メディカル・トリビューン社、2013年発行。
~帯のフレーズ~
わかってあげることから始めよう。
頭痛持ちの悩めるお子さんとその家族に。
幼児から思春期の頭痛の全てがこの一冊に。
幼稚園や小・中学校の先生もこれで安心。
「子どもの頭痛」はまず大人が理解し、共感するところから治療が始まります。
疑問や不安をまず解決!
子どもでも頭痛になるのですか?
食事で気をつけることは?
学校は休ませるの?
著者の肩書きは、
北海道大学医学部卒業、医学博士。
筑波学園病院小児科、東京クリニック小児・思春期頭痛外来で診療。
子どもの頭痛をライフワークにしているベテラン小児科医です。
「子どもの便秘」が一段落付いたので、今度は頭痛の患者向けプリントを作るべく手元の本を読み始めました。
一般向け啓蒙書なのでとても読みやすく、1日で読み終わりました。
子どもの頭痛に関する知見が俯瞰でき、知識の再確認とアップグレードができました。
子どもの頭痛の特徴として、
・持続時間が短いことがある:おとなの診断基準は4-72時間のところ、子どもは1-72時間に設定。
・片頭痛といっても必ずしも片側性ではない:診断基準には「年少児では両側性(前頭側頭部)でもよい」とある、しかし後頭部はあり得ない。
などなど。
また、古くは「自家中毒」と呼ばれた「周期性嘔吐症」が世界的には片頭痛の分類に組み込まれていると聞いていましたが、その正確な位置づけを確認できました。
痛みの程度を「視覚ペインスケール」というツールを使って把握する工夫とか、「薬が必要な頭痛は片頭痛、ガマンできる頭痛は緊張型頭痛」というコメントも参考になりました。
さて、小児の日常診療の中で、頭痛の相談があるとまず処方するのが解熱鎮痛剤です。
風邪で熱が出たときに処方される薬と同じなのです。
代表的なのがアセトアミノフェン(商品名:アンヒバ坐薬、カロナール®、コカール®など)であり、インフルエンザにも安全に使用可能な薬です。
これでダメならエルゴタミン製剤(ジヒデルゴット®)という流れでした。
一方、おとなの片頭痛診療は日進月歩で、現在は「トリプタン製剤」全盛期。
しかし小児適応(子どもへの使用許可)がなかなか出してもらえません。
臨床の現場では、アセトアミノフェンでは効果不十分な例には子どもにもトリプタン製剤が見切り発車的に使用されているとの噂も聞きます。
解決したい私の疑問は「子どもの片頭痛にトリプタン製剤は使用可能か? 可能なら何歳から?」というもの。
この本の中では、「スマトリプタン(イミグラン®)点鼻薬は12歳以上に使用可」とあり、この情報だけでも読んだ甲斐がありました。
錠剤のリザトリプタン(マクサルト®)、ゾルミトリプタン(ゾーミッグ®)も子どもの片頭痛に有効であるとのデータあり。
一方、スマトリプタン(イミグラン®)、エレトリプタン(レルパックス®)は子どもの片頭痛に有効であるとのデータはないとのこと(しかし実際使用して有効例が多いと記されています)。
しかし「イミグラン点鼻液®」の添付文書には「小児等への投与:小児等に対する安全性は確立していない(使用経験がない)。」と正式に許可されてはいません。
処方の際には「保険適用外使用」であるという「説明と同意」が必要になりますね。
※ ネットで検索すると以下の文章がありました;
「子供の片頭痛によく使われているのは、欧米でも子供の片頭痛によく使われている、リザトリプタン(マクサルトRPD錠)です。副作用が少なく、安全性が高いと評価されています。嘔吐などの強い子供には、スマトリプタン点鼻薬が良いようです。」
それから、慢性化して薬物治療無効例は、やはり心の問題、社会的不安・ストレスが悪化因子になるとも記されています。
便秘にしても、起立性調節障害にしても、うつにしても、この要素が必ず登場します。
「本人が気づき、成長して乗り越えるのをじっと見守って待つ」のが基本と書いてありました。
親業は切ないですねえ・・・。
★ 参考になるHP;
□ 日本頭痛協会
「知っておきたい学童・生徒の頭痛の知識」(養護教員用頭痛冊子2013年版)
□ 「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」(日本神経学会・日本頭痛学会)
□ 「国際頭痛分類第2版」「国際頭痛分類第3β版」(日本頭痛学会HP)
・・・日本頭痛学会のHPはリンクを張れないようブロックされているので、上記名称で検索してください。
<メモ>
自分自身のための備忘録。
■ 画像検査が必要な緊急性のある頭痛
□ 救急車を呼んで画像検査ができる病院へ
・今まで経験したことのないような激しい頭痛
・意識消失又はけいれん
・進行する神経症状(片麻痺など)
□ できるだけ早く画像検査ができる病院へ
・後頭部痛(吐気/嘔吐を伴う)
・朝の嘔吐を伴う頭痛
・物が二重に見える、ふらつくなどの神経症状
・頭痛のために睡眠中に目が覚める
・以前からの頭痛の強さや頻度が増す等変化したとき
■ 病院受診前のメモリスト
□ 頭痛の始まった時間
□ 痛む部位
□ 痛みの強さ:日常の動作で痛みが強くなるなど
□ 痛みの性質:ズキンズキン、ガンガンと脈打つ痛み、頭が締め付けられる痛みなど
□ 頭痛の起きる頻度:1ヶ月に何日くらい起きるか
□ 痛みの持続時間
□ 頭痛の前ぶれ:前兆の有無、あるとしたらどんな前兆か
□ どんなときに起きやすいか:天候、食品、睡眠不足などの誘発因子
□ 頭痛に伴う症状:吐気、嘔吐、光・音・においに敏感になるなど
□ 家族の頭痛の有無
※ 今まで罹った病気、不眠や不登校などの有無も。
■ 国際頭痛学会による頭痛分類(ICHD-)
□ 一次性頭痛
1.片頭痛
2.緊張型頭痛
3.群発頭痛と他の三叉神経・自律神経性頭痛
4.その他の一次性頭痛
□ 二次性頭痛
5.頭頚部外傷による頭痛
6.頭頸部血管障害による頭痛
7.非血管性頭蓋内疾患による頭痛
8.物質またはその離脱による頭痛
9.感染症による頭痛
10.ホメオスターシスの障害による頭痛
11.頭蓋骨、頚、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頭蓋の構成組織の障害に起因する頭痛あるいは顔面痛
12.精神疾患による頭痛
□ 頭部神経痛、中枢性・一次性顔面痛およびその他の頭痛
13.頭部神経痛及び中枢性顔面痛
14.その他の頭痛、頭部神経痛、中枢性あるいは原発性顔面痛
■ 片頭痛の分類(国際頭痛分類第2版、新訂増補日本語版、2007年より)
1.前兆のない片頭痛
2.前兆のある片頭痛
① 典型的前兆に片頭痛を伴うもの
② 典型的前兆に非片頭痛様の頭痛を伴うもの
③ 典型的前兆のみで頭痛を伴わないもの
④ 家族制片麻痺性片頭痛
⑤ 孤発性片麻痺性片頭痛
⑥ 脳底型片頭痛
3.小児周期性症候群
① 周期性嘔吐症
② 腹部片頭痛
③ 小児良性発作性めまい
④ 小児交代性片麻痺
⑤ 良性発作性斜頚
■ 片頭痛の診断基準(国際頭痛分類第2版、新訂増補日本語版、2007年より)
【前兆のない片頭痛】
A. B~Dを満たす頭痛発作が5回以上ある
B. 頭痛の持続時間は4~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)
(年少児では1~72時間)
C. 頭痛は以下の特徴の少なくとも2項目を満たす
1.片側性:年少児では両側性(前頭側頭部)でもよい(※1)
2.拍動性
3.中等度~重度の頭痛
4.(歩行や階段昇降などの)日常的な動作により頭痛が増悪する、もしくは頭痛のために日常的な動作を避けようとする
D. 頭痛発作中に以下のうち少なくとも2項目を満たす(※2)
(年少児の場合、行動から推測される)
1.悪心
2.嘔吐
3.光過敏
4.音過敏
5.におい過敏
E. その他の疾患によらない
※1) 年少児の場合は、片側のこともあれば、両側のこともある。両側が痛む頭痛でも、患者が年少児で前頭部もしくは側頭部が痛む場合には片頭痛のこともある。
※2)片頭痛の発作時は「静かなくらい部屋で寝ていたい」と感じるのが特徴である。これは音過敏や光過敏のため。におい過敏が現れている場合は、例えば電車内の香水の匂いなどにより頭痛が悪化することがある。頭痛を訴えながらも平気でテレビを見ているようであれば、痛みの程度はあまり強くないか、片頭痛以外の頭痛と考えられる。
■ 緊張型頭痛の診断基準(国際頭痛分類第2版、新訂増補日本語版、2007年より)
A.
