当院では乳児アトピー性皮膚炎の診療を積極的にしています。
そのため、日々「小児科開業医がアトピー性皮膚炎の診療を安全に行う方法」を模索してきました。
赤ちゃんのアトピー性皮膚炎を治療していると、気になるのが目の周りの湿疹です。
ほかの部位同様、ステロイド軟膏で治療するのですが、その安全性に関するデータが十分とは言えません。
眼は脳神経が唯一むき出しになっている器官であり、ステロイド外用薬の過剰な使用は眼圧上昇(〜緑内障)のリスクがあると昔から教科書に記述されています。
しかし、
・どのランクのステロイド外用薬をどのくらいの量、どのくらいの期間使用すると危険なのか?
逆に、
・どのランクのステロイド外用薬をどのくらいの量、どのくらいの期間使用する分には安全なのか?
をはっきり書いてある本を見たことがありません。
2018年に改訂された、皮膚科&アレルギー科統一「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018」の「眼への副作用」の項目には、
“ステロイド外用治療後の緑内障の症例は多数報告されており、緑内障のリスクを高める可能性は十分にあるが、弱いランクのステロイドを少量使用する分にはリスクは低いと考えられる。眼周囲や眼瞼皮膚にステロイド外用薬(特に強いランクのもの)を使用する際は,外用量や使用期間に注意する必要があるが、十分に炎症を抑え寛解状態に向けていくことも重要であり,タクロリムス軟膏への切り替えも検討すべきである。また、これらの眼合併症が懸念される場合は、眼科との連携が重要である。”
と玉虫色の表現で記載されています。
このどっちつかずの文章に、フツフツと怒り・・・ではなく疑問が湧いてきます。
“弱いランクのステロイドを少量使用する分にはリスクは低い”
→ 弱いランクとはどれを指しているのか? 少量とは標準とされるFTU(Finger tip unit)より少ないという意味か?
“強いランクのステロイド外用薬を使用する際は、外用量や使用期間に注意する必要がある”
→ 強いランクとはどれを指しているのか? 具体的な外用量や使用期間の安全域がなぜ書かれていないのか?
“十分に炎症を抑え寛解状態に向けていくことも重要”
→ ステロイド外用薬の安全域を示さずに「目の周りのステロイド外用薬は弱いランクを少し使って治療してください、強いランクは危険なので自己責任で」では、無責任きわまりない。
“タクロリムス軟膏への切り替えも検討すべきである”
→ タクロリムス軟膏(商品名:プロトピック®軟膏)の適応は2歳以上なので、乳児には使用できません!
実は、このガイドラインの作成責任者である加藤則人先生(京都府立医科大学皮膚科教授)に講演会で直接質問したことがあります。
Q. 「乳児アトピー性皮膚炎の目の周りに安全に使用できるステロイド外用薬のランクと塗布量、塗布期間を教えてください」
A. 「乳児アトピー性皮膚炎に対するステロイド外用薬と副作用としての眼圧上昇のデータはありません」
・・・これが現状です。安全性を担保できずに勧めるなんて、日本政府の原発政策と同じではありませんか。
さらに、
A. 「近年、小児の眼圧が簡単に測定できる器械が登場しましたので、近隣眼科医と連携して診療してください」
とアドバイスをいただきました。
「えっ、眼圧検査が開業眼科医でも可能になったんだ!?」
と明るい光が射すのを感じました。
早速近隣の眼科開業医&総合病院眼科に片っ端から電話で確認しました。
結果は・・・全滅です。
その機械を導入している眼科は皆無で、某眼科医から「大学病院レベルの検査ですよ」と諭されました。
そう、加藤先生は大学病院勤務なのでした。
ムムム・・・小児科開業医がアトピー性皮膚炎の診療を安全に行うことはできないのだろうか?
