昨年、とくにリオデジャネイロ・オリンピックの際に話題になったジカ熱。
情報がある程度揃ってきたので、この辺でもう一度まとめておきたいと思います。
私が特徴あるいはポイントと感じるのは以下の通り;
1.本人は軽症で済むが、妊婦が感染するとお腹の赤ちゃんに小頭症が発症する。これは風疹(本人は軽く済むが妊婦が感染すると胎児に「先天性風疹症候群」を発症する)と似ている。
2.蚊を媒介する感染症であるが、ヒトーヒト感染もあり得る。それも症状がなくなったあとも精液中にはしばらく出るため、性交渉は危険である。日本脳炎ウイルスも蚊を媒介とするが、ヒトーヒト感染はないところが異なる。
3.「ジカ熱」という病名から高熱が出るとイメージがあるが、微熱あるいは無熱のこともあるので「熱が出ないから大丈夫」とは言えない。
4.確定診断は症状・一般検査ではできない。ジカ熱を疑った場合は保健所を介して検査を依頼する。ウイルス分離・遺伝子検出には急性期は血清、急性期以降は尿(および精液)が適切である。
5.現時点では特効薬・ワクチンはない。
参考にした資料は、忽那賢志(くつなさとし)先生( 国立国際医療研究センター 国際感染症センター)の書いた以下のHPです;
・「感染症解説〔II〕 ジカ熱」忽那賢志(アステラス製薬)
・「話題の感染症・ジカ熱」忽那賢志(モダンメディア、2016)
・今日の臨床サポート「ジカ熱」忽那賢志
・感染症TODAY「ジカ熱ウイルス感染症」忽那賢志(ラジオNIKKEI)
・「蚊が媒介する感染症について」忽那賢志の講演スライド
なお、下線は私が引いたものです;
<ジカ熱>
ジカ熱はフラビウイルス科のジカウイルスによって起こる蚊媒介性感染症である.ジカ熱を媒介する蚊は主にネッタイシマカとヒトスジシマカである.ジカ熱は2013年のフランス領ポリネシアを経て,現在は中南米で400万人規模といわれる大流行を起こしている.
妊婦がジカ熱に感染すると胎児の小頭症発症のリスクが高くなることが関連付けられており,2016年2月1日,WHOは国際的な公衆衛生上の脅威となる緊急事態を宣言した.
ジカ熱の潜伏期は2~7日であり,微熱を含む発熱,頭痛,関節痛,筋肉痛,眼球結膜充血,皮疹などの症状を呈する.診断は,血液・尿等からのウイルス分離や,RT‐PCR法によるウイルス遺伝子検出,ペア血清によるIgM抗体あるいは中和抗体の陽転化または抗体価の有意の上昇を用いる.ジカ熱の合併症として,罹患後にギラン・バレー症候群を発症する症例が報告されている.
I.病原体
ジカウイルスはフラビウイルス科フラビウイルス属に属する.同じくフラビウイルス科に属するウイルスとして,デングウイルス,黄熱ウイルス,日本脳炎ウイルス,ダニ媒介性脳炎ウイルスなどがある.デング熱のように複数の血清型はなく,単一の血清型のみである.
II.感染経路
ジカ熱を媒介する蚊は,主にネッタイシマカ(Aedes aegypti )とヒトスジシマカ(Aedes albopictus )である.日本にはネッタイシマカは生息していないが,ヒトスジシマカは青森県~北海道を除いた日本全土に分布している.このため,日本国内でも輸入例を発端とした流行が起こりうる.
性交渉によって男性から女性,男性から男性に感染したと思われる症例も報告されている.当初,性交渉による感染例は全体のごく一部であると考えられていたが,決して稀ではないようである.回復から2カ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告もあり,現時点ではいつまでジカウイルスが精液中に残存するのか不明である.無症候性感染者から性交渉で感染したと考えられる事例もあり,症状がない患者も流行地から帰国後は8週間性交渉をしない,あるいは性交渉時にコンドームを使用することをCDCは推奨している.また輸血による感染例も報告がある.
III.疫学
ジカウイルスは,1947年にウガンダのジカ森林のアカゲザルから初めて分離され,ヒトからは1968年にナイジェリアで分離された.実際のジカ熱症例は2007年までにウガンダ,ナイジェリア,カンボジア,マレーシア,インドネシアからの報告があった.2007年ミクロネシア連邦のヤップ島でジカ熱の最初の大規模なアウトブレイクがあり,約300名の感染者が出た.2013年9月よりフランス領ポリネシアで始まったジカ熱の大流行は,ニューカレドニア,クック諸島にも波及し,感染者は3万人以上にも上ると推計されている.2015年6月にブラジルで渡航歴のないジカ熱症例が報告され,その後,急激に中南米で流行が広がった.現在,東南アジアや中南米を中心に世界46カ国がジカ熱の流行国としてWHOに指定されている.
