「救命目的で女性にAEDを使用するとセクハラで訴えられる?」
と昨今、話題になっています。
「そのような事実はない」と当局は火消しに躍起になっています。
このような問題が話題になるたびに、
私の頭には学校健診問題が浮かんできます。
そう、あの検診の際の“着衣・脱衣問題”です。
以前、注目を集めるためにメディアが“半裸健診”という単語を使っていて、
驚かされました。
これらの問題の根底にあるのは、
「デリケートゾーンと医療」
だと思います。
医療はご存知の通り、病気を扱います。
そしてときに、命に関わります。
患者さんの命を守るため、
医師はデリケートゾーンの診察も必要に応じて許可されています。
そのため、医師には高レベルの倫理観が求められます。
「医療」を提供、あるいは「命に関わる緊急事態」に対応するためには、
免責が必要なのです。
学校健診を担当する医師の中には、
「生徒・保護者からのクレームが恐いので着衣診察にしている」
方もいます。
まあ、「女性にAEDを使用しない」と同じ考えですね。
しかし一方で、着衣診察のため病気を見逃したことで訴訟に発展した事例もあります。
これを弊害と考えるなら、
日本国民全員が社会認識を変える必要があります。
そうなるまで、学校健診では病気が見逃され続け、
救命が必要な女性にAEDが使われない事態が続くことでしょう。
もちろん、医師の中にも“変な人”はいます。
それは警察官や学校教師の中にも“変な人”がいるのと同じで、
それらのほんの一部の人たちのために、
その職種の人すべてが“変な人”扱いをされると社会安全が成り立ちません。
AEDの使用に関して、医師が意見表明をしている記事が目に留まりましたので紹介します。
▢ 「女性へのAED使用を躊躇する気持ちは理解するが、それを助長させる必要はない」
薬師寺泰匡:薬師寺慈恵病院院長
(2025-03-11:日本医事新報社)より一部抜粋(下線は私が引きました);
テレビ朝日制作の配信番組「ABEMA Prime」において、1月20日放送回で「AEDで助けた女性から強制わいせつの疑いで被害届が出された」とするSNS投稿が取り上げられた。これまでAEDを使用して何らかの罪に問われたことはないが、ただ、捜査対象になるということだけでも心理的ハードルが高まってしまうことが懸念される。
結局、被害届が出された事実は確認できないということで、ABEMAは2月25日、公式サイトを通じて「10年ほど前の事案につき、事実関係の詳細の確認が十分とはいえないまま放送していました。なお、当局への取材を含め事実関係について再取材を進めており、今後、番組で適切に対応する方針です」とする声明を発表するに至った。
倒れている人を目撃し、声をかけ、人を呼び、救急要請をして蘇生を試みる。この行為は一般市民レベルではハードルが高いのが実際であろう。さらにAEDを装着して使用するというところまでいくと、相応の勇気が必要になる。対象が女性の場合には、性的嫌がらせととらえられたら……という心配がよぎり、介入のハードルはさらに高まる。シミュレーショントレーニングにおいても、人形が女性であった場合に衣服を脱がすのを躊躇されてしまうという研究もあるのが実情である。
躊躇なく救命処置がなされる社会と、皆が躊躇する社会、どちらが安全かと言えば、当然前者である。心原性の心停止に市民がAEDで除細動をした場合、1カ月後の社会復帰率は45%程度まで高くなる。しかし市民救助がなければ、1カ月後の社会復帰率は3.4%とされる。目の前の人に救いの手を差し伸べることは、自らも蘇生される可能性を高めることにつながっていくのである。どうにか蘇生処置を行えるよう心理的ハードルを下げる試みはあって然るべきだが、あえてハードルを上げるような情報、しかも誤情報を拡散するのは何のためにもならない。
我々にはテレビ局ほどの影響力はないので、粛々と一次救命処置を一般市民に広げていくしかない。人をたくさん呼ぶと、女性がいる可能性が高まり、救助に加わってもらえば男性としてはありがたいことになるだろう。また、人がたくさん集まれば、野次馬の目に晒されることがないように協力者で囲んで、通称「人の壁」をつくることもできる。野次馬の目から遠ざけることもやろうと思えばできるのである。より安全な社会に向けて、ABEMAから前向きな情報が出ることを願う。
<参考文献>
▶ Kramer CE, et al:Resuscitation. 2015;86:82-7.
