当時19歳だった元少年(23)が運転する乗用車が法定速度の3倍を超える時速194キロで交差点に進入し、右折車と衝突。会社員の小柳憲さん=当時(50)=が死亡した。大分地検はいったん自動車運転処罰法違反の過失致死罪で男を在宅起訴。遺族が同法違反の危険運転致死罪の適用を求めて署名活動を行い、その後同罪への訴因変更が認められた。大分地裁は11月28日、同罪の成立を認め、懲役8年(求刑懲役12年)を言い渡した。

 ■地裁判決で認められた「194キロは危険」…だが遺族は問う「懲役8年で抑止できるか」

 元稿:産経新聞社 主要ニュース 社会 【裁判・大分地裁・大分市の一般道で令和3年、時速194キロの車が起こした死亡事故】  2024年12月02日  07:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【大阪地裁】:あいりん 野宿者立ち退き、強制執行に着手

2024-12-01 09:39:30 | 【裁判(最高裁・高裁・地裁、裁判員制度・控訴・再審請求)、刑法39条】

【大阪地裁】: あいりん 野宿者立ち退き、強制執行に着手

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【大阪地裁】:あいりん 野宿者立ち退き、強制執行に着手

 大阪市西成区のあいりん地区にある複合施設「あいりん総合センター」(2019年閉鎖)の敷地で生活している野宿者らに対し、大阪地裁は1日、退去させ荷物などを撤去する強制執行に着手した。5月には野宿者らに立ち退きを命じる判決が確定していた。大阪府や大阪市は耐震性を理由に建て替えを目指しており、占拠の影響で遅れていた解体工事が進む見通しだ。

※写真はイメージ

 

「あいりん総合センター」での野宿者らに対する強制執行のため、資材を搬入する作業員ら(共同)

 

 センターは1970年に開設。13階建てで職業安定所や市営住宅、病院などがあり、労働者らの生活拠点だった。耐震性に問題があるとして、19年4月に閉鎖。建て替えに反対するホームレスの野宿が続いた。市営住宅と病院は近くに移転。労働施設については、24年度までに建て替え工事を完了する予定だった。

 府は20年、立ち退きを求めて大阪地裁に提訴。野宿者側は権利の乱用だと主張した。21年12月の一審大阪地裁判決は、行政が野宿者の居場所の確保など「一定の配慮をしている」として、権利乱用には当たらないと判断。22年12月の二審大阪高裁判決も支持した。24年5月、最高裁は野宿者側の上告を退けた。(共同)

 元稿:日刊スポーツ社 主要ニュース 社会 【話題・大阪地裁・大阪市西成区のあいりん地区にある複合施設「あいりん総合センター」(2019年閉鎖)の敷地で生活している野宿者らに対し、退去させ荷物などを撤去する強制執行に着手】  2024年12月01日 09:39:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・11.29】:「危険運転」要件見直し 市民感覚 議論に反映を

2024-11-30 04:01:20 | 【裁判(最高裁・高裁・地裁、裁判員制度・控訴・再審請求)、刑法39条】

【社説・11.29】:「危険運転」要件見直し 市民感覚 議論に反映を

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.29】:「危険運転」要件見直し 市民感覚 議論に反映を

 時速194キロで車を運転し、死亡事故を起こした被告に「危険運転」が適用された。検察は当初、より法定刑の軽い「過失」で起訴したが、遺族に危険運転の適用を求められ、訴因を変更した経緯がある。 

 危険運転罪の成否が争点だった。

 事故は2021年、大分市内で起きた。当時19歳だった被告の男が一般道を走行中、右折車両に衝突。運転していた男性を死亡させたとして危険運転致死罪に問われた。

 裁判では、直線道路を走る被告の車両が「進行の制御は困難」だったかどうかが問題とされた。

 被告の車は法定速度60キロの3倍を超える猛スピードで走行していた。

 大分地裁は判決で、たとえ直線道路であっても、当時の路面の状況などからハンドルやブレーキ操作のわずかなミスで進路を逸脱する可能性があったと指摘。「進行の制御が困難な高速度に当たる」として危険運転と結論付け、懲役8年を言い渡した。

 どこまでが「過失運転」で、どこからが「危険運転」かの線引きは曖昧だ。

 悪質な自動車運転の処罰の在り方を議論してきた法務省の有識者検討会は27日、呼気や血中のアルコール濃度、走行速度について、一定の数値基準を新設することを報告書にまとめた。

 法改正に向けて、今後は法制審議会へ議論を委ねる。より市民感覚に即した適用と厳正な処罰につなげてほしい。

              ■    ■

 自動車運転処罰の在り方を巡っては、1999年、東名高速道路で飲酒運転のトラックが乗用車に追突し女児2人が死亡した事故を契機に議論が活発化した。

 2001年、刑法に「危険運転致死傷罪」が新設され、14年には刑法から切り離された「自動車運転処罰法」が施行された。処罰の上限は過失の懲役7年に対し危険運転は20年と重い。

 だが判断基準は曖昧だ。

 福井市で20年、酒気帯び運転し、パトカーの追跡を逃れようと時速約105キロで走行して2人を死傷させた事故が「制御困難とはいえない」として過失となった。

 また、いったん過失と認定された後に、危険運転に変更される事案も相次ぐ。

 有識者がまとめた報告書では、一定の数値を超過すれば一律に「正常な運転は困難」とすることを想定している。「最高速度の1・5倍や2倍」などとする意見も盛り込まれた。

              ■    ■

 大切な人の命を奪った罪の重さを判断する基準が曖昧では、残された者は納得できない。大分の遺族は危険運転致死罪への変更を訴えて署名活動を行い、約2万8千筆を集めた。

 今後、一定の基準が示されれば、より客観的な判断が期待できる。一方で、基準から漏れるケースも出てくるだろう。安定的な運用を目指し、さらに丁寧な議論が求められる。

 車社会の沖縄で交通事故は決して人ごとではない。安全運転を徹底し、危険運転に対する意識を一層高めていくことが必要だ。

 元稿:沖縄タイムス社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年11月29日  04:01:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【天風録・11.29】:危険運転罪

2024-11-29 07:00:40 | 【裁判(最高裁・高裁・地裁、裁判員制度・控訴・再審請求)、刑法39条】

【天風録・11.29】:危険運転罪

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【天風録・11.29】:危険運転罪

 国民の感覚と法に、ずれが生じることがある。テレビや落語では大岡越前が登場するが、見事な裁きで正すのは、現実の司法ではなかなか難しいようだ

 ▲法定速度の3倍以上の猛スピードで運転すれば車の制御も安全確保もできない。多くの人はそう思う。だが、これまでは人を死傷させても、速度だけで危険運転罪に問うのは難しかった。危険の認識と制御が困難という立証が、不可欠とされていた