1.稀発反復性緊張型頭痛:平均して1ヶ月に1日未満(年間12日未満)の頻度で発現する頭痛が10回以上
2.頻発反復性緊張型頭痛:3ヶ月以上にわたり、平均して1ヶ月に1日以上15日未満(年間12日以上180日未満)の頻度で発現する頭痛が10回以上
3.慢性緊張型頭痛:3ヶ月以上にわたり、平均して1ヶ月に15日以上(年間180日以上)の頻度で発現する頭痛
かつ、B~Dを満たす
B. 頭痛は30分~7日間持続する
C. 頭痛は以下の特徴の少なくとも3項目を満たす
1.両側性
2.性状は圧迫感または締め付け感(非拍動性)
3.強さは軽度~中等度
4.歩行や階段の昇降のような日常的な動作により増悪しない
D. 悪心(食欲不振は起こりうる)、嘔吐、光過敏、音過敏がない
E. その他の疾患によらない
■ 片頭痛と緊張型頭痛の相違点
(項目) (片頭痛) (緊張型頭痛)
発作的な頭痛 (+) (ー)
持続時間 (4-72時間) (30分~7日間)(※1)
(1-72時間:年少児)
部位 (片側性 (両側性)
年少児では両側性:前頭部/側頭部)
性質 (拍動性) (非拍動性)(※2)
強さ (中等度~重度)(軽度~中等度)
日常的動作による悪化(+) (ー)
悪心・嘔吐 (+) (ー)(※3)
光・音・におい過敏(+) (ー)
家族歴 濃厚 希薄
※1)慢性緊張型頭痛:絶え間なく続くことがある
※2)圧迫感または締め付け感
※3)食欲不振は起こりうる
片頭痛と緊張型頭痛という両タイプの頭痛が起こる人がいる。このような頭痛に対し、以前は「混合型頭痛」という病名が使われていたが、現在は使われなくなった。両方が起こるとしても、ある時点で起きているのは片頭痛か緊張型頭痛のどちらかなので、片頭痛があり、緊張型頭痛もあると診断されている。
■ 群発頭痛
ある時期に激しい頭痛が集中するタイプで、頭の片側に起こる。若い男性に多く、子どもに起こることは希。部位は眼窩部、眼窩上部、側頭部のうち1つ以上の部位で持続時間は15分~3時間。発作が起こる頻度は「2日に1回」から「1日に8回」。
頭痛に伴って、頭痛が起きている同側に、次のような症状を少なくとも1つ伴う。
①「結膜の充血」または「流涙」、あるいはその両方。
②「鼻閉」または「鼻漏」、あるいはその両方。
③「眼瞼浮腫」
④「前頭部及び顔面の発汗」
⑤「縮瞳」または「眼瞼下垂」、あるいはその両方。
⑥「落ち着きがない」または「興奮した様子」
■ 小児周期性症候群
小児の場合、頭痛以外の症状が強く、頭痛が現れていなくても片頭痛と診断されることがある。片頭痛に移行することが多いといわれている病気で、いずれも乳幼児期に発症することが多い。発作以外の時は症状が全くなく元気である。
□ 周期性嘔吐症
悪心と嘔吐が見られる周期性の発作。発作が始まると1時間に少なくとも4回は嘔吐が続く。発作は1時間~5日間続く。治療は、水分が不足しないように点滴で水分を補給し、吐気を軽くする薬が使われる他、片頭痛の特効薬であるトリプタンが使用されることもある。
□ 腹部片頭痛
へその周囲が発作性に痛む。1~72時間続き、痛みの程度は中等度~重度。さらに食欲不振、悪心、嘔吐、顔面蒼白のうち、少なくとも2つの症状が現れる。
海外ではよく見られるようだが、日本ではこの病気と診断される子どもは少ない。
□ 小児良性発作性めまい
重度の回転性のめまい発作。数分~数時間で自然に治まる。めったにない病気。耳鼻科での検査や脳波検査、頭部画像検査では異常がない。一過性で症状は消えるが、反復することもある。
□ 小児交代性片麻痺
体の左右いずれかに、交代制に見られる片麻痺の発作が反復する。生後18ヶ月までに発症する。
□ 良性発作性斜頚
頭部が片側に傾く症状がみられ、傾くだけでなく、少し回旋を伴うことがある。常に同じ側とは限らず、数分から数日間続いた後、反対側に傾くこともある。生後1年以内に発症し、顔面蒼白、刺激に敏感になる(易刺激性)、倦怠感、嘔吐、運動失調(年長児の場合)などの症状のうち、少なくとも1つは現れる。希な病気。
■ 起立性調節障害(OD)、不登校と頭痛
片頭痛を持つ子どもの生活歴:小学生では友達が少ない傾向にあるが、行動面での問題はない。中学生では指導的立場にあり人気もある。
□ ODと頭痛
慢性反復性頭痛の子どもの中でODの診断基準を50%が満たす。ODの子どもには一次性頭痛の片頭痛が多く、緊張性頭痛がそれに続く。また、ODをもつ不登校児では、緊張型頭痛が片頭痛より高率。
□ 不登校と頭痛
頭痛による不登校状態で受診する子どもは、片頭痛が共存していることもあるが、毎日続いている頭痛は慢性緊張型頭痛である。しかし緊張型頭痛の痛みは軽度~中等度にとどまるのがふつうで、登校できないほど強い頭痛にならないはず。この慢性連日性頭痛は、何らかのストレスや緊張のため、身体症状として頭痛が強く前面に現れている状態だと考えることができる。
頭痛が解消しても、遅刻して学校へ行けない場合には、何らかの心理・社会的要因があると考えられる。
※ 不登校と関連した慢性連日性頭痛の調査を行ったところ、慢性連日性頭痛がある不登校児は、その全てに精神疾患(適応障害、不安障害、転換性障害)が認められた。それに対し、不登校のない慢性連日性頭痛では、精神疾患が認められる子どもは20%にとどまった。
□ ODと不登校
ODだけなら、生活指導や薬の効果によって、昼頃には体調がよくなり、遅刻して登校することができる。
一方、遅刻して登校することがどうしてもできない子どもには、何らかの心理・社会的要因があると考えられる。このような場合、何かがきっかけとなり、学校がこの子にとって、大きな不安要因になって、身体疾患である起立性調節障害の症状が強くなったと考えられる。
■ 精神疾患に関連した頭痛(国際頭痛分類第2版より)
一次性頭痛(片頭痛、反復性緊張型頭痛、特に慢性緊張性頭痛)は精神疾患をしばしば共存している。幼児期、小児期、青年期に診断される睡眠障害、分離不安障害、学校恐怖症(不登校)、適応障害やその他の障害(特に注意欠陥・多動性障害、行為障害、学習障害、遺尿症、遺糞症、チック)では、小児の頭痛の支障度と予後への影響が大きいので、注意深く見つけ出し、必要があれば治療sれなければならない。また、頭痛が神経疾患によるものかどうか確定するために、頭痛と同時に精神疾患が存在するかを最初に決定することが最も重要である。すなわち、最低限、全体的な不安、パニック障害、抑うつのような一般的に共存する精神症状について問診することは重要である。
■ 発達段階から見た小児の主な頭痛
□ 幼児から小学校低学年
1.片頭痛(軽度)
2.緊張型頭痛(稀発・頻発反復性)
3.てんかんに関連した頭痛
□ 小学校高学年から高校生
1.片頭痛(軽度~中等度~重度)
2.緊張型頭痛(頻発反復性・慢性)
3.起立性調節障害の頭痛
4.心理・社会的要因関与の頭痛
※ 片頭痛を経験している子どもに、思春期になってストレスがかかるようになると、慢性緊張型頭痛が加わり、治りにくい慢性連日性頭痛になってしまうことがある。
□ あらゆる年齢(上記疾患に加えて)
1.炎症性疾患、高血圧を伴う疾患
2.耳鼻咽喉科、眼科、歯科疾患
3.脳腫瘍など脳神経外科疾患
■ 片頭痛は遺伝するか?
