徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

インフルエンザで小児の死亡例発生

2013年01月26日 07時18分49秒 | 小児科診療
 A香港型インフルエンザが流行中です。
 1月に入り、小児の死亡例の報道が散見されはじめました。

インフルエンザで未就学児死亡…佐賀(2013年1月24日 読売新聞)
 佐賀県健康増進課は23日、佐賀中部保健福祉事務所(佐賀市)管内の未就学の男児が、インフルエンザに伴う急性脳炎で20日に死亡していたことを明らかにした。


乳児院、8か月男児死亡 インフル原因か(2013年1月20日 読売新聞)
 県は19日、県立鶴岡乳児院(鶴岡市道形町)に入所していた生後8か月の男児が死亡したと発表した。同乳児院では今月13日以降、0~1歳の乳幼児5人と職員2人がインフルエンザに感染し、死亡した男児も搬送先の病院で、インフルエンザA型に感染していたことが判明した。
 病院では、インフルエンザによる脳浮腫の可能性があるとみて、CTスキャンなどで調べたが、死因は分からなかった。鶴岡署は20日、司法解剖する予定。
 県や同乳児院によると、死亡した男児は18日深夜、38~39度の高熱を出した。保育士が19日朝、様子を見たところ呼吸が弱まっていたため119番したが、病院で死亡が確認されたという。すでに感染していた乳幼児5人は同室で寝ていたが、死亡した男児は、5人とは別の0歳児用の部屋だった。同乳児院の乳幼児は、昨年11~12月にインフルエンザの予防接種を受けている。


 小児のインフルエンザで重症化し命に関わる合併症では「脳症」が有名です。
 A香港型はインフルエンザ脳症のリスクが高い型として以前から有名であり、例年1月後半をピークに流行します。
 現在「インフルエンザ脳炎」という病態は確認されていませんので、上記記事の「脳炎」は誤りで正しくは「脳症」です。
 情報提供するマスコミ側がいまだに誤った認識をしていることは残念です。

 医学的に「脳炎」と「脳症」は異なる病態です。
 「脳炎」は病原体である細菌やウイルスが脳で増殖して炎症を起こしています。
 「脳症」では病原体が脳にいません。病理解剖して電子顕微鏡でくまなく調べても、脳組織にインフルエンザウイルスは見つからないのです。

 では何が起きているのか?
 専門用語になりますがその本態は「サイトカイン・ストーム」と説明されています。
 インフルエンザ感染がきっかけとなり多種類のサイトカインという物質が生成され、それが脳浮腫(脳のむくみ)をきたして機能不全に陥らせます。

 近年まれに見る大流行となっているアメリカでは既に18名の小児死亡例が報告されていますが、その詳しい死因までは伝わってきません;

米41州でインフルエンザ大流行、子ども18人死亡(2013年01月11日:AFP)
 米国で、例年より早く流行し始めたインフルエンザが猛威を振るっており、10日までに少なくとも18人の子どもが死亡した。
 米国立アレルギー感染症研究所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases、NIAID)のアンソニー・フォーシ(Anthony Fauci)所長の話では、2003~04年以来の大流行。今シーズンのインフルエンザウイルスはH3N2型(A香港型)で、重症化する傾向が強いという。米保健当局によると昨年12月に流行が始まって以降、全米で約2200人が入院した。
 米疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention、CDC)によれば、インフルエンザの流行は41州に広がっている。昨年9月30日~12月31日の感染者数は2万2048人に上り、前年同期の849人を大きく上回った。特に感染者数が多いのは北東部のボストン(Boston)で、市当局によるとこれまでに前年同期の感染者数の10倍近い約700人の感染が確認されたという。


 一方、高齢者で多い合併症が「肺炎」です。
 インフルエンザウイルスそのものによる肺炎もありますが、多くは細菌感染によるもの。
 インフルエンザ感染で体力が落ちているときに、ここぞとばかりに細菌が侵入してこじらせ重症化させるのです。

 さらに、2009年に発生した新型インフルエンザでは、また重症化のパターンが異なります。
 新型インフルエンザで重症化しやすいのは小児でも高齢者でもなく、意外なことに体力のある青年層。
 この場合、インフルエンザウイルスそのものによる肺炎が重症化要因と解析されています。
 肺炎を起こし、多臓器不全に陥り命を落とすのが典型的なパターンです。

 1919~20年に世界を席巻した「スペイン風邪」では、全世界の死亡者は3000~5000万人とも云われています。
 第一次世界大戦では兵士がインフルエンザでたくさん死亡し、戦うべき兵士がいなくなって終戦を迎えたという説もあるほど。
 朝、咳をし始めた兵士が、夕方には血を吐いて死亡するという劇症肺炎の経過をうかがわせる記録が残っています。

 インフルエンザでは、年齢により、ウイルスのタイプにより重症化するパターンが異なるのですね。
 季節性インフルエンザ ・・・小児期は脳症、高齢者は細菌性肺炎
 新型インフルエンザ  ・・・青年期のウイルス性肺炎

 となります。
 
<参考>
■ 「A/H1N1pdm感染症の病態と病理」(国立感染症研究所:長谷川秀樹先生)
■ 「インフルエンザ脳症ガイドライン」(厚生労働省)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 他人のウンチが重症腸炎患者... | トップ | 「佐野せいじ」氏の木版画 »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小児科診療」カテゴリの最新記事