【HUNTER・04.01】:【鹿児島県警の闇】:見逃がし?廃棄?|捜査記録なき警官犯罪
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【HUNTER・04.01】:【鹿児島県警の闇】:見逃がし?廃棄?|捜査記録なき警官犯罪
鹿児島県警察が過去の不祥事の捜査記録を3年越しで一部開示した問題で、開示対象にならなかった事案の中にも法令違反が疑われるケースが複数あることがわかった。職員の処分の記録からは犯罪疑いが読み取れるにもかかわらず、事件捜査に伴って作成・保存される筈の『事件指揮簿』などが存在していない、あるいは適切に保存されていないことになり、捜査のあり方もしくは文
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先行する本サイト記事で報告した通り、鹿児島県警では過去5年間で(実際には2019年1月から23年1月までの4年間強)職員の処分などがあった不祥事が124件に上ることがわかっている。改めて再録しておくと、以下の通りだ。
2019年……18件(免職0、停職0、減給0、戒告0)(訓戒7、注意11)
2020年……35件(免職1、停職0、減給1、戒告1)(訓戒4、注意28)
2021年……30件(免職1、停職0、減給0、戒告0)(訓戒4、注意25)
2022年……38件(免職1、停職0、減給0、戒告0)(訓戒10、注意27)
2023年(1月のみ)……3件(免職0、停職0、減給0、戒告0)(訓戒2、注意1)
このうち事件捜査の対象となった事案が何件あったのかを確認するため、筆者がそれらの捜査に伴って作成された公文書の開示を求めたのが、一昨年3月。当初これに「存否応答拒否」回答をもって応じた県警は、筆者の不服申し立てを経て第三者機関から同決定の誤りを指摘された結果、ほぼ丸2年が過ぎた本年3月に対象文書を一部開示することとなった。
開示文書によると、上の124件のうち捜査の対象となったのは13件。そこには児童買春や業務上過失致死傷、暴行・傷害といった深刻な事案が含まれており、それらの記録の多くが“海苔弁当”状態で開示された。開示までの一連の経緯は、先行記事で伝えた通りだ。
県警の情報開示のあり方には大いに疑問なしとしないところだが、ここでもう1つの問題に眼を向けておく必要がある。即ち、今回の文書開示の対象になった13件を除く101件の中にも法令違反は含まれていなかったのか、という点だ。
文書が示された13件のうち、最初の年にあたる2019年に記録されたのは10月15日付で所属長訓戒となった事案1件のみ。だが同年の台帳には、ほかにも複数の法令違反疑いが記録されていた。台帳の言い回しをそのまま引用して採録すると、以下の如し。
・2月15日付「所属長注意」…職員は、平成30年12月3日、交通事故を起こしたものである(巡査)
・2月15日付「所属長注意」…職員は、平成30年12月11日、交通違反をしたものである(巡査部長)
・3月1日付「所属長注意」…職員は、平成31年1月18日、貸与された拳銃に関し、適切な管理を怠ったものである(巡査長)
・7月12日付「所属長注意」…職員は、平成31年2月14日、交通事故をしたものである(警部補)
・8月9日付「所属長注意」…職員は、平成31年1月3日から同年1月6日までの間、外部記録媒体等に関し、不適切な取扱いをしたものである(警部補)
・11月22日付「所属長注意」…職員は、令和元年8月26日、捜査書類に関し、適切な管理を怠ったものである(巡査長)
・12月6日付「本部長訓戒」…職員は、平成30年10月6日、同僚職員に対し、セクシュアル・ハラスメントをしたものである(巡査部長)
・12月6日付「本部長注意」…職員は、平成31年4月頃から令和元年7月頃までの間、部下職員に対し、セクシュアル・ハラスメントをしたものである(警部補)
はっきり「交通事故」と記されている事案だけでも3件あり、しかしながら県警は警察官による事故に伴って作成される筈の『重要特異交通事故発生報告書』などを開示の対象としなかった。