日本ではこれまでに9例の輸入例が報告されている.PHEICが宣言される以前には2013年12月および2014年1月の症例はフランス領ポリネシアから帰国後の症例と,2014年8月のタイのサムイ島から帰国後の症例であった.PHEIC宣言以後は,全て中南米からの帰国後の症例である.
また,中南米以外にもタイ,インドネシア,マレーシア,ベトナム,フィリピン,モルディブでもジカ熱の症例が報告されており,これら日本人観光客の多い南アジア・東南アジアの地域にもジカウイルスが潜在しているものと考えられる.
IV.臨床症状
ジカウイルスに感染した場合,約80%が不顕性感染であると考えられている.ジカウイルスに感染した者のうち,約20%の患者が2~7日の潜伏期間を経て症状を呈する.ジカ熱の臨床症状として頻度が高いのは,微熱を含む発熱,関節痛,皮疹(紅斑・紅丘疹),眼球結膜充血である.これ以外にも頭痛,筋肉痛,後眼窩痛などの症状がみられることもある.ジカ熱の臨床症状を表1に示す.
ジカ熱という疾患名ではあるが,発熱は微熱程度のことが多く,全く発熱を呈さないこともある.発熱がないからといってジカ熱を除外することはできない点に注意が必要である.
一般的に軽症例が多く,入院を要することは稀である.これまでにジカ熱が原因で死亡した例は報告されていない.またデング熱のように重症化して出血症状を呈することもない.ジカ熱の症状は通常1週間以内に消失する.
V.合併症
稀にジカ熱罹患後にギラン・バレー症候群(GBS)を発症することがある.フランス領ポリネシアでは,2013年から2014年のアウトブレイクで3万人以上がジカ熱に感染したと推計されるが,42人のジカ熱感染後のGBS症例が報告されている.この42例では,ジカ熱と思われる症状が出てからGBSの症状が出現するまでの期間は中央値6日であった.またGBS発症から症状のピークに達するまでの期間も中央値6日であった.29%の症例で人工呼吸管理を要した.その他,ジカ熱の合併症として髄膜脳炎や脊髄炎を呈した症例が報告されている.
VI.鑑別診断
ジカ熱と同じ蚊媒介感染症であるデング熱とチクングニア熱に臨床像が似ている.また,近年は流行地域もこの2つの感染症と大部分が重複しており,デング熱やチクングニア熱を疑った際には,ジカ熱も鑑別診断として考慮する必要がある.デング熱,チクングニア熱とジカ熱との臨床像の違いを表2に示す.
ジカ熱は熱帯・亜熱帯で流行している感染症であることから,これらの地域で流行しているマラリア,腸チフス,リケッチア症,レプトスピラ症,住血吸虫症,A型肝炎などの発熱疾患も,同様に鑑別診断として考慮すべきである.
VII.検査・診断
ジカ熱に特徴的な検査所見はない.本邦の輸入例3例のうち2例では,軽度の白血球減少・血小板減少が確認されているが,海外での報告は少ない.
ジカ熱の確定診断はPCR法によるジカウイルス遺伝子の検出,またはペア血清によるIgM抗体あるいは中和抗体の陽転化または抗体価の有意の上昇を確認することによる.
発症早期であれば血清からのPCR法による遺伝子の検出が可能であるが,ジカ熱の発熱期間はデング熱に比べて短く,血清から遺伝子が検出される期間も短いと考えられている.血清から遺伝子が消失した後も尿や精液からはより長期間遺伝子が検出されるため,急性期を過ぎた症例では血液検体と同時に尿検体も採取することが望ましい.抗体検査は急性期と回復期のペア血清で4倍以上の上昇を確認する.2~3週間隔での採取が望ましい.
これらの検査は行政検査として行われる.ジカ熱を疑った場合には,保健所を介して検査を依頼する.
VIII.治療
現在のところ,ジカ熱に対する特異的な治療はない.それぞれの症状に対し対症療法を行う.デング熱との鑑別ができていない時点では,NSAIDsの使用は避けた方が良い.
IX.予防
現在のところ,ジカ熱に対するワクチンはない.ジカ熱の流行地域では防蚊対策を徹底することが重要である.具体的には以下のような対策がある.
・ 肌の露出が少ない服を着る(長袖・長ズボン・帽子).
・ 蚊が嫌う成分であるペルメトリンを含有した服を着用する.
