小児アレルギー科医の視線

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アレルギーマーチは阻止できるのか?

2019年05月08日 06時55分01秒 | アトピー性皮膚炎
 近年小児アレルギー分野で話題になっている「アトピー性皮膚炎の良好なコントロールが食物アレルギーやそれに続く気管支喘息、アレルギー性鼻炎、花粉症の予防になり得るのか」に関する論考を学会誌に見つけたので読んでみました。

 現在、食物アレルギーの主因は経皮感作と考えられています。
 これは、アレルゲンと食物をたくさん食べる“ばっかり食べ”が食物アレルギーの原因ではなく、“湿疹部位から侵入した食物アレルゲンが異常反応を引き起こし食物アレルギー体質を作る”というもの。
 実際に、湿疹を治療してアレルゲンになり得る食物を微量から早期にはじめた方が食物アレルギーになりにくいというデータが集積しつつあります。

 この論考は、最新の論文を集めたものです。
 著者は PACI Study を主導している施設の医師です。

★ PACI Study(Prevention of Allergy via Cutaneous Intervention study):
 アトピー性皮膚炎に対する早期治療介入により、その後のアレルギー感作、食物アレルギー、気管支喘息などのアレルギー疾患の発症を抑制することができるかを検証するため、多施設共同で行う乳児アトピー性皮膚炎への早期介入による食物アレルギー発症予防研究/多施設共同評価者盲検ランダム化介入並行群間比較試験。


 当院でも生後数ヶ月の
 “非ステロイド系外用薬が効かない乳児湿疹”
 “良くなったり悪くなったりを繰り返す乳児湿疹”
 “かゆみを伴う乳児湿疹”
に対して、数年前から積極的に治療(プロアクティブ療法)を行っています。
 その結果、食物アレルギー検査をする頻度が激減しました。
 かゆい湿疹が続けば「食物アレルギーが悪化因子になっているかどうか調べてみましょう」となりますが、積極的治療により湿疹がない状態が続くと、その言葉が出てこないからです。
 そして気がつくと、食物アレルギーに縁がなく治療終了してしまう例が多い(もちろん、全例ではありません)。
 つまり、乳児アトピー性皮膚炎を積極的治療により良好にコントロールすると食物アレルギーの頻度を低下させることを実感しています。

 下記論考を読んでみて気になったところは、次の2点;

・生後3ヶ月までに強いステロイド外用剤使用していた乳児が、生後1歳時に最も食物アレルギーの有病率が高い(オーストラリアの研究)。
・生後4ヶ月までにプロアクティブ療法を開始したアトピー性皮膚炎乳児は、生後5ヶ月以降に開始した乳児と比較して卵アレルギー罹患率が低かった(9.1% vs. 24.2%)。


 これは、乳児アトピー性皮膚炎でも重症であればあるほど食物アレルギーのリスクが高いこと、積極的治療を早期に開始しても食物アレルギーはゼロにはならないこと(1/2〜1/3に減る)を示しています。
 つまり、乳児アトピー性皮膚炎を完璧に治療しても食物アレルギーをゼロにはできない、ということ。

 実際に、乳児期発症の食物アレルギーのうち、1/3は湿疹がない例です。
 こちらに関しても、経口免疫療法の考え方から「アレルゲンとなる食物を微量&早期からはじめる」ことで減らすことができるのではないか、と現在検討されています。

 私が小児科医になって30年、アレルギー専門医になって25年、アレルギー疾患に関してこれまでにない大きな変化が起きていることを感じる今日この頃です。


「アレルギーマーチの源流としてのアトピー性皮膚炎」
(山本貴和子、国立成育医療研究センターアレルギーセンター)
日本小児アレルギー学会誌 Vol.33, No.1 2019

アトピー性皮膚炎には4つのフェノタイプが存在する
1.持続型(乳児期から学童期まで持続):10.1%
2.乳児期発症一過性型:17.6%
3.遅発型:9.5%
4.?

気管支喘息の経過には5つのフェノタイプが存在する
1.持続型:9.2%
2.初期限定出現型:32.3%
3.小児期発症&寛解型:8.6%
4.学童期出現型:6.2%
5.?

アトピー性皮膚炎と湿疹(eczema)、皮膚炎(dermatitis)の違い
・海外では eczema と dermatitis は同義。
・infantile eczema = 乳児アトピー性皮膚炎
・日本では、本来アトピー性皮膚炎と診断されるべき乳児に「乳児湿疹」と説明することが多い。診断基準を満たせばアトピー性皮膚炎と診断し説明しなければならないが、いつか治るからほっとけばよいという指導が多くなされているのが現状である。

“乳児湿疹”とは
 生後2〜3週頃から数ヶ月までの乳児では様々な湿疹・皮膚炎を生じやすく、“総称”として“乳児湿疹”と呼んでいる。
 その中身は、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、接触皮膚炎(かぶれ)などの疾患を含んでいる。

アトピー性皮膚炎の診断基準:日本と海外
・日本の基準(日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎ガイドライン)では、慢性・反復性経過が定義の一つとされており、乳児では2ヶ月以上を慢性としている。
・海外で一番よく使われている診断基準は、イギリスのUKWP(The U. K. Working Party, Wiliamsらによる)によるもので、これには「2ヶ月以上」という項目がないため、乳児期早期においてもアトピー性皮膚炎と診断可能である。

乳児アトピー性皮膚炎とほかのアレルギー疾患の関係早期にアトピー性皮膚炎を発症するほど食物アレルギーの発症リスクが高くなる
・(日本の研究)食物アレルギーに対するリスク比は、
①生後1〜2ヶ月時の湿疹発症が最もリスクが高い(aOR, adjusted odds ratio: 6.61)
②生後3〜4ヶ月がこれに次ぐ(aOR: 4.69)
・(オーストラリアの研究)生後3ヶ月までに強いステロイド外用剤使用していた乳児が、生後1歳時に最も食物アレルギーの有病率が高い
・(ヨーロッパの研究)乳児期発症のアトピー性皮膚炎は、持続型でも一過性型でも6歳時の食物アレルギーのリスクが高く、特に、持続型は6歳時の気管支喘息、アレルギー性鼻炎、吸入抗原への感作のリスクが有意に高い。
・(カナダの研究)1歳時に感作のない小児アトピー性皮膚炎においては気管支喘息や食物アレルギーのリスクを上げないが、感作があると3歳時の気管支喘息リスクが7倍、食物アレルギーのリスクが17倍になる。

乳児期の皮膚保湿がアレルギーを予防する可能性
 生まれてから生後6ヶ月までにセラミド入りの保湿剤を1日2回たっぷり塗ると、アトピー性皮膚炎や食物アレルゲン感作のリスクを下げられる可能性を示唆した報告が増えている。

アトピー性皮膚炎発症後にプロアクティブ療法を施行すると食物アレルギー(感作・発症)のリスクが減る
・プロアクティブ療法はリアクティブ療法と比較して総IgE抗体価・卵白IgE・牛乳特異的IgE抗体が低下した。
生後4ヶ月までにプロアクティブ療法を開始したアトピー性皮膚炎乳児は、生後5ヶ月以降に開始した乳児と比較して卵アレルギー罹患率が低かった(9.1% vs. 24.2%)
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