家族集積性がある:子どもが片頭痛の場合、男子/女子にかかわらず家族に頭痛持ちが居る割合は80%(母が片頭痛は60%)。
ただし、片頭痛の遺伝子に関しては、家族制片麻痺性偏頭痛という特殊な片頭痛の遺伝子が見つかっているのみで、一般的な片頭痛に関しては現在の所特定の遺伝子は発見されていない。そのため、複数の遺伝子と環境因子が発症に関係している多因子遺伝病であると推測されている。
しかし、「国際頭痛分類第2版」の診断基準には、頭痛の家族歴は含まれていない(以前使われていた小児片頭痛に関するいくつかの診断基準には含まれていた)。
■ 痛みの評価法~幼児にも使える「視覚ペインスケール」
幼児期までは症状を言葉で表現する能力が未熟。言葉による表現に頼らずに痛みを評価する方法として「視覚ペインスケール」が有用である。どの程度の痛みかを、スケールの表情から本人と保護者に選んでもらうと、本人の訴えている痛みと、保護者から見た客観的な痛みの程度の療法を評価することができる。
■ 前兆の「閃輝暗点」とは?
片頭痛の前兆として知られ、見ようとするところが暗くぼやけ、その周りがキラキラ光って見える現象。
著者の外来では、子どもの片頭痛のうち女子の35%、男子の26%が「前兆のある片頭痛」だった。
■ 特殊型「脳底型片頭痛」
一過性に津日のような症状のうち少なくとも2つが現れる;
・構音障害:おしゃべりがしづらくなる
・回転性めまい:周りがグルグル回る
・耳鳴り/難聴:耳が聞こえにくくなる
・複視:物が二重に見える
・両眼の視覚障害:物が見えにくくなる
・運動失調:よろめいたり倒れやすくなったりする
・意識レベルの低下:意識がぼんやりする
・両側性の感覚障害:両手足がチクチクしたりムズムズしたりする
※ これらの症状はてんかんの発作でも見られるため、症状が現れている場合には脳波の検査を受けてんかんでないことを確認しておくことも必要である。
■ 薬物乱用頭痛
頭痛に対する急性期治療薬を、1ヶ月に10日あるいは15日以上使用することが、3ヶ月を越えて続いていて、この薬物乱用によって、頭痛が現れたか、あるいは頭痛がはっきりと悪化した場合をいう。
■ 子どもの頭痛の慢性化リスク要因と対処法
□ 慢性化のリスク要因
1.片頭痛の既往
回数の少ない片頭痛に緊張型頭痛が加わり、慢性化していることが多い。
2.気持ちを言語化するのが苦手な、いわゆるよい子にストレスがかかると、頭痛が慢性化しやすい。
3.年齢的要因
思春期(特に中学生が要注意)
4.共存症のある場合
1)起立性調節障害
2)精神疾患(適応障害、不安障害、身体表現性障害、抑うつ状態、発達障害)
□ 対処法:慢性化の早期発見
回数が少ない時期に、正しい片頭痛の診断と対処法を知り、回数が多くなったら早めに受診する。
■ 小児一次性頭痛の簡易診断アルゴリズム
① 二次性頭痛の除外
② 日常生活の支障度→ 小さい→ 片頭痛(軽度)、反復性緊張型頭痛
↓
大きい
↓
③1ヶ月何日頭痛があるか
→ 15日未満→ 片頭痛(中等度~重度)
→ ④前兆はあるか→ ある:前兆のある片頭痛
→ ない:前兆のない片頭痛
→ 15日以上→ 慢性連日性頭痛
→ ⑤心理・社会的要因は?→ ある:慢性緊張型頭痛
→ ない:慢性片頭痛
■ 頭痛の発生頻度
【片頭痛】
□ 3-19歳の調査:男児1.4-13.8(平均6.0)%、女児2.1-28.4(平均9.7)%、全体の有病率は7.7%
□ 中学生の調査(安藤直樹医師):男児3.3%、女児6.5%、全体では4.8%
思春期前では男女ともに2.5%前後、思春期になると男児4%、女児6.4%。成人では女性が男性の3倍。
【緊張型頭痛】
□ 7-19歳の調査:男児0.9-19.1(平均10.1)%、女児1.7-23.2(平均14.5)%。
一般病院(筆者の勤務病院)の小児科外来に頭痛を訴えて受診した2-15歳では、片頭痛57%、緊張型頭痛16%、片頭痛と緊張型頭痛の共存4%、2次性頭痛3%、分類できない頭痛20%。
■ 小児片頭痛の治療の基本
1.正しい片頭痛の診断
2.非薬物療法
① 誘発因子(まぶしい光、チーズ、チョコレートなどの食品)があればそれを避ける
② 睡眠時間:年少児ほど十分な睡眠が必要
③ 規則正しい食事や水分摂取、適度な運動などの生活リズム
④ 過程、学校、習い事などにおける心理・社会的ストレスの把握
3.薬物療法
① 急性期治療
② 予防薬
■ 片頭痛に使う薬
□ 急性期治療
鎮痛剤は頭痛が始まったら、あるいは頭痛の前兆が短い場合は前兆が起こったらすぐに服用する。できるだけ早く十分な量を服用するのが、薬を良く効かせる上手な使い方。
子どもの頭痛の第一選択薬は解熱鎮痛剤のイブプロフェン(ブルフェン®、ユニプロン®)とアセトアミノフェン(カロナール®、コカール®、アンヒバ®、アルピニー®ほか)。
吐気を伴うときは、制吐剤のドンペリドン(ナウゼリン®)やメトクロプラミド(プリンペラン®)を併用する。
これらを使用しても十分な効果が得られない場合は、トリプタン製剤(※)の使用を考える。
ただし緊張型頭痛には、片頭痛ほど薬が効きません。
※ トリプタン製剤は片頭痛の特効薬で、その一種である「スマトリプタン点鼻薬(イミグラン点鼻液®)」は12歳以上で有効例多数。イミグラン点鼻液®は苦味があるので嫌がる子どももいる。上を向いて点鼻すると、喉に液が垂れて強い苦味を感じる。正面を向いたまま点鼻し、鼻孔を数分間押さえるようにすると、あまり苦味を感じない。キャンディを舐めながら点鼻することもオススメ。
※ イブプロフェンやトリプタンは現状では「適応外使用」になる。しかし、決められた量を使用している場合には、海外でも問題になる副作用は報告されていない。イブプロフェンやアセトアミノフェンが効かない場合や、頭痛に伴ってひどい嘔吐を繰り返す場合には、QOLの改善を期待して、トリプタン系薬剤の投与を考えるべきである。
□ 予防薬
繰り返す片頭痛により日常生活に支障をきたしている場合は予防薬の投与を考える。
すぐに効果が現れるわけではなく、まったく頭痛が起きなくなるとも限らない。有効かどうかは8~12週間使用してみてはじめてわかる。
・ロメリジン(ミグシス®、テラナス®):カルシウム拮抗薬。思春期の学童に有効例多い。
・シプロヘプタジン(ペリアクチン®):抗ヒスタミン薬。10歳以下によく使用される。けいれん誘発作用があるので、発熱時は中止するなど慎重に使用する必要がある。
・アミトリプチリン(トリプタノール®):三環系抗うつ薬。思春期以降でよく使われ、緊張型頭痛の予防薬としても効果があるため、片頭痛と緊張型頭痛が共存する患者さんにも効果が期待できる。
