ロシア・ウクライナ戦争に見る各国の立ち位置と思惑
篠田 英朗 によるストーリー
ロシアのウクライナに対する全面侵攻が始まってから、一年が過ぎた。
日本政府は、同盟国・友好国とともに、ロシアを非難して制裁を科し、ウクライナを支援する立場を取り続けている。
ロシアの国際法違反行為は明白であり、国際秩序の維持に貢献したい日本の視点から見れば、政府の立場は妥当である。
また日本の同盟国・友好国が団結して同じ立場をとっていることから、日本の外交安全保障政策の観点から見て、国益にそった合理性もある。
しかしこれに対して批判者がいないわけではない。鈴木宗男氏のように、国会で堂々と親露派の立場を鮮明にして、ロシアとの友好関係の維持を唱える者もいる。テレビのワイドショーで、ロシアにウクライナが対抗できるはずはないという思い込みから、いわゆる「降伏論」が議論されたことなどもあった。ウクライナに対する国際的な支援体制が固まってからは、在野の評論家層にウクライナは代理戦争を戦っているだけだという「陰謀論」が広まる現象も起こった。
(ブログ主注・・・あの「もうおわかりですね」と言うのが癖の元ウクライナ大使や政治家崩れの学者風をふかす某氏のように)
日本に特有の事情もあるが、全世界的にも、国際秩序重視派と、反米主義者との間で、対立が深まっているのが、ロシア・ウクライナ戦争をめぐる国際世論の動向である。
ロシアのプーチン大統領は、当初は東欧に特化した歴史・文化論を披露するような態度で「特別軍事作戦」を正当化する態度をとっていた。侵攻の前年にロシア人とウクライナ人の民族的一体性を唱える論文を書いたことなどに象徴されるような知識人然とした態度だった。最近は、「西側が戦争を始めた」というレトリックで、世界の反米主義者に向けてグローバリズム帝国主義者アメリカと戦う多元主義者ロシアのイメージを流布することに必死だ。
今や世界中の陰謀論者が、ロシアの支持基盤といった様相も呈している。
ロシア・ウクライナ戦争に対する注目度は、依然として高い。どのような立場をとるのであれ、国際世論の傾向と性質を理解しておくことは、重要な作業になっている。イデオロギー的な曇り眼鏡で諸国の行動を見てはいけないことは、日本政府の立場を支持する場合でも、親露的な立場を取る場合でも、同じであろう。
(1)国連総会決議で親露的な立場を取る諸国
ロシアの侵略を非難して撤退を求める2月23日の国連総会決議に、一年前の2022年3月2日にロシアの侵略を認定した「決議A/ES-11/L.1」と同じ141ヵ国の諸国が、賛成票を投じた。ロシアとともに反対票を投じたのは、6ヵ国である。一年前から親露の立場をとってきている筋金入りの反米四カ国に、今回はマリとニカラグアが加わった。
昨年の侵略認定決議からロシア寄りの立場をとってきているベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリアの位置づけについては、特に説明はいらないくらいだろう。特殊な思惑から、ロシア寄りの立場を取る。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は、その独裁的な統治を通じた人権侵害行為のため、以前からアメリカやEUから制裁対象となっていた。日本では、東京オリンピックの際に、政権に批判的なコメントをしてしまったことから強制的に帰国を命じられ、やむなく羽田空港で駆け込み亡命を求めたベラルーシの女性選手の記憶が鮮明だ(ポーランドに亡命)。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は、不正が指摘された大統領選挙を乗り切るためにロシアの介入を要請したところから一層プーチン大統領に逆らえなくなった。2022年のロシアのウクライナ全面侵攻は、ロシア軍が首都キーウに攻め込ませる大戦車部隊をベラルーシ領内に集結させることができるようになったことが契機だ。プーチン大統領の直接参戦要請からは、何とか逃げ続けているが、ベラルーシは事実上のロシア側の戦争当事国である。
北朝鮮の反欧米主義とロシアとの近さについては、説明が不要だろう。朝鮮戦争におけるスターリンのソ連の秘密裏の参戦と巨大な軍事支援がなければ、北朝鮮は存立しえたか不明だ。現在でも、国連安全保障理事会におけるロシアの投票行動が、北朝鮮に対する国際的な制裁体制の内容に大きく影響する。中国の支援だけを期待してロシアを裏切るような余裕は、北朝鮮にはない。
