1996年雪組初演から20周年を記念した宝塚OGと現役生による『エリザベート・ガラコンサート』、12時30分~を文化村オーチャードホールで楽しんできました。久しぶりの文化村、オーチャードホールは10数年ぶりかな。三階席だったので階段でのぼるのが大変。せまいし、足腰の悪い方にはこたえるつくりでした。どこの小ホールに行ってもなかなかむずかしいなあと思います。
雪組初演メンバーがそろったモニュメントバージョン。舞台は前半が20年前を振り返るトーク。後半が抜粋した曲を物語の進行にそって歌っていくというものでした。20年前にタイムスリップしたような、同時に20年という歳月を感じる不思議な時間でした。後半に歌になると、舞台装置とコスチュームの力を借りずとも、みなさん役柄のスィッチが入り情感豊かに歌われるので、まるで舞台をみているようでした。東宝版も含めて、日本のエリザベートの歴史はここから始まったんだなあと思うと感慨深かったです。歳を重ねてみなさん、色々な経験をされ人生の時間が深まった分だけ、さらに深い歌唱になっていたと思います。
宝塚なので主役は男役。退団する一路さんのための舞台でしたが、一路さんの歌唱をもってしてもあまりにも歌いこなすのが難しい曲ばかりで、てんぱってしまい退団という感慨にひたる余裕は全くなかったそうです。はじめてのことだらけ。正式な台本ができあがってくるまでは、ドイツ語で歌詞が書かれた譜面に日本語の歌詞が書かれた台本と向き合い、歌詞も含めて稽古場でつくあげていく毎日。二幕の、ルキーニがエリザベートを刺す前の、トートとフランツが最終答弁を行う場面をつくりあげるのに一週間かかったそうです。ストレスのあまり、一路さんと高嶺さんが台本を投げつけたら、何十枚とある譜面がまざってどっちがどっちだかわからなくなってしまい、あとで大変だったそうです。その後、わからなくならないように譜面に番号を記入するようにしたとか。稽古場のあちこちで、それそれがキーボードをたたいて自分の歌を練習するようになったのはこの時から。自分だけやっていないと他の人の音がまざりあってストレスになるのでやらずにはいられなかったそうです。驚いたことに代役も決まっていて、代役でとおしの稽古までやったというのだからすごいとしか言いようがありません。
フルコスチュームではなかったですがマントを翻して歌い上げる黒い衣装の一路さんは20年前と変わることなくロック歌手のようでかっこよかったです。男役一路真輝。「愛と死の輪舞」「最後のダンス」「闇が広がる」。何十回と聴いているのに、どれだけ聴いても飽きることのない、すっかり体にしみこんでいる楽曲を歌い上げる一路さんの声がホールに響き渡っていました。不思議でした。東宝版の『エリザベート』初演から数年間、シシィを演じた一路さんがトートとして帰ってきて、さらに深味のある歌声で聴かせてくれてなんだかふるえました。なんでしょうね、一路さんの歌声は上手だという域を超えてトートとして響いてくる歌声。こんなに細い体で雪組をささえていたんですね。
フランツの高嶺ふぶきさんも歳をかさねてさらに深い歌声でした。フランツは楽曲も辛抱のいるおさえたものばかりで発散できない、しかも少しずつ登場。衣装も装置もなく歌だけで聴いていて、これは難しい役だなあとあらためて思いました。衣装替えも多くて一番大変だったが二幕の浮気をしたあとから、シシィに戻っておいでと歌うまでのわずか30秒の早変わり。30代から突然50代になり、ズボンの下にズボンを重ねて引き抜き、ひげをつけたそうな。このやり方は今も踏襲されているそうです。シシィと出会った時の「嵐もこわくない」、ルドルフが亡くなった後のシシィへの思いを切々とうたう「夜のボート」。同じメロディラインの二つの曲。この時の高嶺さんの歌唱がほんとに好きで、20年前も今も変わりません。日本で最初のフランツ。シシィへの変わることのない愛を歌う姿に、切なくって涙しました。