 ▲きのう、大分地裁が出した判決は国民感覚に一步近づいた感がある。時速194キロの高速走行は制御困難で危険運転に当たる―。従来より踏み込んだ解釈はうなずける

 ▲判決の11月28日を地裁は意識したに違いない。1999年のこの日、東名高速で飲酒運転のトラックに乗用車が追突され、幼い女児2人の命が奪われた。常習飲酒の運転手はわずか懲役4年。両親の井上保孝さん・郁美さんらが厳罰化を訴え、刑罰の重い危険運転罪が新設されたのも事故2年後の同じ日である

 ▲厳罰化は少しずつ進むが、悲惨な事故はなくならない。まな娘の命日でもあるきのう、大分の遺族の支援に駆け付けた郁美さんは「訴え続けるしかない」と話した。その言葉が胸にしみる。 

 元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【天風録】  2024年11月29日  07:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【HUNTER・11.20】:「安倍やめろ」裁判で“最後の報告会”|木村草太さん招きヤジの社会的意義確認

2024-11-21 07:05:50 | 【裁判(最高裁・高裁・地裁、裁判員制度・控訴・再審請求)、刑法39条】

【HUNTER・11.20】:「安倍やめろ」裁判で“最後の報告会”|木村草太さん招きヤジの社会的意義確認

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【HUNTER・11.20】:「安倍やめろ」裁判で“最後の報告会”|木村草太さん招きヤジの社会的意義確認

 本サイトなどが報告を続けてきた首相演説ヤジ排除問題で、本年8月に警察の排除行為を違法・違憲とする判決が確定した裁判の当事者らが11月17日午後、「最終報告集会」と題したイベントを札幌市内で開き、専門家をまじえた公開討論会などで言論の自由の意義を語り合った。

                ◆   ◆   ◆

 集会を主催したのは、ヤジ排除国家賠償請求裁判の一審原告や支援者らでつくるヤジポイの会。先の判決確定を機に、排除事件発生からこれまでの5年あまりを改めて振り返る目的で企画した。「安倍やめろ」の一声で選挙演説の場から排除され、北海道警察を訴える裁判の原告となった大杉雅栄さん(36)は、ヤジを飛ばした理由について「国会での質問さえまともに取り合わない政府では、ヤジという一見下品で秩序を乱すようにも見える手法を取らざるを得ない」と説明、事件後に警察が排除の法的根拠を説明するまでに7カ月半かかった経緯を振り返り「しっかりした根拠があるならその場ですぐ説明できたはず」と批判した。排除の根拠とされた「警察官職務執行法」などを解説したヤジポイ弁護団の神保大地弁護士(札幌弁護士会)は、現場の警察官らがなんら同法に言及せず「演説の邪魔」「選挙妨害」などと発言していた事実を引き、道警の主張の不自然さを改めて指摘した。

 憲法学者の木村草太さんを招いた公開討論会では、表現の自由の意義を問われた木村さんが「それは発言する人自身のためだけにあるわけではない」と指摘、自由な言論には社会を豊かにする側面があると解説した。

 「表現行為というのは『社会への贈与』という一面があり、だからこそ手厚く保護されなくてはならない。表現の自由は、それを行使したからといってすぐに発言者が利益を得るような権利ではありませんが、そのメッセージを受け取った人たちが何かに気づいたりといった形で、社会の決定を豊かにしていく、そういう権利だということです」

 これを受け、大杉さんと同じ裁判を闘った桃井希生さん(29)は「私はたまたま(当事者の立場で)裁判を起こす役割を担っただけ」としつつ「もし私がヤジを飛ばせなかったとしても何か不利益があるわけではないけど、何も言えない社会で生きていけるかというと、それは違う。そういう思いで裁判を続けてこられたんだと思います」と振り返った。判決確定後の被告・北海道の対応( ⇒こちら)を報告した弁護団の齋藤耕弁護士(札幌)は、実質全面勝訴した桃井さんから謝罪などの要請を受けた道警と道公安委員会の「回答」を示し、両文面の内容などから「同じ人が作っているのでは」と指摘、「公安委員会が独立して機能していないのではないか」との疑いを表明した。

 弁護団長としてイベントを締め括った前札幌市長の上田文雄弁護士(札幌)は、表現の自由について木村草太さんが示した「社会への贈与」という考え方を引き、「これからは私たちがその自由を実践していくことが重要ではないか」と呼びかけた。

 齋藤弁護士が報告した道公安委の「回答」について、筆者は11月1日付で道警への指導の概要などを記録した公文書の開示を請求したが、2週間あまりが過ぎた17日の時点で開示・不開示の決定は伝わっておらず、請求が受理されたかどうかの連絡も届いていない。(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 元稿:HUNTER 主要ニュース 政治・行政 【政治ニュース・地方自治・北海道・訴えを起こした市民らの「半分勝訴」が確定した首相演説ヤジ排除事件・地元議会では改めて知事や警察本部、公安委員会の責任を問う声も】  2024年11月20日  07:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【HUNTER・10.30】:ヤジ訴訟判決後の要請に想定内の「無回答」|知事部局は徹底して「無反応」

2024-11-21 07:05:30 | 【裁判(最高裁・高裁・地裁、裁判員制度・控訴・再審請求)、刑法39条】

【HUNTER・10.30】:ヤジ訴訟判決後の要請に想定内の「無回答」|知事部局は徹底して「無反応」

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【HUNTER・10.30】:ヤジ訴訟判決後の要請に想定内の「無回答」|知事部局は徹底して「無反応」

 いわゆるヤジ排除国賠訴訟で全面勝訴判決を得た札幌市の女性が北海道の各機関に謝罪などを要請していた件で(既報)、申し入れを受けた3機関のうち2機関が女性の代理人へ「回答」を寄せていたことがわかった。いずれも文書の形で示されたものの、謝罪や検証、関係者の処分などを求める具体的な要望には明答を返しておらず、抽象的な文言の羅列に留まっていた。

               ◆   ◆   ◆

 申し入れは9月9日、ヤジ訴訟の一審原告・桃井希生さん(29)が北海道の知事部局、警察本部、及び公安委員会に対して行なった。本年8月の最高裁決定(当事者双方の上告棄却・不受理)により、2019年に安倍晋三総理大臣(当時)へ「増税反対」などとヤジを飛ばした桃井さんを演説の場から排除した警察官の行為が違法・違憲と認定されたことを受け、一審被告の道側に謝罪や一連の問題の検証、関係者の処分などを求めたものだ。3機関の担当者に要望書を提出した後、記者会見に応じた桃井さんは次のように語っていた。

 「5年間の裁判で違法という結果が出たのに、何も処分がないとしたら問題だと思います。『慰藉料払いました、はい終わり』で済むわけない。二度とこんなことが起こらないようちゃんと検証すべきですし、排除に関わった警察官、その時の責任者の本部長も含めて処分すべきです」

 この時点で要請先の各機関の対応は未知数で、なんら回答を返さず黙殺し続ける可能性も考えられたが、公安委員会のみは3日ほど後に代理人の齋藤耕弁護士(札幌弁護士会)へ『連絡書』なる書類を送っていた。全文を以下に引く。

