小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「アトピーは専門病院でここまで治る」

2008年09月13日 23時21分02秒 | アトピー性皮膚炎
岡部俊一著、1998年、現代書林発行.

アトピー性皮膚炎専門病院の皮膚科医が一般向けに書いた解説本です.
著者名をみて「どこかで聞いたことがあるなあ」と思ってパラパラめくってみたら、なんと私の出身大学の先輩でした.
学生実習で皮膚科を回っているとき、漢方使いの一風変わった先生がいて、彼が岡部先生なのでした.
懐かしさも手伝って購入・読了.

岡部先生も前出の江部先生同様、アトピー性皮膚炎は軟膏治療だけでは解決せず、ホリスティック(全体的)な医学による治療が必要であると説いています.
彼の治療システムはピラミッドを用いて解説され、ベースはスキンケアと軟膏療法、その上に必要に応じて温泉治療、教育入院、紫外線治療、漢方薬、アレルゲンの除去、心理療法、その他、と多岐にわたっています.
読めば読む程、「自分にはここまでできないなあ」と小児科医の無力さを思い知らされる内容でした.

「ステロイド外用剤はあくまでも急場しのぎの対症療法で、根本的な治療をしているわけではない」と言い切っています.
エッ? アトピー性皮膚炎治療ガイドラインに書かれていることと違うじゃないですか.
ガイドラインには「適切な強さのステロイド軟膏を使用して皮膚を良い状態に保つことにより、徐々に皮膚が正常機能を取り戻してきて治癒に向かう」という書き方をしていたと思います.
でも、その通り指導しているつもりでも、私のところに来る患者さん達は軽症例以外なかなかコントロールできません.
それから、「アトピーは従来いわれてきたようなダニやハウスダストなどのアレルゲンに対して免疫システムが異常反応を起こすということよりも、心因による精神的なバランスの崩れが原因となる皮膚病であって、生活習慣を改める訓練が必要とされているのです.」とも書かれています.
ここまで言い切られると、アレルギー専門医の私は困ってしまいます.でもアレルギー疾患という捉え方だけでは確かに解決できませんので、心身一如として心のケアも必要であるという意見には賛成です.

そこで漢方薬の出番です.
「ステロイド外用剤で皮膚の表面の炎症を抑えても、内部の痰飲(漢方用語:体液の流れが滞って熱を帯びた状態)を取り除かなければ根本的な治療にはならないのです.」
なるほど、そうですよね.納得できる解説です.

それから、心理面では小児のアトピー患者について親子関係の問題を指摘しており、大変参考になりました.
幼児が皮膚を掻くのは親の注意を自分に向けるという目的が隠れていることがあります(これを疾病利得と言います).
その心が満たされない限り、掻破は止みません.
「抱っこすることにより子どもが掻くことを止めれば、こうしたスキンシップをしてもらいたいという心理が、無意識に掻くという行為になって出ていることがわかります.」
・・・自分の子育て経験からも、頷ける説明です.

また、臨床心理士の観察から、「アトピー患者は精神的なストレスを受けやすく、内向的であるためにストレスの会報がうまくできません.不満感、抑うつ感が掻くという行為につながり、回復を長引かせる原因となっています.」と分析し、その対策として「アトピーは患者さん自身の生活が作り出していると考えれば、健康体質を手に入れるのは、まず患者さん本人の意思が大事になるはずです.」
・・・やはり「医師に指示された治療」に終わることなく、「自分で取り組む姿勢、生活習慣を変えようとする意志」が働かなければ上手くいかないのですね.前出の「アトピーカウンセリング」の内容と一致する面があります.

説明なしにステロイド軟膏を渡して「これを塗っておいて」というだけの診療の皮膚科医が多い中、がっぷり四つに取り組んでいる岡部先生を尊敬します.

その昔(20年以上前)、臨床実習中に学生が岡部先生に質問しました.
「漢方薬って副作用があるんですか?」
「人を殺せるよ.」
「・・・」
今でも鮮明に覚えている一言です.

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