原油価格の長期低落傾向が鮮明になってきました。この傾向は世界経済特に日本に多大な影響を与えます。30年前の1985年『逆オイルショック』では円高・低金利・原油安がトリプルメリットともてはやされバブルを生み活況を呈しました。今回のトリプルメリットは円安・低金利・原油安です。原油安によって黒田日銀総裁の異次元の金融緩和が異次元に続く可能性が出てきました。2%の物価上昇にはとても届きそうにないからです。経常黒字額も1985年当時の数値近くに下落して当時との類似性があります。いずれにしてもこのような状況で今後一方的な円安が有りうるのかも含めて推移を見守る必要があります。一般的に世界経済がリスクオン時は円高・ドル高、リスクオフ時は円安・ドル安です。原油が暴落に近い状態で下落してくればロシア危機再現や新興国・産油国経済に与えるダメージは甚大です。しかしタイムラグはあり年初は平穏なスタートを切れるはずです。
● 1985年の逆オイルショック
今回の環境について、筆者は今から30年前の1985年から86年に起きた原油価格の急落との類似性を強く意識してきた。当時「逆オイルショック」として、それ以前の1970年代に大幅な石油価格高騰、石油危機の反動として生じた側面もあった。次の図表2は、1985年と今回の原油価格の動向を振り返ったものである。1985年から1986年には60%以上の低下が生じたが、今回もすでに50%近い下落が生じている。
● 2015年は原油価格下落も含めた トリプルメリットに
みずほ総合研究所では2015年の見通しを行うに際し、「トリプルメリット」として、(1)金融緩和での円安、(2)財政拡大、(3)原油価格下落、として原油価格下落要因を重視してきた。1985年当時も、同様に「トリプルメリット」が指摘され、(1)円高、(2)低金利、(3)原油価格が指摘されていた。世界経済は、1980年代前半の世界的な金融引き締めに伴い低成長状況にあり、需要の低下が背景にあった。さらに、新たな北海油田の存在で、OPECの価格支配力が揺らいだことも大幅な価格下落につながった。
● 1980年代後半に生じた 先進国の回復と新興国不安
1980年代後半に生じた原油価格の下落は、日米欧、先進国の経済の底上げにつながった。すなわち、原油価格下落が物価下落を招き、それが各国中央銀行の金利引き下げ余地を拡大し、それまでのインフレから物価水準の大幅下落を意識するようになった。
その結果、各国で株式を中心とした資産価格の上昇が生じた。一方、産油国を中心に新興国では債務累積問題として深刻な経済問題が生じた。地政学的には、大幅な原油価格下落は当時、最大の原油産出国であったソ連の影響力低下を招き、それが1980年代後半に向けたソ連の崩壊の一因になったともされる。
● 先進国の物価下落、 金融緩和、資産価格上昇
今日においても、原油価格下落は日米欧の先進国の景気底上げ要因につながる。一方、産油国を中心とした新興国の多くにとっては、不安定な要因になりやすい。今回も、原油に大きく依存するロシアの状況には留意も必要であろう。