平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

蟹工船 小林多喜二

2008年08月01日 | 小説
★平成格差社会の現在、「蟹工船」がブーム。
 早速読んでみる。
 プロレタリアート文学というとイデオロギーの宣伝作品というイメージがあるが、バランスが取れている。
 例えばカムサッカに漂着した漁師がロシア人から共産主義社会の良さを説かれる場面があるが、漁師たちはまずロシアが自分たちをアカにするための宣伝=『赤化』ではないかと疑っている。
 蟹工船の労働者達はストライキを行うが、一度では成功しない。
 この辺のリアリズムをしっかり押さえている所がいい。

★小説としては今の人には読みにくい形式。
 何しろ明確な主人公がいない。
 登場人物は漁師であり炭坑夫であり学生なのだ。
 固有名詞の持ち主としては監督の浅川が登場するが、他に固有名詞で登場する人物は少ない。
 缶詰工場付きの船、蟹工船もイメージしにくいだろう。

★この様に「蟹工船」は非常に読みにくい小説だが、現在の若い人がこれに共感しているという現実が面白い。
 戦後60余年。
 この年月の中で「蟹工船」がこんな形で共感を受けて読まれた時代があっただろうか?
 表現されているのは高度経済成長期やバブル期の価値観とは別のもの。
 一億総中流でプロレタリアートなどは意識もされなかった。学生運動の頃にはそれもあっただろうが、ソ連の共産主義の失敗と共にマルクス主義は凋落。北朝鮮はもちろん中国でさえ成功しているとは言えない。
 そんな時代にプロレタリアートや連帯・闘争という作品が読まれるとは!
 これは今の時代が本当に行き詰まっている証拠である。
 今の若い人には未来への夢や希望がなくなった。
 確かに年金問題、環境問題など将来の不安は尽きない。
 また原油やとうもろこしなどを数字の上だけで右から左に動かすことでお金儲けが出来る資本主義の構造自体が大きな矛盾になっていることも確かだ。

 現在はちょっとまずい時代ですね。
 かつての日本は経済的に行き詰まって戦争への道を走った。
 フランスでは生活の困窮が革命をもたらした。
 このまま放っておくと戦争か革命が起きますぞ。
 右から左に動かすだけでお金を儲けている人たちはそろそろエゴイズムを捨てたらどうでしょうか?
 一生どんなに贅沢をしても使い切れないお金を儲けても仕方がないでしょう?
 お金はあの世に持っていけないのだから。

 「蟹工船」ブームはそんな暴走する資本主義への警鐘だ。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする