小児のI型糖尿病患者さんを勤務医時代に数人担当したことがあります。
インスリン注射が必要なタイプ。
一方、成人では経口血糖降下剤が中心の2型糖尿病が多勢です。
食事療法は「カロリー制限&バランス食」から「糖質制限食」へ緩やかに移行しつつあります。
薬物治療はどうなっているのでしょう。
新規経口糖尿病薬の名前を最近よく聞くようになりました。
概説した記事を読んでみました;
■ 2017年に飛躍的発展遂げた糖尿病治療-米専門家の見解は?
(HealthDay News:2018/01/22:ケアネット)
2017年は糖尿病の研究と治療が飛躍的発展を遂げた一年であった。特に進歩がみられた分野には、
(1)人工膵臓技術
(2)糖尿病治療薬による心血管疾患リスクの低減
(3)持続血糖測定(CGM)の進歩
(4)1型糖尿病の妊婦における血糖コントロールの改善
(5)超速効型インスリンの承認
(6)医療コストへの関心の高まり
-の6つが挙げられる。これらの進歩の意義について、米国の専門家に見解を聞いた。
2017年に最も注目を集めたのは「人工膵臓の実用化」であろう。メドトロニック社による携帯型の人工膵臓デバイスには、インスリンポンプとCGMが装備され、コンピューターのアルゴリズムによってモニターした血糖値に応じてインスリン投与量を自動的に調整し、インスリン注入を行う。血糖値が下がり過ぎるとインスリンの注入を一時的に中断する機能も備えている。
操作はまだ完全に自動化されておらず、デバイスを装着した患者は食事中に含まれる炭水化物の摂取量や1日数回測定した血糖値を入力する必要があるが、若年性糖尿病研究財団(JDRF)のAaron Kowalski氏は「人工膵臓デバイスの実用化はわれわれの悲願であった。その機能は完璧ではないとしても、患者に大きな利益をもたらすものだ」と高く評価している。現在では、数十社が独自の人工膵臓システムの開発に着手しており、同氏は「競争でより革新的なデバイスが生まれる可能性がある。今後数年間の成果に期待したい」と話している。
また、2017年には糖尿病患者で懸念される心血管疾患リスクについても新しい研究結果が発表された。約400人の成人1型糖尿病患者を対象としたプラセボ対照二重盲検のランダム化比較試験(REMOVAL試験)の結果、メトホルミンの長期投与は1型糖尿病患者の心血管疾患リスクを低減することが第77回米国糖尿病学会(ADA)で発表された。ADAのChief Scientific & medical officerを務めるWilliam Cefalu氏は「心血管疾患は糖尿病合併症の中でも死に至るリスクが高く、治療コストもかかる。既にSGLT-2阻害薬やGLP-1受容体作動薬については2型糖尿病患者の心血管疾患リスクを低減したとの報告がある」と述べている。
糖尿病治療の技術革新は人工膵臓にとどまらず、米食品医薬品局(FDA)がアボット社のフラッシュグルコースモニタリングシステム「FreeStyle Libre」を承認したことも注目を集めた。このシステムでは皮膚の下に小さなセンサーワイヤーを挿入して血糖値を測定するが、患者は装置をセンサーにかざすと測定した血糖値の情報を読み取ることができる。また、このシステムでは採血のための指先の穿刺を必要としない。Kowalski氏は「CGMから常に送られる血糖測定値に精神的な負担を感じる患者もいる。FreeStyle Libreはこうした負担を軽減するほか、他のCGMよりデバイスが薄く、価格も安いといったメリットもある」と説明している。
また、CGMに関しては、1型糖尿病の妊婦を対象とした非盲検の国際的なランダム化比較試験(CONCEPTT試験)により、CGMを使用することで非使用よりも血糖目標を達成する期間が延長し、新生児アウトカムも改善することが報告されている(Lancet 2017; 390: 2347-2359)。
