【HUNTER・03.27】:鹿児島県警・不祥事捜査記録一部開示(下)|「暴行・傷害」に大甘訓戒
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【HUNTER・03.27】:鹿児島県警・不祥事捜査記録一部開示(下)|「暴行・傷害」に大甘訓戒
「存否応答拒否」で始まった鹿児島県警による警官不祥事捜査記録の隠ぺい。3年かかってようやく開示された文書は、大半が“のり弁”の状態だった。警察一家による犯罪行為の実態を隠し、組織防衛に躍起となる鹿児島県警―ー。前稿に続いて開示文書の検証を試みる。
2019年1月から23年1月までの4年強で処分などがあった不祥事は、県警の処分台帳によれば以下の124件。
2019年……18件(免職0、停職0、減給0、戒告0)(訓戒7、注意11)
2020年……35件(免職1、停職0、減給1、戒告1)(訓戒4、注意28)
2021年……30件(免職1、停職0、減給0、戒告0)(訓戒4、注意25)
2022年……38件(免職1、停職0、減給0、戒告0)(訓戒10、注意27)
2023年(1月のみ)……3件(免職0、停職0、減給0、戒告0)(訓戒2、注意1)
これらのうち以下の13件が捜査対象となっていた(※ 各処分事由は『台帳』記載の文言を採録)。
(1)2019年10月15日付「本部長訓戒」…職員は、平成30年8月26日、知人に対し、不適切な行為をしたものである(巡査)
(2)2020年1月10日付「所属長訓戒」…職員は、令和元年6月28日、不適切な書類作成をしたものである(警部)
(3)2020年1月10日付「所属長訓戒」…職員は、令和元年6月28日、不適切な書類作成をするなどしたものである(警部補)
(4)2020年1月10日付「所属長注意」…職員は、令和元年6月28日、不適切な書類作成をするなどしたものである(巡査長)
(5)2020年1月10日付「所属長注意」…職員は、令和元年11月27日、交通事故を起こしたものである(巡査長)
(6)2020年1月27日付「戒告」…職員は、令和30年2月21日、交通整理を行うにあたり、必要な注意義務を怠った過失により、死傷者を伴う交通事故を惹起させたものである(巡査部長)
(7)2020年2月21日付「所属長注意」…職員は、令和2年1月14日、交通事故を起こしたものである(巡査)
(8)2020年3月19日付「免職」…職員は、令和元年12月14日、児童買春をしたものである(巡査部長)
(9)2021年7月30日付「所属長訓戒」…職員は、令和3年4月29日及び同年5月6日に、鹿児島市内において、知人に対し、腕を掴むなどして傷害を負わせたものである(巡査)
(10)2021年8月6日付「免職」…職員は、令和元年6月9日から令和3年4月2日までの間、住居侵入等の法令違反及び情報セキュリティに関する訓令違反等の各種規律違反をしたものである(巡査部長)
(11)2021年10月29日付「本部長注意」…職員は、令和3年10月7日、みだりに家庭用ゴミ1袋を捨て、もって、警察の信用を失墜したものである(巡査)
(12)2022年3月24日付「免職」…職員は、令和3年12月3日、業務上横領等をしたものである(巡査長)
(13)2022年3月24日付「本部長注意」…職員は、担当業務を懈怠する等したものである(巡査部長)
■「暴行・傷害」がただの訓戒
やはり“海苔”が多い文書が、しかも1枚だけ開示されたのが(9)の暴行傷害事案。これに到っては「令和3年5月6日」という発生日時のほかは具体的な事実関係が一切開示されず、当時の捜査が適切だったのかどうかを第三者がまったく検証できない形になっている。
文書開示決定の際、鹿児島県警はこの事案の「区分」欄に「暴行・傷害」と明記していた。本サイトで何度も参照している警察庁の『懲戒処分の指針』では、それらの法令違反へのペナルティをこう定めている。
・他人に対して傷害を与えること……停職、減給又は戒告
・他人に対して暴行を加えること……減給又は戒告
どちらか一方だけでも、最低でも「戒告」。暴行と傷害の両罪が併記されている今回のケースは、いくら軽くとも「減給」程度の懲戒処分とすべきところだ。だが実際の処分は、懲戒ですらない監督上の措置の「所属長訓戒」に留まっていた。なぜそうなったのかが腑に落ちるような記述が開示文書の中にまったく含まれていないことは、もはや言うまでもない。
■年を経て広がる黒塗り部分
続く(10)の住居侵入等事案では、『本部長指揮事件指揮簿』など計15枚の文書が開示された。これまで報告してきたケースに負けず劣らずの“海苔弁当”から事件の概要を紐解くと、次のようになる。
