小児アレルギー科医の視線

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小児科医なら誰でも経験する「思春期早発症」のトラウマ

2024年07月01日 07時29分08秒 | 学校健診
私は小児科医です。
30年以上診療していますので、中堅というよりベテランという言葉が合うかもしれません。
かつ中学校の学校医も担当しています。

群馬県みなかみ町の学校健診で「下半身を覗いた」エピソードは、
学校医が思春期早発症をチェックする目的で行った診察行為であると報道されました。

この「思春期早発症」という病気、
ベテラン小児科医なら一度ならず経験していると思います。

数年前、「身長が伸びないので心配」と中学2年男子がお父さんに連れられて受診。
確かに中学校に入ってから、スパートがかかるはずの身長が止まったままです。
精密検査目的で、総合病院小児科に紹介状を書きました。

その後、紹介先の小児科担当医から返信が届きました。
その内容は…

・思春期早発症と診断
・すでに骨端線が閉じているので治療対象にならない

というものでした。

私は愕然としました。
「そうか、それがあったか…」
というのが素直な感想です。
もし彼が小学校の時にチェックされていたら…

その後、本人が別件で受診されたときにいろいろ聞いてみました。
すると父親から、

・小学4年生のとき、急に身長が伸びて、うっすら陰毛が生えてきた。
・少し早いかな、と思った。
・でも元気だし、身長が伸びるのはうれしかったので病院へ行かなかった。
・今回、病院へ行き、
「思春期はすでに終わっており、治療対象になりません」
と言われてガッカリした、後悔した。

というコメントがありました。

思春期早発症は思春期が早く始まり早く終わるため、身長が途中で止まってしまい、
一時期はみんなを追い抜きますが、最終的には低身長で終わってしまいます。
現在は治療薬があるので、治療条件を満たせば適応となり、
上記例も身長で悩まずに済んだかもしれません。

そうなんです。

もし彼の小学校の学校医が話題になったみなかみ町の医師であれば、
彼は早期に発見・診断され、治療を受けて最終身長がもう少し高くなれた可能性があります。

思春期を迎えた男子の二次性徴は、外見ではわかりにくいとされています。
「声変わり」が特徴的ではありますが、これは二次性徴完成期に出現します。

一方の女子は胸の膨らみから始まりますので、
母親が気づきやすい傾向があります。
小学校に上がった頃、胸の膨らみを心配して受診される女子は、
年に数人はいます。

では男子は何を持って疑うべきか…
それは「成長曲線」です。
標準曲線を大きく上回る値を取れば、
思春期早発症を含めたいろいろな病気の可能性を考慮し、
病院での精密検査を推奨します。

彼の小学校で「成長曲線」が検討されていたかどうかは不明です。
実はこの成長曲線、学校健診に導入されたのは数年前。
それまでは「点」で評価され、「線」では検討されなかったため、
見落としが多いので導入された経緯があります。

学校健診も進化しているのです。

何回も書いていますが、感情的に「セクハラ」と訴える人たちに、
「子どもの人権を守る」こととはどういうことなのか、
今一度考えていただきたい。

「デリケートゾーン、デリケートパーツをむやみに他人に見せない」
という性教育は大切ですが、
「健康・病気のチェックの際は、大切なところだからこそしっかり診察してもらう」
という教育が並行して行われないと、
本人が「病気の診断が遅れる」というデメリットを被ることになります。

健診ではデリケートゾーンもしっかり診察してもらうことが、
子どもの命を守ることにつながり、
ひいては子どもの人権を守ることにつながるのではないでしょうか。

「デリケートゾーンを他人に見せない」教育だけが一人歩きすると、
社会人の健康診断で女性は肌を見せない、
子宮頚がん検診の受診率が低いまま、
とう日本の悪しき習慣が改善されません。

<参考記事>

■ 群馬の学校健診問題で注目 見落としがちな「思春期早発症」の怖さ
2024/6/30:毎日新聞)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 群馬県みなかみ町立小学校で6月に実施された健康診断で、複数の児童が70代の男性医師に下着の中をのぞかれたなどと訴え、町教育委員会は保護者らに謝罪した。学校健診を巡ってはさまざまな意見が飛び交うが、専門家からは学校健診の後退を懸念する声もあがる。 

◇「思春期早発症」とは? 
 今回問題となった健診を担当した男性医師は「思春期早発症」について診るため児童の下着の中を確認したと説明している。思春期早発症とはどのような病気なのだろうか。 
 群馬大医学部付属病院小児科の大津義晃講師(小児内分泌)によると、通常よりも思春期が早く始まる病気で、体が早期に成熟するため、一時的に身長が伸びた後に小柄のまま成長が止まってしまうほか、小学校低学年で陰毛が生えたり月経が始まったりし、本人の心理的負担も大きくなる。特に男の子の場合は、脳腫瘍など重大な病気が原因で起こるケースが7~8割を占めるという。 
 文部科学省監修の「児童生徒等の健康診断マニュアル」にも注意すべき疾病及び異常として掲載されているが、「同年代の子どもより一時的に身長の伸びが大きくなるので、周囲の大人は『大きくなったね』と喜び、病気を見落としてしまうことが多い」と大津講師。「身長に関しては、早期に治療を始めないと間に合わない。子どもの成長は取り戻せないので、早期発見が重要だ」と指摘する。 

◇「早発」の目安は? 
 思春期早発症の目安として、男の子の場合は小学4年までに陰毛が生える、女の子は小学1年までに胸が膨らむ、小学2年までに陰毛が生えるなどが挙げられる。陰毛や乳房、精巣の大きさの確認に加え、血液検査や頭部のMRI検査などで診断する。 
 大津講師は過去5年で小学校の健康診断を3回担当し、教職員の立ち会いのもとで思春期早発症の疑いのあった3人の下腹部を確認したことがあるという。その際は全員の健康診断が終わった後、児童を個別に呼び出して「体が大人になるのが早すぎる病気かもしれない」と説明し、児童の了承を得て陰毛の有無を確認した。保護者らのクレームも来ていないという。 
・・・

<参考サイト>(私のブログです)

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