《 令和6年9月9日に受理した文書により、齋藤様から北海道公安委員会宛に申出のありました件については、北海道警察に調査を指示いたしました。回答には時間を要する場合がありますので、御承知おきください》

 ほか2機関への要請とは異なり、公安委へは警察法79条に基づく「苦情の申出」という形で申し入れを行なったため、このような対応になったとみられる。同条3項は、要請受理後の対応を以下のように定めているのだ。

 《申出があつたときは、法令又は条例の規定に基づきこれを誠実に処理し、処理の結果を文書により申出者に通知しなければならない》

 定められる「通知」が伝わったのは、およそ1カ月半が過ぎた10月下旬。同24日付で作成された2つの文書を齋藤弁護士が受け取ったのは、翌25日のことだった。やはり道公安委から届いた『苦情処理結果通知書』、及び公安委の管理監督下にある北海道警察から届いた『回答書』がそれだ。それぞれの内容は、以下の如し。

 公安委・・・《令和6年9月9日に齋藤様から受理した申出の件につきまして、北海道公安委員会といたしましては、警察官の行為が一部違法とされたことについて真摯に受け止めているところであり、北海道警察に対し、各種法令に基づき、適切に職務執行するよう指導したところであります》

 道警・・・《令和6年9月9日に齋藤様から受理した申出の件につきまして、北海道警察といたしましては、この度の司法判断を真摯に受け止め、法令に基づく適正な職務執行に努めてまいります》

 繰り返すが、桃井さんが求めていたのは判決を受けての謝罪や関係者の処分、違法行為の検証、再発防止策の検討などだ。上2者からの「回答」は、これらのいずれにもまったく答えていない。当事者の桃井さんは「何も言っていないに等しい」と呆れ、桃井さんとともに国家賠償請求裁判を闘った大杉雅栄さん(36)も「公安委の連中はすべての報酬を返還しろ、と言いたい」と痛罵、同委員会の存在意義を問い「自らの役職が完全なる虚無・虚構に基づくものであると自ら暴露していることについて、羞恥する心を持って欲しい」と厳しく批判した。

 その公安委は、先述した9月の連絡書によれば「北海道警察に調査を指示」したのだという。だが今回の通知書はその調査の結果あるいは進捗に一切言及しておらず、もとより具体性に乏しかった文言の抽象度に拍車がかかる形となった。受け取った斎藤弁護士は桃井さんら同様「まったく意味のない文言で、回答になっていない」と批判、今回の対応について次のような見方を示した。

 「とにかく、警察法79条に基づく要請を握り潰したことになるのを避けるため、形だけ『結果通知』という体裁をとり、『これで正式回答しましたよ』と言いたいんでしょう。実際は具体的な内容が一切なく、回答していないのと同じです」

 大杉さん・桃井さんや裁判支援者らの集まり・ヤジポイの会は11月17日午後、憲法学者の木村草太さんを招いた報告集会を札幌市内で開くことになっている。集会では今回の公安委・道警の「回答」も俎上に載せ、道の対応の適正性について議論する考えだ。

 なお冒頭に述べた通り、桃井さんの申し入れを受けた道の組織は3機関あるが(知事部局、警察本部、及び公安委)、今回「回答」を返したのは警察本部と公安委のみで、残る知事部局からは現時点でまったく反応が届いていない。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 元稿:HUNTER 主要ニュース 政治・行政 【行政ニュース・裁判・地方自治・北海道・ヤジ排除国賠訴訟で全面勝訴判決を得た札幌市の女性が北海道の各機関に謝罪などを要請していた件】  2024年10月30日  07:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・11.10】:裁判記録新制度/保存判断の透明性高めよ

2024-11-12 06:00:20 | 【裁判(最高裁・高裁・地裁、裁判員制度・控訴・再審請求)、刑法39条】

【社説・11.10】:裁判記録新制度/保存判断の透明性高めよ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.10】:裁判記録新制度/保存判断の透明性高めよ 

 神戸連続児童殺傷事件の全記録が廃棄されていたことが判明し、2年が経過した。一連の問題を受け、最高裁は今年1月に保存制度を改め、判断に外部の意見を反映させようと常設の第三者委員会を設置した。

 その第2回会合が先月、非公開で開かれた。3月の初会合以来の開催だったが、報道機関への説明の場はなかった。

 特別保存(永久保存)に関する新規則は、第1条で事件記録を「国民共有の財産として保存し、後世に引き継いでいく」と掲げる。事件記録を永久保存するよう要望があったのに、各裁判所が認定しない判断をする場合、第三者委に意見を求めるよう義務付ける。

 一方、規則は第三者委の手続きを「公開しない」と定める。これを根拠に、第三者委は発足後一度も会見を開いていない。

 個別事件の機微に触れる内容を審議することから議事の全面公開が難しい点は理解できる。だが、第三者委は初会合から半年以上開かれず、国民は審議内容を議事要旨でしか知ることができない。これでは新制度の趣旨が生かされていないのではないか。最高裁が記録を「国民共有の財産」と認識しているのか疑問を抱かざるを得ない。

 最高裁によると、第2回会合では、裁判所が永久保存しないと判断した計8件について適否が検討されたが、審査結果については「現時点では回答できない」と明らかにしていない。 

 神戸新聞社が最高裁に対し、制度改定後、全国の裁判所に出された要望を受けて永久保存が認められた数を照会したところ、9月末までに9件の保存が決まったという。

 要望を受け保存が決まった記録と、要望があったのに認められず第三者委に意見を求めた記録は、全て東京地裁の民事事件だった。その理由は不明だ。

 各地の裁判所で重要記録が廃棄されていた。その反省と教訓を踏まえれば、今後、裁判所ごとに保存の判断に違いが出るようでは、新制度にも疑念を持たれかねない。

 第三者委は、重要記録の廃棄を防ぐ「最後の砦(とりで)」の役割を担う。可能な限り手続きの透明性を高めるなど、最高裁は制度の充実に努めるべきだ。

 元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年11月10日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・11.04】:福井中3殺害で再審決定 証拠開示するルール作りを

2024-11-05 07:01:40 | 【裁判(最高裁・高裁・地裁、裁判員制度・控訴・再審請求)、刑法39条】

【社説・11.04】:福井中3殺害で再審決定 証拠開示するルール作りを

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.04】:福井中3殺害で再審決定 証拠開示するルール作りを

 1986年に福井市で中学3年の女子生徒が殺害された事件で、殺人罪で懲役7年が確定し服役した前川彰司さんの裁判やり直しが決まった。第2次再審請求を受けて名古屋高裁金沢支部が再審開始を認める決定をし、検察が異議申し立てを断念した。無罪が言い渡される公算が大きい。

 高裁金沢支部の決定は、捜査側が見立てた筋書きに合うよう関係者に証言を求め、誘導した疑いがあると指摘した。事実なら許されない。強引な捜査や公判での立証の手法は、検証が要る。