なお、女性にAEDを使う際、服を脱がせなくても可能です。
これらの知識をより強力に啓蒙する必要があります。
東京都が「女性に配慮したAEDの使用方法について」(東京都多摩府中保健所)を公表していますのでご一読を。

単純に「心臓を挟んだ位置にパッド」を張ればOKです。
ただし、「金属は外す」というルールがあります(やけどします)。
それから濡れていると電気がショートして無効になりますので、
屋根のある場所に移動して水分をふき取る必要があります。
・・・このブログを書く際に検索したら、以下の記事が目に留まりました。
実際に悲劇が起きてしまったていたのですね。
救命が必要な女性に躊躇なくAEDが使用されるようになるまでに、
何人の犠牲者が必要なのでしょう・・・。
▢ ゴールまで1km、倒れた女性 使われなかったAED…「抵抗なくなる社会に」考え続ける家族
(2025/3/7:朝日新聞)より一部抜粋(下線は私が引きました);
ゴールまで残り1km、ひとりの女性ランナーが急に倒れました。心臓が止まっていて、すぐにAED(自動体外式除細動器)が運ばれてきましたが、使われることはありませんでした。命は助かりましたが意識障害が残り、女性は寝たきりの生活を送ります。家族は「抵抗なくAEDが使える社会にしていくにはどうしたらいいのか」と考え続けています。
▶ AEDが使われなかった理由は・・・“性別〟を理由に使われず
「決して速くはありませんが、夫婦でマラソンを楽しむ生活をしていました」 京都府に住む柘植(つげ)知彦さん(57)は、そう振り返ります。 2013年12月、地元のマラソン大会で8.8kmのコースを走っていた妻の彩さん(50)は、ゴールまで残り1kmの地点で突発的な心停止に見舞われました。当時39歳の彩さんに持病はなく、突然のことだったといいます。 沿道にいた女性が異変に気づいてすぐに胸骨圧迫(心臓マッサージ)を始め、数分後にはAEDを載せた大会の救護車も到着しました。 AEDは車から降ろされたものの、使われなかったといいます。 のちに柘植さんが大会の主催者に確認したところ、「駆けつけた救護員が男性で、倒れていたのが女性だったから使われなかった」と説明を受けました。 AEDは素肌に直接パッドを貼るため、女性への使用がためらわれることもあります。 しかし、もっとも大切なのは命です。心臓が止まってしまった場合、AEDによる電気ショックが1分遅れるごとに救命率は約10%ずつ低下するといわれています。 下着をずらすなどしてパッドを素肌に貼ることができれば、服をすべて脱がさなくても使うことができます。 服を脱がせた場合でも、パッドを素肌に貼った後なら上からタオルや服をかけて隠しても問題ありません。 ほかにも、救助者が何人もいる場合は人垣を作って周囲の目から隠したり、救助の様子をスマートフォンで撮影しようとする人に声をかけてやめるように促したりもできます。
▶ 「どうしたら…」考え続ける家族
彩さんが倒れてから約20分後、救急車が到着しました。救急隊によってAEDが使われ、彩さんは病院へ搬送されました。沿道にいた女性は、救急隊が来るまでの間、1人で胸を押し続けてくれたそうです。 当日は夫の知彦さんもマラソン大会に参加予定でしたが、熱が出たため彩さんだけが参加していました。知彦さんが知らせを受けて現場に着いたとき、彩さんはすでに運ばれたあとでした。 彩さんの心拍が戻ったのは、心停止から約50分後。脳の広い範囲に酸素が届かず、意識障害が残りました。 現在、まばたきで意思疎通ができるまで回復しましたが、体はほとんど動かせず、在宅で治療を続けています。
「どうしたら性別や年齢の区別なく、手を差し伸べられる社会を実現できるのか」 夫の知彦さんはそう考え続けています。 事故当時、4歳だった一人娘の奏恵(かなえ)さん(15)は、小学校高学年のときに初めて救命講習会に参加し、AEDの使い方を学びました。 夏休みの作文には、次のように記しました。 「決して簡単ではない内容だったが、私は母のことを考えながら一生懸命に取り組んだ」 「子どもも含め、多くの人が心肺蘇生やAEDについてもっと知るべきだと思う。そうすれば、倒れている人が男性でも、女性でも関係なく、救われる命が増えると思う」 「人が持っている優しい心に、こうした知識が加われば、お互いがお互いを助け合うことができると思う」
▶ 母の出来事と重ね…葛藤する娘