・ DEETを含有した忌避剤を使用する(日本にはDEET含有の忌避剤は最大で12%のものしかないため2時間毎に塗り直す必要がある).
・宿泊時は蚊帳を使用する.
男性から女性への性交渉で発症しうると考えられているが,どのくらいの期間精液にジカウイルスが残存するかは,現時点では不明である.発症から62日後も精液からジカウイルスが検出されたという事例もある.アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は,ジカ熱に関連して性交渉について以下のように推奨している.
・ ジカ熱流行地域に渡航した男性の女性パートナーが妊娠する可能性がある場合は,無症状であれば流行地域から帰国後8週間経過するまで,ジカ熱に合致した臨床症状がある,またはジカ熱と確定診断された場合には,流行地域から帰国後6カ月経過するまで性交渉をしない,もしくは性交渉の際にコンドームを使用すること.
・ ジカ熱流行地域に渡航した男性の女性パートナーが妊娠している場合は,妊娠中は性交渉をしない,もしくは性交渉の際にコンドームを使用すること.
X.ジカ熱と小頭症との関連
2015年末頃からブラジルで小頭症の新生児の増加が報告されるようになり,ジカ熱の流行との関連が疑われるようになった.死亡した小頭症の胎児の脳組織からジカウイルスが検出された事例や,ジカ熱に感染した妊婦のうち29%でなんらかの胎児の異常が認められたという報告などが続き,CDCは妊婦のジカ熱感染と小頭症との関連があると正式に声明を発表した.
Laviniaらは,ジカ熱との関連が疑われる小頭症の新生児35人の特徴について報告している(表3).
この報告によると,60%は1st trimester,14%は2nd trimesterのときに妊婦がジカ熱に感染していたと考えられる.小頭症の中でも重症例(頭周囲長<-3SD)に該当する症例が71%であった.また先天性内反足(14%),先天性関節拘縮(11%),網膜異常(18%)などを認めたほか,半数で神経学的検査異常(49%),全例で神経画像検査異常を認めた.
フランス領ポリネシアでの流行における解析では,非流行時には1万人の新生児出生当たりの小頭症新生児の出生は2人であるのに対し,ジカ熱に感染した妊婦が小頭症の新生児を出生する頻度は1万人当たり95人と算出された.すなわち,妊婦がジカ熱に感染することによって新生児が小頭症となるリスクはおよそ50倍となる.
情報がある程度揃ってきたので、この辺でもう一度まとめておきたいと思います。
私が特徴あるいはポイントと感じるのは以下の通り;
1.本人は軽症で済むが、妊婦が感染するとお腹の赤ちゃんに小頭症が発症する。これは風疹(本人は軽く済むが妊婦が感染すると胎児に「先天性風疹症候群」を発症する)と似ている。
2.蚊を媒介する感染症であるが、ヒトーヒト感染もあり得る。それも症状がなくなったあとも精液中にはしばらく出るため、性交渉は危険である。日本脳炎ウイルスも蚊を媒介とするが、ヒトーヒト感染はないところが異なる。
3.「ジカ熱」という病名から高熱が出るとイメージがあるが、微熱あるいは無熱のこともあるので「熱が出ないから大丈夫」とは言えない。
4.確定診断は症状・一般検査ではできない。ジカ熱を疑った場合は保健所を介して検査を依頼する。ウイルス分離・遺伝子検出には急性期は血清、急性期以降は尿(および精液)が適切である。
5.現時点では特効薬・ワクチンはない。
参考にした資料は、忽那賢志(くつなさとし)先生( 国立国際医療研究センター 国際感染症センター)の書いた以下のHPです;
・「感染症解説〔II〕 ジカ熱」忽那賢志(アステラス製薬)
・「話題の感染症・ジカ熱」忽那賢志(モダンメディア、2016)
・今日の臨床サポート「ジカ熱」忽那賢志
・感染症TODAY「ジカ熱ウイルス感染症」忽那賢志(ラジオNIKKEI)
・「蚊が媒介する感染症について」忽那賢志の講演スライド
なお、下線は私が引いたものです;
<ジカ熱>
ジカ熱はフラビウイルス科のジカウイルスによって起こる蚊媒介性感染症である.ジカ熱を媒介する蚊は主にネッタイシマカとヒトスジシマカである.ジカ熱は2013年のフランス領ポリネシアを経て,現在は中南米で400万人規模といわれる大流行を起こしている.
妊婦がジカ熱に感染すると胎児の小頭症発症のリスクが高くなることが関連付けられており,2016年2月1日,WHOは国際的な公衆衛生上の脅威となる緊急事態を宣言した.
