防空識別圏で見えたもの、脅威は中国のみに非ず[桜H25/12/5]
【青山繁晴】防空識別圏で米国の媚中派が暗躍
2013.12.4
中国の打ち出した「防空識別圏」の設定は、形振り構わぬ中共の必死さと、漁夫の利を狙うアメリカの狡猾さを露呈させた。
イギリスも、日本との関係を強化しつつもチベット問題を棚上げして中共に接近し、価値観だけでは動かない、国際政治の現実を見せている。
日本も大国との交渉においては、徹底的にリアリズムを追及していくべきであることを申し上げておきます。
(動画の解説)
青山さんもアメリカの二面性を述べていた・・・アメリカにしては当然でしょうね。
三橋貴明氏のメルマガに寄せられた柴山桂太先生の「TPPはここまできている」
関税については、日本はかなり追い込まれていると報じられています。
http://www.nikkei.com/article/DGKDASFS25033_V21C13A1EA1000/
重要なので本文を引用します。
「日本は今回、全11カ国と2国間交渉を開き、理解を求めた。「国内産業への影響が大きい」。
鶴岡公二首席交渉官はコメや砂糖など農産品5項目の関税維持の必要性を強調。
複数の国には95%に近い自由化率を伝えて感触を探ったが、「まだ足りないとの評価だった」(交渉筋)
95%という自由化率は10月にバリで開いた閣僚会合の直後から政府・自民党が調整した「ぎりぎりの水準」(内閣官房)
しかし日本以外の11カ国は100%の関税撤廃を求め、自国の関税も100%近く無くす方針をすでに伝えている。
シンガポールやニュージーランドは自国の関税を100%無くす方針を表明。
米国は砂糖、オーストラリアは牛肉、カナダは乳製品を「センシティブ(重要)品目だ」と伝えたというが、ごく少数に限られている。各国の交渉官は「日本の重要品目は多い」と見直しを強く求めた。
TPPでは最終的に96~98%の自由化率に落ち着くとの見方が強まっている。
日本は閣僚会合で95%に加え、農産品の一部で季節に応じて関税を下げたり、輸入量に応じて関税を無くしたりする案を同時に示して乗り切る構え。年内は95%を軸にするが、はねつけられた場合には「日本は蚊帳の外に置かれてしまう」(外務省)との危機感も募る。」
(日本経済新聞11月26日)
日本がこれまで結んできたFTAは、自由化率が85%程度。上の記事によるとTPP交渉で日本は95%を軸に調整(それでも例外5項目はかなり譲歩しなければなりません)を進めていますが、それでもまだ足りない、と他国から圧力をかけられている状態のようです。
このまま暫定合意に向かうとなると、数字目標(たとえば98%とか)を決められてしまいかねません。
さすがに日本はそんな約束はしないと期待したいところですが、仮に100%の数字目標を入れられてしまうと、次は何を譲歩するかで、日本国内で激しい内輪争いが始まってしまうでしょう。
懸案のISDS(投資家と国家の紛争解決条項)は、どうやら盛り込まれる方向で協議が進んでいるようです。
強く抵抗していたオーストラリアも、9月の政権交代後に賛成に転じたとか。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2013112302000125.html
ただ、適用条件をめぐって、いぜん議論が続いている模様。
http://mainichi.jp/select/news/20131123k0000m020080000c.html
つまり、ISDSは、盛り込むことでは足並みが揃いつつあるが、適用条件(日本は公的医療制度への適用に抵抗しています)をめぐって現在、調整中ということのようです。しかし、導入すること自体は、もう既定路線なんですね。
ISDSと並んで問題視されていた「越境サービス分野」の「ラチェット条項」(いったん緩和した外資規制の再強化禁止)は、盛り込むことで合意したようです。
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO63025280T21C13A1EE8000/ベトナムやマレーシアに進出した日本企業が、いきなりの法律改正で追い出される心配はなくなったものの、日本は国内産業を守るために外資の出店規制を強化することはできなくなりました。これにISDS条項が加わると、国家主権はますます制約されることになります。
