平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

項羽と劉邦~その詩からうかがえる、ふたりの人柄

2012年07月17日 | 小説
 陳舜臣さんの『中国詩人伝』(講談社)を読む。
 その本での項羽と劉邦の話。

 秦の始皇帝の巡幸。
 その行列を見て、項羽は「よし、あいつにとってかわってやろう」と言ったという。
 一方、劉邦は「男と生まれたからには、あんなふうになるべきだなあ」。

 ふたりの人柄が表れている。
 日本で言えば、信長、秀吉、家康の<ほととぎすの句>に似ている。

 項羽と劉邦の人柄は、その詩にも表れている。

『力は山を抜き 気は世を蓋(おお)いしに
 時に利あらずして 騅(すい)は逝(ゆ)かず
 騅の逝かざるは奈何(いかが)す可き
 虞(ぐ)よ、虞よ 若(なんじ)を奈何せん』

 <四面楚歌>で有名な項羽の『垓下歌』だ。
 陳舜臣さんの訳でいうと、こうなる。

『自分は山を抜くほどの力を持ち、世界をおおうほどの意気をもっていた。それなのに、時局は我に不利で、我が名馬の騅も進もうとしない。
騅が進まないのだから、どうしようもない。ああ、愛する虞よ、お前にふりかかる不幸を、私はもうどうすることもできないのだ』

 悲しくて絶望的な詩である。
 そして面白いのは、項羽がこのような状況になってしまった原因を<時に利あらざるして>と分析していることだ。
 その原因は、部下を信じないこととか、項羽自身の人格にあったのに、項羽は自分を英雄だと思い、過信していたのだろう、そのことを全く理解していない。

 一方、勝利者・劉邦はこんな詩を読んでいる。

『大風起こりて 雲飛揚(ひよう)す
 威は海内(かいだい)に加わりて 故郷に帰る
 安(いず)くにか猛士(もうし)を得て四方を守らん』(大風歌)

 陳舜臣さんの訳はこう。

『大風吹き、雲みだれ飛ぶ乱世はすでに平定され、威光は天下にあまねく、私はこうして故郷に帰った。さあ、どうか勇ましい男たちを得て、この国の四方を守らせたいものである』

 このように天下人・劉邦は、自分が天下を取ったのは自分自身でなく、勇ましい仲間達のおかげであり、今後も猛士を得て国を守りたい、と認識している。
 自分しか信じなかった<項羽>と、これはと思った人間を徹底的に信じて任せた<劉邦>。
 英雄論の議論はここではしませんが、どちらに仕えたいかと聞かれれば、やはり劉邦でしょうね。


コメント (2)
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