 もともと、前川さんの犯行を直接示す客観的な証拠はなく、前川さんは一貫して無罪を訴えていた。有罪判決の根拠となったのは、互いに信用性を補完し合う複数の関係者の供述だった。

 弁護団は、再審請求に伴って新たに開示された証拠を精査。「血の付いた前川さんを見た」と証言した関係者が事件当日に視聴したと説明していたテレビ番組が、実際は別の日に放送されていたことを突き止めた。

 高裁金沢支部は、捜査に行き詰まっていた警察が供述を誘導した疑いがあると指摘する。検察に対しても、番組の放送日が異なることを把握していながら公判で明らかにしなかったことを「あるまじき不正」と非難した。警察と検察は問題点を洗い出す必要がある。同じような事態を繰り返してはならない。

 事件は異例の経過をたどった。90年の一審福井地裁判決は無罪だったが、二審で懲役7年とされ、最高裁で確定した。満期出所後の第1次再審請求審は2011年に高裁金沢支部が再審開始をいったん認めたものの、検察側の異議申し立てを受け、名古屋高裁が取り消した。

 第2次請求は、弁護団が検察に証拠を開示させたことで再審の重い扉が開いた。検察は当初渋っていたが、高裁金沢支部が開示命令を出すことを示唆したため、福井県警の捜査報告メモなどを大量に開示した。その結果、証言のほころびが判明した。前川さんの支援者が「証拠が隠され、有罪にされていた」と憤るのは当然だ。

 先月、静岡県一家4人殺害事件から58年を経て再審無罪が確定した袴田巌さんのケースも、第2次再審請求で犯行着衣とされる衣類のカラー写真などが開示されたことで、無罪が裏付けられた。

 何より大事なのは、冤罪(えんざい)を生まないことだ。都合の悪い証拠を隠そうとする検察の姿勢が冤罪の土壌になってきたとしたら、証拠を開示させるルールを作らねばならない。

 現行法には再審請求段階の証拠開示ルールがない。再審で無実を訴える人にとって、著しく不利な状況を見直す必要がある。

 事件当時20代だった前川さんは来年、還暦を迎える。司法の対応はあまりにも遅きに失した。名古屋高検は再審公判で有罪を主張するかどうかや、前川さんへの謝罪の見込みを明らかにしていない。前川さんの納得を得られるような対応を取り、名誉の回復に努めるべきだ。

 元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年11月04日  07:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【HUNTER・10.31】:遺族慟哭「北海道は諦めるのを待っているのか」| 江差看護学院パワハラ死訴訟、函館で初弁論

2024-11-04 07:05:40 | 【裁判(最高裁・高裁・地裁、裁判員制度・控訴・再審請求)、刑法39条】

【HUNTER・10.31】:遺族慟哭「北海道は諦めるのを待っているのか」| 江差看護学院パワハラ死訴訟、函館で初弁論

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【HUNTER・10.31】:遺族慟哭「北海道は諦めるのを待っているのか」| 江差看護学院パワハラ死訴訟、函館で初弁論 

 北海道立江差高等看護学院のパワーハラスメント問題で、教員らのパワハラが原因で自殺したという男子学生(当時22)の遺族が起こした裁判の審理が始まり、原告の女性が函館の裁判所で意見陳述した。被告の北海道は現時点で具体的な主張をしていないが、訴えに対しては棄却を求めた。

                   ◆   ◆   ◆

 9月18日に道を相手どる訴訟を起こしたのは、江差の学生だった長男を5年前に亡くした女性(48)。訴えは、のちの第三者調査で認定されたパワハラと自殺との相当因果関係を改めて認めるよう道に求めるものだった(既報)。

 本サイトなどがこれまで報じてきた通り、江差看護学院を運営する道は昨年春、先述の第三者調査結果を受けて遺族に謝罪したが、その後の交渉で学生の死とパワハラとの因果関係を否定し、同認定事実に基づく賠償には応じられないと主張するに到った。遺族側は賠償請求の大幅な減額を提案したが道は受け入れず、ハラスメントへの賠償に絞り込んだ譲歩提案も拒絶。遺族は裁判を起こさざるを得ない状況に追い込まれたという。

 10月29日午後に函館地方裁判所(五十嵐浩介裁判長)で開かれた第1回口頭弁論では、原告女性が法廷で意見陳述し、「息子の死の原因を明らかにして欲しい」と訴えた。弁論後に記者会見に応じた女性は改めて「あの謝罪は何だったのか」と道への不信感を顕わにし、今後の審理について「きちんと因果関係を認めてもらえないと息子の死が報われない」と、裁判所の適正な判断に期待を寄せた。

 女性はかねてから「本当なら裁判をしたくなかった」と話しており、とりわけ5年前の事情を知る長男の同窓生らに証言や尋問で負担をかけたくないという思いがあったという。訴訟代理人の植松直弁護士(函館弁護士会 *下の写真)は女性の意向を汲み、今後の立証活動では道が第三者調査の過程で作成・取得した資料などの開示を求めていく考えだ。

 被告の道は同日までに請求の棄却を求めたが、原告への具体的な反論は追って明らかにするとしており、12月中旬にも改めて書面が提出される見込み。初弁論の法廷には被告側は一人も姿を見せず、会見でこれについて問われた原告女性は「この件は道には大した問題ではないのかな、と思うしかない」と項垂れ、「道は私が諦めるのを待っているのではないか」と話した(*下の写真)。

 江差看護学院の一連のハラスメント問題で最悪の被害といえる在学生自殺問題をめぐる裁判、次回以降は当面、非公開の弁論準備手続きの形で進められる見込みだ。

 ※ 原告女性の意見陳述の全文を、以下に引用。

今回の裁判を行うにあたり、一言、その思いを述べたいと思います。はじめに、どうしても言っておきたいことは、私は裁判を行いたいとは一切思っていなかったということです。

令和元年9月18日、息子は江差高等看護学院に在学中、自ら命を絶ちました。この裁判でこれから明らかになると思いますが、道や学院は、息子の死の原因について自らは一切調査しませんでした。私が道に調査を求め、調査委員会がおととし10月にようやく立ち上がり、昨年3月に第三者調査委員会では学院の複数の教員による息子への複数のパワーハラスメントを認定し、学習環境と自死との相当因果関係を認めました。

被告道は、その調査結果を受けて私に謝罪の申し入れを行いました。私は道の謝罪は調査結果を全て受け止めた上でのものだと考え謝罪に応じました。その後、道の弁護士と私の弁護士との賠償の話し合いとなりましたが、調査結果を前提とした話合いですぐに決着するものだと考えておりました。

しかしながら、道は賠償交渉では自死に対する賠償については認めないという調査結果の結論内容とは矛盾する回答を行い、大変ショックを受けました。私は何度も何度も道から裏切られ、そのたびに深い絶望を味わってきました。道知事は、記者会見等では私に誠意に対応すると繰り返し述べてきましたが、私からすれば、誠意など全く感じることはできません。私が求めない限り息子の自死の原因を調査しない、私が裁判をしない限り、そして裁判所が認めない限り息子の自死の賠償は認めないという対応に誠意など感じるはずがありません。道が息子の自死が看護学院教員のパワハラが原因であることを認めない限り、息子の無念は決して晴れません。そのため、本当はしたくはなかった裁判を今回行うことにしました。いや、私からすれば道から訴訟提起を強要されたという思いです。

