大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 12月15日 人形

2013-12-15 18:20:38 | B,日々の恐怖



      日々の恐怖 12月15日 人形



 これは私が子どもの時に体験した奇妙な話です。
私の父はとにかく貧乏性で、近くのゴミ捨て場で壊れた家庭用品やガラクタなどを見つけては「もったいない」と家に持ち帰ってきた。

 家族はそんな父に呆れていたが「恥ずかしいからやめて」と言ってもやめるような性格ではないのは知っていたから、諦めて父の好きにさせていた。
父が拾ってくるのは様々なものだったが、中には「なんで拾ってきたの?」と言いたくなるような奇妙なものも少なくなかった。
その中のひとつが、人形だ。

 ある日家に帰ると、私と妹の部屋に見知らぬ人形が置かれていた。
どうせまた父が拾って帰ってきたのだろう。私は「こんな汚い人形を拾ってくるなんて…」とうんざりしながらその人形を見下ろした。

 子どもの腕にぴったりと収まるような、よくある日本製のミルク飲み人形。
長い睫にクリクリの茶色い瞳。
ミルクを飲む為にうっすら開かれた唇は、今にも何かを喋りだしそう。
新品の状態だったならさぞかし愛らしい人形だったことだろう。

 けれど前の持ち主がよほど手荒く扱ったのかつるりとした白い頬には黒のマジックでいたずら描きされ、寝かせるとぱちりと閉じるはずであろう瞼は片方、しかも半分しか閉じることができず、片目が潰れたような酷い顔になっていた。

 とても可愛いとはいえないそれをなぜ父が持ち帰ってきたのかわからない。
私も妹ももともと昔から人形遊びが好きだったから、部屋には他にもリカちゃん人形やケースに入ったフランス人形、ぬいぐるみなど沢山の人形達がずらりと飾られていた。
その中に並べられた明らかに異質な人形。

 他の人形たちは子どもの頃から遊んでいた物ばかりだったので愛着もあったし、そこに置いていて不自然さを感じることなど一度もなかった。
しかし、あのミルク飲み人形だけは違ってた。

 彼女はベッドで眠る私を物言わぬ瞳で毎日毎晩じっと見つめているようで、それはあまり気分がよいものではなかった。
が、父が拾ってきたそれをまた捨てる気にもなれず、渋々部屋に置いていた。

 それからしばらくたって、私はある奇妙な体験をした。
ベッドの上でいつものように俯せでうとうと眠っていると、ふと耳元で誰かの話し声が聞こえてくる。
子どもだろうか?私の耳元、それもものすごく近くでいきなり子どもが笑った。
クスクス、悪戯を含んだような楽しそうな笑い声。
最初はひとり。
それから小波が広がるようにざわざわと、他の笑い声も響いてきた。
2、3人くらいだろうか。

 全部幼さを含んだ無邪気な笑い声。
それからヒソヒソと何かを話しているのが聞こえてきた。
最初は近所の子が遊んでるのかと思ったけれど、こんな夜中に子どもが外で遊んでいるわけがない。
しかも声がするのは私のすぐ耳元。
 最初は何を話しているのかわからなかったけれど、そのうち段々はっきりと聞こえてくる。

「 ねてる?ねてる?」

目を閉じていても、上から私の顔を覗きこんでいる何者かの気配をしっかりと感じた。
しかもひとりじゃない、複数の視線。
突然現れた彼らは、私が寝ているかどうかを確認しているようだった。

するとその中のひとりが

「 ねてるかどうか、しらべてみようよ。」

みたいなことを言ったと思う。
 その瞬間、私の身体は魚のようにビクビクと震え全身がぶわっと総毛立ちました。
多分、鳥肌が立っていたと思う。
今まで感じたことのないような恐怖で体が強張る。

 これは目を開けてはいけない、見たらきっとよくないことが起きる、だから彼らを絶対に見てはいけない、と本能で感じ、私は心の中で「消えろ、消えろ、消えろ、消えろ」と必死に祈った。
相変わらず枕元では私の顔を覗きこみながら、子どもたちがヒソヒソと何かを話し合っている。

 それから意識がなくなって、ハッとして目を開けたら朝になっていた。
目覚めの悪い夢だった。そう思い、朝が来たことに心底ほっとした。

 けれど、その夢はそれだけでは終らなかった。
その日から私は同じような夢を何度も見るようになったのだ。
ベッドで寝ている私。
するとどこからか子どもの笑い声や話し声が聞こえてくる。

