承和元年834八月二十三日は大師が「勧進して仏塔を造り奉る知識の書」を書かれた日です。
「それ諸仏の事業は大慈をもつて先とし、菩薩の行願は大悲をもつて本とす。慈よく楽を与え、悲よく苦を抜く。抜苦与楽の基、人に正路を示すこれなり。いわゆる正路に二種あり、一には定慧門、二には福徳門なり。定慧は正法を開き、禅定を修するをもって旨とす。福徳は仏塔を建て、仏像を造るをもつて要とす。三世の諸仏、十方の薩埵、みなこの福智を営みて仏果を円満す。
この故に比の年、四恩を抜済し二利を具足せんがために金剛峯寺にして毘盧遮那法界体性の塔二基(現在の大塔と西塔)、及び胎蔵金剛界両部曼荼羅を建て奉る。しかも今工夫数多くして糧食給きがたし。今思わく、もろもろの貴賤四衆とこの功業を同じくせん。一塵大嶽を崇くし、一滴広海を深くす所以は(一塵が積もって大山を作り、一滴が溜まって海となる)心を同じくし力を勠あわするが致ところなり。伏して乞う、もろもろの檀越等おのおの一銭一粒の物を添えてこの功徳を相済え。しかれば営むところの事業は不日にして成り、所生の功徳萬劫にして廣からん。四恩は現当の徳に飽き五類は幽顕の福をゆたかにせん。同じく無明の郷を脱し斉しく大日の殿に遊ばん。敬って勧む。
承和元年八月二十三日」
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