裁判所におかれましては、息子の死の原因が何であったかを適切に判断して頂ければと思います。どうかよろしくお願いします。

 なお函館地裁はこの日の初弁論で、地元記者クラブの「記者席」使用を認めて傍聴席全44席のうち11席を地元司法記者クラブ加盟記者たちに提供したが、クラブ非加盟者として記者席の使用を求めた筆者の申請には不許可決定を出した。また同弁論の開廷前には記者クラブ加盟放送局の代表による約2分間の動画撮影が認められたが、やはりクラブ外からスチル撮影の許可を求めた筆者の申請は退けられた。これらの扱いの違いについて尋ねる筆者の問い合わせに、窓口の函館地裁総務課は「決定の理由はお伝えできない」としている。(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 元稿:HUNTER 主要ニュース 社会 【社会ニュース・裁判・北海道立江差高等看護学院のパワーハラスメント問題】  2024年10月31日  07:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・11.02】:中3殺害事件再審 審理の長期化を避けねば

2024-11-02 06:00:30 | 【裁判(最高裁・高裁・地裁、裁判員制度・控訴・再審請求)、刑法39条】

【社説・11.02】:中3殺害事件再審 審理の長期化を避けねば

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.02】:中3殺害事件再審 審理の長期化を避けねば 

 異議申し立てを検察側が断念したことは当然だ。再審公判では審理の長期化を避けねばならない。捜査や公判の問題点についても検証が求められる。

 1986年に福井市で中学3年の女子生徒が殺害された事件の第2次再審請求で、名古屋高裁金沢支部は、殺人罪で懲役7年が確定し、服役した前川彰司さんの裁判をやり直す再審の開始を認める決定をした。

 これに対し、名古屋高検は、異議申し立てをしないと発表した。再審開始が確定し、無罪が言い渡される公算が大きい。

 逮捕時に21歳だった前川さんは服役を経て、今は59歳になった。

 満期出所後の第1次請求で高裁支部は2011年に再審開始を認めたが、名古屋高裁で取り消された。今回開始が決まったとはいえ、あまりにも遅すぎる。

 10月には事件から58年を経て袴田巌さんの再審無罪が確定したばかりだ。袴田さんは88歳となり、人生の貴重な時間を奪われた。

 福井の事件では、犯人を直接指し示す証拠がなく、前川さんは捜査段階から無実を主張していた。一審は無罪判決だったが、二審で逆転有罪となり、確定した。

 確定判決が有罪の根拠としたのは、知人ら複数の関係者の供述だった。ところが、高裁支部の決定は、自己の利益のためにうそを言った可能性があるとして供述の信用性を否定した。

 再審開始の扉をこじ開けたのは、第2次請求で、検察側が新たに開示した捜査報告書など計287点の新証拠だった。

 「血の付いた前川さんを見た」と証言した関係者が事件当日に視聴したとしたテレビ番組のシーンが、実際はその日には放送されていないことが新証拠で判明した。

 高裁支部は、捜査に行き詰まっていた警察が、供述を誘導した疑いが払拭できないと指摘した。

 検察についても、供述に事実誤認があることを知りながら裁判で明かさず、有罪立証を続けたとした。「公益の代表者としてあるまじき、不誠実で罪深い不正だ」と指弾したのは、もっともだ。

 ストーリーに沿った「見立て捜査」の線が色濃い。警察と検察は問題点を洗い出す責務がある。真犯人検挙の機会が失われたとすれば、その責任も問われよう。

 新証拠を巡っては、弁護団が開示を求めた際に検察は渋ったが、高裁支部が開示命令を出すことを示唆したため、やっと開示した。

 再審請求段階の証拠開示ルールがなく、検察の異議申し立てに制限がないなど無実を訴える人に著しく不利な制度の改善が急務だ。

 検察側は今後の再審公判での姿勢を明らかにしていない。過去の再審公判では有罪立証を続け、審理が長期化するケースが多い。

 検察側は高裁支部決定を真摯(しんし)に受け止めて臨んでもらいたい。 

 元稿:新潟日報社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年11月02日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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《社説①・10.24》:中学生殺害で再審決定 検察は抗告すべきでない

2024-10-24 02:06:50 | 【裁判(最高裁・高裁・地裁、裁判員制度・控訴・再審請求)、刑法39条】

《社説①・10.24》:中学生殺害で再審決定 検察は抗告すべきでない

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・10.24》:中学生殺害で再審決定 検察は抗告すべきでない

 見立てにこだわった不当捜査の疑いがあると指摘した司法判断だ。警察と検察は、直ちに検証に乗り出すべきだ。

 1986年に福井市で女子中学生が殺害された事件で、有罪が確定した前川彰司さん(59)について、名古屋高裁金沢支部が再審を開始する決定を出した。懲役7年の判決を受け、服役した。

再審開始決定を受け、喜びを語る前川彰司さん(右から2人目)=金沢市の名古屋高裁金沢支部前で2024年10月23日午前10時過ぎ、萱原健一撮影

 当初の裁判の1審で無罪とされたものの、2審で覆った。最初の再審請求でも開始決定が出たが、検察が不服を申し立てて取り消された。今回の決定は、第2次再審請求への判断だ。

 裁判所が3度にわたって有罪の根拠を疑問視した事実は重い。検察は決定を受け入れ、即時抗告を断念すべきだ。

 前川さんは一貫して否認し、関与を直接示す証拠もなかった。

<picture><source srcset="https://cdn.mainichi.jp/vol1/2024/10/24/20241024k0000m040010000p/9.webp?1" type="image/webp" />再審開始決定を受け、記者会見で心境を語る前川彰司さん(中央)=金沢市で2024年10月23日午後0時9分、萱原健一撮影</picture>
再審開始決定を受け、記者会見で心境を語る前川彰司さん(中央)=金沢市で2024年10月23日午後0時9分、萱原健一撮影

 有罪の根拠は、「服に血が付いていた」などとする複数の知人の証言だった。しかし、高裁支部は信用性を否定した。

 前川さんが関与したと最初に語った知人男性は当時、薬物事件で勾留されており、「刑の軽減や保釈を得ようと、虚偽証言をした可能性がある」と指摘した。

 警察は、知人男性に面会や飲食などで便宜を図っていた。別の証言者は、調べを受けた警察官から結婚祝いを受け取っていた。

 決定は「捜査に行き詰まった警察が唯一の情報源に頼り、他の知人らを誘導して、なりふり構わず証言を得ようとした疑いが濃厚だ」と結論づけた。 

 検察官も、証言と矛盾する事実を把握しながら、当初の裁判で明らかにしていなかった。

 不当な捜査や立証が行われた可能性が高い。有罪判決を出した裁判所の責任も問われる。

 再審制度の不備も改めて浮き彫りになった。前川さんが最初に請求してから20年がたつ。再審開始決定への検察の不服申し立てが認められていることが、審理の長期化につながった。

