先日、福岡の方でオーケストラのオーディションがあり、東京からの受験者もいたようだ。東京からピアニストを連れての受験で、なかなか大変な努力をされている。
が、結果はその努力に見合ったものだったらしい。と、そのピアニストから連絡があった。
そのピアニスト、私の知人の紹介で何年か前に知り合ったのだが、長年、東京芸大の伴奏助手をしていた経験もあり、実に「弦楽器奏者好みのピアノ」を弾いてくれる方だ。
この「芸大弦楽器の伴奏助手」を務めた方々は、私より先輩から現在の若手に至るまで脈々と、その音色の伝統を引き継いでいる感がある。上述のピアニストも然り、である。
その音色とは、師匠の故・田中千香士曰く「柔らかーいピアノ」、それにミケランジェリみたいなキラキラしたものが加われば言うことなし。
師が評価したピアノの音色、さらに補足すれば「弦楽器と溶け合う音色」を持つピアニストのことになる。(私にしてみれば、これは最重要事項だと思っている。)
かくして、忠実なる弟子を自認する不肖としては、それがそのまま自分の理想と化していくのであった。
と述べると、個人的な思い出話のようだが、実際はそのような私的の好みの問題ではない。タイトル通り、弦楽器界全体が好む音色がある。
そして、それを持つピアニストに演奏を頼むと、コンクールは入賞しやすく、オーディションは合格しやすい。現に今回の連絡がそうだったように。
これも当然の話で、同じように努力をすれば同じような結果がでるのが普通の人間。それならばピアノが「好み」ならば、自然とそちらに惹かれるはずだ。
しかも、レパートリーに精通しているから、事細かに伝えなくとも、大体のところはやってくれる。
私が学生時代に目を丸くしたのは、それが初見の状態でもできる、最初から音楽的な演奏をする伴奏助手の方もいらしたこと。今はフェリスで教授をされているHさんと千香士先生の二重奏は、衝撃的で忘れられない。本当の初見とは、こういうものなのかと思ったものだ。
「伴奏は伴奏にあらず」と言われているけれど、相手を上手にも下手にもできるのがアンサンブル、これは真実だ。