香寿たつきさんのルドルフをはじめて生で拝見。一路さんとの『闇が広がる』。聴かせてくれました。魅せてくれました。ほんとに不思議です。東宝版でゾフィを演じきった香寿さんが衣装の力をほとんど借りることなく、ルドルフになりきっていました。何の違和感もなくルドルフでした。40代後半になる香寿さんが、長い髪を後ろに束ねて衣装は男役じゃないのに、歌で青年ルドルフの心情を見事に演じるのはさすがとしかいいようがありません。ほんとすごい。体にしみこんでいるんですね。初演時、ルドルフはエピローグで登場したあとは、二幕まで全く出番がなかったので(今はミルクの場面などに出ているそうです)、スタンバイ中はずっとトートと歌う「闇が広がる」へと気持ちを集中させ、あとは救護班をつとめていたんだそうです。舞台上があつくて具合が悪くなる人がいるとたーたんがかついで救護室に運んでいたそうで、はじめてきくエピソードでした。宝塚100周年記念公演のコンサートの時、男役はこれで最後かなって話されていたと思いますが、香寿さんの男役、これからもありそうな気がします。
花ちゃんのシシィは、東宝版での舞台を堪能したあとでみると、宝塚なので東宝版ほど自分を主張していないし、男役を立てる役割に徹しているのかなと感じました。少女時代の可愛らしい鈴のなるような声から、晩年の「夜のボート」までの声の変化による演じ分け。「わたしだけ」には東宝版の地声よりもキーが高かったかな。最後が東宝版といちばん違うところで、「ふたりきりで泳いで渡ろう、深い愛の湖を」とトートを手をつないで昇天していく宝塚は恋愛物語。一路さんとのツーショットがなんだか懐かしすぎてしまってことばがみつかりません。20年前の花ちゃん、声が細くって声量もあまりなかったのがほんとに歌が上手くなりました。すごく努力されてきたんだろうなと思います。
ゾフィの朱未知留さん、マックスお父様の古代みず希さんは普段は舞台に立つことなく一般市民として暮らしているので20年ぶりの舞台。それでも役のスィッチが入ると20年前が昨日のことみたいでした。若かった朱さんがよくゾフィという役をこなされました。今でも忘れません。
轟悠さんのルキーニ。日本の『エリザベート』のルキーニを最初につくりあげたのはまさにこの方。『エリザベート』轟さんルキーニの登場で幕をあけました。轟さんの声で、「裁判長どの、おれはとっくに死んだんだ、天国へでも地獄へでもやってくれ」っていうと客席はいっきに黄泉の国へと引き込まれました。ルキーニは舞台を牽引していく、とてつもないエネルギーのいる役どころ。女性が演じた男性だからこその男くささがあるルキーニでした。ウィーンの方が初演舞台の映像をみたとき一人だけ本物の男性がいるとびっくりされたそうな。キッチュの場面で手拍子が起こる日本の『エリザベート』は轟さんが始まり。
専科からはルドヴィカ母さんの京美沙さん、マダム・ヴォルフの美穂圭子さん、グリュンネ伯爵の飛鳥裕さん、黒天使の五峰亜紀さん。黒天使、東宝版ではトートダンサーはトートの一部なのでダンサー10名を代表して毎回一路さんにどうでしたか?とききにいっていたそうです。一路さんは記憶にないみたいでしたが、それだけ大変だったということでしょう。黒天使10名の中で娘役は星奈優里さんと二人だけ。男役と娘役が同じ役を踊ることのもはじめてのことだったそうです。
はじめてのことづくしだった雪組初演の舞台。この時の成功がなければその後の東宝版もあり得なかった思います。不思議な作品で、宝塚と東宝版で、トート、シシィ、ルキーニ、ルドルフと、こうしてコンサートなどがあるごとに男性の役と女性の役をいったりきたりしているスターさんが何人もいらっしゃいます。それを可能にするのがこの作品のふところの深いところでしょうか。たまたま在団中この作品と出会った方々は、この世を旅立つ時までずっと関わりが続いていくことでしょう。これからさらに25周年、30周年とメモリアルがありそうです。足を運ぶこちらもこの世を旅立つ時までついていきたいと思います。初演時、わたしはまだ妹とのお別れからそれほど時間がたっていませんでした。その想いは、一昨年、東宝版『エリザベート』の観劇日記に書いたと思います。
この作品はすごく歌が上手というだけでやれるものでもなく、なんだろうなあ、役者さんの生き方を問いかけてくる作品なのかなとと思います。
想いはどこまでも尽きませんが駆け足で備忘録を綴ってみました。最近は即DVDになるんですね。映像として残るありがたい時代になりました。でもやはり生の舞台にまさるものはないと思う次第です。空間の雰囲気が20年前の劇場の空間と同じでした。初演の舞台を観劇したことはわたしの人生の宝物のひとつ。雪組初演メンバー、あっぱれ!!