・トピラマート(トピナ®)、バルプロ酸(デパケン®、セレニカ®。バレリン®、ハイセレニン®):抗てんかん薬。子どもに使用する場合は定期的な肝機能検査が必要。
■ 緊張性頭痛の治療
1.非薬物療法・生活指導
・疲労、食事を抜く、不規則な睡眠、ストレスなどが関連していることがよくある。習い事、塾、部活動などで生活が加重になっていないか、家庭や学校などの集団生活における人間関係に問題はないかなど、子どもの置かれた生活環境を見直す。
・心理・社会的要因や精神疾患が関与していることがある。
・早寝早起きを励行させて生活リズムを整え、栄養バランスのとれた食事を規則正しくすること、適度な運動を勧める。
・ゲームやテレビは時間を制限する。ゲームやテレビに長時間集中し、同じ姿勢を取り続けることによって、首筋のこりや肩のこり、あるいは眼精疲労が起こりやすくなる。そもそも、発達途上の子どもにとってゲームやテレビに集中するのは百害あって一利無しである。
※ 成人の場合は長時間のパソコン作業で緊張型頭痛が起きやすい。
・何をする場合でも、長時間同じ姿勢を続けないように心がける。
2.薬物療法
片頭痛のように発作性ではなく、持続する頭痛のため鎮痛剤を使用するタイミングが難しい。
使用される鎮痛剤は片頭痛と同じくイブプロフェンとアセトアミノフェンである。
おとなでは予防薬として、抗うつ薬のアミトリプチリンや抗不安薬のエチゾラムが使われることがある。緊張を和らげて快眠をもたらす薬であるが、子どもに対する効果の研究は片頭痛ほど進んでいない。
■ 慢性連日性頭痛
1.概要
頭痛の最重症型。
1日に4時間以上の頭痛が、1ヶ月間に15日以上あり、それが3ヶ月異常持続している場合に診断される。
分類上は慢性片頭痛、慢性緊張型頭痛、持続性片側頭痛、新規発症持続性連日性頭痛という4つのタイプからなるが、おとなでも子どもでも多いのは慢性片頭痛と慢性緊張型頭痛である。
思春期以降では精神疾患の共存と薬物乱用頭痛を考える必要がある。日本は子どもの薬物乱用頭痛は少なく、むしろ心理・社会的要因が関与する頭痛が多くを占める。
片頭痛と緊張型頭痛の共存は12~14歳の中学生に多く見られ、心理・社会的要因のあるものはないものに比べ難治性になりやすい傾向がある。
2.治療
1.非薬物療法・生活指導
基礎に片頭痛があったとしてもそれだけということはなく、何らかのストレスや緊張があり、そのために身体症状として頭痛が前面に出ている状態と考えられ、基本的に難治であるのでこの頭痛と気長に付き合っていく覚悟がまず必要である。
★ 「頭痛ダイアリー」の活用
小学生までなら、睡眠不足などの生活習慣が原因になっていることが多い。
中学生であれば、心理社会学的要因が誘因になっていることがよくある。しかし、頭痛を訴えている子どもたちは、自分で原因に気づけるほど成熟していない。その「気づき」を促すのに有用なツールが「頭痛ダイアリー」である。
頭痛ダイアリーは小学生までなら保護者が記入する。保護者は子どもから聞き出すのではなく、基本的に子どもを観察して記入する。中学生には自分で記入させる。
生活の状況を責めたり、改めるように諭してはいけない。本人が自分の状態に気づき、何とかしようと思うまで待つことが大切である。
★ 心に問題がある頭痛の対応の基本
子どもと親を別々に面接する。
<子どもへ>
①頭痛はしばらく続くので、頭痛があってもできることから始めよう。
②今日からまず家族の一番身近な人(母親?)に思ったことをストレートに言おう。
③頭痛ダイアリーに頭痛の様子と日常生活、できれば気持ちも書こう。
<親へ>
①この頭痛は治りにくく、鎮痛薬は効かないので、気長に経過を見ていこう。
②心にあることを言語化できない子に強い頭痛が続くことが多いので、本人に気持ちを吐き出させる環境を整えよう。
③根掘り葉掘り聞くより、親は黙って見守る方が有効。反抗的になることは、自我の形成の証で回復の一歩と考える。
★ 親子のカウンセリング
必ず親子別々に行う。
思春期にさしかかる小学校高学年から中学生の頃、子どもを取り巻く環境は厳しくなる。こうした中で、いわゆる「よい子」タイプで自分の気持ちを適切に表現できないためストレスをため込んでしまい、そのために強い頭痛が起きていることが多い。
このような場合、カウンセリングを通じて、本人の心の葛藤を言語化できるようになると、その頃から頭痛は軽減し始め、そして1年くらい経つと、頭痛の訴えは聞かれなくなるか、発作性の片頭痛のみとなる。親からは、子どもは押したり引いたりするよいも、見守りながらそれぞれの成長を待つしかないと、悟った意見が聞かれるようになる。
子どもの頭痛の専門医として、特に慢性緊張性頭痛に不登校などの心理・社会的要因を伴うような患者さんに接していると、「親子の心の成長にとことん付き合わずには、子どもたちの難治な頭痛は治せない」という境地にたどり着く。
2.薬物療法
心理社会的要因が絡む頭痛には、鎮痛剤はあまり効果が期待できない。
抗うつ薬のアミトリプチリン(トリプタノール®)は小児期や思春期の片頭痛と緊張性頭痛の予防薬として使用されている。
抑うつ状態、強迫性障害、睡眠障害、社会不安が強い場合には、抗不安薬のエチゾラム(デパス®)やアルプラゾラム(コンスタン®、ソラナックス®)、あるいは抗うつ薬のフルボキサミン(ルボックス®、デプロメール®)を症状に応じて使用し、一定の効果が得られている。
ODが共存している場合には、低血圧治療薬のミドドリン(メトリジン®)、漢方薬の小建中湯や補中益気湯などを使用する。
■ 薬物治療がうまくいかないとき
□ 生活環境を見直す:睡眠は十分に取れているか、食事は規則的に取っているか、過密なスケジュールになっていないかなど。
□ 診断を見直す:緊張型頭痛には片頭痛のトリプタン製剤は効かない。片頭痛の薬を8週間以上使用しても効かない場合には、片頭痛が種ではなく、慢性緊張型頭痛が主となっている頭痛である可能性がある。
□ セカンドオピニオンを求める。
□ 鎮痛薬の使い過ぎをチェック:1ヶ月間に鎮痛剤の使用が10日を越えている場合には、生活環境を見直すことや、予防薬を服用することを考える。予防薬を使用するときは、数ヶ月間服用して頭痛のない状態が続いていたら、服用量を半分にしてみる。それで頭痛が多くならなければ、減らした量を続ける。悪化した場合は元に戻す。治療の目安は、頭痛によって生活に支障があるかどうかで、生活に支障のない状態にコントロールすることを目指す。
~帯のフレーズ~
わかってあげることから始めよう。
頭痛持ちの悩めるお子さんとその家族に。
幼児から思春期の頭痛の全てがこの一冊に。
幼稚園や小・中学校の先生もこれで安心。
「子どもの頭痛」はまず大人が理解し、共感するところから治療が始まります。
疑問や不安をまず解決!
