1度見ただけなのに鮮明に心に残る映像がある。
伊丹十三監督の映画「たんぽぽ」。
母親が家族のためにご飯を作る「最後のチャーハン」のシーン。
危篤状態の妻に駆けつけた夫が声をかける。
眠るな、しっかりしろ。
目をあける気配のない妻に夫が言う。
「そうだ、母ちゃん。晩飯の支度だ」
その言葉に病床に伏していた母が突如立ちあがり、ふらふらになりながら台所へ向かう。
ネギを切る、チャーハンを炒める音。
「はい、できたよ」と運んでくる母。取り分ける。
「母ちゃん、うまいよ」夫が妻に声をかける。
子供たちの食する様子。ほほ笑む母、倒れる。
「ご臨終です」 長女の悲鳴に近い泣き声。
夫「さぁ、お前たち、食え。母ちゃんが作った最後の料理だ。まだ温かいうちに食べろ」
私がこのシーンを見たのはいつだったのか・・・
10代前半だったか、テレビで家族と見ていた。
見た歳こそ覚えていないが、見た時の恐怖は覚えている。
子供だった私は母親の蒼白い顔が怖かった。
母親になって、ある日ふとこのシーンを見たくなる。
まだ自分で取り分けられない末っ子にチャーハンを手渡す時、
子供がちゃんとその重みを把握するまで手を添えている。
死ぬ間際、最後の最後まで・・・これぞ母。今の私に恐怖心はない。名シーンだと思う。
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