雪組初演メンバーがそろったモニュメントバージョン。舞台は前半が20年前を振り返るトーク。後半が抜粋した曲を物語の進行にそって歌っていくというものでした。20年前にタイムスリップしたような、同時に20年という歳月を感じる不思議な時間でした。後半に歌になると、舞台装置とコスチュームの力を借りずとも、みなさん役柄のスィッチが入り情感豊かに歌われるので、まるで舞台をみているようでした。東宝版も含めて、日本のエリザベートの歴史はここから始まったんだなあと思うと感慨深かったです。歳を重ねてみなさん、色々な経験をされ人生の時間が深まった分だけ、さらに深い歌唱になっていたと思います。
宝塚なので主役は男役。退団する一路さんのための舞台でしたが、一路さんの歌唱をもってしてもあまりにも歌いこなすのが難しい曲ばかりで、てんぱってしまい退団という感慨にひたる余裕は全くなかったそうです。はじめてのことだらけ。正式な台本ができあがってくるまでは、ドイツ語で歌詞が書かれた譜面に日本語の歌詞が書かれた台本と向き合い、歌詞も含めて稽古場でつくあげていく毎日。二幕の、ルキーニがエリザベートを刺す前の、トートとフランツが最終答弁を行う場面をつくりあげるのに一週間かかったそうです。ストレスのあまり、一路さんと高嶺さんが台本を投げつけたら、何十枚とある譜面がまざってどっちがどっちだかわからなくなってしまい、あとで大変だったそうです。その後、わからなくならないように譜面に番号を記入するようにしたとか。稽古場のあちこちで、それそれがキーボードをたたいて自分の歌を練習するようになったのはこの時から。自分だけやっていないと他の人の音がまざりあってストレスになるのでやらずにはいられなかったそうです。驚いたことに代役も決まっていて、代役でとおしの稽古までやったというのだからすごいとしか言いようがありません。
フルコスチュームではなかったですがマントを翻して歌い上げる黒い衣装の一路さんは20年前と変わることなくロック歌手のようでかっこよかったです。男役一路真輝。「愛と死の輪舞」「最後のダンス」「闇が広がる」。何十回と聴いているのに、どれだけ聴いても飽きることのない、すっかり体にしみこんでいる楽曲を歌い上げる一路さんの声がホールに響き渡っていました。不思議でした。東宝版の『エリザベート』初演から数年間、シシィを演じた一路さんがトートとして帰ってきて、さらに深味のある歌声で聴かせてくれてなんだかふるえました。なんでしょうね、一路さんの歌声は上手だという域を超えてトートとして響いてくる歌声。こんなに細い体で雪組をささえていたんですね。
フランツの高嶺ふぶきさんも歳をかさねてさらに深い歌声でした。フランツは楽曲も辛抱のいるおさえたものばかりで発散できない、しかも少しずつ登場。衣装も装置もなく歌だけで聴いていて、これは難しい役だなあとあらためて思いました。衣装替えも多くて一番大変だったが二幕の浮気をしたあとから、シシィに戻っておいでと歌うまでのわずか30秒の早変わり。30代から突然50代になり、ズボンの下にズボンを重ねて引き抜き、ひげをつけたそうな。このやり方は今も踏襲されているそうです。シシィと出会った時の「嵐もこわくない」、ルドルフが亡くなった後のシシィへの思いを切々とうたう「夜のボート」。同じメロディラインの二つの曲。この時の高嶺さんの歌唱がほんとに好きで、20年前も今も変わりません。日本で最初のフランツ。シシィへの変わることのない愛を歌う姿に、切なくって涙しました。
香寿たつきさんのルドルフをはじめて生で拝見。一路さんとの『闇が広がる』。聴かせてくれました。魅せてくれました。ほんとに不思議です。東宝版でゾフィを演じきった香寿さんが衣装の力をほとんど借りることなく、ルドルフになりきっていました。何の違和感もなくルドルフでした。40代後半になる香寿さんが、長い髪を後ろに束ねて衣装は男役じゃないのに、歌で青年ルドルフの心情を見事に演じるのはさすがとしかいいようがありません。ほんとすごい。体にしみこんでいるんですね。初演時、ルドルフはエピローグで登場したあとは、二幕まで全く出番がなかったので(今はミルクの場面などに出ているそうです)、スタンバイ中はずっとトートと歌う「闇が広がる」へと気持ちを集中させ、あとは救護班をつとめていたんだそうです。舞台上があつくて具合が悪くなる人がいるとたーたんがかついで救護室に運んでいたそうで、はじめてきくエピソードでした。宝塚100周年記念公演のコンサートの時、男役はこれで最後かなって話されていたと思いますが、香寿さんの男役、これからもありそうな気がします。
