成人ほど話題にはなりませんが、
小児の新型コロナ罹患後症状も存在します。
小児科開業医である当院は、
に手を挙げました。
罹患後症状は明らかな急性期合併症を引きずるほか、
他の病気がたまたま罹患後のタイミングで発症したパターンもあります。
しかしそれらを除外した「真の罹患後症状」の病態・原因は未だに不明で、
当然、治療も確立されていません。
という状況の中で、一介の小児科開業医に何ができるのか?
・・・答えは“漢方薬”です。
漢方薬は検査機器が存在しない約2000年前に確立されました。
西洋医学では検査をして病因を突き止め、
それに対する治療を行います。
逆に言うと、検査で異常がないと診断名がつかず、
よって治療法が決まらないというジレンマを抱えます。
一方の漢方薬は検査異常の有無は関係ありません。
その人の体質・体調・健康状態のゆがみを評価し、
それをふつうの健康状態に戻す薬を使うだけです。
そしてその健康状態には「こころ」も含みます。
西洋医学は「体」と「こころ」を分けてしまったため、
体の症状があっても検査で異常がないと、
「気のせいでしょう」
とか
「精神科を紹介しましょうか?」
と言われるのがオチです。
しかし体とこころをまとめて健康状態を捉える「心身一如」という漢方の基本は、
西洋医学の限界を突破する力を持っています。
私がふだんから患者さんに用いる言葉に、
「“気のせい”と言われたら漢方の出番です!」
があります。
漢方では“気のせい”を細かく分類して、それを緩和する薬がたくさん用意されているのです。
たとえば・・・
(元“気”がない) → 気虚 ・・・補中益気湯(41)、六君子湯(43)
(“気”が滅入る) → 気うつ ・・・半夏厚朴湯(16)、香蘇散(70)
(イライラ“気”分) → 気逆 ・・・黄連解毒湯(15)、
等々。
先ほど「新型コロナ罹患後症状相談医療機関」、
たくさんあるんだろうなと当地域の一覧サイトを覗いたところ・・・
当院だけでした。
内科の先生方、診療しないんですか?
ここでは診療ガイドライン「罹患後症状のマネジメント」
を参考にポイントを列挙し、考察してみます。
一読してみて、
「このガイドライン、当たり前のことしか書いてなくて役に立たない」
と思いました。
・他の病気がかくれていないか丁寧に診療する
・異常が見つからなくても「気のせい」と言ってはいけない。
・要すれば高次医療施設や専門医と連携する
等々。
でも治療薬のことや「こうすればよくなります」とはひとことも書いてありません。
私が「おや?」と感じた点;
・未罹患者と罹患者の症状の比較を統計学的に比較すると差がない(HPVワクチン副反応問題と一緒!?)。
・未罹患者になく、罹患者のみ訴える症状は「嗅覚障害」のみである。
・有効な治療法はない。
・・・この辺に解決の糸口がありそうです。
それから診療フローチャートを眺めると、
「小児心療内科」「児童精神科」と連携すべし、
と記載されていますが、
そのような医師がいない地域ではどうすればいいんですか?
と問いたい。
実現不可能なフローチャートは“絵に描いた餅”です。
■ 小児における罹患後症状の国内外の知見
・頻度は2〜70%と研究によりばらつきが大きい。
・多くの調査において、遷延する症状は非感染者に比べて感染者が約1〜5%程度高かった。
・メタアナラシスでは、頻度が感染者>非感染者の症状として、
嗅覚・味覚障害、不安、疲労感、などがあった。
・オミクロン流行期には、それ以前と比べて罹患後症状が少ない。
■ 日本国内の小児を対象とした調査:その1(大阪府八尾市)
・罹患後症状:6% ・・・第4〜5波では13.7%、第6波では5.8%。
・主な症状:咳嗽>疲労感・倦怠感>味覚障害・嗅覚障害>集中力低下
・年齢別では、
(5〜10歳)咳嗽、頭痛、咽頭痛、睡眠障害、腹痛
(11〜17歳)疲労・倦怠感、味覚障害・嗅覚障害、集中力低下、咳嗽
・罹患後症状は、年齢が高い児、アレルギー疾患や自律神経系疾患の既往がある児、感染前の新型コロナワクチン未接種児でより多く見られた。
・罹患後症状の頻度は時間とともに低下したが、感染から半年以上経過後も罹患後症状を有した児の半数以上に何らかの生活への支障が認められた。
■ 小児の罹患後症状(WHOの定義)
・症状はCOVID-19が確定診断、または強く疑われた3ヶ月以内に出現し、少なくとも2ヶ月以上続く。
・疲労、嗅覚・味覚異常、不安感が特徴的であるが、その他の症状も報告されている。
・日常生活に何らかのかたちで支障をきたす。
・症状は、COVID-19の急性期症状の後、一旦回復してから新たに生じる症状もあれば、急性期から持続する症状もある。
・症状は経過とともに変動したり再発したりしうる。
・諸検査により別の診断が明らかになるかもしれないが、それはコロナ罹患後症状の診断を除外するモノではない。
・・・以上は全年齢の小児に適用されるが、症状や日常生活への影響は年齢に応じて異なることを考慮に入れる。
〜ここまで。
(追加)
・小児では成人と比べてその頻度は低く、年長時よりも年少児ではさらに報告は少ない。
