たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

『アガサ・クリスティー自伝』(下)-「第十一部秋-Ⅲ」より

2023年03月02日 13時45分31秒 | 本あれこれ
『アガサ・クリスティー自伝』(下)-「第二次大戦Ⅱ」より
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/6f501956f49315769d98cd1e1032bd52




「もう書くことができなくなったらどんなに悲しいことだろうか、といってもわたしは決して欲張っているのではないけれど。何といっても、75の年で書くことをつづけていられるのはまことに幸せなことである。その年ごろになると、人は満足してしまって、引退を覚悟するものである。実際のところ、わたしは今年引退しようかなという考えをあれこれひねくりまわしていたけれど、わたしの最近の本が、それより前のどの本よりも売れたという事実に魅せられて、今書くのをやめるのは愚かなことだと思われてきた。どうやら80歳をわたしの最終期限にした方がよいかもしれない?

 情緒や対人関係の人生が終ってやって来る二度目の開花期をわたしは大いに楽しんだ・・・そして、50歳にして突然目の前に、考えなくてはならないこと、研究し、または読むべきものに満ちた全く新しい世界が開けたのに気づく。絵画展に、コンサートに、そしてオペラに行くのが、20歳か25歳の時に行ったと同じ熱心さでいけることに気づく。しばらくの間、自分の個人生活がエネルギーのすべてを吸収してしまうが、今や再び自分のまわりを見まわしてみれるようになる。あなたはレジャーが楽しめるし、いろいろなことが楽しめる。まだ十分に若くて外国各地へいって楽しむこともできる、が、昔のように生活のつらさを強く辛抱することはできない。いわば思いつきや考えの新しい活気が身体の中に湧き上がってくるかのようにである。それと共に、もちろん増していく老いの罰点が加わっていくーあなたの身体のどこかがほとんど常に痛むという事実、背中が神経痛で痛むとか、冬中首にリューマチが出て、頭を動かすのが大苦痛になるとか、ひざに関節炎の悩みがあって長いこと立っていられなかったり、坂道を下りられなかったりーこんなことがみなあなたに現れてきて、それに耐えなくてはならない。だが、天から与えられたものに対する感謝の念は以前にあったよりもはるかにこの時期に強く、また極めて大きくなるものとわたしは思う。それには夢の現実性と強烈さえもある・・・そして、わたしは今もって夢想することをこよなく楽しんでいる。」


(『アガサ・クリスティー自伝(下)』乾信一郎訳 早川書房 1982年8月10日5刷、417-418頁)

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