徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

「風疹で成人男性が脳炎に」

2013年05月02日 06時58分53秒 | 小児科診療
 近年まれに見る大流行中の風疹。
 先日も「先天性風疹症候群(CRS)」を取り上げたところですが、今回は大人でも重症化するというお話です。
 一般的には大人は軽症で済むと考えられていますが、感染症の常として一定の確率で重症化します:

■ 「風疹で成人男性が脳炎に」(2013年3月15日、NHK生活情報ブログ)

 より詳しい情報はこちら:

■ 「風疹髄膜脳炎を発症した成人男性の1例」(IASR Vol. 34 p. 102-103: 2013年4月号)

 上記より抜粋:

 風疹は、微熱、頸部リンパ節腫脹、全身の発疹の三徴を呈するウイルス疾患である。不顕性感染も多く、発症者の多くは軽症例であるが、関節炎、血小板減少性紫斑病、甲状腺炎、脳炎を時に合併する。脳炎を呈するのは、 6,000人に1人の頻度と稀な合併症である。脳炎症状は、皮疹の出現から通常1~8日後に認められる。主要な神経学的所見は、頭痛、失調、片麻痺であり、意識の変容、昏睡、痙攣を呈するのは稀である。80%は後遺症なく回復するとされる。稀な合併症ではあるが、昨年にも1例の成人の脳炎症例が発生した。
 風疹の多くは軽症例であるが、時に脳炎などの重篤な合併症を呈する。現在の流行期においては、風疹患者数の増加に伴い、今後も風疹による重症合併症例の発生が懸念される。このような事実を含めて、妊婦を除く妊娠可能年齢の女性やそのパートナーのみならず一般成人に対しても、注意喚起とワクチン接種の勧奨を行っていく必要がある。国立感染症研究所や当院においても風疹流行に関しての啓発ポスターを作成し、注意を呼びかけている。
 また風疹は、非典型的な症状を呈する例もみられることから、全身の紅斑を認める患者では、風疹を鑑別に挙げ精査を行うとともに、周囲の風疹ワクチン接種や抗体価の確認を含めた適切な感染拡大防止策を検討することが重要である。


 これを読むと、典型的な風疹の経過「3日間の微熱と発疹」とはかなり異なり、症状だけからの診断は困難と思われます。不顕性感染(感染しているが症状はなく、しかし他人にうつす能力はある状態)もあるので後手に回った現在の状況では重症者・被害者の発生を止めることはできません。

 自治体レベルの予防接種費用の補助(↓)が増えてきましたが、国はまだ「注意しましょう、予防接種を受けましょう」と啓発のみで危機感が感じられません。

風疹予防接種助成、29市町村に拡大 神奈川
2013.5.2:産経新聞
 神奈川県は2日、妊娠を予定している女性らを対象とする風疹の予防接種費用の一部助成(大和市と秦野市は全額助成)を行う市町村が1日までに県内33市町村のうち29市町村に拡大したと発表した。
 県によると、残る南足柄市と箱根、湯河原、真鶴の3町も実施する方向で検討しており、全県で助成が行われる見通しという。


 群馬県では、まだまだ少ないですね。

大人の風疹予防接種、一部助成 群馬
2013.4.24:産経新聞
 安中市は23日、「大人の風疹」緊急対策として、市内在住で妊娠を希望する女性と、その夫が市内の医療機関で予防接種を受ける場合、費用の一部を助成すると発表した。対象期間は来年3月末まで。今月1日以降、すでに接種を受けた人も対象で、所定の請求書や領収書などを提出すれば、助成額を振り込むという。
 助成は一回限りで、麻疹風疹の混合ワクチン(MR)5千円、風疹単独ワクチン3千円。予防接種を受ける際、医療機関に設置されている助成券を窓口に提出し、助成額を差し引いた金額を支払う形で助成が受けられる。
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2 コメント

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Unknown (ちょっと失礼)
2019-03-16 19:58:47
ワクチンを摂取せず自然感染して重篤化する確率とワクチンを摂取して副作用が起きる確率どうなんでしょうか?ワクチン推奨派はこの点の情報があまりなくただワクチンを打たないと重篤化するというところだけ強調している気がします。
この2つの確率を是非載せてほしいですわ
返信する
同意します。 (管理人です。)
2019-03-16 21:34:11
「ワクチンを接種せずに自然感染して重篤化する確率とワクチンを接種して副反応(副作用)が起きる確率」を明確化することに激しく同意します。

ただ、いろいろ調べていると、ここをあやふやにする傾向はワクチン推奨派ではなく、むしろワクチン反対派に多いと感じています。

風しんに関しては、脳炎を起こす確率は、自然感染で6000人に一人、風しんワクチンでは添付文書(http://database.japic.or.jp/pdf/newPINS/00025008.pdf)に記載がないので報告例はゼロと考えられます。

ワクチンは自然感染における“不顕性感染”(症状は出ないが免疫は獲得できる)を目指して開発されてきました。
不顕性感染より有利な点は、他人に移さないこと、不利な点は、免疫は一生続かないこと。
これは安全性とのトレードオフの関係になりますね。

以下の文章が参考になれば幸いです。
・「まちがいだらけの予防接種」(藤井俊介著)の感想とコメント(https://blog.goo.ne.jp/cuckoo-cuckoo2/e/55dbbd1f6fc7ff5d5d3da01c4e964d32
・「風しん流行を読み解く」(http://www.takei-c.com/diary/cn40/pg465.html
・“ワクチン拒否”を考える(同上)

一文を抜粋します。

・・・自然感染をワクチンに例えてみると、どうなるでしょう。
ワクチンは免疫システムに反応を起こさせるメカニズムゆえ、有効性が高いほど副反応も強い傾向があります。
副反応が弱い安全なワクチンは、有効性も低くなりがちです。副反応ゼロのワクチンは、有効率もゼロです。
そして有効率100%を求めると、副反応もさらに強くなります。自然感染はこの頂点に位置づけられる「最強&最悪のワクチン」に例えられます。
副反応が心配でワクチンを拒否する人が、一番副反応の強い「自然感染」を選択していることは、皮肉としか言いようがありません。」
風しんの怖さは、本人の重症度ではなく妊婦が感染した場合に胎児に影響が出る先天性風疹症候群であると医療者は認識しています。
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