【政局】:「世襲の、世襲による、世襲のための政治と“美しい国”日本」…二世でないと政治家になれないこの国の10年後がヤバすぎる
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【政局】:「世襲の、世襲による、世襲のための政治と“美しい国”日本」…二世でないと政治家になれないこの国の10年後がヤバすぎる
生まれ持った地位や財産に関係なく、幸せになれる世の中を作ろう―そんな先人たちの思いを、国のトップたる岸田総理が嘲笑う。いつから日本は、親の力で人生が決まる国になってしまったのか。
■前編記事『【総理の息子】岸田翔太郎さんも【岸信夫の息子】岸信千世さんも皆「優先パス」で政治中枢に…なぜ日本は「世襲の政治家」ばかりなのか?』より続く。
◆麻生・二階「権力の相続」
初当選から総理までの道をマラソンにたとえれば、世襲議員は20km地点から車に乗ってスタートできるようなもので、非世襲の議員とは圧倒的な格差がある。まして、父親や伯父が総理ともなれば、周囲が下に置くようなことは決してない。岸田翔太郎氏や岸信千世氏も、小泉進次郎氏と同様、たとえ能力に多少の難があろうとも、若くして自民党の中枢に食い込んでいくことが約束されているのだ。自民党のベテランスタッフが言う。
「他にも、これからの出世頭には世襲組が目立ちます。小泉純一郎政権で農水大臣や幹事長を務めた武部勤さんの息子・新さんは、他に有力議員が少ない農政族で、かつベテラン議員が少ない北海道が地元のため、近いうちに農水大臣や道連会長に就くことが確実。二代続けて『小泉総理・武部幹事長コンビ』になるかもしれません。
元官房長官の塩崎恭久さんの長男・彰久さんはおととしの衆院選で初当選しましたが、政策立案能力と人柄が図抜けていると早くも評判で『嫌われていた親父よりも出世するだろう』と言われています。参議院でも元官房長官の青木幹雄さんの長男・一彦さんが、悪目立ちせず足場を固めて『二代目・参院のドン』の道を確実にしつつある」
現時点で「次期総理候補」と言われる大物も、林外務大臣や河野デジタル大臣など先にも挙げた世襲組ばかりで、叩き上げは茂木敏充幹事長くらいだ。一方、80代に入って引退を控えた麻生氏や二階俊博・自民党元幹事長ら長老も、息子たちへの地盤継承に動き始めている。次世代が頭角を現す2030年前後には、総理や閣僚、幹事長クラスをすべて世襲議員が占めてもおかしくない。
◆世襲議員に国民の気持ちはわからない
警察官僚から政界へ移り、地盤もコネもカネも持たない境遇から叩き上げた亀井静香・自民党元政調会長が言う。
「世襲は絶対にダメとは言わない。親の背中を見て政治のイロハを学ぶこともあるだろうからね。でもそれだけでは、国民の気持ちはわからないだろうな。ボンボンで不良の麻生はそのいい例だ。
俺は自分の息子には『絶対に政治家になるな』と言い聞かせてきた。岸田は息子を鍛えようと思って官邸に入れたのかもしれないが、これから親父の力を頼んで議員バッジをつけるようなことになれば、結局は弱い政治家になるだけだ。10年後の日本政治はもっと退化してしまうだろうな」
時代が下り、人々の意識が変わるにつれ、世襲政治家は減っていくはずだ―かつて日本人はそう素朴に考えていた。しかし、現実はその逆になっている。背景には、日本政界のあまりにも強い「構造」がある。元共同通信政治部記者・総合選挙センター次長の稲井田茂氏が指摘する。
「近年むしろ世襲議員が増えているのは、つまるところ『そのほうが選挙で勝てるから』という理由に尽きるでしょう。自民党は'09年の政権交代選挙で大敗しましたが、その次の'12年総選挙で政権奪取の原動力となったのが、カネも地盤もある世襲議員たちでした。
新人がゼロから人的ネットワークを作り、資金を集め、組織・団体を説得するのは並大抵のことではないし、選挙運動で『種火』となってくれる側近も、世襲組のほうが出て来やすい。有権者は親と同じ苗字、似た顔の候補者の名前を思わず書いてしまう。結果として、世襲議員しか勝ち上がれないシステムがますます強固になるのです」
◆悪循環が止まらない
'14年に『21世紀の資本』がベストセラーになったフランスの経済学者トマ・ピケティは、「自由な経済活動ができる資本主義社会では、放っておくと格差が広がり続ける」という理論を示して世界に衝撃を与えた。政治の分野でも、経済と全く同じことが起きている。「自由放任」にすると世襲議員だらけになり、一般人が政治に参加するハードルが上がる。その結果、さらに世襲が増えていく―そんな悪循環がすでに始まっているのだ。
そうした世の中では、仮に政界に進んでいれば有為な政治家になっていたかもしれない人材も、見出されることなく消えてしまう。打破するには、票を投じる有権者も考え方を変える必要があるが、容易ではない。社会学者で「格差の再生産」問題に詳しい、筑波大学教授の土井隆義氏が言う。
特にこれからの社会を担う40代以下の世代では、平成以降に経済が低迷して格差も広がったために『努力しても報われない』『生まれ持った家柄や資産で人生は決まる』という意識が広がっています。人は過酷な自由競争にさらされると、『生まれ』のように揺るがないものにかえって憧れを抱くという面もあります。
そのような社会では、世襲議員に安心感を抱く有権者が増えていく。そして政治家の側もむしろ『世襲をアピールしたほうが支持される』と考えるのが主流になっていくかもしれない。望ましいことだとは思えません」
日本はもう、総理大臣が子息に堂々と地位や権力を授けて憚らない国になってしまった。このまま「バカボン」に舵取りを任せ続ければ、日本丸の沈没は確実である。
■「週刊現代」2023年4月1・8日号より
元稿:現代ビジネス 主要ニュース 政治 【政局・世襲議員・担当:週刊現代編集部】 2023年03月30日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。