その他、2017年9月にFDAが承認した新しい超速効型インスリンアスパルト製剤(Fiasp®)にも期待が寄せられている。従来の超速効型インスリン製剤は吸収速度が遅く、血中に移行するまで約5~10分を要するため、食事の約10分前にインスリンを注射する必要があった。しかし、この新しい製剤は約2.5分で血中に移行し始めるため、食事開始後20分までに注射をすれば食後血糖値の上昇を抑えられる。
さらに、インスリンに関しては過去10年間で急上昇したコストが課題とされている。ADAは“Make Insulin Affordable(インスリンを手ごろな価格に)”と題したキャンペーンを開始しており、この問題への関心を高める活動を行っている。
Cefalu氏は「2017年の研究の進展で糖尿病とその合併症への理解が深まったほか、糖尿病患者が直面している経済的課題や治療へのアクセスといった面への配慮もなされるようになった」と話している。
なるほど、なるほど。
次は山田悟先生の解説・概説をメディカル・トリビューンの記事から。
■ 大きく変わった糖尿病薬物療法アルゴリズム 〜ADA2018年版勧告
(2017年12月22日:メディカル・トリビューン)
米国糖尿病学会(ADA)は、毎年1月にStandards of Medical Care in Diabetesという勧告集を機関誌であるDiabetes Careの付録(supplementation)として発表している(2014年以前はclinical practice recommendationという名前であった)。このたび、2018年版の勧告が発表され、2型糖尿病患者の薬物療法のアルゴリズムが大きく変更されたのでご紹介したい(Diabetes Care 2018;41:S73-S85)。
◇ 勧告のポイント1(1型糖尿病):2017年版と変わらず
最初に記載されているのは1型糖尿病患者の薬物療法であり、この部分の勧告は2017年版と全く変わっていない。
・1型糖尿病患者のほとんどは追加インスリンと基礎インスリンから成るインスリン頻回注射療法か、持続皮下インスリン注入(CSII)で治療すべきである。
・低血糖リスクを下げるため、1型糖尿病患者のほとんどは超速効型インスリンアナログを使用すべきである。
・1型糖尿病患者には、糖質摂取、食前血糖値、予想される身体活動量の三者に対してインスリン注射量を適合するという応用カーボカウント指導の教育を考慮する。
・CSIIを上手に使っていた1型糖尿病患者は65歳を超えてもCSII治療の機会が与えられるべきである。
◇ 勧告のポイント2(2型糖尿病):第二選択薬を横並びにせず
ここが今回、変更されたところである。
・メトホルミンは、禁忌でなく、忍容性がある限りにおいて、2型糖尿病薬物療法の望ましい開始治療薬である。
・メトホルミンの長期使用はビタミンB(VB)12欠乏と関連するかもしれず、定期的な血中VB12測定を検討すべきである。特に、貧血や末梢神経障害のある患者ではそうすべきである。
・新規に診断された2型糖尿病患者のうち、症候性であったり、HbA1c10%以上であったり、随時血糖値が300mg/dL以上の患者には、開始治療薬としてインスリン療法を考慮すべきである。
・HbA1c 9%以上の新規診断2型糖尿病患者には、2剤併用での経口治療薬の開始を考慮すべきである
・動脈硬化性心血管疾患の既往のない患者で、3か月間目標HbA1cが達成できない場合、薬剤特異的な要素と患者ごとの要素を加味して追加薬剤を選択する。
・薬物療法の選択においては患者中心アプローチを用いるべきである。すなわち、有効性、低血糖リスク、動脈硬化性心血管疾患の既往、体重への影響、潜在的な副作用、腎臓への効果、投与法、費用、患者の嗜好を踏まえて考慮する。
・動脈硬化性心血管疾患の既往のある2型糖尿病患者では、生活習慣管理、メトホルミンで開始し、続いて、薬剤特異的な要素と患者ごとの要素に基づいた考慮の上で、主要有害心血管イベント(MACE)や心血管死への有効性を証明している薬物(現時点ではエンパグリフロジンとリラグルチド)を追加する。
