今年、惜しくも亡くなられたピアノの多喜靖美先生は、ピアノの練習曲に独自のオブリガートをつけて、アンサンブルの学習曲をいくつも作っていらした。
「ヴァイオリンも作ればいい……」
と言われ、そうか……と、考え続けたのだが、それから数年経過してしまった。
ヴァイオリンの練習曲は、正直言って面白くない曲が多い。これにオブリガートをつければ、ひょっとしたらすごく美しい曲に豹変するかも、と夢見て、いろいろと試みてはみたのである。
しかし、いくつかはまあまあの域に到達したのだが、これをレッスン中に弾くと、生徒さんが何をやっているのか、よくわからない、という事態を引き起こし、レッスンの邪魔でしかない、これでは本末転倒である。
そして、ある時気づいた。
そうか、逆をやれば良いかもしれない。
古今の名曲を練習曲にして、二重奏に仕上げるのである。
練習曲に伴奏をつけるアイディアは、実はかなり昔からある。名教師達はピアノ伴奏をしながら、ドント等のエチュードをレッスンしていた、との論文も出ている(緒方恵)し、私の先生もクロイツェルにピアノ伴奏をつけてくれていた。
しかし、ヴァイオリンのレッスンの場合は、やはりヴァイオリン伴奏の方が何かと都合が良い。
そして、二重奏前提なら練習曲にあまり旋律要素を持たせなくても良さそうだ。
という次第で、クロイツェルのエチュードを下敷きにして、名曲エチュードをいくつか作ってみた。
これは楽しい、ともっぱら一人で悦に入っている。
第1作目はクロイツェル9番の代わりの「指を速く動かすためのエチュード」。
下敷きはフォーレのレクイエムから《イン・パラディズム》。
さあ、何人天国へ送れるかな……。