 最初は話し声だけだったのに、そのうち枕元を誰かがパタパタと騒々しく走り回る。
2、3人だけだったはずなのに、段々と増え大勢の人間が私の周りで話し、楽しそうに駆けっこしたりしている

 スピーカーからザワザワと絶えず人の話し声が垂れ流されているような状態に、私はひどく怯えた。
どれもこれも幼い子どものもの。
無邪気に笑う声、はしゃぐ声。
そして、中にはあきらかに私に悪意を持った話し声もした。

彼らは私の耳元で、私の顔を覗きこみながら楽しそうに

「 ねてる?ねてる?」

と話しかけてくる。
返事をしたらダメ、目を開けたら絶対にダメ。
体は金縛りにあったように硬直し、指一本だって動かすことが出来ない。

“ 消えろ、消えろ、消えろ、消えろ。”

私はぶるぶると震え、恐怖と戦いながら夢から覚めるのをただひたすら祈り続けた。
また誰かが私のすぐそばを走っている。
パタパタと複数の小さな足音が聞こえる。
 そんなはずはない。
だって私が寝ているのは二段ベッドの上。
彼らは足音を立てながら空中を駆け回っていることになるのだ。

 そんな恐ろしい夢が続き、私も随分とひどい鬱状態になっていた。
それがあれの仕業だと気づいたのは、昼間、うとうとと昼寝をしている時のことだった。
寝ているような起きている様な半覚醒の状態で私はまたしてもあの夢を見た。

「 ねてる?ねてる?そろそろかな?そろそろかな?」

と話す子どもの気配を感じ、私はなぜか

“これはあの人形なんだ。”

と目をつぶりながら思った。

なぜそう思ったのか説明もつかないし根拠もない、だけど絶対にそうだと思った。
私の顔を覗きこんで執拗に私が寝たかどうかを確かめに来るそいつは”あのミルク飲み人形”ではなく、”ミルク飲み人形の中に潜んでいる何か”なのだと、そう思ったのだ。

 こんな話、誰にも話せるはずがない。
頭がおかしいと思われてしまうのが嫌だったので黙っていたけれど、二段ベッドの下で寝ている妹も何か不穏な気配を感じているかもしれない。
そう思って尋ねてみても、妹は不思議そうな顔をして「話し語なんかしなかったよ」といつもと変わらない様子で答えた。

 ミルク飲み人形が怖くて怖くてたまらず、早く何とかしなくちゃと焦るけれど具体的にどうすればいいのかなんて子どもの私にわかるわけがない。
自分が狂ったのではないかと怯え、本当に頭がおかしくなりそうだった。

 どうして私だけが聞こえるのか、どうして私の元にだけ彼らはやってくるのか。
昔、ぼんやりとだけれど女性の幽霊を見たことがある。
もしかしたら霊感というやつがほんの少しだけ私にあったのかもしれない。
だから闇の中に潜む何ものかの気配を感じ取ってしまったのだろうか。

 数日たった日の夜、また彼らがやってきて私の耳元でざわざわと話し始める。
目を閉じていたので実際見たわけではないけれど、気配で20人くらいはいたと思う。
とにかく部屋中人の話し声で溢れ、耳を塞ぎたくなるくらいの騒々しさだった。
その中の5人くらいがかならず私の枕元で「ねてる?ねてる?」と話しかけてくる。
私の顔を見ているのは、やはりあの人形だと思った。そいつは子どもの声でこう言った。

「 おきてるよ、おきてるはずだよ。」

すると周りの声も反応して

「 おきてるよ、おきてるね。」

と一斉に話し出す。無邪気さの中にはっきりとした悪意と感じた。

「 そろそろいいよね、もう入ってもいいよね?」
「 入ってもいいかもね。入ってみる?入ってみようか?」
「 入ろうよ、入ろうよ。」

その時、私は「こいつらに体を乗っ取られるかもしれない!」という恐怖で悲鳴を上げそうになった。
 でも相変わらず身体は金縛りにあったように動かせず、ただビクビクと震えるだけ。
ほんとにこのままではダメだと思ったので、初めて知っている限りのお経を頭の中で必死に唱えた。
子どもだったので本格的なお経を知っているわけでもなかったけれど、それでも知っている限りの言葉をかき集めて必死に唱えた。

