小児アレルギー科医の視線

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小児アトピー性皮膚炎のマーカー

2018年02月03日 06時33分17秒 | アトピー性皮膚炎
 日々、赤ちゃんの湿疹〜アトピー性皮膚炎を診療しています。
 「乾燥肌」「かゆみ」「発赤」が揃うとアトピー性皮膚炎という診断名が限りなく近づいてきます。
 逆に見ると、これらが揃った湿疹はステロイド軟膏でないと治りません。

 しかし、これが揃わない湿疹もよくみられます。
 赤みはあるけど、痒がらない。
 乾燥感はあるけど、痒がらない。
 触るとザラザラデコボコしているけど、赤みがない。

 これらの湿疹にステロイド軟膏が必要なのかどうか、悩ましい。
 保湿剤/保護剤で様子を見ると一過性で消えていくことも多いので、結果的に「乳児湿疹」ということになります。
 しかし数週間経っても消えない例も散見します。
 その場合、私は皮膚科専門医のフィルターを通すことにしています。
 すると、「洗いすぎ」「汗疹」という見立てが圧倒的に多い。
 やはりアトピー性皮膚炎ではないんだ、と安心する一方で、「汗疹」という診断のもとに当院より強いステロイド軟膏が処方されていることも経験し、苦笑いするしかありません。

 何か客観的な指標はないものか・・・そこで登場するのが「アトピー性皮膚炎のマーカー」としての検査です。
 TARC(thymus and activation-regulated chemokine)が有名ですが、血液検査なので採血が必要です。
 しかも、3歳以下の正常値は高く成長とともに漸減してい矩形黃があるため、1回だけではなく経時的に評価する必要があります。
 元気な赤ちゃんに何回も何回も採血をして泣かせるのは親としてつらく、また採血する方も大変でもあり、当院では行っていません。
 関連記事を紹介します。

■ 小児アトピー性皮膚炎で有望なマーカーは?
2018年02月01日:メディカル・トリビューン
 バイオマーカーとは、病的過程や治療に対する薬理学的反応を客観的に検出し、評価できる特徴を持つ指標と定義されている。アトピー性皮膚炎のバイオマーカーおよびその候補について、国立病院機構三重病院院長の藤澤隆夫氏に解説してもらった。同氏は「扁平上皮細胞がん関連抗原(Squamous cell carcinoma antigen;SCCA)は、病勢を反映するマーカーとして有用である」と述べている。

◇ 生後2日の経皮水分蒸散量増加が将来のリスクに
 アトピー性皮膚炎のバイオマーカーは、

① 診断(鑑別診断、発症前のリスク診断)
② 病勢評価(重症度・臨床経過の客観的指標、治療反応性の指標)
③ エンドタイプ同定(個別化医療、分子標的薬の適応)
④ 予後予測(長期予後の予測、アレルギーマーチの予測の判断)
−などへの利用が期待されている。

 診断にバイオマーカーは必要ないとの意見もあるが、発症前のリスク評価として一定の指標となりうる。例えば、生後2日での経皮水分蒸散量(Transepidermal water loss;TEWL)の増加(乾燥しやすい皮膚)は将来的なアトピー性皮膚炎のリスクである。さらに、TEWL増加が食物アレルギーのリスクにもなる。
 生後早期からの保湿でアトピー性皮膚炎を防げるとの報告は多く、特にTEWL高値の乳児で著明な予防効果が得られたとの報告もある(Allergol Int 2016; 65: 103-108)。まずTEWL値を測定し、必要な乳児に対してのみ保湿を行うという予防法も考えられる。