シリアのアサド政権は、ロシアのシリア紛争への直接的な軍事介入がなければ存立しえなかったような政権だ。欧米諸国とは激しく敵対している。戦争犯罪行為や人権侵害から、国際的な制裁の対象でもある。国連安全保障理事会でシリアに対する制裁が議論されるたびに、拒否権発動をしてくれるのが、ロシアである。シリアには、ロシアに絶対忠誠を誓う大きな理由がある。
エリトリアは、エチオピアのティグレイ紛争に深く関わっている。エチオピア領内に深く入り込み、エチオピア連邦軍とともに、エチオピア北部のTPLF(ティグレイ人民解放戦線)勢力と交戦状態に入った。エリトリア軍が支配した地域で、国際人道法違反の蛮行を繰り返したことは、アムネスティなどの人権団体による報告書などによって示されている。国連安全保障理事会の無策が批判されているが、逆に言えば、国際的な制裁を拒否権発動でせき止めてくれるのは、ロシアだ。エリトリアも、ティグレイでの蛮行が国際的な非難の対象になればなるほど、ロシアにおもねっていくことになる。
なおエチオピア連邦政府とTPLFの間で昨年11月に結ばれた停戦合意では、エリトリア軍の撤退が和平の条件となっている。
だがエチオピアとの分離戦争をへて独立したエリトリアにとっては、当時の連邦政府を牛耳っていたTPLF勢力との確執は根深いものだ。独立以来、アフリカの北朝鮮とも称される特異な独裁体制をとっているイサイアス・アフェウェルキ大統領が、すんなりとティグレイから手を引くと簡単には想定することはできない。エリトリアとしては、ロシアとの関係の重要性が大きい。
(2)新たに総会決議への反対に回った二カ国
筋金入りの親露諸国に共通しているのは、自国も国際的な制裁対象になっているため、国連安全保障理事会で拒否権発動をしてくれるロシアとの関係に、大きな利益を見出しているはずであることだ。
このパターンは、最近になっていっそうロシアと親密になり、今回の国連総会決議で新規に追加となる二票の反対票を投じたマリとニカラグアにもあてはまる。
マリでは長くフランス主導のテロリスト掃討作戦が行われていたが、2020年以降の2回のクーデターをへて、完全に反仏・反欧米政権に生まれ変わってしまった。フランスはマリから撤退し、国連PKOに参加していた他の欧州諸国も次々とマリから撤退している。今や頼りになるのは、ロシアのワグネルだけである。
ワグネルは、国際人道法違反が指摘される過激な活動をマリで行っており、決して国内世論で圧倒的に支持されているわけではないようだ。しかしそれにしても、マリ北部で暗躍し、10年にわたって地域の治安情勢を悪化させ続けてきているイスラム過激派勢力の弾圧という点では、一定の成果を出しているという見方もある。フランスが主導して近隣諸国とともに行ってきたバラカン作戦は、目立った成果がないまま終了となってしまったので、今やマリにおけるテロ組織掃討作戦は、ワグネルのロシアに依存したゴイタ大佐のクーデター政権に委ねられている。
クーデター政権は、地域の近隣諸国からも批判の対象になっているが、前政権の不人気が背景にあるだけに、事態の収拾は困難である。国連安全保障理事会におけるクーデター政権に対する制裁やその他の非難、あるいはテロ組織掃討作戦の続行のためにも、マリにはロシアにおもねる大きな理由がある。
ニカラグアは、反米主義を掲げて人気を集めて存立しているラテン・アメリカの異端児である。オルテガ大統領は、憲法の再選禁止規定を変更し、人権侵害を続けて権力の座にとどまり続けている独裁者だ。冷戦時代の共産主義者とのつながりを糸口に各地でネットワークを持つロシアとは良好な関係を持つ。やはり人権侵害を理由にした欧米諸国の制裁対象とされてきた経緯があり、国連安全保障理事会で拒否権発動できるロシアとの関係が重要であるのは、他の親露諸国と同じである。
(3)中立国の思惑
ユーラシア大陸中央部からアフリカにかけて、国連総会決議で棄権票を投じた諸国が連なる。これらの諸国が中立的な立場をとることも、ある種のパターンとして定着した感がある。
中立国で最も有力なのは中国だが、これがアメリカとの米中対立の世界的規模の国際政治の構造をふまえて、ロシアとの友好関係を維持しておきたい思惑によるものであることは明白である。限りなくロシアに近い中立だ。ただし中国は、ウクライナ問題で不要なまでに面倒を引き受けたいわけではない。中国の立ち位置も固定化されているように見える。
