【福祉事業会社「恵」】:不正問題から見る障害者支援の現実「今ある生活を崩したくないだけ」母親が選んだ沈黙という決断
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【福祉事業会社「恵」】:不正問題から見る障害者支援の現実「今ある生活を崩したくないだけ」母親が選んだ沈黙という決断
福祉事業会社「恵」が運営する障害者向けグループホームで、食材費の過大徴収やサービス等報酬の不正請求などが明らかになりました。「誰でも受け入れる」異常な受け入れ体制、謝意を示さない担当者、痩せていく息子――。不審な点に気づきながらも、恵に預けて“沈黙”を守るしかなかった家族がいました。元職員や同業者の証言とともに、恵の問題と障害者支援の現実に向き合います。
株式会社恵は2024年6月、障害者総合支援法で最も重い指定取り消し処分を受けました。国から受け取る報酬を不当に請求しており、その額は愛知県内だけでも約4億円に上ります。利用者が負担する食事代も、実際より多く徴収していたことが分かりました。愛知県内では5か所の事業所が指定取り消しの処分を受け、そのほか全国の事業所も順次運営不可能になります。
◆「殴るぞ」職員による虐待事案が発生
「息子は幼少期から自閉症で重い知的障害があり、気持ちが不安定になって暴れてしまうことも。会話も苦手です」 そう話すのは、恵が運営するグループホーム「ふわふわ岩屋」に3年半前から息子を預けている崎本さん(仮名)。自身の病気が発覚したため、この先の入院の可能性を考え、やむを得ずグループホームを探したといいます。ある日、息子さんをグループホームへ連れて行こうとすると、泣いたりお腹を痛がったりするようなそぶりを見せたといいます。「金曜には(自宅に)帰ってこられるから、となだめて行かせていました」。 そんな中で発覚したのが、ふわふわ岩屋の職員による利用者への暴言。「殴るぞ」「ばかやろう」といった発言が心理的虐待にあたるとして、2022年1月に虐待認定されました。「(息子に)我慢をさせていたので。申し訳なかったです」と、崎本さんは肩を落とします。
◆息子の体重が10キロほど減少
さらに恵は豊橋市から、食事代の過大徴収を指摘され、利用者への返金を指示されていました。ふわふわ岩屋が崎本さんに返金した額は51万6659円。月の利用料金6万6000円のうち食事代は2万5000円ですが、計算すると、実際は1カ月5128円しか使われていませんでした。 「病院の先生から『ごはんって何食?』と聞かれたんです」。当時、息子さんの体重は約1年で10キロほど減少。職員に献立を聞いても、その日に来た職員が日によって違う食材を使用するため細かくは言えない、メニュー表はないとの説明しかありませんでした。
◆元職員が語る、恵の内部事情
恵の元職員で名古屋市内のグループホームに3年ほど勤務した人に、内部事情を取材しました。恵の場合、グループホームが徴収した利用料は一度本社に集められます。その後、本社から食事代などの経費が各グループホームに分配。元職員によりますと、その額は利用者が支払っていた額の3分の1以下だったこともあるといいます。 恵の元職員: 「(本社の人に)『(経費が)足りないので、ください』と電話で何度も言いましたが、出た人は『私が決めたことじゃない』と。だんだん慣れて、当たり前になってしまいました。(利用者からは)たまには刺身が食べたいな、という話も出ていたので、申し訳ない気持ちでした」 そんな恵では、ある徹底した“経営戦略”が取られていました。
◆重度の障害者を優先して受け入れる“経営戦略”
障害がある人は、支援の必要度合に応じて6つの区分に分けられています。その区分が高ければ高いほど、サービス提供事業者に支払われる報酬は高くなります。恵は区分が平均4.7になるよう、重度の障害者を優先して受け入れていたのです。この戦略で、24時間体制のサービス支援型グループホームを中心に全国に展開。わずか5年で12の都県に事業を拡大させました。 恵の元職員: 「恵の場合は判定をせずに、きちんと支援できる人がいないところに、たくさん詰め込んでいきます。とにかく満室。普通の人ならたぶん、投げ出しますよね」
重度の障害者を受け入れるためには、介護浴やエレベーターなど、場合によっては数億円規模の初期投資がかかるほか、スタッフの確保も必要です。その数少ない受け皿となっていたのが恵でした。 厚生労働省によりますと、国内のグループホームの数は年々増加。全国のグループホームに「障害者の受け入れ先が足りているか」聞いたところ、中軽度の障害者については「足りていない」と答えたのは2割程度の一方、重度は約4割の自治体が「足りていない」と回答していました。
◆マックビーヒル就労支援機構のグループホームに密着
障害者を託された民間事業所はどんな思いを抱えているのか。マックビーヒル就労支援機構が運営するグループホーム「まっくびーレジデンス春日井II」で、障害者支援の実態を取材させてもらいました。 就労支援施設での作業を終えて帰宅した、障害支援区分6の利用者。「帰宅後、すぐに入浴する」という日課が守れないと、パニックを起こすことがあるのです。別の作業をしていた男性スタッフが、すぐさま入浴介助に当たりました。
こうした介助のほか、利用者の体調や行動に変化があれば、その都度記録しておかなければなりません。介助以外の雑務にも時間を取られます。<button class="sc-1gjvus9-0 cZwVg" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="26"></button><button class="sc-1gjvus9-0 cZwVg" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="26"></button>
まっくびーレジデンス春日井II 男性棟の勤務時間(テレビ愛知)
「皆さん、寝ています」と職員がデスクについたのは午前3時。この後、朝に向けて事務作業をします。春日井市のグループホームには職員が集まっていますが、ほかの地域では人手不足なのが現状です。
マックビーヒル就労支援機構 代表取締役 小山雅也さん:
「区分が高くなってくると、それなりに人の配置も必要です。区分1や2の方なら(職員)1人でやれるので、時給が仮に3000円なら3000円で済む。ただ区分6になると2人でやるので、人件費が倍になります。現場で実際に働いているスタッフの方の意見は分かりませんが、経営面だけをみると、区分が高いほうが楽になりますね」
◆「“認識違い”だから」謝意が感じられない恵の担当者
「『恵』さんに居たいわけじゃなくて、今ある生活を崩したくないだけ」と崎本さん
「恵では『誰でも受け入れます』というスタンスでした」と崎本さん。恵本社の担当者に説明を求めたこともありましたが、謝意はなかったといいます。
崎本さん:
「お騒がせして申し訳なかった、とは謝りましたけど。“認識違い”だから、別に悪いことをしていなかった、という感じでしたね。本当に腹立たしい。『恵』さんに居たいわけじゃなくて、今ある生活を崩したくないだけなんです」
障害福祉事業からの事実上の撤退が決まった恵。息子の生活を支えるためには「恵」に頼るしか選択肢がないという母親は、今も「沈黙」を守り続けています。
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元稿:テレビ愛知 愛知のニュース 社会 【事件・疑惑・福祉事業会社「恵」が運営する障害者向けグループホームで、食材費の過大徴収やサービス等報酬の不正請求などが明らかになった事件】 2024年11月06日 13:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。