 第2次請求後に検察が開示した287点の証拠が、再審の扉を開くのに役立った。早い段階で開示させる仕組みが必要だ。

 死刑が確定していた袴田巌さんが再審で無罪となったばかりだ。日本の刑事司法は、真摯(しんし)な反省と抜本的な改革を迫られている。

 元稿:毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年10月24日  02:02:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【HUNTER・10.22】:北海道のハンターが控訴審で逆転敗訴|ヒグマ駆除めぐる銃所持許可取り消し事件

2024-10-22 05:15:30 | 【裁判(最高裁・高裁・地裁、裁判員制度・控訴・再審請求)、刑法39条】

【HUNTER・10.22】:北海道のハンターが控訴審で逆転敗訴|ヒグマ駆除めぐる銃所持許可取り消し事件

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【HUNTER・10.22】:北海道のハンターが控訴審で逆転敗訴|ヒグマ駆除めぐる銃所持許可取り消し事件 

 自治体の要請でヒグマを駆除した猟友会のハンターが公安当局に銃を取り上げられた事件( 既報 )で10月19日午後、当事者のハンターが処分の撤回を求めて起こした裁判の控訴審判決が札幌高等裁判所(小河原寧裁判長)で言い渡され、同処分を違法とした一審・札幌地裁の判決が取り消されて原告側が逆転敗訴を喫した。訴えを起こしたハンターは「理解を超越しており、ちょっと考えられない判決」と、上告の意志を固めている。

             ◆   ◆   ◆

 2020年に北海道公安委員会を訴える裁判を起こしたのは、北海道猟友会砂川支部の支部長を務める池上治男さん(75)。提訴2年前の18年8月、砂川市の鳥獣被害対策隊員を務める池上さんは市の要請でヒグマを駆除し、その発砲行為が違法だったとして地元警察にライフル銃を押収された。警察は現場の平面図を根拠に当時の発砲を「建物に向かって撃った」ものとみなし、池上さんを銃刀法違反などで書類送検したが、実際の現場には高さ約8メートルの土手があり、銃弾はその土手を背にしたクマへ向けて発射されていた。事件送致先の地元検察庁が出した結論は、不起訴(起訴猶予)。狩猟免許を扱う北海道の振興局は池上さんの免許を取り消さないことを決め、砂川市も鳥獣対策隊員の委嘱を継続する。ところが銃所持許可を所管する道公安委のみはこれに抵抗、当初の警察の主張を鵜呑みにし、駆除から8カ月が過ぎた19年4月に池上さんの銃所持許可を取り消してしまった。これを不服とする池上さんの行政不服審査申し立ても奏功せず、翌20年5月に公安委処分の撤回を求める裁判の提訴に到った。

 訴えを受けた札幌地方裁判所(廣瀬孝裁判長=当時)が池上さん全面勝訴の判決を言い渡すことになったのは、冒頭に述べた通り。裁判官らによる現場検証を含む証拠調べを重ねた同地裁は、21年12月の一審判決で公安委の「裁量権の逸脱」を指摘し、警察と公安委が言い募る「建物に向かって撃った」なる主張を次のように退けた。

 《原告が本件発射行為により発射した弾丸については、本件ヒグマから逸れたりすることもなく、これに命中したものである》

 《また、この弾丸がヒグマの身体を貫通し、さらに跳弾してどこかへ飛んだような事実を窺わせる証言も見当たらない》

 《そもそも、原告が発射した弾丸が本件現場付近の建物に当たったとか、その建物を損壊させたなどといった事実は、本件証拠上まったく認められない》

 その上で、仮に当時の発射行為に違法性があったとしても、それを理由に銃所持許可を取り消すような処分は「社会通念上著しく妥当性を欠く」と判断、公安委処分は違法だったと結論づけた。

 争いが継続することになったのは、完敗した筈の道公安委がただちに控訴したため。二審の審理にあたった札幌高裁(佐久間健吉裁判長=当時)は昨年9月、一審・札幌地裁と同様に駆除現場の検証に踏み切り、改めて駆除の状況などを調べることになった( 既報2 )。検証に立ち会った池上さんは「これで銃弾の射線がより明確になった」と高裁の判断に期待を寄せていたが、そこから1年あまりを経て言い渡された判決は、あまりに「理解を超越した」結論だった。

 今回、一審判決を破棄した札幌高裁は、先述した地裁判断を真っ向から否定し、池上さんの撃ったライフル弾がヒグマに命中した後で跳弾したとの事実を認定した。その銃弾は、駆除に立ち会った「共猟者」の銃に当たったのだという。根拠は、その共猟者自身や警察官の証言など。ところがその事実は、裁判どころか警察の捜査の段階で早々に否定されているのだ。先に述べたように、銃所持許可の取り消し理由は「建物に向かって撃った」行為とされており、現場で跳弾があったという事実は確認されていない。一審判決を言い渡した札幌地裁も、このような指摘を残している(伏字は筆者)。

 《そもそも本件処分の理由は「弾丸の到達するおそれのある建物に向かって」銃猟をしたとするものであって、■■の所持していた猟銃の銃床を破損させたとか、■■に向かって銃猟をしたなどということは、処分の理由として一切挙げられていない》

 そして、高裁が採用することになる供用者の証言は、次のように斬り捨てられていた。

 《その証言内容には、疑問を差し挟むべき不自然な点が多々みられるものと言わざるを得ない》

 今回の高裁判決ではこの不自然な言い分が亡霊のように息を吹き返し、一審被告の公安委でさえ主張していない跳弾説が事実として認定されることになった。池上さんの代理人を務める中村憲昭弁護士(札幌弁護士会)は「非常に問題のある事実認定」と批判し、憤りを隠さずこう指摘する。

 「検挙する側の都合に沿った杓子定規な判断で、公務員の無謬を盲目的に信用したもの。この判決が確定してしまうと有害獣駆除の現場に悪影響を及ぼすことになるのは間違いないと思います」

 当事者の池上さんも、猟友会支部長の立場で「今後の駆除活動は、私の事案以上に難しくなるだろう」と懸念する。

 「ハンターは誰も好きこのんで殺処分を引き受けているわけではありません。これではとてもじゃないけど、現場の会員に駆除を頼めなくなる。人のためを思ってボランティアでやったことで、平気でこういう不当な事実認定をされるのであれば、恐くて誰も撃てなくなりますよ」

 地元の砂川市は現在も池上さんに鳥獣対策隊員を委嘱し続けており、また先述のように道も狩猟免許を取り消さずにいる。ただ銃所持許可のみがこの6年間あまり取り消されたままで、そのため池上さんはヒグマの目撃情報が伝わるたびに丸腰で現場へ駈けつけ、プロファイリングを兼ねて周辺への注意喚起やクマの追い払いなどにあたっている。ボランティアとしての対応は今後も続ける考えだが、今回の判決が現場に大きな動揺をもたらすことになるのはほぼ確実。猟友会砂川支部の奈井江部会長を務める山岸辰人さん(72)は、憮然として言い放つ。

