給与を増やしたい企業に対する減税
アベノミクスの目標はデフレを脱却し、かつ景気を回復させることです。そのためには円安や株高だけでなく、個々人が所得増を実感できることが要です。そのため、従業員の所得を増やせた企業は法人税を減税しますという施策が用意されています。雇用を増やした企業に対する税制の「雇用促進税制」と所得を増やした企業に対する税制の「所得拡大税制」です。景気回復を個人が実感できるような社会の実現を政府は目指しているようです。雇用促進税制についてはすでに説明しましたので、今回は所得拡大税制についてわかりやすく説明をします。
所得を増やした企業とは?
所得拡大税制は、所得を増やした企業に対し、増やした所得の金額の10%に相当する金額を法人税の減税で支援していくという制度です。所得拡大税制の最大のポイントは、所得を増やした企業とはどのような企業かということです。具体的には以下の3つの条件を満たした企業のことをいいます。
- 適用年度の雇用者給与等支給増加額÷基準雇用者給与等支給額≧5%
- 適用年度の雇用者給与等支給額≧比較雇用者給与等支給額
- 適用年度の平均給与等支給額≧比較平均給与等支給額
この3つの条件を満たした企業については、雇用者給与等支給増加額の10%相当額の法人税が減税されることになります。雇用者数が増えていなくても給与が増えていると適用対象となる制度ですので、雇用促進税制よりは使い勝手がいい制度ではないかと思います。
対象となる法人と適用年度は?
所得拡大税制を適用できる法人は青色申告法人となります。青色申告法人の平成25年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する各事業年度について適用を受けられます。ただし、合併による解散以外の解散の日を含む事業年度および清算中の各事業年度は除かれます。会社設立初年度については、条件を満たせば適用を受けることが可能です。雇用促進税制は、会社設立初年度は適用を受けることができないため、設立初年度は雇用に関する減税は、所得拡大税制のみとなります。
対象となる雇用者とは?
所得拡大税制の適用要件の判定をする際の給与等の金額の集計の対象となるのは、法人の使用人のうちその法人の国内の事業所に勤務する雇用者となります。社員以外にもパート・アルバイトなど日々雇い入れられる人も集計対象です。ただし、法人の役員や役員の親族等は集計対象から除かれます。使用人兼務役員も除かれます。集計対象となるのは給与、賞与になります。退職金は含まれません。
雇用者給与等支給増加額および雇用者給与等支給額とは?
少し細かな説明になりますが、適用要件を判定する際の給与等はどのようなものなのかについて説明します。
雇用者給与等支給増加額とは、雇用者給与等支給額から基準雇用者給与等支給額を控除した金額となります。基準雇用者給与等支給額は後述します。
雇用者給与等支給額とは、適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額がある場合には、その支払を受ける金額を控除した金額とされています。
基準雇用者給与等支給額とは?
基準雇用者給与等支給額とは、平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度開始の日の前日を含む事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。
最初に適用対象となる事業年度の直前の事業年度の給与等支給額のことになります。基準事業年度と適用年度で月数が異なる場合には、基準事業年度を調整して適用年度と同じ月数となるように調整計算をします。
また、設立初年度の場合にはその前の事業年度がないため、設立事業年度の給与等支給額の70%相当額を基準雇用者給与等支給額とすることになります。70%相当額としていることから、設立事業年度で国内の雇用者に対して給与等の支払がある法人については、必ず所得拡大税制の適用要件を満たすことになります。
なお、基準事業年度において国内雇用者に給与等を支給していない場合には、基準雇用者給与等支給額は1円とされます。
比較雇用者給与等支給額とは?
比較雇用者給与等支給額とは、適用年度の前事業年度の雇用者給与等支給額をいいます。基準雇用者給与等支給額と定義が似ていますが、基準雇用者給与等支給額は、平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度開始の日の前日を含む事業年度で、この事業年度は、適用年度が変わっても変わりません。一方で比較雇用者給与等支給額は、適用年度の前事業年度なので、2年目以降の所得拡大税制の適用からは、基準雇用者給与等支給額と比較雇用者給与等支給額は対象となる事業年度が異なってきます。
平均給与等支給額とは?
平均給与等支給額とは、雇用者給与等支給額から日雇い労働者に支払われる給与を控除した金額を、適用事業年度の給与等の月別支給対象者(日雇い労働者を除く)の数を合計した数で除して計算をした金額となります。
月の途中で退職や入社した人がいる場合には、その人数も含めて計算をします。
比較平均給与等支給額とは?
比較平均給与等支給額とは、比較雇用者給与等支給額から日雇い労働者に支払われる給与を控除した金額を、前事業年度における給与等の月別支給対象者(日雇い労働者を除く)の数を合計した数で除して計算した金額となります。設立法人のように前事業年度がない場合には、月別支給対象者数は1となります。
事業主都合による離職者がいる場合
雇用促進税制と違い、適用年度と適用年度の前事業年度に事業主都合による離職者がいる場合でも適用を受けることが可能です。雇用促進税制と所得拡大税制は選択制になりますので、事業主都合による離職者がいる場合には、所得拡大税制を選択することになります。
減税される金額と手続き
所得拡大税制の3つの要件を満たしている企業については、雇用者給与等支給増加額の10%が適用年度の法人税額から控除されます。控除税額は、その適用年度の法人税額の10%(中小企業等は20%)が上限となります。
適用を受ける場合には、適用年度の法人税の申告書に雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書(別表六(二十))を添付する必要があります。
適用する際の留意点
所得拡大税制の適用を受ける際の留意点は、雇用促進税制との選択制であるということです。雇用促進税制は、増えた雇用者×40万円が税額控除されます。最低でも2人以上増えなければ適用がないので、控除される減税枠は最低でも2人×40万=80万になります。
一方で所得拡大税制は、雇用者給与等支給増加額の10%が対象です。増えた給与の10%ですから、雇用促進税制の最低控除額80万と同じだけの減税枠を確保するには、80万÷10%=800万円の給与支給増加がないといけません。
雇用促進税制の適用を受けられる場合には、雇用促進税制の適用を受けた方が有利になるケースが多いのではないかと予想されます。
所得拡大税制については、設立事業年度でも適用を受けることが可能なこと、雇用を増やさないでも適用が可能なことから、雇用促進税制より適用対象法人の幅は広いと思います。
また、平成26年の税制改正大綱において、所得拡大税制の適用要件の緩和措置(給与等支給増加率が5%から2%~5%等)が取られることが予定されております。遡って平成25年4月1日以後の事業年度について適用される予定となっておりますので、適用を受ける際には、最新の情報を入手の上適用を受けて下さい。