ここに現代の「自由貿易」の本質が垣間見えます。自由貿易で「自由」になるのは、あくまでも企業や投資家です。
反対に、国家は政策の自由度を失います。自由貿易協定によって、民間企業は活動の自由度を上げる反面、国家が「拘束衣」を着ることでかえって不自由になるわけです。
実は、このことは以前から言われていました。いまから一〇年以上前に、アメリカのNYタイムズのコラムニスト、トマス・フリードマン(ミルトン・フリードマンとは全くの別人です)は『レクサスとオリーブの木』(邦訳は草思社)のなかで、グローバル化の本質を「黄金の拘束衣」という比喩で説明していました。
拘束衣とは、要するに囚人服です。手足の自由を縛って、動けないようにする。グローバル化の時代には、各国は遅かれ早かれ、この拘束衣を着ることになるのだ、とフリードマンは説明しました。この拘束衣がどんなピースで縫い合わされいるかというと、
・政府規模の縮小
・健全財政
・関税撤廃
・(外国人の)投資規制の撤廃
・国有企業や公営事業の民営化
・資本市場の規制緩和
・外国人による株と投資の奨励
・年金オプションを選択制にする
などなど。こうした共通ルールを編み出して各国政府の手足を縛ることで、企業や投資家は安心してグローバルに活動できるようになる、というわけです。
そしてフリードマン(しつこいようですが、ミルトン・フリードマンではなく、「もう一人の」フリードマンです)は、こうした事態は望ましいことだ、と主張しています。国家に「拘束衣」を着せ、国家主権を制約することで、企業の活動の余地がもっと広がると考えるからです。
もう一つ、フリードマンは重要な指摘をしています。それは、外国人の株主や投資家といった人々の発言力が高まるので、各国政治は彼らの存在を無視できなくなる、ということ。もっと言えば、国内の有権者よりも、「電脳投資集団」の声を政治に積極的に反映する(そうしなければ投資家に逃げられてしまうから)ような時代が来る、ということです。
彼らは、民主主義を重んじていません。それよりも、ビジネス環境が整備されることの方が重要です。
フリードマンは冗談気味に(一人一票ではなく)「一ドル一票」の時代がやってきたと書いています。
国境を越えて資金を動かすことのできる人々が、その資金量に応じて、強い発言力を持つようになる。
そしてそれは世界の未来にとって望ましいこと(各国の政策によってビジネス環境が阻害される危険が少なくなるため)と書いているのです。
つまりフリードマンは、グローバル化の時代には、各国の国家主権は「黄金の拘束服」によって制限され、民主主義は「電脳投資集団」によって左右されるようになる、と予見しました。それを素晴らしいことだと考えている点を除けば、フリードマンはグローバル化の本質をきわめて的確に捉えていると言えます。
日本では未だにグローバル化が時代の必然であり、そのさらなる進展は望ましいことだと考えられています。TPPも、そうした考え方の延長線上に出てくるものです。しかし、それは一方で、国家主権のさらなる制約と、民主主義の「一ドル一票」化という代償を伴うものだ、ということを忘れるべきではありません。
こうした代償は決して小さなものではありません。アメリカでも、議会がTPPへの警戒感を強めていますが、これも当然の動きと言えるでしょう。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF2400P_U3A121C1NN1000/
要は、大統領がビジネス界と組んで勝手に国家主権を制約するような協定を結ぶな、ということです。もちろん日本でも同じような考えを持つ議員が大勢います。欧州でも、財政規律などの共通ルールへの反発が各国議会で高まっていますが、これも同じ動きの一部です。
このままグローバル化を行けるところまで推し進めるのが国益なのか、それとも国家主権や民主主義の力を取り戻すのが本当の国益なのか。いま世界中で始まっているのは、そういう「思想の戦い」なのです。