 気がついたら朝だった。
今でもあれは夢だったんじゃないかとぼんやり思う。
いや、夢だったと思い込みたいのかもしれない。

 それからすぐに私たちが住んでいる借家が取り壊しになることになり、私たち一家は新しい新築の家に引っ越した。
あの人形はどうしたかというと、引越しの最中消えてしまった。
 引越し作業に乗じて母が処分したかもしれないし、もしかしたら押入れの中に今もひっそりとしまわれているのかもしれない。
不思議なことに新しい家に引っ越してからはそうした怪現象が起こることはなくなった。
古い家だったのでそういった何かも関係していたのかも。
今思えばおかしな話だけれど、どうしても説明がつかない妙な体験だった。














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日々の恐怖 12月14日 ミッキーマウスマーチ

2013-12-15 01:19:05 | B,日々の恐怖






       日々の恐怖 12月14日 ミッキーマウスマーチ






 僕の知り合いが夜中に3人でとある河口にシーバス釣りに行きました。
海から一つ目の橋の下にある釣り場に着いて、Aさんが釣りの準備をしながら辺りを見回すと突然、

“ ザッバーン!”

と橋から人のような影が川に落ちてまもなく静かになりました。

Aさん「 今、人が橋から落ちたよ。」
Bさん「 まさかー、ゴミでも捨てたんだろ。」
Cさん「 マナー悪いなー。」

 Aさんも何かの間違いかなと思いルアーをキャストしてひとしきり釣りしていると、パトカーのサイレンや赤色灯が橋の上に止まり人が動き出し、やがて警官が橋の下のAさんたちのところに来て、

「 先ほど自殺者が川に落ちたのですが、気が付きましたか?」

と聞いたと言う。
3人は、

「 やはり・・・、ほんとだった。」

釣る気も無くなり帰途についたのですが、Aさんは何か心が重いと言うか、肩が重い感じがしたといいます。


 翌週ほとぼりも醒め、同じ釣り場にAさんたちはまた来ていました。
夜10時頃、調子よくシーバスがヒットしている時にAさんの娘さんから携帯に、

「 お父さん、家に変な人が来てインターホンをいたずらするから怖い!」

Aさんが、

「 インターホンにモニター付いてるから見てみろ。」

と言うと、

「 誰も映っていない。」

と娘さんの怖がる声。
Aさんが、

「 いたずらだろ~。」

と再度言ったが、

「 何度も何度もミッキーマウスマーチのチャイムが鳴るけど誰も映らないし、玄関に行っても誰もいない、怖い!」

と言うので釣りも潮時だし、Aさんは夜中に急いで家に戻った。
 家に帰ったときは、ミッキーマウスマーチのチャイムは止まっていたようだが、Aさんが家で後片付けをしているとミッキーマウスマーチのチャイムがまた鳴った。
Aさんは急いで外に出て玄関付近を確かめるが、誰もいない。
娘さんや奥さんはもうミッキーマウスマーチを怖がって耳をふさいでいる。


 翌日電気屋さんを呼んでインターホンを交換してもらってチャイム音にミッキーマウスマーチが設定に入っていないものを取り付けてもらい安心した。
 その夜、11時頃突然、ミッキーマウスマーチのチャイムが鳴った。
設定に無いのにである。
しかも、鳴り続ける。
 さすがに怪奇を信じないAさんも青ざめ、菩提寺で知り合いのお坊さんに相談すると、

「 それはAさんが見たと言う自殺者の霊に頼られてしまったんだ。
霊が何かを訴えているのだと思うから、私に頼らないで離れてくださいと念じて、ご先祖様の墓の東西南北4方に酒と塩を撒き、ご先祖の守護霊様に守ってくださいとお願いすると良い。
最後に守ってくれるのはご先祖様だけです。」

Aさんはすぐに言われたとおりに実践したら、その夜からインターホンは鳴らなくなった。
数日してあの時の自殺者の遺体が海から発見されたと言うニュースがあった。


 その後、事態を忘れかけていたある日、夜釣りに行った時、ほの暗い海上の何も無いところに、人が立っているのを見てAさんは腰が抜けそうに成ったが、

「 来ないで下さい、私から離れてください。」

と言うと、フッといなくなり、ため息をついていたら、真後ろに立っている人がいて、お辞儀をしたように見えたと思ったらスーーと消えて行った。
その後は気配すら感じなくなったと言うことです。
そんな事があってからAさんは釣りに行く度に好釣、爆釣で霊の恩返しなのだろうと良い方に考える事にしているようです。















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