巷で評判高く気になっていたカーチュン・ウォン/日フィルによる、私の好きなマーラー交響曲第2番というプログラム。昨年、一般販売日の初日に気合を入れてチケット取り、この日が来るのを心待ちにしていました。
感想を正直に言うと、(期待値が高すぎたところもあるのかもしれませんが、)素直に感動したところと、何とも表現し難いもやもや感が共存した演奏でありました。
まず、オケ、合唱、独唱の熱量・集中度高いパフォーマンスが素晴らしかった。日フィルは聴き慣れたオーケストラではありませんが、ウォンの指揮に食らいつき、各奏者のほとばしる集中力が、1階席後部の私にも痛い程伝わってきました。第1楽章の冒頭の弦の低音の響きなどは、ハッとさせられ、これからの1時間半への期待がぐっと高まる合奏に始まり、全楽章を通じて金管もホール一杯に響き渡ります。要所要所での木管の調べも美しい。普段聴いているN響・都響と比較しても全く遜色ないものでした。
オケと並んで、合唱・独唱の素晴らしさも、この日の好演を支えていました。大学の合唱団だからか若いメンバーが目立ちますが、若々しい張りと透明感ある美しさに溢れた合唱でした。独唱の二人もしっかり仕事。メゾソプラノの清水華澄の歌唱が入ると、会場の空気が更に張り詰めたものに変わった印象です。
一方で、まだ私には咀嚼できずもやもや感が残ったのはカーチュン・ウォン。小柄な体を目一杯使って、明確な指示を与えながら、オーケストラをドライブする力は、「さすが今評判の指揮者」と十分納得しました。音楽もしばしばアクセントを置き、テンポも揺らします。そうして紡がれる音楽は、日フィルの献身的な貢献と合わさって、丁寧で濁りが無く、整えられた音楽でした。
ただ私には、特に前半が、不思議に響いてこないところもありました。第2楽章もとっても美しいアンサンブルでうっとりさせられるのですが、なぜか演奏の素晴らしさほど自分の中で刺さらない。「なぜだろう」「何なのか」と言った不思議な自分との対話がありました。
頻繁に現れるテンポの揺らしも、なにか計算されつくした仕掛けのような感覚をもってしまい、日フィルの奮闘には感心する一方で、整いすぎて純粋にその変化に投入できない。マーラーのこの交響曲は宇宙的な響きを感じるのが個人的なツボの1つなのですが、オケは良く鳴っているのだけど、そこまでのスケールある響きには聴こえてこない。そんな印象を持った前中盤でした(これは私の1階深部の座席位置の問題かもしれません)。
ただ第4,第5楽章と進むにつれて、ドライブ感・緊張感が更に増し、特に第5楽章後半はウォンの指揮で、オケ・独唱・合唱が一体となった素晴らしい演奏。荘厳なフィナーレは、もうこんな音楽を残してくれたマーラーにひたすら感謝、感謝です。
終演後は、完売の客席から猛烈な拍手とブラボー。オケも完全燃焼感が伺える表情です。私も大きな拍手を寄せました。
今回、お初のカーチュン・ウォンは、オケの統率や音楽の作り上げる手腕に、口をはさむ余地ない大器ぶりが感じました。この日感じた微妙なもやもや感は、単なる相性のような気もするので、今後の演奏会の中で確認していきたいと思います。
第768回東京定期演奏会
2025年3月7日 (金)19:00 開演
サントリーホール
指揮:カーチュン・ウォン[首席指揮者]
ソプラノ:吉田珠代
メゾソプラノ:清水華澄
合唱:東京音楽大学
マーラー:交響曲第2番《復活》 ハ短調
Fri, March 07, 2025
Start 19:00( Doors Open 18:20 )
Suntory Hall
Conductor: Kahchun WONG, Chief Conductor
Soprano: YOSHIDA Tamayo
Mezzosoprano: SHIMIZU Kasumi
Chorus: Tokyo College of Music
Gustav MAHLER: Symphony No.2 "Auferstehung" in C-minor