【青山繁晴】防空識別圏で米国の媚中派が暗躍
2013.12.4
中国の打ち出した「防空識別圏」の設定は、形振り構わぬ中共の必死さと、漁夫の利を狙うアメリカの狡猾さを露呈させた。
イギリスも、日本との関係を強化しつつもチベット問題を棚上げして中共に接近し、価値観だけでは動かない、国際政治の現実を見せている。
日本も大国との交渉においては、徹底的にリアリズムを追及していくべきであることを申し上げておきます。
(動画の解説)
青山さんもアメリカの二面性を述べていた・・・アメリカにしては当然でしょうね。
三橋貴明氏のメルマガに寄せられた柴山桂太先生の「TPPはここまできている」
関税については、日本はかなり追い込まれていると報じられています。
http://www.nikkei.com/article/DGKDASFS25033_V21C13A1EA1000/
重要なので本文を引用します。
「日本は今回、全11カ国と2国間交渉を開き、理解を求めた。「国内産業への影響が大きい」。
鶴岡公二首席交渉官はコメや砂糖など農産品5項目の関税維持の必要性を強調。
複数の国には95%に近い自由化率を伝えて感触を探ったが、「まだ足りないとの評価だった」(交渉筋)
95%という自由化率は10月にバリで開いた閣僚会合の直後から政府・自民党が調整した「ぎりぎりの水準」(内閣官房)
しかし日本以外の11カ国は100%の関税撤廃を求め、自国の関税も100%近く無くす方針をすでに伝えている。
シンガポールやニュージーランドは自国の関税を100%無くす方針を表明。
米国は砂糖、オーストラリアは牛肉、カナダは乳製品を「センシティブ(重要)品目だ」と伝えたというが、ごく少数に限られている。各国の交渉官は「日本の重要品目は多い」と見直しを強く求めた。
TPPでは最終的に96~98%の自由化率に落ち着くとの見方が強まっている。
日本は閣僚会合で95%に加え、農産品の一部で季節に応じて関税を下げたり、輸入量に応じて関税を無くしたりする案を同時に示して乗り切る構え。年内は95%を軸にするが、はねつけられた場合には「日本は蚊帳の外に置かれてしまう」(外務省)との危機感も募る。」
(日本経済新聞11月26日)
日本がこれまで結んできたFTAは、自由化率が85%程度。上の記事によるとTPP交渉で日本は95%を軸に調整(それでも例外5項目はかなり譲歩しなければなりません)を進めていますが、それでもまだ足りない、と他国から圧力をかけられている状態のようです。
このまま暫定合意に向かうとなると、数字目標(たとえば98%とか)を決められてしまいかねません。
さすがに日本はそんな約束はしないと期待したいところですが、仮に100%の数字目標を入れられてしまうと、次は何を譲歩するかで、日本国内で激しい内輪争いが始まってしまうでしょう。
懸案のISDS(投資家と国家の紛争解決条項)は、どうやら盛り込まれる方向で協議が進んでいるようです。
強く抵抗していたオーストラリアも、9月の政権交代後に賛成に転じたとか。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2013112302000125.html
ただ、適用条件をめぐって、いぜん議論が続いている模様。
http://mainichi.jp/select/news/20131123k0000m020080000c.html
つまり、ISDSは、盛り込むことでは足並みが揃いつつあるが、適用条件(日本は公的医療制度への適用に抵抗しています)をめぐって現在、調整中ということのようです。しかし、導入すること自体は、もう既定路線なんですね。
ISDSと並んで問題視されていた「越境サービス分野」の「ラチェット条項」(いったん緩和した外資規制の再強化禁止)は、盛り込むことで合意したようです。
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO63025280T21C13A1EE8000/ベトナムやマレーシアに進出した日本企業が、いきなりの法律改正で追い出される心配はなくなったものの、日本は国内産業を守るために外資の出店規制を強化することはできなくなりました。これにISDS条項が加わると、国家主権はますます制約されることになります。
