小児アレルギー科医の視線

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130/80以上は高血圧(米国のガイドライン)

2017年12月08日 17時26分48秒 | 医療問題
 血圧に関する議論が活発化しています。
 日本では高血圧の定義は「140/90」以上でした。
 今回、米国のガイドラインは「130/80」に下げました。
 すると、高齢者の多くは治療対象となります・・・と思いきや、併存疾患がなければ非薬物療法(体重の減少、健康的な食事(DASH食、食塩摂取量の減少、カリウム摂取量の増加など)、身体活動の増加、飲酒量の減少)を推奨するとの内容ですね。
 早期から高血圧予備軍として自覚を促し、生活習慣を見直すという目的が垣間見えました。

■ 高血圧の定義を130/80に厳格化 〜AHA/ACC高血圧GL改訂
2017年11月16日:メディカル・トリビューン
 米国心臓協会(AHA)と米国心臓病学会(ACC)は、2003年に公表された米国高血圧合同委員会第7次報告(JNC-7)の改訂版となる高血圧の予防、検出、評価、管理のためのガイドライン(以下、新GL)を米国心臓協会学術集会(AHA 2017、11月11~15日)で発表した。これまでJNC-7では140/90mmHg以上を高血圧と定義※していたが、新GLでは130/80mmHg以上に引き下げられた。これにより、米国で高血圧と診断される成人が14%増加するが、そのうち降圧治療が必要な患者は約5分の1であるという。ガイドライン全文はHypertension(2017年11月13日オンライン版)に掲載された。

"Prehypertension"の分類を"Elevated"に変更
 新GLでは、従来の定義による高血圧(140/90mmHg以上)はステージ2の高血圧に分類される。前高血圧(Prehypertension)の分類はなくなり、収縮期血圧(SBP)120~129mmHgかつ拡張期血圧(DBP)80mmHg未満の血圧分類に"Elevated"の用語が採用された(表)。

表.新GLの血圧分類

(Hypertension 2017年11月13日オンライン版)

 新GLでは、診断には正確な血圧測定が不可欠であるとして、2機会2回以上の測定の平均値を使用するよう推奨している。また、白衣高血圧や仮面高血圧を検出するための補助手段として、24時間自由行動下血圧測定(ABPM)と家庭血圧測定(HBPM)にも言及している。

ライフスタイルの変更による早期管理を重視
 新たな高血圧の定義に従うと、米国における高血圧の有病率は従来の32%から46%に上昇するが、大部分には非薬物療法が推奨されるという。新GLでは、ライフスタイルの変更などの非薬物療法による、より早期からの管理の重要性を強調しており、「体重の減少、健康的な食事(DASH食、食塩摂取量の減少、カリウム摂取量の増加など)、身体活動の増加、飲酒量の減少が最も重要である」としている
 ステージ1の高血圧に対しては、「血圧に加えて、今後10年間の動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスクを"ASCVD Risk Calculator"で算出し、リスクが10%を超える場合または併存疾患(心血管疾患、糖尿病、慢性腎臓病)がある場合のみ降圧薬を処方する。リスクが10%未満の場合は、まずライフスタイルの変更を推奨し3~6カ月後に再評価する」としている。

GL改訂の基礎にSPRINT試験
 薬物療法に関しては、第一選択薬としてサイアザイド系利尿薬、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)を推奨し、「高血圧患者の大部分では複数の降圧薬を併用する必要があり、特定の組み合わせの有効性が示されている」としている。
 また、「1つ以上の併存疾患を有する患者、妊婦を含む女性、高齢者、小児では高血圧管理の内容を調節するよう配慮すべきであり、人種/民族による差も考慮すべきである」との見解を示している。
 米国立心肺血液研究所(NHLBI)などの支援を受けて実施された大規模臨床試験Systolic Blood Pressure Intervention Trial(SPRINT)では、全米約100カ所の医療施設で心疾患リスクが高い50歳以上の高血圧患者9,300例超を対象に、従来よりも厳格な降圧目標値についての検証が行われた。SBP120mmHg未満を目指した厳格降圧群が140mmHg未満を目指した標準降圧群に比べて,心血管イベントリスク、全死亡リスクともに有意に低下させた。新GLの重要項目は、同試験の結果に裏付けられている。


※ 2013年に発表されたJNC-8でも140/90mmHgを高血圧以上と定義、年齢とリスク別に降圧目標を設定
(関連記事:「JNC-8ついに発表,"60歳以上の降圧目標は150/90未満」など9つの勧告"」)


