井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

松浦高校創立50周年記念式典(2)

2011-11-18 22:21:46 | オーケストラ

本番の四日前になって合唱側は急激に「気迫」が漲りだした。音楽の中武先生曰く、特に男子生徒が「これは何だか面白い」と自覚し始めたとのこと。この気合いの充実ぶりに私もびっくりだが、本人達もびっくりしているような感じだ。今まで見たことのない自分達がいる!

合唱が充実してくるとオーケストラの出来が気になってくる。オーケストラとは一度も練習していないし、前日になっても全員は揃わないという連絡も入ってきた。全員揃うのは本番の日のみなのだ。昨年の「障害者芸術祭」もそうだった。前日に約束したことを、当日のみの演奏者が守るにいたらず、最初の方に乱れが生じたことが思い返される。

それにオーケストラ側に、この合唱の「気迫」は希薄、と思われる。かなりの盛り上がりを見せ始めた高校生諸君に水を指すようではまずい。

窮余の一策、前日はまずオーケストラの練習時間をとり、それを高校生に聞いておいてもらって、オーケストラ・サウンドに馴染んでもらうことにした。

そして前日(10月29日)である。

練習の1時間前、会場の体育館にはすでに高校生全員が揃い、オーケストラを待ち受けていた。三々五々、オーケストラのメンバーが集まり、14時にリハーサル開始。ピンマイクを私が使って、会場にいる高校生に向かって解説つきのリハである。「第1楽章の断片です」「ここで合唱がはいります」云々。

体育館というのは,場所にもよるが,フロアで音を出すとかなり良い音になる場合が多い。一方,壁や天井が高いため,反射音がかなりの時間差で聞こえてくるから,アンサンブルは難しい時もある。この音響状態に慣れるのに少々時間を必要としたが,20分くらい経った頃には,かなり良いサウンドに変化しており,終わった時には高校生から感嘆の声がもれた。

いやはや,日本のオーケストラというのは第九に関してはプロもアマもすばらしい。たったこれだけの練習で心配が吹き飛ぶほど良い演奏になってしまったのだから。こうなると,再び合唱が心配になってきた。聞き惚れて歌えなくなることはよくある。だからと言って聞かないで歌ってもうまくはいかない。とにかくここで慣れてもらわなければ,本番には間に合わないのだ。あらかじめ,予定の時間より延長しても大丈夫なように了解はとっていた。

ひな段に全校生徒と全教職員が乗る。ソリストも指揮者の前に座った。第2テーマ "Seid umschlungen ・・・" の部分から始める。やはり耳馴染みがないため、なかなか出来るようにはなりにくいところだからである。

トロンボーンの一拍先導の後に出る男声「ザーイト・ウームシュルンゲン、ミーリーオーネン」

ばかでかい声が体育館に響き渡った。

続く大和ナデシコ集団の女声はどうか? 「ザーイト・ウームシュルンゲン・・・」

こちらもバッチリだ。バッチリどころか、今までを上回る出来。オーケストラも演奏しながら驚いている。ソリスト達も、180度向きを変えて合唱団を凝視しだした。

そのまま二重フガートに突入、「・・・リーベール・ファーテール・ヴォーネーン」のフェルマータまで一気に進んだ。

演奏を止めて私は言った。「すばらしい・・・」

その後は立ち往生。言葉にならない。ついに涙が出てきてしまった。

時間を延長する必要もなく、リハーサルは終った。もう本番が終ったような気分、とソリスト共々語り合った次第であった。その晩は、長崎県高校校長会の会長先生と昔の松浦高校の校長先生とお会いしたのだが、このリハーサルをご存じないから、とても違和感を感じたものだ。

そして本番の日(10月30日)。

あいにくの雨、そして松浦市のお祭り「水軍祭り」とも重なり、体育館の外からは演歌も聞こえてくるのだが、聴衆が予定よりずっと多かった。生徒達が前日になって保護者に動員をかけたらしい。

ソリストでもある中武先生は、風邪でひどい咳だ。しかも、生徒達に指示を出したり、来客の相手をしたりで、ちょこちょこ動き回っている。本番の声、大丈夫か、と、これも心配の種。

生徒達も、発声練習なしで大丈夫?

(さらに続く)


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