・動脈硬化性心血管疾患の既往のある2型糖尿病患者では、生活習慣管理、メトホルミンの後で、薬剤特異的な要素と患者ごとの要素に基づきつつ、MACEを減らすためにカナグリフロジンの追加を考慮してもよい。
・継続した薬物レジメンの再評価や患者要素とレジメンの複雑さを考慮した調整を推奨する。
・血糖目標を達成できない2型糖尿病患者に対する治療強化は遅らせるべきでなく、それにはインスリン療法の考慮も含まれる。
・メトホルミンは、禁忌でなく、忍容性がある限りにおいて、他の治療薬との併用において継続されるべきである。
2017年版勧告(Diabetes Care 2017;40:S64-S74)でも「長期にわたって血糖管理が十分でなく、動脈硬化性心血管疾患の既往のある2型糖尿病患者では心血管死や総死亡を減少させることを示したエンパグリフロジンとリラグルチドが考慮されるべきである」との記載はあったが、2018年版では「長期にわたって血糖管理が十分でなく」といった条件がなくなった。何よりも大きく変更されたのが「一般的な薬物療法勧告の図」と「糖尿病治療薬の一覧表」である。
2017年版までの勧告では、2012年のADA・欧州糖尿病学会(EASD)の合同アルゴリズム(Diabetes Care 2012;35:1364-1379)を踏襲し、開始薬としてメトホルミンを挙げ、第二選択薬としてさまざまな薬剤(SU薬, チアゾリジン薬, DPP-4阻害薬, SGLT2阻害薬, GLP-1受容体作動薬, 基礎インスリン)を横一線に挙げていた(図1)。
図1. 2017年版勧告における薬物療法アルゴリズム
(Diabetes Care 2017;40:S64-S74)
このタイプの図を目にしたことのある先生も多いであろう。それが今回は、第二選択薬を横並びにはせず、まずは患者を心血管疾患の有無で分けることを求めたのである(図2)。
図2. 2018年版勧告における薬物療法アルゴリズム
その上で、心血管疾患の既往のある患者に対しては心血管疾患保護の科学的根拠のある治療薬を推奨するというスタンスを取り、そのために薬物一覧表の記載を大きく変更した。
2017年版までは表の1行目(項目名)は、
① クラス(例;ビグアナイド)
② 薬剤名(例;メトホルミン)
③ 基礎的作用機序(例;AMPキナーゼ活性化)
④ 臨床的作用機序(例;肝糖産生低下)
⑤ 有益性(例;豊富な使用経験、低血糖がまれ、心血管イベント抑制、比較的HbA1c低下作用が強い)
⑥ 不利益〔例;消化器症状、VB12欠乏、推算糸球体濾過量(eGFR)
―の7項目であった。
これに対し2018年版では、
① クラス(例;ビグアナイド)
② 薬剤名(例;メトホルミン)
③ 基礎的作用機序(例;AMPキナーゼ活性化)
④ 臨床的作用機序(例;肝糖産生低下)
⑤ 腎機能に対する用量調整の勧告
―というほぼ従来通りの表に加えて、
① クラス
② 血糖低下効果
③ 低血糖の発生頻度
④ 体重変化
⑤ 心血管イベント(動脈硬化症・心不全)
⑥ 費用
⑦ 経口/皮下注射
⑧ 腎臓(糖尿病性腎臓病の進行・腎不全時用量調整)
⑨追記
―の9項目(⑤と⑧を分けると11項目)が並んだ薬剤特異的要素の表が新設された(表)。
表. 治療薬選択において考慮すべき薬剤特異的および患者側の要素
(図2、表ともDiabetes Care 2018;41:S73-S85)
◇ 私の考察:薬剤の序列付けが進むか
元来、脂質異常症の治療の中では、心血管疾患の一次(初発)予防と二次(再発)予防とを分けて考えるという概念が一般的であった。今回のADAの勧告では、糖尿病の薬物療法においても、心血管疾患の初発予防と再発予防を分けて考えるという概念が明確に示された。心血管疾患は脂質異常症だけでなく、糖尿病の合併症としても重要なものであり、こうした概念が定着していく可能性は高い。
