No. 1151 日銀が大株主に
投稿日: 2016年6月7日
2014年10月31日、日本銀行は金融政策決定会合において株価連動型上場投資信託(ETF)を年3兆円買い入れることを決定した。
日銀による株の買い入れはそれ以前から始まっていたが、当初の方針は年間1兆円の買い入れというものだった。さらなる異次元金融緩和政策により買い入れ額は一挙に3倍に増額され、それ以後は日経平均株価が下落すると日銀が買い入れるというのが暗黙の目安になった。
日本株の3割は外国人投資家が保有しており、売買比率はさらに大きい。そのため海外勢が日本株を売ると株価が下がっていたが、これにより状況は一転した。株安になっても株式市場に日銀の大量の資金で買いが入り、その結果株価全体を押し上げていったのである。
去る4月、経済・金融情報を配信する米国の情報サービス会社であるブルームバーグが、日銀はこの「爆買い」によって日本の主要上場企業の株式への影響力を強め、日経平均株価を構成する9割の企業で日銀が実質的な大株主になったと報じた。公開されている情報によれば、2010年から2016年3月までに日銀が買い入れたETFの累計額は時価ベースで8兆6千億円になる。そして日銀のETF推定保有額から試算すると、225銘柄のうち約200社で日銀は保有率上位10位内に入る実質大株主だとブルームバーグは指摘する。日銀は、もはや巨大なヘッジファンドのような存在となったのである。
日銀が大企業の株式を買い入れても日本の経済は一向に回復する気配はないにもかかわらず、なぜ日銀はそれを続けるのか。日本がデフレから脱却できないのは、日銀が株式を買い入れている上場企業を含め、企業で働く労働者の賃金が上がらないこと、そして正社員の代わりに非正規の労働者を企業が採用していることが、日本の消費を停滞させる最大の原因なのである。
また企業は生産拠点を日本からより賃金の安い海外へ移転し、研究開発などの投資を控え、その代わりに余剰金で自社株買いをして人工的に株価を上昇させている。もちろん株価は短期的にしか上がらないから、日銀は株式を買い入れ株価を支える必要があるのだろう。そしてこれらすべてが、長期的に日本経済をさらに悪化させているのである。
日銀とは、資本金1億円の民間企業であり、日本政府はその最大の出資者でもある。しかし日銀には株主総会はなく、従って日本政府は日銀の政策に介入することはできない。その一私企業である日銀は貨幣流通や銀行への貸出金利の決定権を持ち、日本国民の生活にかかわるさまざまな経済政策を取り仕切っているのである。
日銀を国有化すべきだという議論になると、必ず「中央銀行の中立性」が持ち出され、政府ではなく民間企業が持つべきだという主張がなされる。しかし日銀によるETFの年3兆円買い入れという政策だけをみても、株価が上昇して利益を得るのは一部の富裕層、投資家であり、中立な政策とはとても言えない。国民の大多数である一般勤労者に益となる政策をとらせるためにも、日銀は国有化されるべきである。