103万円の壁が150万円まで広がるか?

2016年12月12日 | Weblog

みなさんおはようございます。早いもので今年も残すところ半月ほどになりました。いかがお過ごしでしょうか。やり残しの無いよう、きっちり片付けて新年を迎えたいものです。

 

さて、弊所では只今年末調整の真っただ中といった状況にあります。

もちろん扶養(税だと103万円、社会保険の場合は130万円が上限)の範囲内で働いているパートさん達の年末調整も多く扱います。

つい先日12月8日に与党の平成29年度税制改正大綱が発表になり、配偶者特別控除について大きな変更点がありましたので本日はこれについて検証してみたいと思います。

 

大綱発表日の夜のニュースでは夫の所得(夫の収入が多いという前提で話を進めます)から38万円の所得を控除できる妻の収入上限が103万円から150万円(夫の給与収入が1,120万円未満の場合)に広がることについて街頭インタビューが流れていました。総じてもっと働けるといった喜びの声が多かったように思います。ところが130万円を超えると新たに社会保険料の本人負担が生じることについては誰も触れていなかったので本当にメリットがあるのか検証してみたいと思います。

 

現状言われている103万円の壁や130万円の壁の理由を確認しておきましょう。

103万円で抑えていた理由としては、所得税を払わなくて済む、夫の会社から家族手当がもらえるというのが大きいと思います。会社によりますが103万円の水準が企業の家族手当制度等の支給基準に援用されていることが多いと思います。103万円を超えることによる税負担と、打ち切られる家族手当では家族手当の額の方が大きいのではないかと思います。

 

一方、130万円に押さえたい理由としは、夫の社会保険の扶養に入ることができるので自身で社会保険料負担をせずに済むことです。

 

今回、夫から38万円の所得控除が適用できる妻の収入上限が103万円から150万円に増えましたが、社会保険加入要件の130万円はそのまま生きていますので注意が必要です。

給与収入150万円という水準は、安倍内閣が目指している最低賃金の全国加重平均額である1,000円の時給で1日6時間、週5日勤務した場合の年収144万円を基準に設けられたということが大綱に記載されていました。

 

それでは、現状103万円で就業調整している人が144万円まで増やした場合を具体的金額で検証してみます。

 

 

①-②

給与収入

144万円

103万円

41万円

社会保険料

21万円

0円

21万円

所得税・住民税

3万円

5,000円

25,000円

手取り

約120万円

約102万円

約18万円

勤務時間

1,440時間

1,030時間

410時間

※①は130万円を超えていますので社会保険料の加入が必要になります。

 

比較してみると確かに社会保険料や税金を差し引いた手取りは18万円ほど増えますが、働く時間は410時間も増えています。この18万円を増やすために費やした410時間を時給で考えると時給439円になってしまいます。社会保険料を払うために働いているようなものですね。さらに夫の会社によっては扶養手当の支給が止まってしまうということがあれば、世帯の手取りは逆に減ってしまう可能性もあります。

 

社会保険については夫の扶養から外れて自身で加入することにより将来の年金受取額が増える等のメリットはあるかもしれませんが、今を大事にしたいという考え方からすると割に合わない気もします。そう考えると依然として130万円の壁は厚いのではないかと思います。税金だけでなく社会保険加入要件や企業の家族手当のあり方も含めた議論が必要で、すぐには就業調整の解消には結びつかないのではないかと思います。

 

監査部2課 藤野慶一