第466話 巨峰の皮をむきながら

2013年01月27日 20時49分59秒 | 子育て・「おママごと」

巨峰の皮をむきながら、私も母親になったんだなぁとしみじみ思う。
息子のために皮をむき、種をとる。
苦労してむいた実は息子にあっけなく食べられて終り。
爪に残った黒い巨峰のあとを洗いながら思う。
私の母もそうだった。
母はいつもむくだけ。
子供の頃、母の手から口に運んでもらった果実の甘みは格別だった。

息子はアトピーで、深夜、痒みに悩まされる。
「ママ、痒い。ここ掻いて」
寝ぼけながら言った息子の言葉にハッと目を覚まし、応える。
私ってこんなに眠りが浅かったっけ?
私の母もそうだった。
深夜、目を覚ますといつも起きていた母に「お母さんはいつ眠っているんだろう」といつも不思議だった。
少しくらい睡眠時間が短くても大丈夫。いつの間にか私も母は強しとなっていた。

雨の日、息子と歩いていると、前を歩くサラリーマンの傘が気になる。
傘を横に持ち、大きく前後に振って歩いている。
傘の先端部分が息子のちょうど目の前を往きつ戻りつ。
息子の目に刺さったら大変だ。安全な場所に避難する。
今まで世の中を158センチの高さからしか見ていなかった。
息子を産んで、地面から90センチの視点も得た。
外出先では2つの視点で安全に配慮している。

視点が増えたといえば、子供を産んでから変わったことだらけだ。
日に焼けたくないと日傘をさしていた私が、太陽の下、子供と共に公園で遊び、プールで泳ぐ。
笑顔で走る息子を追いかけ、すべり台にブランコ、おにごっこ。
虫嫌いな私が昆虫館に行き、ヘラクレスオオクワガタにだって触る。
ウルトラマンに仮面ライダー、ヒーロー戦隊とたくさんの名前と必殺技を覚えた。
ヒーローショーでは声援を送る。
男の子を産むか、女の子を産むかでその後の人生、こんなに違うんだ・・・シミも増えたが、笑い皺も増えた。

そういえば、妊娠して価値観が一変したことを思い出す。
お腹の中に赤ちゃんがいるとわかったとたん地球レベルまで、視野が壮大に広がった。
日本の将来を思い、世界平和を願い、地球環境まで考える。
今まで自分の足元ばかり見ていた私が、10年、20年先を思ったり、平和を心から願ったり。
この子の住む場所、この子の未来となると他人ごとではない。
時事・政治に疎い私が、世の中の動きを気にしだしたきっかけは妊娠だった。

妊娠中、食べたものがお腹の赤ちゃんの栄養になるかと思うと、食材選びに気を配るようになった。
離乳食期、息子が初めて出会う食べ物だから、体にいいもの、おいしいものをとひと匙の食べ物にお金も神経も注いだ。
離乳食を始めて発覚したのだが、息子は食物アレルギーだった。
卵も小麦も牛乳もダメだという。おっぱいをあげるため、私も完全除去した日々が懐かしい。
息子がいつかおいしい卵焼きを食べることのできる日を夢見て、今夜は何にしようかとスーパー店内を歩く。
少し先を一人で歩く私の手を不意に息子が握る。
息子の小さな手のひら分、少し重くなった右手を感じながら歩く幸せ。

妊娠して何がよかったですか?と問われたら、
この子のおかげで、自分の中に新しい視点を得たことだと答える。
出産して何がよかったですか?と問われたら、
この子のおかげで、未来と出会えたことだと答える。
子育てして何がよかったですか?と問われたら、
この子のおかげで、無償の愛を知ったことだと答える。
私が母から受けた無償の愛を私から息子へ・・・かけがえのない命は、かけがえのない未来へつながる。


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