小児アレルギー科医の視線

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1960年以前の家畜への抗菌薬入り飼料によりペニシリン耐性が始まった。

2017年12月26日 05時55分18秒 | アレルギー性鼻炎
 耐性菌は人に臨床応用する前から存在していた、そしてその理由は家畜への抗菌薬使用だった、と推論した「The Lancet Infectious Diseases」掲載論文を紹介します。
 現在でも家畜飼料に入れる抗菌薬が問題視されており、未解決問題です。
 医師が「抗菌薬適正使用」しても、これを防ぐことはできません。

■ アンピシリン耐性菌は臨床導入前から存在していた?
(HealthDay News:2017/12/26:ケアネット)
 ペニシリン系抗菌薬の一つであるアンピシリンに対する耐性菌は、同薬がヒトの感染症治療に使用されるようになった1960年代よりも前から存在していたことが、パスツール研究所(フランス)のFrancois-Xavier Weill氏らによる研究で明らかになった。詳細は「The Lancet Infectious Diseases」11月29日オンライン版に掲載された。
 アンピシリンは広域スペクトルのペニシリン系抗菌薬で、英国では1961年に感染症の治療薬として発売されて以降、尿路感染症や中耳炎、肺炎、淋病などの治療に使用されてきた。しかし、同国では発売のわずか数年後(1962~1964年)にアンピシリンに耐性を示す細菌(S. Typhimurium)の感染が広がった。
 今回、Weill氏らは1911~1969年に欧州、アジア、アフリカ、アメリカの各地域における31カ国でヒト、動物、食品、家畜の餌から分離された288のS. Typhimurium株のアンピシリンに対する感受性の検査を実施。また、全ゲノムシークエンス解析を行い、アンピシリンに対する耐性獲得のメカニズムを特定した。
 その結果、ヒトから採取された分離株の約4%で多様なアンピシリン耐性遺伝子が同定された。また、ヒトの感染症治療にアンピシリンが使用されるようになる前の1959~1960年にフランスやチュニジアでヒトから採取された分離株において、アンピシリン耐性に関連する遺伝子(blaTEM-1)が認められた
 Weill氏によると、北米や欧州では1950年代から1960年代にかけて、家畜の餌に低用量のペニシリン(主に狭域スペクトルのペニシリン系抗菌薬であるベンジルペニシリン)が添加されていた。同氏は「今回の研究では直接的な因果関係を明らかにすることはできなかった」としながらも、「病気の治療以外の目的で家畜にペニシリン系抗菌薬を投与していたことが、1950年代後半の耐性菌の出現につながった可能性がある」との見方を示している。
 さらに、同氏は同誌のニュースリリースで「この研究結果は農場の土壌や排水、肥料などに残留する抗菌薬が、考えられていた以上に耐性菌の拡大に影響していることを示唆している」と指摘。「細菌には国境はない。世界レベルでヒトだけでなく動物における耐性菌の監視と調査を実施すべきだ」と強調している。
 ヒトに重篤な感染症をもたらす細菌の多くは、アンピシリンなどの抗菌薬に対する耐性を獲得している。耐性菌による世界の死亡者数(年間)は2050年には1000万人を超えると予測されている。こうした問題を背景に、世界保健機関(WHO)は最近、健康な家畜への日常的な抗菌薬の使用を中止するよう呼び掛けている


<原著論文>
・Tran-Dien A, et al. Lancet Infect Dis. 2017 Nov 29.
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