日々の恐怖 12月1日 電話
携帯がまだ普及していない、固定電話の時代のKの話です。
その日、Kは専門学校の研修旅行を終え、自宅のある駅に到着した時に、ふと家の鍵を忘れてしまっているのを思い出し、念の為家に電話を入てみる事にしました。
人のいなくなる事が稀な家なので、やはり数コールで誰か出たので、
「 もしもし、俺だけど、いま××駅。
鍵がないから、鍵開けといてよ。
お願いねー。」
と、一方的に喋ると電話を切ってしまいました。
そしてバスに乗り、家路についたのです。
家に着くと、困った事に鍵が開いていませんでした。
Kは不信に思い、家の廻りを見て回りましたが、家の中には人の気配がなく、静まり返っていました。
しかし、数分前までは誰かが電話に出ていたので、何所か窓から見えない所にいるのだろうと思い、もう一度電話をしてみようと思い、近所のタバコ屋の店先にある公衆電話へと向かいました。
電話をしてみると、また数回のコールで誰かが出ました。
「 ガチャッ。・・・・・・・・・・・・・。」
「 もしもし、俺だけど。」
「 ・・・。」
「 もしもし!もしもし!!」
「 ・・・・・・・・。」
「 もしもーし!!」
「 もしもし!俺だってばっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
なぜか、相手は黙ったままなので、その後数分置きに電話をしてみたのですが、どうしても通話が出来ない状態なので、電話の故障だと思い家の前で家族を待ってみることにしました。
しばらくは、家の前で途方にくれていたのですが、突然、玄関脇に緊急用の予備の鍵を隠してあったことを思い出し、やっと家に入ることが出来ました。
でも、家の中は静まり返っていて、どの部屋にも人の気配はありませんでした。
また、電話にも異常はみられず、きちんと使用できる状態だったのです。
これはおかしい、と思った彼はもう一度だけ、公衆電話から電話をかけてみることにしました。
そして、きちんと鍵が掛かっているを確認し、先程の公衆電話へと急ぎました。
少し緊張しながらダイヤルすると、先程のように誰かが電話に出たのです。
驚きながらも、まだ家族のイタズラの可能性を捨てきれなかったKは、電話の相手に呼びかけました。
「 もしもし。」
「 ・・・・・。」
「 もしもし、姉ちゃんなんだろ!答えろよ!!」
「 ・・・・・。」
「 なぁ、誰なんだよ!」
「 ・・・・・。」
「 オマエ誰なんだよ!!答えろってば!!」
「 ・・・・・・・・・。」
「 ・・・・・・・・・。」
しばらく呼びかけていても一向に相手が応答しないので、Kはこれで最後だと、こう呼びかけました。
「 オマエ誰なんだよ。
そこにいるのは分かってんだよ!
誰かいんだろ!!」
すると、長い沈黙の後、
「 ・・・・・ダレモイナイヨ・・・・・・・。」
と、初めて相手が答えたそうです。
今まで一度も聞いたことの無い、どこか遠くの方から聞こえてくるような声でした。
Kはびっくりして受話器を叩きつけると、家へと急ぎました。
そして、家に着くとすぐさま家中を見て回ったのですが、鍵の開いている窓もなければ、人の気配もしなかったそうです。
しかし、一つだけ、彼を再びゾッとさせた事がありました。
それは、居間の電話の受話器が外れて、床に置いてあったそうです。
私は未だにこの話をしたり、聞いたりすると、鳥肌が立ち、体中の毛が逆立つのを感じるのです。
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