また、今回動脈硬化性心血管疾患に対して有益あるいは潜在的に有益とされた薬剤の一部(カナグリフロジン、エンパグリフロジン、リラグルチド)は、糖尿病性腎臓病の進行予防に対しても有益であったと表に示されている。そうした点も第二選択薬を横並びにできない理由になろう。
わが国のガイドラインでは糖尿病治療薬は経口か皮下注射かで大別され、経口薬に関しては作用機序で患者ごとに適応を考えることになっている。しかし、臓器保護効果についての科学的根拠は考慮されていない。
また、実臨床の現場では、例えばインスリン分泌が低下している患者への処方として、インスリン分泌促進系薬剤を考えたとしても、同じインスリン分泌促進系薬剤の中での(SU薬かグリニド薬かDPP-4阻害薬かの)選択が求められる。作用機序だけでは患者ごとの適応を考えることは不可能といえる。そうした意味では、わが国の実臨床の現場でも、今回のADAの勧告のような、あるいは米国臨床内分泌学会/米国内分泌医会(AACE/ACE)の勧告(Endocr Pract 2016, 22, 84-113)のような、薬剤を序列付したものの方が使い勝手が良いのではないかと感じる(上記文献の107ページ参照)。
AACE/ACEの勧告では、単独療法の場合には、メトホルミン、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬...という序列付けが2016年の段階でなされている。今回のADAの勧告の改訂は、これを追認したような印象である。これらはいずれも海外の指針ではあるが、今後のわが国における糖尿病治療薬の処方動向も、今回の勧告の改訂によりなんらかの影響を受けていく可能性があるように感じる。
経口血糖降下剤がたくさん開発・発売され、メカニズムや作用、特徴を考慮して選択する時代になってきたのですね。
日本のガイドラインはその視点ではまだ不十分なようです。
インスリン注射が必要なタイプ。
一方、成人では経口血糖降下剤が中心の2型糖尿病が多勢です。
食事療法は「カロリー制限&バランス食」から「糖質制限食」へ緩やかに移行しつつあります。
薬物治療はどうなっているのでしょう。
新規経口糖尿病薬の名前を最近よく聞くようになりました。
概説した記事を読んでみました;
■ 2017年に飛躍的発展遂げた糖尿病治療-米専門家の見解は?
(HealthDay News:2018/01/22:ケアネット)
2017年は糖尿病の研究と治療が飛躍的発展を遂げた一年であった。特に進歩がみられた分野には、
(1)人工膵臓技術
(2)糖尿病治療薬による心血管疾患リスクの低減
(3)持続血糖測定(CGM)の進歩
(4)1型糖尿病の妊婦における血糖コントロールの改善
(5)超速効型インスリンの承認
(6)医療コストへの関心の高まり
-の6つが挙げられる。これらの進歩の意義について、米国の専門家に見解を聞いた。
2017年に最も注目を集めたのは「人工膵臓の実用化」であろう。メドトロニック社による携帯型の人工膵臓デバイスには、インスリンポンプとCGMが装備され、コンピューターのアルゴリズムによってモニターした血糖値に応じてインスリン投与量を自動的に調整し、インスリン注入を行う。血糖値が下がり過ぎるとインスリンの注入を一時的に中断する機能も備えている。
操作はまだ完全に自動化されておらず、デバイスを装着した患者は食事中に含まれる炭水化物の摂取量や1日数回測定した血糖値を入力する必要があるが、若年性糖尿病研究財団(JDRF)のAaron Kowalski氏は「人工膵臓デバイスの実用化はわれわれの悲願であった。その機能は完璧ではないとしても、患者に大きな利益をもたらすものだ」と高く評価している。現在では、数十社が独自の人工膵臓システムの開発に着手しており、同氏は「競争でより革新的なデバイスが生まれる可能性がある。今後数年間の成果に期待したい」と話している。
