毎日新聞2022年11月26日(土)朝刊11P「今週の本棚」より
「なつかしい一冊」村井理子・選『アルジャーノンに花束を』
(抜粋)私には重い障害を持つ叔父がいた。
祖父が亡くなり、祖母が高齢になると叔父は祖母と共に私たち家族と同居するようになった。
同居は私が小学校低学年の頃で、当初は叔父も幸せそうに見えた。
しかし、一年ほど経過すると叔父は私に苛立ち、私を嫌うようになった。
ある日、祖母はこう言った「叔父さんは寂しいのよ」。
幼い私はその意味がわからず、理不尽だと腹を立てた。
『アルジャーノンに花束を』を読んで私は初めて叔父さんの変化の意味を理解したような気がしている。
「叔父は私に怒りを募らせていたのではなく、友達だと思っていた私が、彼をどんどん追い抜くように成長し、外の世界に羽ばたいていく様を見て、悲しかったのだ。その悲しさが苛立ちに変わっただけだった。私という存在は彼にとって初めての友達であると同時に、外の世界を映す鏡だったのかもしれない。」
人を理解するのは難しいです。
村井さんにとって、長い間謎だった叔父の心理を一冊の本をきっかけに理解するという経験は、まさに新聞書評欄に書くにふさわしいものだったでしょう。
たぶん叔父さんがそう考えていたかどうかではなく、村井さんがそう考えることで村井さんの中のもやもやが晴れることが大事なんです。
今朝、この欄を読んだら、叔父さんの気持ちと村井さんの気持ちが私の中に染み込んできて、ほろりとしてしまいました。
『アルジャーノンに花束を』は傑作すぎて、いつまでも忘れられない物語です。
そして、いろんなヒントを与えてくれます。
いつか、もう一度読みたい本の一冊です。