ここに現代の「自由貿易」の本質が垣間見えます。自由貿易で「自由」になるのは、あくまでも企業や投資家です。
反対に、国家は政策の自由度を失います。自由貿易協定によって、民間企業は活動の自由度を上げる反面、国家が「拘束衣」を着ることでかえって不自由になるわけです。
実は、このことは以前から言われていました。いまから一〇年以上前に、アメリカのNYタイムズのコラムニスト、トマス・フリードマン(ミルトン・フリードマンとは全くの別人です)は『レクサスとオリーブの木』(邦訳は草思社)のなかで、グローバル化の本質を「黄金の拘束衣」という比喩で説明していました。
拘束衣とは、要するに囚人服です。手足の自由を縛って、動けないようにする。グローバル化の時代には、各国は遅かれ早かれ、この拘束衣を着ることになるのだ、とフリードマンは説明しました。この拘束衣がどんなピースで縫い合わされいるかというと、
・政府規模の縮小
・健全財政
・関税撤廃
・(外国人の)投資規制の撤廃
・国有企業や公営事業の民営化
・資本市場の規制緩和
・外国人による株と投資の奨励
・年金オプションを選択制にする
などなど。こうした共通ルールを編み出して各国政府の手足を縛ることで、企業や投資家は安心してグローバルに活動できるようになる、というわけです。
そしてフリードマン(しつこいようですが、ミルトン・フリードマンではなく、「もう一人の」フリードマンです)は、こうした事態は望ましいことだ、と主張しています。国家に「拘束衣」を着せ、国家主権を制約することで、企業の活動の余地がもっと広がると考えるからです。
もう一つ、フリードマンは重要な指摘をしています。それは、外国人の株主や投資家といった人々の発言力が高まるので、各国政治は彼らの存在を無視できなくなる、ということ。もっと言えば、国内の有権者よりも、「電脳投資集団」の声を政治に積極的に反映する(そうしなければ投資家に逃げられてしまうから)ような時代が来る、ということです。
彼らは、民主主義を重んじていません。それよりも、ビジネス環境が整備されることの方が重要です。
フリードマンは冗談気味に(一人一票ではなく)「一ドル一票」の時代がやってきたと書いています。
国境を越えて資金を動かすことのできる人々が、その資金量に応じて、強い発言力を持つようになる。
そしてそれは世界の未来にとって望ましいこと(各国の政策によってビジネス環境が阻害される危険が少なくなるため)と書いているのです。
つまりフリードマンは、グローバル化の時代には、各国の国家主権は「黄金の拘束服」によって制限され、民主主義は「電脳投資集団」によって左右されるようになる、と予見しました。それを素晴らしいことだと考えている点を除けば、フリードマンはグローバル化の本質をきわめて的確に捉えていると言えます。
日本では未だにグローバル化が時代の必然であり、そのさらなる進展は望ましいことだと考えられています。TPPも、そうした考え方の延長線上に出てくるものです。しかし、それは一方で、国家主権のさらなる制約と、民主主義の「一ドル一票」化という代償を伴うものだ、ということを忘れるべきではありません。
こうした代償は決して小さなものではありません。アメリカでも、議会がTPPへの警戒感を強めていますが、これも当然の動きと言えるでしょう。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF2400P_U3A121C1NN1000/
要は、大統領がビジネス界と組んで勝手に国家主権を制約するような協定を結ぶな、ということです。もちろん日本でも同じような考えを持つ議員が大勢います。欧州でも、財政規律などの共通ルールへの反発が各国議会で高まっていますが、これも同じ動きの一部です。
このままグローバル化を行けるところまで推し進めるのが国益なのか、それとも国家主権や民主主義の力を取り戻すのが本当の国益なのか。いま世界中で始まっているのは、そういう「思想の戦い」なのです。