また、2017年には糖尿病患者で懸念される心血管疾患リスクについても新しい研究結果が発表された。約400人の成人1型糖尿病患者を対象としたプラセボ対照二重盲検のランダム化比較試験(REMOVAL試験)の結果、メトホルミンの長期投与は1型糖尿病患者の心血管疾患リスクを低減することが第77回米国糖尿病学会(ADA)で発表された。ADAのChief Scientific & medical officerを務めるWilliam Cefalu氏は「心血管疾患は糖尿病合併症の中でも死に至るリスクが高く、治療コストもかかる。既にSGLT-2阻害薬やGLP-1受容体作動薬については2型糖尿病患者の心血管疾患リスクを低減したとの報告がある」と述べている。
糖尿病治療の技術革新は人工膵臓にとどまらず、米食品医薬品局(FDA)がアボット社のフラッシュグルコースモニタリングシステム「FreeStyle Libre」を承認したことも注目を集めた。このシステムでは皮膚の下に小さなセンサーワイヤーを挿入して血糖値を測定するが、患者は装置をセンサーにかざすと測定した血糖値の情報を読み取ることができる。また、このシステムでは採血のための指先の穿刺を必要としない。Kowalski氏は「CGMから常に送られる血糖測定値に精神的な負担を感じる患者もいる。FreeStyle Libreはこうした負担を軽減するほか、他のCGMよりデバイスが薄く、価格も安いといったメリットもある」と説明している。
また、CGMに関しては、1型糖尿病の妊婦を対象とした非盲検の国際的なランダム化比較試験(CONCEPTT試験)により、CGMを使用することで非使用よりも血糖目標を達成する期間が延長し、新生児アウトカムも改善することが報告されている(Lancet 2017; 390: 2347-2359)。
その他、2017年9月にFDAが承認した新しい超速効型インスリンアスパルト製剤(Fiasp®)にも期待が寄せられている。従来の超速効型インスリン製剤は吸収速度が遅く、血中に移行するまで約5~10分を要するため、食事の約10分前にインスリンを注射する必要があった。しかし、この新しい製剤は約2.5分で血中に移行し始めるため、食事開始後20分までに注射をすれば食後血糖値の上昇を抑えられる。
さらに、インスリンに関しては過去10年間で急上昇したコストが課題とされている。ADAは“Make Insulin Affordable(インスリンを手ごろな価格に)”と題したキャンペーンを開始しており、この問題への関心を高める活動を行っている。
Cefalu氏は「2017年の研究の進展で糖尿病とその合併症への理解が深まったほか、糖尿病患者が直面している経済的課題や治療へのアクセスといった面への配慮もなされるようになった」と話している。
なるほど、なるほど。
次は山田悟先生の解説・概説をメディカル・トリビューンの記事から。
■ 大きく変わった糖尿病薬物療法アルゴリズム 〜ADA2018年版勧告
(2017年12月22日:メディカル・トリビューン)
米国糖尿病学会(ADA)は、毎年1月にStandards of Medical Care in Diabetesという勧告集を機関誌であるDiabetes Careの付録(supplementation)として発表している(2014年以前はclinical practice recommendationという名前であった)。このたび、2018年版の勧告が発表され、2型糖尿病患者の薬物療法のアルゴリズムが大きく変更されたのでご紹介したい(Diabetes Care 2018;41:S73-S85)。
◇ 勧告のポイント1(1型糖尿病):2017年版と変わらず
最初に記載されているのは1型糖尿病患者の薬物療法であり、この部分の勧告は2017年版と全く変わっていない。