・小児ではもともと機能性身体症状を呈することが多く、それが心理社会的ストレスに伴い心身症となりやすい年齢群でもあり、COVID-19に罹患したストレスによって様々な症状が出現する可能性がある。
・未罹患でもコロナ禍の生活の変化や制限のために罹患後症状とよく似た心身の変調を訴える小児が増えているため、小児における罹患後症状を単一の疾患概念と捉えることは困難である。
・現時点での知見は乏しく、診療におけるコンセンサスはまだ得られていない。
・小児〜若年成人においてはCOVID-19罹患後2〜6週頃に、過剰な炎症反応が全身諸臓器に生じる重篤な病態である小児多系統炎症性症候群がある。
■ 小児の罹患後症状の科学的知見
・小児でも罹患後症状を有する確率は対照群と比べるとやや高く、特に複数の症状を有する場合が多い。
・成人での報告と比べると少なく、さらに年少児は年長児と比べて少ない。
・症状の内訳は、嗅覚障害を除くと、対照群との間に大きな違いはない。
・対照群においてもメンタルヘルスに係わる症状を含め、多くの訴えが認められる。
・対照群を population-based seronegative control として研究では、症例群と対照群のと間に罹患後症状の有病率の有意差を認めない。
・小児においても、まれに成人に見られるような循環器系・呼吸器系などの重篤な病態を起こす可能性がある。
・・・以上より、小児の罹患後症状を単一項目選択の疾患概念として捉える根拠に乏しく、何か画一的な治療法がすべての患児に適しているとも考えにくい。
■ 診療フローチャート
■ フォローアップ
・どんな症状であれ日常生活に支障をきたす場合は、直ちにかかりつけ医等を受診すべきである。
・その目的は以下の通り;
① 他の疾患の除外診断
② 機能性症状であっても対応の遅れから長期に及ぶ不登校状態や引きこもりをきたす可能性があるため
■ 開業医での診療(プライマリ・ケアにおけるマネジメント)
・一般診療と同じように診療する。
・起立性調節障害(OD)を代表とする自律神経機能不全の好発年齢でもあり、疑われる場合は新起立試験を実施する。また、ODが心身症となることが少なくないため「心身症としてのODチェックリスト」も確認する。
・OD以外でも心身相関が強い小児では心身症としてさまざまな身体的異常を呈することがあることに留意する。
・明らかな異常が見つからない場合でも、安易に「心因性」という言葉で片付けないようにする。当事者にとって「心因性」という説明は、しばしば「自分の訴えを全否定している」と受け取られる恐れがある。
■ 専門医・拠点病院への紹介
・一般の病気の鑑別診断が必要な場合は高次医療施設に精密検査を依頼する。
・心理社会的ストレスの影響が大きい場合は、児童精神科や小児心療内科に紹介する。
■ 専門医・拠点病院でのマネジメント
・必要に応じて多診療科・他職種による連携を図る。
■ 医療機関-学校等の関係者間連携
・COVID-19流行期には、罹患後に体調不良が悪化したり長引いたりする子どもが増加したり、長期欠席による生活の乱れや罹患に伴う不安感がそれに拍車をかける可能性がある。
・体調不良が長引くと子どもは、
「また具合が悪くなりそうで不安だ」
「頑張ろうとしても頑張れない」
「こんな自分はダメな人間だ」
という気持ちが強くなり、それが体調不良をさらに悪化させる。
・子どもは自身の状況をうまく周囲に伝えることができない。
〜以上の悪循環を防ぐために医療機関-学校等の連携が必要である。
実際に連携をする場合は、事前に保護者と本人に説明をして承認を得ることが必要、
その上で連絡状や意見書の作成、電話説明などを検討する。
■ 医療機関が恰好などの関係者に説明する際の留意事項(例)
・成長期の子どもはさまざまな要因により体調不良を呈することが多く、
それらは感染症罹患によって悪化することもある。
・子どもの体調不良を「気分的なもの」や「気のせい」だと決めつけず、
子どものつらさを理解しようとする姿勢を持つ。
・安静にしていれば改善するものではない場合もあり、
個々の状態に配慮しながら学校生活を継続させることが大切である。
具体的には、医師・保護者・学校関係者で相談の上、必要に応じて次のような配慮を検討する;
✓ 朝の起床が難しい場合には、遅刻して登校する。
✓ 通学の負荷を軽減するために、自家用車などにより送迎する。
✓ 授業への参加が難しい場合には保健室や別室でICT等を活用した学習などを行ったり、
体育などの運動は見学としたりするなど、子どもの状況に応じた配慮を行う。
✓ 教室で給食を食べることが気分不良などにつながる場合には、
別室での食事や弁当持参、給食前の早退を検討する。
・配慮の対応を取りやめる時期は、症状が再増悪しないよう、子どもや保護者と相談しながら、焦らず十分に時間をかけて検討する。
・目標を一方的に決める(1週間で強制的にステップアップするなど)のは、
子どもへの心理的負担が大きいため注意する。
・感染後の体調不良の多くは3ヶ月程度で改善していくが、個人差も大きく回復に長時間を要する場合がある。