中学生になった奏恵さんは、葛藤を抱えていました。心肺蘇生法の授業で、心停止で倒れた人を助ける動画が流れたとき、母・彩さんの体験が重なって机に伏せて泣いてしまったといいます。 中学校は地元から離れていたため、入学当時は奏恵さんの境遇を知る人はいませんでした。しかし、仲の良い友達には彩さんの事故や後遺症について伝えてきたそうです。 「みんなそれぞれ何かしらつらいことを抱えているし、自分がかわいそうだというのは発信したくないと思っています。お母さんのことは隠しているわけではないけど、聞かれたら『ついに来たな』と思いながら話しています」 「女性だから使ってもらえなかった」と伝えると、「私だったら使ってほしい」と言う女子や、「女性だからってなんで使ってもらえないのか」と話す男子もいたそうです。 奏恵さんは、小学生のときからずっと「倒れた人にはAEDを使ってほしい」と考え、自らも使いたいと思っていました。 しかし、中学3年生になった今、自分にできる具体的な行動を考えるなかで「いざ救命現場に遭遇したときに自分が使えるかどうか」、悩むようになったといいます。 「お母さんのこともあるし、前までは絶対に私がAEDを使わないとと思っていたけど……倒れている人に触れて心肺蘇生をする前に自分のなかの色んなものがこみ上げてきて、できなくなるんじゃないかなって……」 目の前で人が倒れたら、母の出来事が頭をよぎってしまって行動に移せないのではないか。そんな複雑な思いを抱えるようになったそうです。 一方で、実際に自分が胸骨圧迫をしたりAEDを使ったりできるかは分からなくても、ほかにできることはあるとも話します。 「AEDを持ってきたり、救急車や応援を呼んできたり、無責任だけど誰かに『使ってほしい』と伝えたりすることはできる。AEDを使う覚悟は普段から持っていたいけど、まずは自分にできる行動をすることが大事かなと思い始めました」
▶ 男性より低い女性への使用率
総務省消防庁によると、心臓が原因で倒れた人のうち、通行人らに目撃された例は2023年に2万8354人でした。そのうち、AEDの電気ショックを受けたのは1407人で約5%にとどまっています。 熊本大学などが2005~2020年に心停止をし、市民に目撃された約35万人(平均年齢78歳、女性38.5%)を対象に調査(※)した結果、AEDの電気ショックを受けた割合は、男性が3.2%で、女性が1.5%でした。15~49歳の男女では、男性7.0%に対し、女性は3.8%。心肺蘇生を受けた割合も、男性56.8%に対して、女性は53.5%でした。 女性への使用について、インターネット上では「セクハラで訴えられる」という誤った投稿がありますが、意図的に危害を加えるといった悪意がない限り、罪や責任を問われる可能性はありません。善意で人を助ける救命処置は刑法37条の「緊急避難」と民法698条の「緊急事務管理」にあたります。 日本AED財団は、「一刻を争う事態では相手が女性であってもためらわずにパッドを装着してほしい」と呼びかけています。妊娠中と考えられるケースでも、心停止が疑われたら命を救うために積極的に使用してほしいそうです。
▶ 「手を差し伸べられる社会」になるために
依然としてAEDが使われていない現状について、マラソン大会で倒れた柘植彩さんの夫の知彦さんは、「そもそもAEDの仕組みがあまり知られていないのでは」と疑問を呈します。 AEDは、心臓がブルブル震える「心室細動」の状態になってしまった際、電気ショックによってリズムを元に戻すための機器です。パッドを貼るとAEDが自動で心電図を解析し、電気ショックが必要かどうかを判断してくれます。
生物科学を専門とし、京都大学化学研究所の准教授である知彦さんは、講師として高校で生徒たちに授業をする際、彩さんやAEDについても話すそうです。そこで、AEDを人間が作り出した「魔法の道具」と表現するのだといいます。 「AEDは、何もしなかったらまず生き返ることはない人に対して、こちら側の世界に戻してあげられる科学が生んだ『魔法の道具』です。『肌に触れていいのか?』『失敗してしまったら?』とためらってしまうと、その分『魔法』が効く時間を縮めてしまうように感じます」 AEDが使われる社会になるために、柘植さんは教育に期待しているそうです。
現在、心肺蘇生法については中学・高校の学習指導要領に盛り込まれていて、日本AED財団などは小学校の学習指導要領にも採り入れるよう求めています。 「例えば、小学校高学年から高校生まで9年間、児童・生徒に心肺蘇生講習や、命の大切さを教える授業を毎年続けたら、蘇生が必要なときに、性別に関わらず『AEDを使って!』『AEDを使おう!』と叫べる世代が現れます」 「AEDを使うことに抵抗なく、誰もが一緒に助けの手を差し伸べられる社会になってほしいと思います」