子どもでも頭痛になるのですか?
食事で気をつけることは?
学校は休ませるの?
著者の肩書きは、
北海道大学医学部卒業、医学博士。
筑波学園病院小児科、東京クリニック小児・思春期頭痛外来で診療。
子どもの頭痛をライフワークにしているベテラン小児科医です。
「子どもの便秘」が一段落付いたので、今度は頭痛の患者向けプリントを作るべく手元の本を読み始めました。
一般向け啓蒙書なのでとても読みやすく、1日で読み終わりました。
子どもの頭痛に関する知見が俯瞰でき、知識の再確認とアップグレードができました。
子どもの頭痛の特徴として、
・持続時間が短いことがある:おとなの診断基準は4-72時間のところ、子どもは1-72時間に設定。
・片頭痛といっても必ずしも片側性ではない:診断基準には「年少児では両側性(前頭側頭部)でもよい」とある、しかし後頭部はあり得ない。
などなど。
また、古くは「自家中毒」と呼ばれた「周期性嘔吐症」が世界的には片頭痛の分類に組み込まれていると聞いていましたが、その正確な位置づけを確認できました。
痛みの程度を「視覚ペインスケール」というツールを使って把握する工夫とか、「薬が必要な頭痛は片頭痛、ガマンできる頭痛は緊張型頭痛」というコメントも参考になりました。
さて、小児の日常診療の中で、頭痛の相談があるとまず処方するのが解熱鎮痛剤です。
風邪で熱が出たときに処方される薬と同じなのです。
代表的なのがアセトアミノフェン(商品名:アンヒバ坐薬、カロナール®、コカール®など)であり、インフルエンザにも安全に使用可能な薬です。
これでダメならエルゴタミン製剤(ジヒデルゴット®)という流れでした。
一方、おとなの片頭痛診療は日進月歩で、現在は「トリプタン製剤」全盛期。
しかし小児適応(子どもへの使用許可)がなかなか出してもらえません。
臨床の現場では、アセトアミノフェンでは効果不十分な例には子どもにもトリプタン製剤が見切り発車的に使用されているとの噂も聞きます。
解決したい私の疑問は「子どもの片頭痛にトリプタン製剤は使用可能か? 可能なら何歳から?」というもの。
この本の中では、「スマトリプタン(イミグラン®)点鼻薬は12歳以上に使用可」とあり、この情報だけでも読んだ甲斐がありました。
錠剤のリザトリプタン(マクサルト®)、ゾルミトリプタン(ゾーミッグ®)も子どもの片頭痛に有効であるとのデータあり。
一方、スマトリプタン(イミグラン®)、エレトリプタン(レルパックス®)は子どもの片頭痛に有効であるとのデータはないとのこと(しかし実際使用して有効例が多いと記されています)。
しかし「イミグラン点鼻液®」の添付文書には「小児等への投与:小児等に対する安全性は確立していない(使用経験がない)。」と正式に許可されてはいません。
処方の際には「保険適用外使用」であるという「説明と同意」が必要になりますね。
※ ネットで検索すると以下の文章がありました;
「子供の片頭痛によく使われているのは、欧米でも子供の片頭痛によく使われている、リザトリプタン(マクサルトRPD錠)です。副作用が少なく、安全性が高いと評価されています。嘔吐などの強い子供には、スマトリプタン点鼻薬が良いようです。」
それから、慢性化して薬物治療無効例は、やはり心の問題、社会的不安・ストレスが悪化因子になるとも記されています。
便秘にしても、起立性調節障害にしても、うつにしても、この要素が必ず登場します。
「本人が気づき、成長して乗り越えるのをじっと見守って待つ」のが基本と書いてありました。
親業は切ないですねえ・・・。
★ 参考になるHP;
□ 日本頭痛協会
「知っておきたい学童・生徒の頭痛の知識」(養護教員用頭痛冊子2013年版)
□ 「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」(日本神経学会・日本頭痛学会)
□ 「国際頭痛分類第2版」「国際頭痛分類第3β版」(日本頭痛学会HP)
・・・日本頭痛学会のHPはリンクを張れないようブロックされているので、上記名称で検索してください。
<メモ>
自分自身のための備忘録。
■ 画像検査が必要な緊急性のある頭痛
□ 救急車を呼んで画像検査ができる病院へ
・今まで経験したことのないような激しい頭痛
・意識消失又はけいれん
・進行する神経症状(片麻痺など)
□ できるだけ早く画像検査ができる病院へ
・後頭部痛(吐気/嘔吐を伴う)
・朝の嘔吐を伴う頭痛
・物が二重に見える、ふらつくなどの神経症状
・頭痛のために睡眠中に目が覚める
・以前からの頭痛の強さや頻度が増す等変化したとき
■ 病院受診前のメモリスト
□ 頭痛の始まった時間
□ 痛む部位
□ 痛みの強さ:日常の動作で痛みが強くなるなど
□ 痛みの性質:ズキンズキン、ガンガンと脈打つ痛み、頭が締め付けられる痛みなど
□ 頭痛の起きる頻度:1ヶ月に何日くらい起きるか
□ 痛みの持続時間
□ 頭痛の前ぶれ:前兆の有無、あるとしたらどんな前兆か
□ どんなときに起きやすいか:天候、食品、睡眠不足などの誘発因子
□ 頭痛に伴う症状:吐気、嘔吐、光・音・においに敏感になるなど
□ 家族の頭痛の有無
※ 今まで罹った病気、不眠や不登校などの有無も。
■ 国際頭痛学会による頭痛分類(ICHD-)
□ 一次性頭痛
1.片頭痛
2.緊張型頭痛
3.群発頭痛と他の三叉神経・自律神経性頭痛
4.その他の一次性頭痛
□ 二次性頭痛
5.頭頚部外傷による頭痛
6.頭頸部血管障害による頭痛
7.非血管性頭蓋内疾患による頭痛
8.物質またはその離脱による頭痛
9.感染症による頭痛
10.ホメオスターシスの障害による頭痛
11.頭蓋骨、頚、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頭蓋の構成組織の障害に起因する頭痛あるいは顔面痛
12.精神疾患による頭痛
□ 頭部神経痛、中枢性・一次性顔面痛およびその他の頭痛
13.頭部神経痛及び中枢性顔面痛
14.その他の頭痛、頭部神経痛、中枢性あるいは原発性顔面痛
■ 片頭痛の分類(国際頭痛分類第2版、新訂増補日本語版、2007年より)
1.前兆のない片頭痛
2.前兆のある片頭痛
① 典型的前兆に片頭痛を伴うもの
② 典型的前兆に非片頭痛様の頭痛を伴うもの
③ 典型的前兆のみで頭痛を伴わないもの
④ 家族制片麻痺性片頭痛
⑤ 孤発性片麻痺性片頭痛
⑥ 脳底型片頭痛
3.小児周期性症候群
① 周期性嘔吐症
② 腹部片頭痛
③ 小児良性発作性めまい
④ 小児交代性片麻痺
⑤ 良性発作性斜頚
■ 片頭痛の診断基準(国際頭痛分類第2版、新訂増補日本語版、2007年より)
【前兆のない片頭痛】
A. B~Dを満たす頭痛発作が5回以上ある
B. 頭痛の持続時間は4~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)
(年少児では1~72時間)
C. 頭痛は以下の特徴の少なくとも2項目を満たす
1.片側性:年少児では両側性(前頭側頭部)でもよい(※1)
2.拍動性
3.中等度~重度の頭痛
4.(歩行や階段昇降などの)日常的な動作により頭痛が増悪する、もしくは頭痛のために日常的な動作を避けようとする
D. 頭痛発作中に以下のうち少なくとも2項目を満たす(※2)
(年少児の場合、行動から推測される)
1.悪心
2.嘔吐
3.光過敏
4.音過敏
5.におい過敏
E. その他の疾患によらない
※1) 年少児の場合は、片側のこともあれば、両側のこともある。両側が痛む頭痛でも、患者が年少児で前頭部もしくは側頭部が痛む場合には片頭痛のこともある。
※2)片頭痛の発作時は「静かなくらい部屋で寝ていたい」と感じるのが特徴である。これは音過敏や光過敏のため。におい過敏が現れている場合は、例えば電車内の香水の匂いなどにより頭痛が悪化することがある。頭痛を訴えながらも平気でテレビを見ているようであれば、痛みの程度はあまり強くないか、片頭痛以外の頭痛と考えられる。
■ 緊張型頭痛の診断基準(国際頭痛分類第2版、新訂増補日本語版、2007年より)
A.