残る5件については法令違反の罪名こそ明記されていないものの、たとえば3月1日付の拳銃不適切管理事案は銃刀法違反や火薬取締法違反などにあたる行為だった可能性があるほか、8月9日と11月22日に記録された書類等の不適切管理については公文書の毀棄や改竄などがあった可能性を窺わせる。
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12月6日にはセクハラが2件記録されているが、これらが不同意わいせつや県迷惑行為防止条例違反などにあたる可能性はなかったのか。とりわけ警部補が部下職員に加害していた事案では短くとも4カ月間にわたってセクハラが繰り返されていた事実が読み取れるが、これが捜査の対象となっていないのはどういうわけなのか。
続く2020年は、一度に3人が処分された虚偽有印公文書作成・同行使・公用文書毀棄事件に始まり、業務上過失致死傷や児童買春など計7件で事件捜査の記録が一部開示された。本稿冒頭に示した一覧の通り、同年の懲戒処分と監督上の措置は合わせて35件あったことがわかっているが、では残る28件の中に法令違反はなかったのか。
鹿児島県警は同年2月21日、交通事故を理由に2人の職員を所属長注意処分としていた。うち1件は同年1月14日に事故を起こした巡査への措置で、こちらは今回の筆者の開示請求により『交通事故事件簿』2枚が開示されている。ところがもう1件、具体的には前年8月30日に別の巡査長が起こした事故の記録は開示対象とならなかった。また9月14日にも交通違反で本部長注意となった警部補がいるが、こちらのケースも違反の処理の記録は開示されていない。さらに11月下旬にはこんな処分があった。
・11月27日付「本部長注意」…職員は、令和2年7月11日、交通事故を起こし、警察官への報告を怠るなどしたものである(巡査)
事故を起こしただけでなく、その事実を報告しなかった、つまり隠していたというケースだ。これが事件として捜査されない理由は、いったい何なのか。
先述、2019年の処分・措置にみられた捜査書類や拳銃の不適切管理事案は20年も複数件確認されており、しかしながらそれらもことごとく捜査の対象となっていなかった。加えて同年は、下のような不祥事も記録されている。
・11月14日付「所属長注意」…職員は、令和2年6月5日、当時未成年でありながら飲酒するなどしたものである。
20歳未満の飲酒は、いわゆる未成年飲酒禁止法で禁じられている。とりわけ飲酒した本人よりもそれを制止しなかった周囲の大人の責任が大きく、科料の罰則もあるほどだ。台帳からは、上の処分と同じ日に別の警察官が所属長注意となったことが確認でき、その措置の理由は「飲酒後に路上で寝込むなどした」というものだった。仮に、その警官が先の未成年の同僚と一緒にアルコールを摂取していたのだとしたら、その人は本来であれば科料の対象となる筈なのだ。

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2021年の記録に移ろう。同年の鹿児島県警では計30件の処分・措置があり、うち3件で捜査記録が開示された。当事者の警察官らはそれぞれ暴行・傷害、住居侵入等、及び不法投棄の容疑をかけられている。ならば、残る27件はどうだったか。
同年もやはり、拳銃の不適切管理が複数件記録され、実包の不適切管理も含めると4件に上っていることがわかる。私見ながら、鹿児島は銃の管理が杜撰な印象が否めない。筆者の地元、北海道でも類似の事案はしばしば記録されるが、組織の規模を考えると鹿児島県警の拳銃がらみ事案はやはり数が多いと言わざるを得ない。

なお同年もセクハラと交通違反が1件ずつ記録されたが、もはや言わずもがな、どちらも捜査などの記録は開示されなかった。それら以外で同じく事件捜査の対象にならなかったとみられる事案の中から、眼についた1件を下に引いておく。
・6月25日付「本部長注意」…職員は、令和2年10月20日から翌21日にかけて、失火させたものである(巡査長)