・1型糖尿病患者のほとんどは追加インスリンと基礎インスリンから成るインスリン頻回注射療法か、持続皮下インスリン注入(CSII)で治療すべきである。
・低血糖リスクを下げるため、1型糖尿病患者のほとんどは超速効型インスリンアナログを使用すべきである。
・1型糖尿病患者には、糖質摂取、食前血糖値、予想される身体活動量の三者に対してインスリン注射量を適合するという応用カーボカウント指導の教育を考慮する。
・CSIIを上手に使っていた1型糖尿病患者は65歳を超えてもCSII治療の機会が与えられるべきである。
◇ 勧告のポイント2(2型糖尿病):第二選択薬を横並びにせず
ここが今回、変更されたところである。
・メトホルミンは、禁忌でなく、忍容性がある限りにおいて、2型糖尿病薬物療法の望ましい開始治療薬である。
・メトホルミンの長期使用はビタミンB(VB)12欠乏と関連するかもしれず、定期的な血中VB12測定を検討すべきである。特に、貧血や末梢神経障害のある患者ではそうすべきである。
・新規に診断された2型糖尿病患者のうち、症候性であったり、HbA1c10%以上であったり、随時血糖値が300mg/dL以上の患者には、開始治療薬としてインスリン療法を考慮すべきである。
・HbA1c 9%以上の新規診断2型糖尿病患者には、2剤併用での経口治療薬の開始を考慮すべきである
・動脈硬化性心血管疾患の既往のない患者で、3か月間目標HbA1cが達成できない場合、薬剤特異的な要素と患者ごとの要素を加味して追加薬剤を選択する。
・薬物療法の選択においては患者中心アプローチを用いるべきである。すなわち、有効性、低血糖リスク、動脈硬化性心血管疾患の既往、体重への影響、潜在的な副作用、腎臓への効果、投与法、費用、患者の嗜好を踏まえて考慮する。
・動脈硬化性心血管疾患の既往のある2型糖尿病患者では、生活習慣管理、メトホルミンで開始し、続いて、薬剤特異的な要素と患者ごとの要素に基づいた考慮の上で、主要有害心血管イベント(MACE)や心血管死への有効性を証明している薬物(現時点ではエンパグリフロジンとリラグルチド)を追加する。
・動脈硬化性心血管疾患の既往のある2型糖尿病患者では、生活習慣管理、メトホルミンの後で、薬剤特異的な要素と患者ごとの要素に基づきつつ、MACEを減らすためにカナグリフロジンの追加を考慮してもよい。
・継続した薬物レジメンの再評価や患者要素とレジメンの複雑さを考慮した調整を推奨する。
・血糖目標を達成できない2型糖尿病患者に対する治療強化は遅らせるべきでなく、それにはインスリン療法の考慮も含まれる。
・メトホルミンは、禁忌でなく、忍容性がある限りにおいて、他の治療薬との併用において継続されるべきである。
2017年版勧告(Diabetes Care 2017;40:S64-S74)でも「長期にわたって血糖管理が十分でなく、動脈硬化性心血管疾患の既往のある2型糖尿病患者では心血管死や総死亡を減少させることを示したエンパグリフロジンとリラグルチドが考慮されるべきである」との記載はあったが、2018年版では「長期にわたって血糖管理が十分でなく」といった条件がなくなった。何よりも大きく変更されたのが「一般的な薬物療法勧告の図」と「糖尿病治療薬の一覧表」である。
2017年版までの勧告では、2012年のADA・欧州糖尿病学会(EASD)の合同アルゴリズム(Diabetes Care 2012;35:1364-1379)を踏襲し、開始薬としてメトホルミンを挙げ、第二選択薬としてさまざまな薬剤(SU薬, チアゾリジン薬, DPP-4阻害薬, SGLT2阻害薬, GLP-1受容体作動薬, 基礎インスリン)を横一線に挙げていた(図1)。
図1. 2017年版勧告における薬物療法アルゴリズム
(Diabetes Care 2017;40:S64-S74)
このタイプの図を目にしたことのある先生も多いであろう。それが今回は、第二選択薬を横並びにはせず、まずは患者を心血管疾患の有無で分けることを求めたのである(図2)。