ジカ熱の潜伏期は2~7日であり,微熱を含む発熱,頭痛,関節痛,筋肉痛,眼球結膜充血,皮疹などの症状を呈する.診断は,血液・尿等からのウイルス分離や,RT‐PCR法によるウイルス遺伝子検出,ペア血清によるIgM抗体あるいは中和抗体の陽転化または抗体価の有意の上昇を用いる.ジカ熱の合併症として,罹患後にギラン・バレー症候群を発症する症例が報告されている.
I.病原体
ジカウイルスはフラビウイルス科フラビウイルス属に属する.同じくフラビウイルス科に属するウイルスとして,デングウイルス,黄熱ウイルス,日本脳炎ウイルス,ダニ媒介性脳炎ウイルスなどがある.デング熱のように複数の血清型はなく,単一の血清型のみである.
II.感染経路
ジカ熱を媒介する蚊は,主にネッタイシマカ(Aedes aegypti )とヒトスジシマカ(Aedes albopictus )である.日本にはネッタイシマカは生息していないが,ヒトスジシマカは青森県~北海道を除いた日本全土に分布している.このため,日本国内でも輸入例を発端とした流行が起こりうる.
性交渉によって男性から女性,男性から男性に感染したと思われる症例も報告されている.当初,性交渉による感染例は全体のごく一部であると考えられていたが,決して稀ではないようである.回復から2カ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告もあり,現時点ではいつまでジカウイルスが精液中に残存するのか不明である.無症候性感染者から性交渉で感染したと考えられる事例もあり,症状がない患者も流行地から帰国後は8週間性交渉をしない,あるいは性交渉時にコンドームを使用することをCDCは推奨している.また輸血による感染例も報告がある.
III.疫学
ジカウイルスは,1947年にウガンダのジカ森林のアカゲザルから初めて分離され,ヒトからは1968年にナイジェリアで分離された.実際のジカ熱症例は2007年までにウガンダ,ナイジェリア,カンボジア,マレーシア,インドネシアからの報告があった.2007年ミクロネシア連邦のヤップ島でジカ熱の最初の大規模なアウトブレイクがあり,約300名の感染者が出た.2013年9月よりフランス領ポリネシアで始まったジカ熱の大流行は,ニューカレドニア,クック諸島にも波及し,感染者は3万人以上にも上ると推計されている.2015年6月にブラジルで渡航歴のないジカ熱症例が報告され,その後,急激に中南米で流行が広がった.現在,東南アジアや中南米を中心に世界46カ国がジカ熱の流行国としてWHOに指定されている.
日本ではこれまでに9例の輸入例が報告されている.PHEICが宣言される以前には2013年12月および2014年1月の症例はフランス領ポリネシアから帰国後の症例と,2014年8月のタイのサムイ島から帰国後の症例であった.PHEIC宣言以後は,全て中南米からの帰国後の症例である.
また,中南米以外にもタイ,インドネシア,マレーシア,ベトナム,フィリピン,モルディブでもジカ熱の症例が報告されており,これら日本人観光客の多い南アジア・東南アジアの地域にもジカウイルスが潜在しているものと考えられる.
IV.臨床症状
ジカウイルスに感染した場合,約80%が不顕性感染であると考えられている.ジカウイルスに感染した者のうち,約20%の患者が2~7日の潜伏期間を経て症状を呈する.ジカ熱の臨床症状として頻度が高いのは,微熱を含む発熱,関節痛,皮疹(紅斑・紅丘疹),眼球結膜充血である.これ以外にも頭痛,筋肉痛,後眼窩痛などの症状がみられることもある.ジカ熱の臨床症状を表1に示す.
ジカ熱という疾患名ではあるが,発熱は微熱程度のことが多く,全く発熱を呈さないこともある.発熱がないからといってジカ熱を除外することはできない点に注意が必要である.
一般的に軽症例が多く,入院を要することは稀である.これまでにジカ熱が原因で死亡した例は報告されていない.またデング熱のように重症化して出血症状を呈することもない.ジカ熱の症状は通常1週間以内に消失する.
V.合併症
稀にジカ熱罹患後にギラン・バレー症候群(GBS)を発症することがある.フランス領ポリネシアでは,2013年から2014年のアウトブレイクで3万人以上がジカ熱に感染したと推計されるが,42人のジカ熱感染後のGBS症例が報告されている.この42例では,ジカ熱と思われる症状が出てからGBSの症状が出現するまでの期間は中央値6日であった.またGBS発症から症状のピークに達するまでの期間も中央値6日であった.29%の症例で人工呼吸管理を要した.その他,ジカ熱の合併症として髄膜脳炎や脊髄炎を呈した症例が報告されている.