「判決には科学的根拠がなく、裁判所の見識を疑わざるを得ません。駆除が処罰の対象になるなら『もうやれない』ということになる。銃も使わない、箱罠も使わない。今回の判決が確定したら、ヒグマ管理計画そのものが頓挫することになりますよ」

判決を不服とする池上さんはすでに上告の方針を固めており、争いは今後も続くことになりそうだ。

 ※ なお今回の裁判の傍聴取材に際し、筆者は記者クラブ非加盟者として札幌高裁へ「判決文の交付」「記者席の使用」及び「開廷前撮影」の許可を求めていた(既報3)。申請を受理した高裁は判決言い渡し当日の18日午後までに判決文の交付を認める決定を出し、地元司法記者クラブ加盟社と同様に非加盟の筆者にも同文を提供することになった。記者席についてはクラブ加盟の有無にかかわらず今回は設けられないこととなり、また開廷前撮影についてはクラブの代表撮影のみが認められ、筆者の申請は退けられた。(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 元稿:HUNTER 主要ニュース 社会 【事件・疑惑・裁判・自治体の要請でヒグマを駆除した猟友会のハンターが公安当局に銃を取り上げられた事件】  2024年10月22日  05:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【森友遺族・夫の死を巡る法廷闘争記】:懲りない財務省…審査会の答申を無視して情報不開示の前代未聞

2024-10-20 00:14:50 | 【裁判(最高裁・高裁・地裁、裁判員制度・控訴・再審請求)、刑法39条】

【森友遺族・夫の死を巡る法廷闘争記】:懲りない財務省…審査会の答申を無視して情報不開示の前代未聞

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【森友遺族・夫の死を巡る法廷闘争記】:懲りない財務省…審査会の答申を無視して情報不開示の前代未聞

 森友学園との土地取引を巡る財務省の公文書改ざん事件で命を絶った赤木俊夫さん。妻の雅子さんは真相解明のため財務省にあるはずの資料の開示を求めたが、財務省は資料があるかないかも回答せず拒否。国の情報公開・個人情報保護審査会は決定を取り消すよう答申を出したが、財務省は答申を無視して再び不開示を決めた。

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      判決は来年1月(弁護団の記者会見=撮影・相澤冬樹)

 行政不服審査法は、審査会の答申と異なる結論を官庁が出す場合、なぜ答申に従わないのか説明するよう定めている。だが今回の財務省の裁決は理由を一切示していない“違法”な裁決だ。これでは答申という制度自体、何の意味もないことになってしまう。これは5月31日発行の日刊ゲンダイが報じた通りだ。

 この不開示を巡って赤木雅子さんは開示を求める裁判を起こし、1審では国の決定を認める判決が出て、現在、控訴審で審理が行われている。

 そもそも審査会の答申と異なる決定を官庁が出したケースは過去に24件、全体のわずか0.16%しかない。では、答申に従わなかった24件はどういうケースだったのだろう? 弁護団はすべての答申と、それに従わなかった官庁の裁決書を情報公開手続きで請求した。

その結果、以下のことがわかった。

 1、24件のうち7件は文書の保存期間が切れて残っていなかった。
 2、5件は、審査会の答申が不開示を妥当としたのに官庁が自主的に開示に転じたものだった。
 3、7件は、答申に全面的に従ってはいないが、開示の範囲を広げたか、最終的には答申に沿った決定となった。
 4、3件は、答申に従わなかったが、その後裁判で負けて開示に転じた。

 ■弁護団「1審判決の誤りは正されねばならない」

 そうすると、審査会の答申にまったく従わなかったケースは残りの2件しかない。しかもこの2件は、対象となる文書が存在することは認めた上で開示しなかったものだった。ということは、今回のように文書があるかないかも認めないまま答申に従わなかったケースは、前代未聞の不当なものだったということが明らかになったのだ。

 弁護団はこの調査結果を書面にして裁判所に提出。裁判の判決で不開示決定が覆ったケースがあったことを踏まえ、今後の情報公開請求への重大な悪影響を防ぐためにも1審判決の誤りは正されねばならず、裁判所の責任は極めて重大だと指摘している。

 これを受けて18日、大阪高裁で控訴審の法廷が開かれた。国側は今回の原告側の指摘に何ら反論することなく、裁判は結審。判決は来年1月30日と決まった。

 大阪高裁は、過去に例のない「審査会の答申無視」の財務省の決定を追認するのか、それとも1審判決を覆し、決定の取り消しを命じるのだろうか?

著者のコラム一覧
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【HUNTER・10.17】:“判決要旨交付” ― 裁判所が「記者クラブ限定」を解除?|最高裁通達で判明

2024-10-17 07:00:30 | 【裁判(最高裁・高裁・地裁、裁判員制度・控訴・再審請求)、刑法39条】

【HUNTER・10.17】:“判決要旨交付” ― 裁判所が「記者クラブ限定」を解除?|最高裁通達で判明

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【HUNTER・10.17】:“判決要旨交付” ― 裁判所が「記者クラブ限定」を解除?|最高裁通達で判明 

 各地の裁判所がいわゆる記者クラブ加盟メディアに提供している「判決要旨文」について、最高裁判所が7年前の通達で提供対象者をクラブ非加盟者にも拡大していたことがわかった。フリージャーナリストの寺澤有さんが最高裁への開示請求で入手した文書により判明したもので、情報を得た筆者は同通達を根拠に札幌の裁判所へ判決文や記者席などの提供を申請した。同申請を受理した裁判所の判断は、遠からず伝えられることになっている。

               ◆   ◆   ◆

 通達『報道機関への判決要旨等の交付について』は、2017年7月25日付で最高裁が各地の裁判所へ発出していたもの。少し長くなるが、本文中の一節を以下に引用する。

 《判決要旨等を交付する目的が、裁判結果等の内容を報道機関へ周知し、正確に報道してもらうためのものであることからすると、司法記者クラブ(所属の報道機関)からの依頼に基づいて作成された判決要旨等については、当該司法記者クラブ(所属の報道機関)のみならず広く上記の目的にかなう報道機関にも交付して差し支えない》

 通達を掘り起こしたジャーナリストの寺澤有さんは本年5月、「最高裁が保有する記者クラブに関連する全文書」を最高裁に開示請求したところだった。請求を受けた最高裁は9月末までに当該文書計120枚の一部開示を決定、寺澤さんは10月7日にそれらの写し(コピー)の交付を受けた。その中で最も興味深かった文書こそ、判決要旨文の提供先の拡大を謳った先の通達だったという。寺澤さんはかつて裁判所を相手どり、判決要旨文の記者クラブ限定交付は違法だとする裁判を起こしたことがある。訴訟の経緯は寺澤さん自身の著書『裁判所が考える「報道の自由」 判例 第1次記者クラブ訴訟』に詳しいが(  )、この時の裁判で実質勝訴した筈の裁判所は、フリー記者からの問題提起を意識してかせずか、その後ひっそり先のような通達を出すに到ったというわけだ。