◇ TARCの問題点は乳幼児で高値であること
 藤澤氏は「最も検討が進んでいるバイオマーカーは、病勢評価に関するものである」と述べている。皮膚については所見で評価するが、バイオマーカーは数値として示されるので客観的な評価の指標となり、治療反応性の評価にも用いられる。病勢評価のバイオマーカーには好酸球数や乳酸脱水素酵素(LDH)、免疫グロブリン(Ig)E値などがあるが、近年は血清活性化制御ケモカイン(TARC/CCL17)など、Th2関連マーカーなども用いられている
 TARCはアトピー性皮膚炎のマーカーとして有用で、既報ではTARCが高値だとアトピー性皮膚炎の重症度(SCORAD)も高く、治療に伴う改善とも連動しており、2つの値に相関が見られた。TARC、好酸球数、LDH、IgEを比較した研究結果からもTARCが最適なマーカーと考えられた。
 しかし、TARCの問題点として乳幼児で高値であることが挙げられる。3歳以下の乳幼児では正常児であってもTARC値は高値(1,000pg/mL超)となるため、他のマーカーで判断しなければならない。
 そこで、考えられるのがSCCAである。SCCAは染色体18q21.3.上の2つの遺伝子(SERPINB3、SERPINB4)にコードされるSCCA1とSCCA2の2種類の蛋白質である。上皮細胞に発現し、子宮頸がんなどの扁平上皮がんで高発現が認められたことから命名され、腫瘍マーカーとして応用された。
 SCCAはヒト気道上皮細胞がTh2サイトカイン(IL-4、IL-13)により刺激されると高発現することが明らかとなり、Th2マーカーとして検討が進んだ(Cytokine 2002; 19: 287-296)。実際に、アトピー性皮膚炎患者の皮膚では高発現している。ケラチノサイトをIL-4、IL-13で刺激すると、つまり皮膚にTh2の環境があった場合、ケラチノサイトにおいてSCCAが誘導される。

◇ SCCA2が重症度と相関
 藤澤氏らは、小児におけるSCCA1/2の基準値およびアトピー性皮膚炎患者におけるSCCA1/2の臨床的意義を明らかにすることを目的に検討を行った。対象は18歳未満の小児ボランティア〔179例、健康または軽症のアレルギー疾患(喘息58例、アレルギー性鼻炎181例、アトピー性皮膚炎129例)〕と入院加療した重症アトピー性皮膚炎の小児(29例)。ISAAC(The International Study of Asthma and Allergies in Childhood)の質問票を用いてアレルギー疾患を分類し、重症患者については重症度をSCORADで評価、治療前後のSCCA1/2値、TARC値を測定した。
 同氏は「SCCA1/2値は、いずれも年齢による差はなく、健康者、喘息、アレルギー性鼻炎例では低値、アトピー性皮膚炎例では軽症でも有意に上昇し、重症ではさらに高かった。重症度のマーカーとして利用できそうだ」と述べている。SCCA1/2ともにSCORADとの相関はTARC値と同等で、重症患者では治療後に全例で症状の改善とともに低下していた。
 SCORADスコアの変化とバイオマーカーの変化との関連を見ると、TARC値に比べてSCCA1、SCCA2が強く相関しており、さらに、SCCA1に比べてSCCA2の方がより強い相関が見られた。同氏は「特に血清SCCA2はアトピー性皮膚炎の病勢を反映するマーカーとして有用と考えられた」と結論付けている。

◇ エンドタイプと予後予測には有望なマーカーなし
 藤澤氏は「エンドタイプ同定のマーカーとしては、Th2、Th17、Th22などが候補だが、実用性に関しては今後の課題である」と述べている。小児のアトピー性皮膚炎では発症時期がまちまちで、乳児期に発症して小児期には治癒する例もあるが、多くは各年齢層で発症し、それが完治せずに継続することになる。また、非常に高齢の患者も存在する。それを関与するサイトカイン(生物学的製剤のターゲット)によって変化させることができるかどうかは不明である。
 予後予測のマーカーとしては、それぞれのアレルギー感作のパターンなどに可能性はあるが、現在のところ有望なマーカーはないという。同氏は「アレルギーマーチの進展は①アトピー性皮膚炎②食物アレルギー③喘息④アレルギー性鼻炎−の順であることから(J Allergy Clin Immunol 2017; 139: 1723-1734)、アトピー性皮膚炎のマーカーはアレルギーマーチのスタートのマーカーと位置付けられる。将来的には、TEWLなどがアレルギーマーチのマーカーとして活用できることに期待したい」と展望している。