《被疑者は、■■■令和3年4月2日頃までの間、■■■もって、■■■したものである》
2枚目以降は、先の(8)の指揮簿をそのままコピーしたような真っ黒の文面が続く。つまるところ、これ以上の事実関係はわからない。ただ、今回の15枚の開示を求める材料となった当事者の警察官の『処分台帳』には、事案の概要がこう記されていた。
《職員は、令和元年6月9日から令和3年4月2日までの間、住居侵入等の法令違反及び情報セキュリティに関する訓令違反等の各種規律違反をしたものである》
もとの文書のほうが詳しい。即ち、この後の審査請求を経て3年越しで新たな文書開示が実現した結果、当初よりも“海苔”の面積が広がったということだ。文字通りのブラックジョークにもならない展開。これを敷衍すると、もともと隠蔽体質が疑われる鹿児島県警は、のみならず年を追うごとに情報開示に消極的になり続けている、ということになる。
2021年10月に「本部長注意」となった(11)の事案は、家庭ごみを不適切に棄てた巡査の行為が法令違反に問われたもの。先述の住居侵入や児童買春などと同じく本部長指揮事件として捜査され、今回はその『指揮簿』など計9枚の文書が開示された。これもまた当初の台帳から情報開示が後退し、全9枚のほとんどが墨塗り処理された状態。何のために2段階の開示請求を試み、あまつさえ2年間に及ぶ不服申し立てに臨んだのか、時間と手間の浪費が虚しくなってくるほどだ。
■報道各社への文書を黒塗りの非常識
今回最多、26枚の公文書が開示されたのが(12)の業務上横領事案。2022年で唯一、懲戒処分に到ったケースで、当事者の巡査長は同年3月24日付で免職となった。開示された『本部長指揮事件指揮簿』は墨塗り部分が少なく、巡査長の所属が「鹿児島中央警察署」と明示されているほか、その人が遺失物の財布を横領した経緯が詳しく記されている。これは(6)の業務上過失致死傷事案と同じく、発生時点で広く報道されたためとみられる。実際、この事案に限っては捜査の記録に加えて「報道発表の記録」も開示されたのだ。それ自体は情報公開の精神に適っているとして、首を傾げざるを得ないのはその『報道連絡簿』が一部不開示処理されたことだ(*下の画像)。
鹿児島県警が開示した連絡簿では、報道発表の日時と逮捕日時の一部、逮捕場所、及び容疑者と被害者の情報の一部にべったり“海苔”が貼られていた。“面妖な”、と言わざるを得ない。報道機関への情報提供は、とりもなおさずその報道機関を通じて読者・視聴者へ、即ち一般市民へ広く情報を届けることにある。にもかかわらず、最終的な情報の受け手である一般市民への情報開示で一部を黒く塗り潰すとはどういうことか。一般には開示されない個人情報や公安情報を日常的に特定の営利企業(報道各社)へ提供する行為は、場合によっては組織的な情報漏洩となり得るのではないか――。そういった疑問を招く対応だということを県警自身が自覚しているかどうかは定かでない。
■過剰な実態隠し
最後の(13)の事案では、とどめのように事実上ほぼ不開示状態の文書が3枚開示された。『本部長指揮事件指揮簿』が伝える事案の概要は、こうだ。
《被疑者は、■■■したものである》
いったい何をしたのか、さっぱりわからない。もとの台帳によると、当事者は上の横領事案と同じ2022年3月24日付で本部長注意となった巡査部長。処分理由は、以下の如し。
《職員は、担当業務を懈怠する等したものである》
勤務懈怠がなぜ事件として捜査されることになったのか、開示文書からはおよそ窺い知れない。あたかも昨春以降の報道で顕わになった県警の隠蔽体質を象徴するかのような対応だ。請求人たる筆者がこれに納得しているかどうかは、もはや説明を要しまい。
一昨年以降、繰り返し報告してきた通り、鹿児島県警は不祥事の事件捜査の記録の開示請求を「存否応答拒否」なる決定で退け、これを不服とした審査請求でも個人情報と公安情報の保護を盾に同決定を正当化し続けた。第三者機関の答申でその姿勢が否定され、公安委員会の裁決でようやく開示のやり直しに踏み切ったが、もとの請求からほぼ丸2年を経て開示された情報は、以上のような程度に留まった――。
結びにつけ加えておくと、今回の決定になお不服がある場合、請求人は行政不服審査法に基づき再び審査請求を申し立てることができる決まりになっている(*下の画像参照)。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |
元稿:HUNTER 主要ニュース 社会 【社会ニュース・事件・犯罪・鹿児島県警が3年越しで一部開示した、不祥事の捜査記録の実態】 2025年03月27日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。