この疑問を持ちつつ、「目の周りに安全にステロイド外用薬を使用する方法」に関する情報を、日々アンテナを張って集めています。
さて今回、商業系医学雑誌の小児科診療2019年8月号「特集:子どものあたま、かお、くびの病気〜コンサルのタイミング」(診断と治療社)に「眼囲のアトピー性皮膚炎」(味木 幸 先生著)という項目を見つけ、購入して読んでみました。
今までの参考書と異なるところは、アトピー性皮膚炎の眼周囲湿疹にはアレルギー(あるいはアトピー性)性結膜炎を伴うことが多いので、点眼薬を併用すべし、との記載です。
あとは、従来の情報と何ら変わりはありませんでした。
執筆者は眼科医なので、当然ながら眼科との連携を勧めています。
しかし文中でも触れていますが、一般眼科医は一番弱いランクのステロイド外用薬を処方することが多く、しかもそれは抗生物質との合剤なので、長期に使用しているとかぶれ(接触皮膚炎)を起こしやすい、だから眼科医へ紹介すると悪化すると小児科医の間では囁かれています。
・・・困ったものです。
さらに「弱いステロイドを漫然と長期に使うよりは比較的強いステロイド軟膏でしっかり治療」とも書いてあるので、やはり眼圧を検査&管理できる眼科医に任せた方がよいのか・・・悩ましい。
でも、「眼軟膏でない場合は、目に入らないように気をつけなければならない」を赤ちゃんに対して言っても、無理ですね。
筆者は「眼周囲のアトピー性皮膚炎は小児科医でも初期治療を行える場合が多い」と書かれています。
結局、眼圧測定ができない小児科医は、そのスタンスで診療するしかなさそうです。
<メモ>
・眼囲の症状が強い場合には眼科専門医との連携が必要である。
・眼科的検査は小児、非協力的な患者には行うことが難しい。
・眼圧検査は必須である。眼圧測定にはいろいろな機種の器械があり、アトピー性皮膚炎合併の眼瞼は固く、まつ毛が邪魔をして制下飼うに計れないこともあるので、専門性の高い検査である。
・精密眼底検査、光干渉断層撮影、視野検査の3つの結果が一致することで緑内障と診断していく。
・ステロイド緑内障の場合、たった数週間で眼圧が急上昇し、重症緑内障になってしまい、失明に至る例があり、早めにご紹介いただきたい。
・治療は、①点眼治療、②ステロイド眼軟膏
まず点眼治療である。眼瞼炎だから軟膏塗布が基本と考えがちだが、その症状の元が眼瞼皮膚のみよりも、眼瞼結膜にもあることが多いからである。眼瞼結膜に所見がある場合は、まず、点眼を第一選択として用いる。抗アレルギー点眼液が無効な場合は、ステロイド点眼液、免疫抑制薬点眼液(タリムス®、パピロックミニ®)を追加する。
眼瞼に対してはステロイドの眼軟膏を用いる。眼軟膏は、強度でいうと(非常に弱い〜弱い)のカテゴリーに入るものが多いので、それにて効果がなく、漫然と長期的に使用する場合には中止すべきである。むしろ、皮膚科で用いている比較的強いステロイド軟膏でしっかりと治療し、落ち着かせた方がよい場合もある。眼軟膏でない場合は、目に入らないように気をつけなければならない。
また、眼軟膏の中で、抗菌薬のフラジオマイシン硫酸塩っとステロイドの合剤(ネオメドロールEE®)が多用されているが、フラジオマイシンは頻度の高い接触アレルゲンであるため注意が必要である。
・ステロイド外用薬の使用には、眼圧の上昇に気をつけるべきである。眼瞼皮膚は薄いため、軟膏でも眼圧上昇する場合がある。
・眼周囲のアトピー性皮膚炎には、小児科医でも抗アレルギー薬の点眼薬や内服、ステロイドやタクロリムス軟膏により、初期治療を行える場合が多い。しかしながら、・・・ステロイド性緑内障などにより、失明に至るケースもあるため、眼科との連携が安全と考える。
そのため、日々「小児科開業医がアトピー性皮膚炎の診療を安全に行う方法」を模索してきました。
赤ちゃんのアトピー性皮膚炎を治療していると、気になるのが目の周りの湿疹です。
ほかの部位同様、ステロイド軟膏で治療するのですが、その安全性に関するデータが十分とは言えません。
眼は脳神経が唯一むき出しになっている器官であり、ステロイド外用薬の過剰な使用は眼圧上昇(〜緑内障)のリスクがあると昔から教科書に記述されています。
しかし、
・どのランクのステロイド外用薬をどのくらいの量、どのくらいの期間使用すると危険なのか?