 私が知りたいのは、乳児アトピー性皮膚炎とほかの乳児に見られる湿疹が区別可能かどうか、ですが・・・なかなかハッキリ記載している資料に出会いません。

<参考>

■ アトピー性皮膚炎診療における血清TARC値測定の意義マルホ皮膚科セミナー:2014.8.7

■ TARCとアトピー鑑別試験の違いは何ですか?CRC)より抜粋;
・・・水疱性類天疱瘡や菌状息肉症、血管浮腫、薬疹、膠原病などでも高値となりうるため注意します。

■ アトピー性皮膚炎,蕁麻疹の重症度と診断の客観的評価法アレルギー 61(1), 10 ― 17, 2012)より抜粋;
 血清 TARC の高値はアトピー性皮膚炎に特に特異性が高いことが示されているが、他の疾患では蕁麻疹や炎症性角化症、皮膚 T 細胞リンパ腫、水疱性類天疱瘡などで高値の報告がある 4 )5 )8 )。 特に皮膚 T 細胞リンパ腫は経過が慢性でアトピー性皮膚炎と鑑別が困難な症例もあり注意が必要であるが、逆に、十分な治療にもかかわらず想外の高値が持続する場合などは皮膚T 細胞リンパ腫を疑う契機にもなり得る 5)。なお、血清 TARC の測定は 2008 年よりアトピー性皮膚炎に保険適用となっている。

4)玉置邦彦, 佐伯秀久, 門野岳史, 佐藤伸一, 八田尚人,長谷川稔,他.アトピー性皮膚炎 の病勢指標としての血清 TARC!CCL17 値 についての臨床的検討.日皮会誌 2006; 116:27―39.
5)前田七瀬, 吉田直美, 西野 洋, 片岡葉子. 重症成人アトピー性患者における血清 TARC の 臨 床 的 意 義.J Environ Dermatol Cutan Allergol 2011;5:27―35.
8)Tamaki K, Kakinuma T, Saeki H, Horikawa T, Kataoka Y, Fujisawa T, et al. Serum levels of CCL17!TARC in various skin diseases. J Dermatol 2006; 33: 300―2.

■ アトピー性皮膚炎のバイオマーカー ―病勢指標としての血清 TARC/CCL17 値を中心に―アレルギー 62(2), 131―137, 2013

■ 血清 TARC の高値を認めた新生児―乳児消化管アレルギーの 3 例
アレルギー 61(7), 970―975, 2012)より抜粋;
 CC ケモカインであるTARC は、その受容体 CCR4 を特異的に発現している Th2 細胞に対して遊走活性を有している 3).アトピー性皮膚炎においては,様々な刺激によって表皮角化細胞から産生された TARC が末梢血中の CCR4 発現 Th2 細胞を皮膚へと遊走させ,皮膚炎を惹起すると考えられている 4).また,皮疹の面積と重症度を加味した皮膚症状スコアーである SCORAD 値と血清 TARC 値には正の相関が認められ 5),アトピー性皮膚炎の病勢を示すマーカーとして血清 TARC 値は利用されている。他のアレルギー疾患である気管支喘息においても,気道上皮に TARC の発現が証明されており 6),健常者に比べ有意に血清 TARC が高値である事が報告されている 5).
3)Imai T, Yoshida T, Baba M, Nishimura M,
Kakizaki M, Yoshie O. Molecular cloning of a novel T cell-directed CC chemokine ex- pressed in thymus by signal sequence trap using Epstein-Barr virus vector. J Biol Chem 1996; 271: 21514―21.
4)Kakinuma T, Nakamura K, Wakugawa M, Mitsui H, Tada Y, Saeki H, et al. Thymus and activation-regulated chemokine in atopic dermatitis: Serum thymus and activation- regulated chemokine level is closely related with disease activity. J Allergy Clin Immunol 2001; 107: 535―41.
5)藤澤隆夫,長尾みづほ,野間雪子,鈴木由紀, 古川理恵,井口光正,他.小児アトピー性皮 膚炎の病勢評価マーカーとしての血清 TARC!CCL17 の臨床的有用性.日小児アレ ルギー会誌 2005;19:744―57.
6)星野 誠,中川武正,宮澤輝臣.アレルギー 性炎症 喘息気道での炎症細胞浸潤におけ る TARC と接着分子の関与について.アレ ルギー 2006;55:410.
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