VI.鑑別診断
ジカ熱と同じ蚊媒介感染症であるデング熱とチクングニア熱に臨床像が似ている.また,近年は流行地域もこの2つの感染症と大部分が重複しており,デング熱やチクングニア熱を疑った際には,ジカ熱も鑑別診断として考慮する必要がある.デング熱,チクングニア熱とジカ熱との臨床像の違いを表2に示す.
ジカ熱は熱帯・亜熱帯で流行している感染症であることから,これらの地域で流行しているマラリア,腸チフス,リケッチア症,レプトスピラ症,住血吸虫症,A型肝炎などの発熱疾患も,同様に鑑別診断として考慮すべきである.
VII.検査・診断
ジカ熱に特徴的な検査所見はない.本邦の輸入例3例のうち2例では,軽度の白血球減少・血小板減少が確認されているが,海外での報告は少ない.
ジカ熱の確定診断はPCR法によるジカウイルス遺伝子の検出,またはペア血清によるIgM抗体あるいは中和抗体の陽転化または抗体価の有意の上昇を確認することによる.
発症早期であれば血清からのPCR法による遺伝子の検出が可能であるが,ジカ熱の発熱期間はデング熱に比べて短く,血清から遺伝子が検出される期間も短いと考えられている.血清から遺伝子が消失した後も尿や精液からはより長期間遺伝子が検出されるため,急性期を過ぎた症例では血液検体と同時に尿検体も採取することが望ましい.抗体検査は急性期と回復期のペア血清で4倍以上の上昇を確認する.2~3週間隔での採取が望ましい.
これらの検査は行政検査として行われる.ジカ熱を疑った場合には,保健所を介して検査を依頼する.
VIII.治療
現在のところ,ジカ熱に対する特異的な治療はない.それぞれの症状に対し対症療法を行う.デング熱との鑑別ができていない時点では,NSAIDsの使用は避けた方が良い.
IX.予防
現在のところ,ジカ熱に対するワクチンはない.ジカ熱の流行地域では防蚊対策を徹底することが重要である.具体的には以下のような対策がある.
・ 肌の露出が少ない服を着る(長袖・長ズボン・帽子).
・ 蚊が嫌う成分であるペルメトリンを含有した服を着用する.
・ DEETを含有した忌避剤を使用する(日本にはDEET含有の忌避剤は最大で12%のものしかないため2時間毎に塗り直す必要がある).
・宿泊時は蚊帳を使用する.
男性から女性への性交渉で発症しうると考えられているが,どのくらいの期間精液にジカウイルスが残存するかは,現時点では不明である.発症から62日後も精液からジカウイルスが検出されたという事例もある.アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は,ジカ熱に関連して性交渉について以下のように推奨している.
・ ジカ熱流行地域に渡航した男性の女性パートナーが妊娠する可能性がある場合は,無症状であれば流行地域から帰国後8週間経過するまで,ジカ熱に合致した臨床症状がある,またはジカ熱と確定診断された場合には,流行地域から帰国後6カ月経過するまで性交渉をしない,もしくは性交渉の際にコンドームを使用すること.
・ ジカ熱流行地域に渡航した男性の女性パートナーが妊娠している場合は,妊娠中は性交渉をしない,もしくは性交渉の際にコンドームを使用すること.
X.ジカ熱と小頭症との関連
2015年末頃からブラジルで小頭症の新生児の増加が報告されるようになり,ジカ熱の流行との関連が疑われるようになった.死亡した小頭症の胎児の脳組織からジカウイルスが検出された事例や,ジカ熱に感染した妊婦のうち29%でなんらかの胎児の異常が認められたという報告などが続き,CDCは妊婦のジカ熱感染と小頭症との関連があると正式に声明を発表した.
Laviniaらは,ジカ熱との関連が疑われる小頭症の新生児35人の特徴について報告している(表3).
この報告によると,60%は1st trimester,14%は2nd trimesterのときに妊婦がジカ熱に感染していたと考えられる.小頭症の中でも重症例(頭周囲長<-3SD)に該当する症例が71%であった.また先天性内反足(14%),先天性関節拘縮(11%),網膜異常(18%)などを認めたほか,半数で神経学的検査異常(49%),全例で神経画像検査異常を認めた.
フランス領ポリネシアでの流行における解析では,非流行時には1万人の新生児出生当たりの小頭症新生児の出生は2人であるのに対し,ジカ熱に感染した妊婦が小頭症の新生児を出生する頻度は1万人当たり95人と算出された.すなわち,妊婦がジカ熱に感染することによって新生児が小頭症となるリスクはおよそ50倍となる.