逆に、
・どのランクのステロイド外用薬をどのくらいの量、どのくらいの期間使用する分には安全なのか?
をはっきり書いてある本を見たことがありません。
2018年に改訂された、皮膚科&アレルギー科統一「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018」の「眼への副作用」の項目には、
“ステロイド外用治療後の緑内障の症例は多数報告されており、緑内障のリスクを高める可能性は十分にあるが、弱いランクのステロイドを少量使用する分にはリスクは低いと考えられる。眼周囲や眼瞼皮膚にステロイド外用薬(特に強いランクのもの)を使用する際は,外用量や使用期間に注意する必要があるが、十分に炎症を抑え寛解状態に向けていくことも重要であり,タクロリムス軟膏への切り替えも検討すべきである。また、これらの眼合併症が懸念される場合は、眼科との連携が重要である。”
と玉虫色の表現で記載されています。
このどっちつかずの文章に、フツフツと怒り・・・ではなく疑問が湧いてきます。
“弱いランクのステロイドを少量使用する分にはリスクは低い”
→ 弱いランクとはどれを指しているのか? 少量とは標準とされるFTU(Finger tip unit)より少ないという意味か?
“強いランクのステロイド外用薬を使用する際は、外用量や使用期間に注意する必要がある”
→ 強いランクとはどれを指しているのか? 具体的な外用量や使用期間の安全域がなぜ書かれていないのか?
“十分に炎症を抑え寛解状態に向けていくことも重要”
→ ステロイド外用薬の安全域を示さずに「目の周りのステロイド外用薬は弱いランクを少し使って治療してください、強いランクは危険なので自己責任で」では、無責任きわまりない。
“タクロリムス軟膏への切り替えも検討すべきである”
→ タクロリムス軟膏(商品名:プロトピック®軟膏)の適応は2歳以上なので、乳児には使用できません!
実は、このガイドラインの作成責任者である加藤則人先生(京都府立医科大学皮膚科教授)に講演会で直接質問したことがあります。
Q. 「乳児アトピー性皮膚炎の目の周りに安全に使用できるステロイド外用薬のランクと塗布量、塗布期間を教えてください」
A. 「乳児アトピー性皮膚炎に対するステロイド外用薬と副作用としての眼圧上昇のデータはありません」
・・・これが現状です。安全性を担保できずに勧めるなんて、日本政府の原発政策と同じではありませんか。
さらに、
A. 「近年、小児の眼圧が簡単に測定できる器械が登場しましたので、近隣眼科医と連携して診療してください」
とアドバイスをいただきました。
「えっ、眼圧検査が開業眼科医でも可能になったんだ!?」
と明るい光が射すのを感じました。
早速近隣の眼科開業医&総合病院眼科に片っ端から電話で確認しました。
結果は・・・全滅です。
その機械を導入している眼科は皆無で、某眼科医から「大学病院レベルの検査ですよ」と諭されました。
そう、加藤先生は大学病院勤務なのでした。
ムムム・・・小児科開業医がアトピー性皮膚炎の診療を安全に行うことはできないのだろうか?