1.稀発反復性緊張型頭痛:平均して1ヶ月に1日未満(年間12日未満)の頻度で発現する頭痛が10回以上
2.頻発反復性緊張型頭痛:3ヶ月以上にわたり、平均して1ヶ月に1日以上15日未満(年間12日以上180日未満)の頻度で発現する頭痛が10回以上
3.慢性緊張型頭痛:3ヶ月以上にわたり、平均して1ヶ月に15日以上(年間180日以上)の頻度で発現する頭痛
かつ、B~Dを満たす
B. 頭痛は30分~7日間持続する
C. 頭痛は以下の特徴の少なくとも3項目を満たす
1.両側性
2.性状は圧迫感または締め付け感(非拍動性)
3.強さは軽度~中等度
4.歩行や階段の昇降のような日常的な動作により増悪しない
D. 悪心(食欲不振は起こりうる)、嘔吐、光過敏、音過敏がない
E. その他の疾患によらない
■ 片頭痛と緊張型頭痛の相違点
(項目) (片頭痛) (緊張型頭痛)
発作的な頭痛 (+) (ー)
持続時間 (4-72時間) (30分~7日間)(※1)
(1-72時間:年少児)
部位 (片側性 (両側性)
年少児では両側性:前頭部/側頭部)
性質 (拍動性) (非拍動性)(※2)
強さ (中等度~重度)(軽度~中等度)
日常的動作による悪化(+) (ー)
悪心・嘔吐 (+) (ー)(※3)
光・音・におい過敏(+) (ー)
家族歴 濃厚 希薄
※1)慢性緊張型頭痛:絶え間なく続くことがある
※2)圧迫感または締め付け感
※3)食欲不振は起こりうる
片頭痛と緊張型頭痛という両タイプの頭痛が起こる人がいる。このような頭痛に対し、以前は「混合型頭痛」という病名が使われていたが、現在は使われなくなった。両方が起こるとしても、ある時点で起きているのは片頭痛か緊張型頭痛のどちらかなので、片頭痛があり、緊張型頭痛もあると診断されている。
■ 群発頭痛
ある時期に激しい頭痛が集中するタイプで、頭の片側に起こる。若い男性に多く、子どもに起こることは希。部位は眼窩部、眼窩上部、側頭部のうち1つ以上の部位で持続時間は15分~3時間。発作が起こる頻度は「2日に1回」から「1日に8回」。
頭痛に伴って、頭痛が起きている同側に、次のような症状を少なくとも1つ伴う。
①「結膜の充血」または「流涙」、あるいはその両方。
②「鼻閉」または「鼻漏」、あるいはその両方。
③「眼瞼浮腫」
④「前頭部及び顔面の発汗」
⑤「縮瞳」または「眼瞼下垂」、あるいはその両方。
⑥「落ち着きがない」または「興奮した様子」
■ 小児周期性症候群
小児の場合、頭痛以外の症状が強く、頭痛が現れていなくても片頭痛と診断されることがある。片頭痛に移行することが多いといわれている病気で、いずれも乳幼児期に発症することが多い。発作以外の時は症状が全くなく元気である。
□ 周期性嘔吐症
悪心と嘔吐が見られる周期性の発作。発作が始まると1時間に少なくとも4回は嘔吐が続く。発作は1時間~5日間続く。治療は、水分が不足しないように点滴で水分を補給し、吐気を軽くする薬が使われる他、片頭痛の特効薬であるトリプタンが使用されることもある。
□ 腹部片頭痛
へその周囲が発作性に痛む。1~72時間続き、痛みの程度は中等度~重度。さらに食欲不振、悪心、嘔吐、顔面蒼白のうち、少なくとも2つの症状が現れる。
海外ではよく見られるようだが、日本ではこの病気と診断される子どもは少ない。
□ 小児良性発作性めまい
重度の回転性のめまい発作。数分~数時間で自然に治まる。めったにない病気。耳鼻科での検査や脳波検査、頭部画像検査では異常がない。一過性で症状は消えるが、反復することもある。
□ 小児交代性片麻痺
体の左右いずれかに、交代制に見られる片麻痺の発作が反復する。生後18ヶ月までに発症する。
□ 良性発作性斜頚
頭部が片側に傾く症状がみられ、傾くだけでなく、少し回旋を伴うことがある。常に同じ側とは限らず、数分から数日間続いた後、反対側に傾くこともある。生後1年以内に発症し、顔面蒼白、刺激に敏感になる(易刺激性)、倦怠感、嘔吐、運動失調(年長児の場合)などの症状のうち、少なくとも1つは現れる。希な病気。
■ 起立性調節障害(OD)、不登校と頭痛
片頭痛を持つ子どもの生活歴:小学生では友達が少ない傾向にあるが、行動面での問題はない。中学生では指導的立場にあり人気もある。
□ ODと頭痛
慢性反復性頭痛の子どもの中でODの診断基準を50%が満たす。ODの子どもには一次性頭痛の片頭痛が多く、緊張性頭痛がそれに続く。また、ODをもつ不登校児では、緊張型頭痛が片頭痛より高率。
□ 不登校と頭痛
頭痛による不登校状態で受診する子どもは、片頭痛が共存していることもあるが、毎日続いている頭痛は慢性緊張型頭痛である。しかし緊張型頭痛の痛みは軽度~中等度にとどまるのがふつうで、登校できないほど強い頭痛にならないはず。この慢性連日性頭痛は、何らかのストレスや緊張のため、身体症状として頭痛が強く前面に現れている状態だと考えることができる。
頭痛が解消しても、遅刻して学校へ行けない場合には、何らかの心理・社会的要因があると考えられる。
※ 不登校と関連した慢性連日性頭痛の調査を行ったところ、慢性連日性頭痛がある不登校児は、その全てに精神疾患(適応障害、不安障害、転換性障害)が認められた。それに対し、不登校のない慢性連日性頭痛では、精神疾患が認められる子どもは20%にとどまった。
□ ODと不登校
ODだけなら、生活指導や薬の効果によって、昼頃には体調がよくなり、遅刻して登校することができる。
一方、遅刻して登校することがどうしてもできない子どもには、何らかの心理・社会的要因があると考えられる。このような場合、何かがきっかけとなり、学校がこの子にとって、大きな不安要因になって、身体疾患である起立性調節障害の症状が強くなったと考えられる。
■ 精神疾患に関連した頭痛(国際頭痛分類第2版より)
一次性頭痛(片頭痛、反復性緊張型頭痛、特に慢性緊張性頭痛)は精神疾患をしばしば共存している。幼児期、小児期、青年期に診断される睡眠障害、分離不安障害、学校恐怖症(不登校)、適応障害やその他の障害(特に注意欠陥・多動性障害、行為障害、学習障害、遺尿症、遺糞症、チック)では、小児の頭痛の支障度と予後への影響が大きいので、注意深く見つけ出し、必要があれば治療sれなければならない。また、頭痛が神経疾患によるものかどうか確定するために、頭痛と同時に精神疾患が存在するかを最初に決定することが最も重要である。すなわち、最低限、全体的な不安、パニック障害、抑うつのような一般的に共存する精神症状について問診することは重要である。
■ 発達段階から見た小児の主な頭痛
□ 幼児から小学校低学年
1.片頭痛(軽度)
2.緊張型頭痛(稀発・頻発反復性)
3.てんかんに関連した頭痛
□ 小学校高学年から高校生
1.片頭痛(軽度~中等度~重度)
2.緊張型頭痛(頻発反復性・慢性)
3.起立性調節障害の頭痛
4.心理・社会的要因関与の頭痛
※ 片頭痛を経験している子どもに、思春期になってストレスがかかるようになると、慢性緊張型頭痛が加わり、治りにくい慢性連日性頭痛になってしまうことがある。
□ あらゆる年齢(上記疾患に加えて)
1.炎症性疾患、高血圧を伴う疾患
2.耳鼻咽喉科、眼科、歯科疾患
3.脳腫瘍など脳神経外科疾患
■ 片頭痛は遺伝するか?