図2. 2018年版勧告における薬物療法アルゴリズム
その上で、心血管疾患の既往のある患者に対しては心血管疾患保護の科学的根拠のある治療薬を推奨するというスタンスを取り、そのために薬物一覧表の記載を大きく変更した。
2017年版までは表の1行目(項目名)は、
① クラス(例;ビグアナイド)
② 薬剤名(例;メトホルミン)
③ 基礎的作用機序(例;AMPキナーゼ活性化)
④ 臨床的作用機序(例;肝糖産生低下)
⑤ 有益性(例;豊富な使用経験、低血糖がまれ、心血管イベント抑制、比較的HbA1c低下作用が強い)
⑥ 不利益〔例;消化器症状、VB12欠乏、推算糸球体濾過量(eGFR)
―の7項目であった。
これに対し2018年版では、
① クラス(例;ビグアナイド)
② 薬剤名(例;メトホルミン)
③ 基礎的作用機序(例;AMPキナーゼ活性化)
④ 臨床的作用機序(例;肝糖産生低下)
⑤ 腎機能に対する用量調整の勧告
―というほぼ従来通りの表に加えて、
① クラス
② 血糖低下効果
③ 低血糖の発生頻度
④ 体重変化
⑤ 心血管イベント(動脈硬化症・心不全)
⑥ 費用
⑦ 経口/皮下注射
⑧ 腎臓(糖尿病性腎臓病の進行・腎不全時用量調整)
⑨追記
―の9項目(⑤と⑧を分けると11項目)が並んだ薬剤特異的要素の表が新設された(表)。
表. 治療薬選択において考慮すべき薬剤特異的および患者側の要素
(図2、表ともDiabetes Care 2018;41:S73-S85)
◇ 私の考察:薬剤の序列付けが進むか
元来、脂質異常症の治療の中では、心血管疾患の一次(初発)予防と二次(再発)予防とを分けて考えるという概念が一般的であった。今回のADAの勧告では、糖尿病の薬物療法においても、心血管疾患の初発予防と再発予防を分けて考えるという概念が明確に示された。心血管疾患は脂質異常症だけでなく、糖尿病の合併症としても重要なものであり、こうした概念が定着していく可能性は高い。
また、今回動脈硬化性心血管疾患に対して有益あるいは潜在的に有益とされた薬剤の一部(カナグリフロジン、エンパグリフロジン、リラグルチド)は、糖尿病性腎臓病の進行予防に対しても有益であったと表に示されている。そうした点も第二選択薬を横並びにできない理由になろう。
わが国のガイドラインでは糖尿病治療薬は経口か皮下注射かで大別され、経口薬に関しては作用機序で患者ごとに適応を考えることになっている。しかし、臓器保護効果についての科学的根拠は考慮されていない。
また、実臨床の現場では、例えばインスリン分泌が低下している患者への処方として、インスリン分泌促進系薬剤を考えたとしても、同じインスリン分泌促進系薬剤の中での(SU薬かグリニド薬かDPP-4阻害薬かの)選択が求められる。作用機序だけでは患者ごとの適応を考えることは不可能といえる。そうした意味では、わが国の実臨床の現場でも、今回のADAの勧告のような、あるいは米国臨床内分泌学会/米国内分泌医会(AACE/ACE)の勧告(Endocr Pract 2016, 22, 84-113)のような、薬剤を序列付したものの方が使い勝手が良いのではないかと感じる(上記文献の107ページ参照)。
AACE/ACEの勧告では、単独療法の場合には、メトホルミン、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬...という序列付けが2016年の段階でなされている。今回のADAの勧告の改訂は、これを追認したような印象である。これらはいずれも海外の指針ではあるが、今後のわが国における糖尿病治療薬の処方動向も、今回の勧告の改訂によりなんらかの影響を受けていく可能性があるように感じる。
経口血糖降下剤がたくさん開発・発売され、メカニズムや作用、特徴を考慮して選択する時代になってきたのですね。
日本のガイドラインはその視点ではまだ不十分なようです。