失火、即ち過失で火事を起こす行為は、一定の要件を満たせば法律違反となり得る。しかしながらこの件の捜査記録は確認できず、事案の具体的な経緯はほぼ藪の中だ。
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翌2022年は、処分・措置が38件。うち捜査の記録を確認できるのは3月24日に免職となった巡査の業務上横領、及び同日付で本部長注意となった巡査部長の勤務懈怠の、計2件。前者は文字通りの犯罪だが、後者の勤務懈怠が何の法令違反にあたるのかは明かされていない。とはいえ、捜査を記録した公文書が開示されたこと自体は辛うじて評価できる。問題はやはり、残る36件の中に犯罪疑いが含まれていなかったのかどうかだ。
結論を言うと、21年以前に違わずその年も少なからず怪しいケースがあった。むしろ前年までよりも数としては有意に多かった。読者の実感を助けるため、下に列挙しておく。
・2月14日付「本部長訓戒」…職員は、令和3年12月22日、拳銃を不正に使用したものである(巡査)
・2月14日付「本部長訓戒」…職員は、令和3年12月22日、拳銃を不正に使用したものである(巡査)
・2月14日付「本部長訓戒」…職員は、令和3年12月22日、拳銃を不正に使用したものである(巡査)
・3月4日付「所属長訓戒」…職員は、令和3年8月31日から10月13日までの間、勤務管理に際して不適切な処理をしたものである(警視)
・7月15日付「本部長訓戒」…職員は、令和3年11月24日から翌25日にかけて、拳銃に関し、適正な管理を怠ったものである(巡査部長)
・8月5日付「所属長訓戒」…職員は、令和元年5月6日から令和3年8月30日までの間、部下職員等に対し、セクシュアル・ハラスメントをしたものである(警部補)
・8月5日付「所属長訓戒」…職員は、平成28年夏頃から、令和2年秋頃までの間、同僚に嫌がらせ等をしたものである(巡査部長)
・8月5日付「本部長注意」…職員は、令和元年9月頃から、令和3年2月頃までの間、同僚に嫌がらせ等をしたものである(巡査長)
・8月26日付「本部長注意」…職員は、令和4年7月8日、交通違反をしたものである(巡査部長)
・8月26日付「本部長注意」…職員は、令和4年7月17日、交通違反をしたものである(警部補)
・9月9日付「本部長注意」…職員は、令和3年5月7日、部下職員に対し、セクシュアル・ハラスメントをしたものである(警部補)
・9月9日付「本部長注意」…職員は、令和4年4月26日、部下職員に対し、セクシュアル・ハラスメントをしたものである(警部補)
・9月14日付「本部長訓戒」…職員は、令和3年11月8日頃から同月26日頃までの間、部下職員に対し、セクシュアル・ハラスメントをしたものである(巡査部長)
・10月7日付「所属長訓戒」…職員は、令和4年3月30日から同年5月23日にかけて、拳銃に関し、適正な管理を怠ったものである(警部補)
・10月7日付「本部長注意」…職員は、令和4年4月22日から同月25日にかけて、拳銃に関し、適正な管理を怠ったものである(巡査長)
・10月7日付「所属長注意」…職員は、令和4年8月14日、未成年でありながら飲酒するなどしたものである(巡査)
拳銃がらみの事案だけで6件。うち半数を占める3件は「不正に使用」なる穏やかならぬケースで、ここまで来ると鹿児島の警察官にはとても拳銃を携帯させておけない趣きだが、これらのいずれも法令違反に問われた形跡がない。
次いで多いのがセクハラの4件。うち1件は2年間以上にわたって部下が被害に遭った悪質な事案だが、それを含めて4件いずれも不同意わいせつや県条例違反などで捜査されていない。交通違反2件の処理の記録が存在しないのも、例年と同様だ。
開示対象の最後の年となる2023年1月は、捜査記録が1件も開示されなかった。だが同月に記録された3件の訓戒・注意事案のうち2件は、これまた交通違反。県警がそれらをどう処理したのかは、もはや知る由もない。
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3年越しの開示請求でわかったのは、先行記事で伝えたような県警の情報開示のあり方ばかりではなかった。身内の不祥事を把握しつつ、何を捜査して何を捜査しなかったか、各件への対応が浮き彫りとなったのはほかでもない、処分・措置の台帳を入手した上で捜査記録との突き合わせを試みる「2段階の開示請求」を行なったことによる。こうした手続きを経ない限り明るみに出ない事実があまたあるということは、つまるところ日常的な隠蔽が大きく疑われると言ってよい。
さらにもう1つ、本サイトが一昨年11月に報告し(既報)、半年ほど遅れて昨年6月には報道大手も大きく報じることとなった鹿児島県警『刑事企画課だより』の不適切なはたらきかけ、即ち「事件記録は速やかに廃棄しましょう」なる文言で奨励されていた公文書破棄の慣行が現場で忠実に行なわれていた可能性もある。棄てられた記録は存在せず、開示請求の対象になりようもないというわけだ。

県警は多くの事件を適切に捜査しなかったのか、それとも捜査の記録を片っ端から破棄したのか――。いずれであってもおよそ適切とは言い難いのは、改めて指摘するまでもあるまい。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |
元稿:HUNTER 主要ニュース 社会 【社会ニュース・事件・犯罪・鹿児島県警が3年越しで一部開示した、不祥事の捜査記録の実態】 2025年04月01日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。