 上記記事の解説です。

【解説】わが国でこそ徹底した降圧を 〜AHA/ACC高血圧ガイドライン改訂のわが国への影響
自治医科大学循環器内科主任教授 苅尾七臣
2017年11月24日:メディカル・トリビューン
〔編集部から〕米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)の高血圧ガイドラインが改訂され、高血圧の定義が従来の140/90mmHg以上から130/80mmHg以上に厳格化された(関連記事「高血圧の定義を130/80に厳格化」)。定義の厳格化により、米国では高血圧患者および降圧治療が必要な患者の数が増加することが想定される。米国での改訂が、現在わが国で改訂中の高血圧ガイドラインに及ぼす影響はあるのだろうか。自治医科大学循環器内科主任教授の苅尾七臣氏に解説してもらった。

より早期の認定・診断でイベントを抑制
 今回のAHA/ACCガイドライン改訂で示された明確な方向性は、より早期から、24時間にわたり、血圧レベルを低い状態に保つことの徹底的な加速である。したがって、できるだけ早期から、血圧の上昇を高血圧と認定・診断し、将来のイベント発生に抑制をかけようとするものである。 

高齢者も例外とせず130/80mmHgに
 今回の改訂では、高血圧の診断と治療目標となる血圧レベルを全て130/80mmHgに引き下げた。降圧目標のレベルは、高齢者においても例外とせず、130/80mmHg未満へのより低い血圧へのコントロールを推奨している。
 SPRINT試験の成績(N Engl J Med 2015; 373: 2103-2116)と、ランダム比較試験のメタ解析の成績(Lancet 2016; 387: 957-967)が発表されて、今回、高血圧の管理目標が一変するであろうことは予測できた(Nat Rev Cardiol 2016; 13: 125-126)。循環器イベントの発生は一日にしてならず、しかし、発症は非連続である。病的な著しい血圧上昇(血圧サージ)のあるところに循環器疾患のリスクがある。血圧は循環器疾患の進展と発症の全過程に強く関わることから、血圧をより低いレベルに保つことで、血管障害の進展が抑制され、血圧サージによるイベントのトリガーが回避される。

パーフェクト24時間降圧を重要視
 これまで、わが国の高血圧治療ガイドライン(JSH2014)では、家庭血圧に基づく個別診療を強く推奨し、さらに必要に応じて、24時間自由行動下血圧測定(ambulatory blood pressure monitoring: ABPM)の活用を推奨してきた。今回のACC/AHAガイドラインでは、家庭血圧およびABPMの高血圧診断と降圧治療における位置付けを、さらに明瞭化し、白衣高血圧、仮面高血圧、持続性高血圧の血圧閾値を画一化的に130/80mmHgへ引き下げた。また、夜間血圧の治療目標レベルも明記され、110/65 mmHgへ引き下げられている。つまり、24時間にわたる厳格な降圧の達成が、より低い基準値をもって推奨されたことになる。 

アジア諸国へのインパクト
 近年、われわれはWorld Hypertension Leagueの支持を得て、アジアにおける循環器イベント・ゼロおよび高血圧管理・臓器保護の改善を目指して、①これまでのエビデンスをまとめ②コンセンサスを形成し③臨床研究を行うグループHOPE Asia Network (Hypertension, Brain, Cardiovascular and Renal Outcome Prevention and Evidence in Asia) 学術活動―を始めている(Kario K. The HOPE Asia Network for 'zero' cardiovascular events in Asia. J Clin Hypertens 2017, in press)。
 アジア諸国の最も重要な特徴は、①高血圧とより関連の強い脳卒中や非虚血性心不全が多く、さらに②循環器リスクとしての血圧のインパクトが、欧米諸国よりもより強いことが挙げられる(前掲論文)。したがって、ACC/AHAガイドラインの方向性はアジア人においてこそ有用と考えられる。

新規ガイドラインを明日から実地臨床へどう生かすか
 実地診療における最初の一歩は、早朝家庭血圧の自己測定と厳格なコントロールの徹底である。
 次のステップとして、さらにハイリスクの高血圧患者、すなわち夜間高血圧が疑われる慢性腎臓病、糖尿病、睡眠時無呼吸合併例、心血管イベントの既往患者や、血圧変動が著しい患者では、ABPMや夜間家庭血圧計を活用し、全ての時間帯で血圧コントロールを目指すことが、循環器イベント・ゼロへの正しい方向性である(Prog Cardiovasc Dis 2016; 59: 262-281Prog Cardiovasc Dis 2017年11月3日オンライン版)。
 今回のAHA/ACCガイドラインの改訂により、高血圧患者と血圧コントロール不良患者の該当者は増加するが、必ずしも降圧薬による治療強化を推奨するものではない。まずは、生活習慣の徹底した自己修正を指導することが肝要である。 

日本高血圧学会・高血圧治療ガイドラインへの期待
 現在、わが国でも日本高血圧学会が中心となり高血圧治療ガイドラインを改訂中である。ACC/AHAガイドラインが示す徹底した降圧は、わが国においてこそ重要である。システマチックレビューにより最新エビデンスを総括し、専門家のコンセンサスを加えた、わが国独自のより的確な総括的リスク管理ガイドラインが期待される。
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