家族集積性がある:子どもが片頭痛の場合、男子/女子にかかわらず家族に頭痛持ちが居る割合は80%(母が片頭痛は60%)。
ただし、片頭痛の遺伝子に関しては、家族制片麻痺性偏頭痛という特殊な片頭痛の遺伝子が見つかっているのみで、一般的な片頭痛に関しては現在の所特定の遺伝子は発見されていない。そのため、複数の遺伝子と環境因子が発症に関係している多因子遺伝病であると推測されている。
しかし、「国際頭痛分類第2版」の診断基準には、頭痛の家族歴は含まれていない(以前使われていた小児片頭痛に関するいくつかの診断基準には含まれていた)。
■ 痛みの評価法~幼児にも使える「視覚ペインスケール」
幼児期までは症状を言葉で表現する能力が未熟。言葉による表現に頼らずに痛みを評価する方法として「視覚ペインスケール」が有用である。どの程度の痛みかを、スケールの表情から本人と保護者に選んでもらうと、本人の訴えている痛みと、保護者から見た客観的な痛みの程度の療法を評価することができる。
■ 前兆の「閃輝暗点」とは?
片頭痛の前兆として知られ、見ようとするところが暗くぼやけ、その周りがキラキラ光って見える現象。
著者の外来では、子どもの片頭痛のうち女子の35%、男子の26%が「前兆のある片頭痛」だった。
■ 特殊型「脳底型片頭痛」
一過性に津日のような症状のうち少なくとも2つが現れる;
・構音障害:おしゃべりがしづらくなる
・回転性めまい:周りがグルグル回る
・耳鳴り/難聴:耳が聞こえにくくなる
・複視:物が二重に見える
・両眼の視覚障害:物が見えにくくなる
・運動失調:よろめいたり倒れやすくなったりする
・意識レベルの低下:意識がぼんやりする
・両側性の感覚障害:両手足がチクチクしたりムズムズしたりする
※ これらの症状はてんかんの発作でも見られるため、症状が現れている場合には脳波の検査を受けてんかんでないことを確認しておくことも必要である。
■ 薬物乱用頭痛
頭痛に対する急性期治療薬を、1ヶ月に10日あるいは15日以上使用することが、3ヶ月を越えて続いていて、この薬物乱用によって、頭痛が現れたか、あるいは頭痛がはっきりと悪化した場合をいう。
■ 子どもの頭痛の慢性化リスク要因と対処法
□ 慢性化のリスク要因
1.片頭痛の既往
回数の少ない片頭痛に緊張型頭痛が加わり、慢性化していることが多い。
2.気持ちを言語化するのが苦手な、いわゆるよい子にストレスがかかると、頭痛が慢性化しやすい。
3.年齢的要因
思春期(特に中学生が要注意)
4.共存症のある場合
1)起立性調節障害
2)精神疾患(適応障害、不安障害、身体表現性障害、抑うつ状態、発達障害)
□ 対処法:慢性化の早期発見
回数が少ない時期に、正しい片頭痛の診断と対処法を知り、回数が多くなったら早めに受診する。
■ 小児一次性頭痛の簡易診断アルゴリズム
① 二次性頭痛の除外
② 日常生活の支障度→ 小さい→ 片頭痛(軽度)、反復性緊張型頭痛
↓
大きい
↓
③1ヶ月何日頭痛があるか
→ 15日未満→ 片頭痛(中等度~重度)
→ ④前兆はあるか→ ある:前兆のある片頭痛
→ ない:前兆のない片頭痛
→ 15日以上→ 慢性連日性頭痛
→ ⑤心理・社会的要因は?→ ある:慢性緊張型頭痛
→ ない:慢性片頭痛
■ 頭痛の発生頻度
【片頭痛】
□ 3-19歳の調査:男児1.4-13.8(平均6.0)%、女児2.1-28.4(平均9.7)%、全体の有病率は7.7%
□ 中学生の調査(安藤直樹医師):男児3.3%、女児6.5%、全体では4.8%
思春期前では男女ともに2.5%前後、思春期になると男児4%、女児6.4%。成人では女性が男性の3倍。
【緊張型頭痛】
□ 7-19歳の調査:男児0.9-19.1(平均10.1)%、女児1.7-23.2(平均14.5)%。
一般病院(筆者の勤務病院)の小児科外来に頭痛を訴えて受診した2-15歳では、片頭痛57%、緊張型頭痛16%、片頭痛と緊張型頭痛の共存4%、2次性頭痛3%、分類できない頭痛20%。
■ 小児片頭痛の治療の基本
1.正しい片頭痛の診断
2.非薬物療法
① 誘発因子(まぶしい光、チーズ、チョコレートなどの食品)があればそれを避ける
② 睡眠時間:年少児ほど十分な睡眠が必要
③ 規則正しい食事や水分摂取、適度な運動などの生活リズム
④ 過程、学校、習い事などにおける心理・社会的ストレスの把握
3.薬物療法
① 急性期治療
② 予防薬
■ 片頭痛に使う薬
□ 急性期治療
鎮痛剤は頭痛が始まったら、あるいは頭痛の前兆が短い場合は前兆が起こったらすぐに服用する。できるだけ早く十分な量を服用するのが、薬を良く効かせる上手な使い方。
子どもの頭痛の第一選択薬は解熱鎮痛剤のイブプロフェン(ブルフェン®、ユニプロン®)とアセトアミノフェン(カロナール®、コカール®、アンヒバ®、アルピニー®ほか)。
吐気を伴うときは、制吐剤のドンペリドン(ナウゼリン®)やメトクロプラミド(プリンペラン®)を併用する。
これらを使用しても十分な効果が得られない場合は、トリプタン製剤(※)の使用を考える。
ただし緊張型頭痛には、片頭痛ほど薬が効きません。
※ トリプタン製剤は片頭痛の特効薬で、その一種である「スマトリプタン点鼻薬(イミグラン点鼻液®)」は12歳以上で有効例多数。イミグラン点鼻液®は苦味があるので嫌がる子どももいる。上を向いて点鼻すると、喉に液が垂れて強い苦味を感じる。正面を向いたまま点鼻し、鼻孔を数分間押さえるようにすると、あまり苦味を感じない。キャンディを舐めながら点鼻することもオススメ。
※ イブプロフェンやトリプタンは現状では「適応外使用」になる。しかし、決められた量を使用している場合には、海外でも問題になる副作用は報告されていない。イブプロフェンやアセトアミノフェンが効かない場合や、頭痛に伴ってひどい嘔吐を繰り返す場合には、QOLの改善を期待して、トリプタン系薬剤の投与を考えるべきである。
□ 予防薬
繰り返す片頭痛により日常生活に支障をきたしている場合は予防薬の投与を考える。
すぐに効果が現れるわけではなく、まったく頭痛が起きなくなるとも限らない。有効かどうかは8~12週間使用してみてはじめてわかる。
・ロメリジン(ミグシス®、テラナス®):カルシウム拮抗薬。思春期の学童に有効例多い。
・シプロヘプタジン(ペリアクチン®):抗ヒスタミン薬。10歳以下によく使用される。けいれん誘発作用があるので、発熱時は中止するなど慎重に使用する必要がある。
・アミトリプチリン(トリプタノール®):三環系抗うつ薬。思春期以降でよく使われ、緊張型頭痛の予防薬としても効果があるため、片頭痛と緊張型頭痛が共存する患者さんにも効果が期待できる。