 文書開示請求の結果を知った筆者は寺澤さんから当該文書データの提供を受け、通達の全文を入手することができた。それによると、同通達で裁判所が定義する「報道機関」は必ずしもクラブと無縁のフリー記者全般を指すのではなく、クラブメディアに準ずる媒体(日本新聞協会加盟紙など)への寄稿の実績がある記者などに限られるという。憲法に保障された「知る権利」を尊重するなら、こうした線引きは合理的根拠のない制限として遠からず取り払われなくてはならないが、長く続いた鉄壁の制限が僅かでも緩和されたのは半歩前進といえる。さっそくこの新たな権利を享受すべく、筆者は地元裁判所への申請を試みた。

 週が明けた10月15日、札幌在住の筆者は地元の札幌高等裁判所を訪問、同じ週の18日午後に判決言い渡しが予定されている猟銃所持許可訴訟控訴審(小河原寧裁判長)の「判決文交付」を求め(同事件では「要旨」ではなく「判決文」の写しが記者クラブに交付されるため)、併せてやはりクラブ各社のみに認められていた「記者席使用」及び「開廷前撮影」の許可を申請した。報道関係者であることを裏づける資料としては、日本雑誌協会に加盟する文藝春秋のメディア「文春オンライン」への過去の寄稿と、日本新聞協会加盟の共同通信の依頼で執筆した原稿、計2本の記事の出力紙を提出した。対応した札幌高裁総務課広報係の担当者によると、これらの申請には決まった書式の申請書がないという。そのため申請は職員に対して口頭で行ない、その場で受理されることになった。

 これまで各地の裁判所が記者クラブ非加盟者への判決要旨文交付や記者席提供などを認めたケースがあるかどうかは確認できていないが、先の寺澤さんの訴訟が原告実質敗訴に終わっていることから、現時点でいずれも実績はないものと考えられる。今回の札幌高裁への申請が認められれば、フリー記者の権利拡大の重要な前例となるのはほぼ確実だ。

 裁判所の判断は、10月18日までに電話で伝えられることになっている。(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 元稿:HUNTER 主要ニュース 社会 【話題・裁判所・各地の裁判所がいわゆる記者クラブ加盟メディアに提供している「判決要旨文」・最高裁判所が7年前の通達で提供対象者をクラブ非加盟者にも拡大していた事案】  2024年10月17日  07:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【HUNTER・09.11】:ヤジ訴訟判決「知事は重く受け止めるべき」| 元国賠原告らが北海道に申し入れ

2024-09-15 06:45:40 | 【裁判(最高裁・高裁・地裁、裁判員制度・控訴・再審請求)、刑法39条】

【HUNTER・09.11】:ヤジ訴訟判決「知事は重く受け止めるべき」| 元国賠原告らが北海道に申し入れ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【HUNTER・09.11】:ヤジ訴訟判決「知事は重く受け止めるべき」| 元国賠原告らが北海道に申し入れ 

 8月の最高裁判所決定により一審原告らの「一部勝訴」が確定した「首相演説ヤジ排除事件」国家賠償請求裁判の判決について、実質全面勝訴した札幌市の女性が9日、裁判の相手方だった北海道の各機関に要請書を提出し、謝罪や関係者の処分などを求めた。要請後に記者会見した元原告の女性は「敗けたから慰藉料を払って終わり、ではなく、しっかりとした検証や処分が必要」と改めて訴えた。

                       ◇   ◇   ◇

 道知事などへの要請書を提出したのは、2019年7月に札幌を訪れた安倍晋三総理大臣(当時)に「増税反対」などとヤジを飛ばして警察官らに排除され、これを表現の自由侵害として地元警察に賠償を求める裁判を起こした札幌市の桃井希生さん(29)。裁判では、同じ趣旨で一審原告となった同市の大杉雅栄さん(36)とともに一審・札幌地裁で全面勝訴判決を勝ち取り、二審・札幌高裁でも大杉さんが逆転敗訴した一方で桃井さんは勝訴を維持、本年8月の最高裁決定で同判決が確定した。

 決定により、当時の警察の対応が違法・違憲だったことが認められたものの、敗訴した道から謝罪などのはたらきかけはまったくないという。9日の要請では道知事などに対し、今回の決定をふまえた謝罪や再発防止、関係者の処分などを求める申し入れを行なった。要請書の提出先は知事部局と警察本部、及び警察を監督する公安委員会の3機関で、とりわけ公安委については適切な監督責任を果たせていなかったとして警察法79条で定める「苦情申出」の形をとった。

 要請後に記者会見した桃井さんは、各機関の責任について次のように述べている。

 「まず知事は、こういう判決が出たことを重く受け止めるべきだと思います。表現の自由が奪われたことを司法が認めたわけですから。警察や公安委員会についても、5年間にわたる裁判で『違憲』『違法』という判決になったのに、それを受けて処分とか再発防止策とか何もしないんだったら、本当に司法が軽視されていることになる。『裁判に敗けました。慰藉料払いました。はい終わり』で済むわけないと思います。二度とこんなことが起こらないようにちゃんと検証すべきですし、排除に関わった警察官、その時の責任者の本部長も含めて、処分をすべきだと思います」

 各機関の長に宛てた要請書を受け取ったのは、道警本部長要請は道警総務部の職員2人、公安委員長要請は同じく総務部の別の職員1人、知事要請は道文書課の職員1人で、いずれの手交後も回答などは得られなかったという。知事への要請時には報道各社の立ち会いが認められた一方、警察の庁舎内で行なわれた警察本部長・公安委員長への要請の場では取材が認められなかった。いずれの対応も知事や本部長自身ではなく職員が代行した形だが、要請を打診した当初は各機関とも職員面会にさえ後ろ向きで、知事部局は郵送での要請書提出を求めてきたという。こうした対応に、桃井さんは次のように疑問を呈した。

 「道知事としての責任をとる場でもあるので、出てきて欲しかった。鈴木知事はただ知事であるだけじゃなく、ヤジ排除の場にいた人です。安倍首相の横で選挙演説を聴いていた人なので、当事者といっても過言ではない。今は議会対応とかで忙しいのかもしれないけど、では『いつならOK』というのがあってもよかったのに、と思います」

 各機関への要望は、前述の公安委への苦情申出を除いては道側に回答の義務がなく、真っ当な対応がなされるかどうか定かでない。公安委要望については、警察法に基づく対応で苦情処理の結果が文書通知される可能性がある。(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 元稿:HUNTER 主要ニュース 社会 【裁判・地方自治・北海道・8月の最高裁判所決定により一審原告らの「一部勝訴」が確定した「首相演説ヤジ排除事件」国家賠償請求裁判の判決】  2024年09月11日  11:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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