花ちゃんのシシィは、東宝版での舞台を堪能したあとでみると、宝塚なので東宝版ほど自分を主張していないし、男役を立てる役割に徹しているのかなと感じました。少女時代の可愛らしい鈴のなるような声から、晩年の「夜のボート」までの声の変化による演じ分け。「わたしだけ」には東宝版の地声よりもキーが高かったかな。最後が東宝版といちばん違うところで、「ふたりきりで泳いで渡ろう、深い愛の湖を」とトートを手をつないで昇天していく宝塚は恋愛物語。一路さんとのツーショットがなんだか懐かしすぎてしまってことばがみつかりません。20年前の花ちゃん、声が細くって声量もあまりなかったのがほんとに歌が上手くなりました。すごく努力されてきたんだろうなと思います。
ゾフィの朱未知留さん、マックスお父様の古代みず希さんは普段は舞台に立つことなく一般市民として暮らしているので20年ぶりの舞台。それでも役のスィッチが入ると20年前が昨日のことみたいでした。若かった朱さんがよくゾフィという役をこなされました。今でも忘れません。
轟悠さんのルキーニ。日本の『エリザベート』のルキーニを最初につくりあげたのはまさにこの方。『エリザベート』轟さんルキーニの登場で幕をあけました。轟さんの声で、「裁判長どの、おれはとっくに死んだんだ、天国へでも地獄へでもやってくれ」っていうと客席はいっきに黄泉の国へと引き込まれました。ルキーニは舞台を牽引していく、とてつもないエネルギーのいる役どころ。女性が演じた男性だからこその男くささがあるルキーニでした。ウィーンの方が初演舞台の映像をみたとき一人だけ本物の男性がいるとびっくりされたそうな。キッチュの場面で手拍子が起こる日本の『エリザベート』は轟さんが始まり。
専科からはルドヴィカ母さんの京美沙さん、マダム・ヴォルフの美穂圭子さん、グリュンネ伯爵の飛鳥裕さん、黒天使の五峰亜紀さん。黒天使、東宝版ではトートダンサーはトートの一部なのでダンサー10名を代表して毎回一路さんにどうでしたか?とききにいっていたそうです。一路さんは記憶にないみたいでしたが、それだけ大変だったということでしょう。黒天使10名の中で娘役は星奈優里さんと二人だけ。男役と娘役が同じ役を踊ることのもはじめてのことだったそうです。
はじめてのことづくしだった雪組初演の舞台。この時の成功がなければその後の東宝版もあり得なかった思います。不思議な作品で、宝塚と東宝版で、トート、シシィ、ルキーニ、ルドルフと、こうしてコンサートなどがあるごとに男性の役と女性の役をいったりきたりしているスターさんが何人もいらっしゃいます。それを可能にするのがこの作品のふところの深いところでしょうか。たまたま在団中この作品と出会った方々は、この世を旅立つ時までずっと関わりが続いていくことでしょう。これからさらに25周年、30周年とメモリアルがありそうです。足を運ぶこちらもこの世を旅立つ時までついていきたいと思います。初演時、わたしはまだ妹とのお別れからそれほど時間がたっていませんでした。その想いは、一昨年、東宝版『エリザベート』の観劇日記に書いたと思います。
この作品はすごく歌が上手というだけでやれるものでもなく、なんだろうなあ、役者さんの生き方を問いかけてくる作品なのかなとと思います。
想いはどこまでも尽きませんが駆け足で備忘録を綴ってみました。最近は即DVDになるんですね。映像として残るありがたい時代になりました。でもやはり生の舞台にまさるものはないと思う次第です。空間の雰囲気が20年前の劇場の空間と同じでした。初演の舞台を観劇したことはわたしの人生の宝物のひとつ。雪組初演メンバー、あっぱれ!!