ロシアとの軍事支援や資源購入などの結びつきから、中立的な立ち位置を捨てられないのがインドである。これまでのモディ首相の発言などから、心情的にはロシア非難に近い立場をとっている。だが世界最大の人口を抱える国家として、あらゆる困難を度外視してロシア非難に舵を切るという判断ができない。現在、ロシアに対する経済制裁が、原油の最高価格の上限設定という形で動いてきているが、インドの立ち位置は依然として微妙だ。
その他の棄権票を投じた諸国は、ユーラシア大陸では、中央アジアの旧ソ連構成国と、南アジア諸国である。中央アジア諸国が、ロシアに忖度せざるを得ないのは、やむを得ない。パキスタンやバングラデシュは、国内にイスラム原理主義勢力も抱えながらイスラム主義に融和的な政策をとっており、欧米諸国とロシアとの対立の中で、宗教的価値観や文明の対立といった話題に飛び火しかねない構図への関わりには慎重になりたい事情がある。
なおアフガニスタンとミャンマーは、旧政権の時代に任命された大使がまだ国連で活動しているため、国連総会決議では賛成票となっている。権力を握っているタリバン政権やタマドー国軍政権は、中立的、またはロシア寄りの立場にある、と考えておくのが自然だろう。
アフリカにおける中立国は、南部では、南アフリカのラマポーザ政権が、欧米諸国から距離をとる政策をとっていることは大きな事情だ。恒常的なフォーラムとなっているBRICSを通じたロシア及び中国との関係は、南アフリカにとっては大きな意味を持っている。国連総会でロシア非難決議が採択されている最中、インド洋でロシアと中国とともに合同軍事演習を行った。
西アフリカでは、2011年にカダフィ政権がNATOの軍事介入をへて倒れた後、リビアが内戦続きの破綻国になってしまったことにより、周辺地域も一気に情勢不安に陥った経緯などがあり、欧米諸国の介入主義的政策に批判的な見方がある。マリがクーデターをへて親露政権になってしまったことは、周辺国からすると大きな脅威である。慎重に振舞わざるを得ない事情がある。
なお中央アフリカ共和国などにおいて、ロシアのワグネルが活発に動いているが、背景には冷戦時代に共産主義政権があった時代からの人的つながりがあるとも言われる。ロシアが、旧共産主義国に浸透しやすい傾向を持っていることも指摘できるだろう。東南アジアで棄権票を投じしているベトナムとラオスも同じパターンである。
(4)グローバル・サウスは幻
国際的によく使われるようになって10年以上がたち、日本でも「グローバル・サウス」という言葉を耳にする機会が増えた。「発展途上国」という概念に地域性を入れ込んだ含意があると考えられているようだ。それは間違いではないのだが、実際に本当に経済的に劣った諸国の総称というよりも、欧米諸国などとは異なる利害関心を持つ諸国のグループ、という政治的意味づけが大きい。
国連外交の場では、冷戦時代に「非同盟運動(NAM)」が大きな存在感を持った。その存在感の大きさから、冷戦時代の東西両陣営の同盟機構が消滅したり変容したりしているにもかかわらず、いまだにNAMは国連外交の場では存在している。だがその「非同盟」という名称は、習慣的に残存しているだけだ。そのため代わって「グローバル・サウス」という概念が用いられ始め、NAMの諸国などが肯定的な捉え方で「グローバル・サウス」をある種の政治圧力運動として位置付けようとする場合も見られる。
今回の国連総会決議で棄権・無効票を選択しているのが、グローバル・サウスに政治的な思い入れを持っている諸国だと考えても良いだろう。これらの諸国は、自分たちの国の国益を冷静に見たうえで、中立的な立ち位置を維持しようとしている。
日本では、「グローバル・サウス」の概念をロマン主義的に捉えようとする傾向が強いわけだが、危険だろう。
実態を伴わないある種の政治イデオロギー運動であることを、冷静に理解したうえで、付き合っていくことが必要である。
「ロシアの侵略」を非難する国連総会決議に「反対票」を投じた「6つの国」と「中立国」の思惑 (msn.com)
★上記の記事を読むと、我が国の評論家、宮崎正弘氏のエッセイには「・・・」である。
このある種の形式的な「枠」がホシュ(保守ではない)の特徴であるような気がしてくる。
このエッセイではないが、氏はいつのまにか某チャンネルのように「陰謀論」に与していたのか・・・。
下記は宮崎正弘氏の3月1日付のエッセイです。宮崎氏のエッセイは最近納得できなくなった。
ブリンケン、ロシアの背後(中央アジア)をつつき始めた
武田信玄の「キツツキ戦法が」アメリカ外交に甦った?