この疑問を持ちつつ、「目の周りに安全にステロイド外用薬を使用する方法」に関する情報を、日々アンテナを張って集めています。
さて今回、商業系医学雑誌の小児科診療2019年8月号「特集:子どものあたま、かお、くびの病気〜コンサルのタイミング」(診断と治療社)に「眼囲のアトピー性皮膚炎」(味木 幸 先生著)という項目を見つけ、購入して読んでみました。
今までの参考書と異なるところは、アトピー性皮膚炎の眼周囲湿疹にはアレルギー(あるいはアトピー性)性結膜炎を伴うことが多いので、点眼薬を併用すべし、との記載です。
あとは、従来の情報と何ら変わりはありませんでした。
執筆者は眼科医なので、当然ながら眼科との連携を勧めています。
しかし文中でも触れていますが、一般眼科医は一番弱いランクのステロイド外用薬を処方することが多く、しかもそれは抗生物質との合剤なので、長期に使用しているとかぶれ(接触皮膚炎)を起こしやすい、だから眼科医へ紹介すると悪化すると小児科医の間では囁かれています。
・・・困ったものです。
さらに「弱いステロイドを漫然と長期に使うよりは比較的強いステロイド軟膏でしっかり治療」とも書いてあるので、やはり眼圧を検査&管理できる眼科医に任せた方がよいのか・・・悩ましい。
でも、「眼軟膏でない場合は、目に入らないように気をつけなければならない」を赤ちゃんに対して言っても、無理ですね。
筆者は「眼周囲のアトピー性皮膚炎は小児科医でも初期治療を行える場合が多い」と書かれています。
結局、眼圧測定ができない小児科医は、そのスタンスで診療するしかなさそうです。
<メモ>
・眼囲の症状が強い場合には眼科専門医との連携が必要である。
・眼科的検査は小児、非協力的な患者には行うことが難しい。
・眼圧検査は必須である。眼圧測定にはいろいろな機種の器械があり、アトピー性皮膚炎合併の眼瞼は固く、まつ毛が邪魔をして制下飼うに計れないこともあるので、専門性の高い検査である。
・精密眼底検査、光干渉断層撮影、視野検査の3つの結果が一致することで緑内障と診断していく。
・ステロイド緑内障の場合、たった数週間で眼圧が急上昇し、重症緑内障になってしまい、失明に至る例があり、早めにご紹介いただきたい。
・治療は、①点眼治療、②ステロイド眼軟膏
まず点眼治療である。眼瞼炎だから軟膏塗布が基本と考えがちだが、その症状の元が眼瞼皮膚のみよりも、眼瞼結膜にもあることが多いからである。眼瞼結膜に所見がある場合は、まず、点眼を第一選択として用いる。抗アレルギー点眼液が無効な場合は、ステロイド点眼液、免疫抑制薬点眼液(タリムス®、パピロックミニ®)を追加する。
眼瞼に対してはステロイドの眼軟膏を用いる。眼軟膏は、強度でいうと(非常に弱い〜弱い)のカテゴリーに入るものが多いので、それにて効果がなく、漫然と長期的に使用する場合には中止すべきである。むしろ、皮膚科で用いている比較的強いステロイド軟膏でしっかりと治療し、落ち着かせた方がよい場合もある。眼軟膏でない場合は、目に入らないように気をつけなければならない。
また、眼軟膏の中で、抗菌薬のフラジオマイシン硫酸塩っとステロイドの合剤(ネオメドロールEE®)が多用されているが、フラジオマイシンは頻度の高い接触アレルゲンであるため注意が必要である。
・ステロイド外用薬の使用には、眼圧の上昇に気をつけるべきである。眼瞼皮膚は薄いため、軟膏でも眼圧上昇する場合がある。
・眼周囲のアトピー性皮膚炎には、小児科医でも抗アレルギー薬の点眼薬や内服、ステロイドやタクロリムス軟膏により、初期治療を行える場合が多い。しかしながら、・・・ステロイド性緑内障などにより、失明に至るケースもあるため、眼科との連携が安全と考える。