・トピラマート(トピナ®)、バルプロ酸(デパケン®、セレニカ®。バレリン®、ハイセレニン®):抗てんかん薬。子どもに使用する場合は定期的な肝機能検査が必要。
■ 緊張性頭痛の治療
1.非薬物療法・生活指導
・疲労、食事を抜く、不規則な睡眠、ストレスなどが関連していることがよくある。習い事、塾、部活動などで生活が加重になっていないか、家庭や学校などの集団生活における人間関係に問題はないかなど、子どもの置かれた生活環境を見直す。
・心理・社会的要因や精神疾患が関与していることがある。
・早寝早起きを励行させて生活リズムを整え、栄養バランスのとれた食事を規則正しくすること、適度な運動を勧める。
・ゲームやテレビは時間を制限する。ゲームやテレビに長時間集中し、同じ姿勢を取り続けることによって、首筋のこりや肩のこり、あるいは眼精疲労が起こりやすくなる。そもそも、発達途上の子どもにとってゲームやテレビに集中するのは百害あって一利無しである。
※ 成人の場合は長時間のパソコン作業で緊張型頭痛が起きやすい。
・何をする場合でも、長時間同じ姿勢を続けないように心がける。
2.薬物療法
片頭痛のように発作性ではなく、持続する頭痛のため鎮痛剤を使用するタイミングが難しい。
使用される鎮痛剤は片頭痛と同じくイブプロフェンとアセトアミノフェンである。
おとなでは予防薬として、抗うつ薬のアミトリプチリンや抗不安薬のエチゾラムが使われることがある。緊張を和らげて快眠をもたらす薬であるが、子どもに対する効果の研究は片頭痛ほど進んでいない。
■ 慢性連日性頭痛
1.概要
頭痛の最重症型。
1日に4時間以上の頭痛が、1ヶ月間に15日以上あり、それが3ヶ月異常持続している場合に診断される。
分類上は慢性片頭痛、慢性緊張型頭痛、持続性片側頭痛、新規発症持続性連日性頭痛という4つのタイプからなるが、おとなでも子どもでも多いのは慢性片頭痛と慢性緊張型頭痛である。
思春期以降では精神疾患の共存と薬物乱用頭痛を考える必要がある。日本は子どもの薬物乱用頭痛は少なく、むしろ心理・社会的要因が関与する頭痛が多くを占める。
片頭痛と緊張型頭痛の共存は12~14歳の中学生に多く見られ、心理・社会的要因のあるものはないものに比べ難治性になりやすい傾向がある。
2.治療
1.非薬物療法・生活指導
基礎に片頭痛があったとしてもそれだけということはなく、何らかのストレスや緊張があり、そのために身体症状として頭痛が前面に出ている状態と考えられ、基本的に難治であるのでこの頭痛と気長に付き合っていく覚悟がまず必要である。
★ 「頭痛ダイアリー」の活用
小学生までなら、睡眠不足などの生活習慣が原因になっていることが多い。
中学生であれば、心理社会学的要因が誘因になっていることがよくある。しかし、頭痛を訴えている子どもたちは、自分で原因に気づけるほど成熟していない。その「気づき」を促すのに有用なツールが「頭痛ダイアリー」である。
頭痛ダイアリーは小学生までなら保護者が記入する。保護者は子どもから聞き出すのではなく、基本的に子どもを観察して記入する。中学生には自分で記入させる。
生活の状況を責めたり、改めるように諭してはいけない。本人が自分の状態に気づき、何とかしようと思うまで待つことが大切である。
★ 心に問題がある頭痛の対応の基本
子どもと親を別々に面接する。
<子どもへ>
①頭痛はしばらく続くので、頭痛があってもできることから始めよう。
②今日からまず家族の一番身近な人(母親?)に思ったことをストレートに言おう。
③頭痛ダイアリーに頭痛の様子と日常生活、できれば気持ちも書こう。
<親へ>
①この頭痛は治りにくく、鎮痛薬は効かないので、気長に経過を見ていこう。
②心にあることを言語化できない子に強い頭痛が続くことが多いので、本人に気持ちを吐き出させる環境を整えよう。
③根掘り葉掘り聞くより、親は黙って見守る方が有効。反抗的になることは、自我の形成の証で回復の一歩と考える。
★ 親子のカウンセリング
必ず親子別々に行う。
思春期にさしかかる小学校高学年から中学生の頃、子どもを取り巻く環境は厳しくなる。こうした中で、いわゆる「よい子」タイプで自分の気持ちを適切に表現できないためストレスをため込んでしまい、そのために強い頭痛が起きていることが多い。
このような場合、カウンセリングを通じて、本人の心の葛藤を言語化できるようになると、その頃から頭痛は軽減し始め、そして1年くらい経つと、頭痛の訴えは聞かれなくなるか、発作性の片頭痛のみとなる。親からは、子どもは押したり引いたりするよいも、見守りながらそれぞれの成長を待つしかないと、悟った意見が聞かれるようになる。
子どもの頭痛の専門医として、特に慢性緊張性頭痛に不登校などの心理・社会的要因を伴うような患者さんに接していると、「親子の心の成長にとことん付き合わずには、子どもたちの難治な頭痛は治せない」という境地にたどり着く。
2.薬物療法
心理社会的要因が絡む頭痛には、鎮痛剤はあまり効果が期待できない。
抗うつ薬のアミトリプチリン(トリプタノール®)は小児期や思春期の片頭痛と緊張性頭痛の予防薬として使用されている。
抑うつ状態、強迫性障害、睡眠障害、社会不安が強い場合には、抗不安薬のエチゾラム(デパス®)やアルプラゾラム(コンスタン®、ソラナックス®)、あるいは抗うつ薬のフルボキサミン(ルボックス®、デプロメール®)を症状に応じて使用し、一定の効果が得られている。
ODが共存している場合には、低血圧治療薬のミドドリン(メトリジン®)、漢方薬の小建中湯や補中益気湯などを使用する。
■ 薬物治療がうまくいかないとき
□ 生活環境を見直す:睡眠は十分に取れているか、食事は規則的に取っているか、過密なスケジュールになっていないかなど。
□ 診断を見直す:緊張型頭痛には片頭痛のトリプタン製剤は効かない。片頭痛の薬を8週間以上使用しても効かない場合には、片頭痛が種ではなく、慢性緊張型頭痛が主となっている頭痛である可能性がある。
□ セカンドオピニオンを求める。
□ 鎮痛薬の使い過ぎをチェック:1ヶ月間に鎮痛剤の使用が10日を越えている場合には、生活環境を見直すことや、予防薬を服用することを考える。予防薬を使用するときは、数ヶ月間服用して頭痛のない状態が続いていたら、服用量を半分にしてみる。それで頭痛が多くならなければ、減らした量を続ける。悪化した場合は元に戻す。治療の目安は、頭痛によって生活に支障があるかどうかで、生活に支障のない状態にコントロールすることを目指す。