***************************************
キツツキはかんかんと音を立てて木々に穴を開けながら相手を驚かせ、虫が飛び出すとさっと口にくわえる。川中島で対峙した上杉軍を攪乱すべく軍師の山本勘助が提案し、実行された。
2月27日、ブリンケン米国務長官はカザフスタンの首都アスタナへ飛んだ。
反プーチン路線を歩むトカエフ大統領と会談し、アスタナに集まった中央アジア五ケ国の外務大臣と会談した。この合同会合を{C5+1}と名付けた。
アフガニスタン戦争ではキルギスが米海兵隊駐留を認め、またウズベキスタン、カザフスタンも米軍の兵站ルートにあって米軍に協力的だった。タジキスタンはソ連時代のアフガン侵略でソ連軍の前衛基地だった関係から、米軍と距離を置いた。トルクメニスタンは『中立』を謳い、鎖国を続けた。そのトルクメニスタンからも外相が出席した。
これら中央アジアの旧ソ連イスラム圏にカネをばらまいて、鉄道やら発電所などの巨大プロジェクトを運んだのは中国だった。中央アジア五ケ国はイスラムで共通するが、タジクを除いて人種的にはチュルク系(タジク語はペルシア系、民族もソグドがかなり残留)。
「ソ連の庭」だった。何時しか、この中庭に中国が這入り込み、ロシアがウクライナへ侵攻すると、モスクワへ背を向け始めた。ロシアの若者の亡命を最大受け入れているのもカザフスタンである。
ブリンケンはこの隙間を狙って国務長官就任後初の中央アジア訪問となった。ついで3月1日からはインドで開催されるG20外相会議に臨む。
◎☆□☆み□☆☆□や☆□☆□ざ☆□☆□き☆□☆□
★ では最新ニュースを・・・
米国務長官、旧ソ連構成5カ国外相と会談へ 中央アジア到着
[アスタナ(カザフスタン) 28日 ロイター] - ブリンケン米国務長官は28日、中央アジアに到着した。
ロシアのウクライナ侵攻から1年が経過する中、地域の旧ソ連構成国5カ国の政府当局者と会談する。
ブリンケン氏はカザフスタンとウズベキスタンを訪問する予定。バイデン米政権の高官としてこの地域を訪れるのは今回が初めてとなる。
カザフの首都アスタナで、5カ国(カザフ、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン)の外相と個別に会談するほか、合同で会合を開く。
ブリンケン氏の訪問に先立ち、ドナルド・ルー米国務次官補(南・中央アジア担当)は「米国が信頼できるパートナーであることを示すのが主な目標だ。われわれはこれらの国々が直面している食料・燃料価格高、高失業率、困難な輸出、新型コロナウイルス流行後の景気回復の遅れ、ロシアからの移民殺到といった問題を理解している」と記者団に述べた。
ブリンケン氏は昨年11月のカザフ大統領選で圧勝したトカエフ大統領とも会談する。トカエフ氏はロシアのプーチン大統領によるウクライナでの領土を巡る主張に公然と反対している。
ブリンケン氏は28日中にウズベキスタンに向かい、ミルジヨエフ大統領とも会談する予定。
米国務長官、旧ソ連構成5カ国外相と会談へ 中央アジア到着 (msn.com)
字数の関係で「ブログのティールーム」は休みます。