日々の恐怖 12月17日 山口さん
以前住んでいたアパートのことです。
土曜日の夕暮れ時に居間でまったりしていると、不意にインターフォンのチャイムが鳴ったので受話器を取った。
俺:「 はい!?」
訪問者:「 山口さんのお宅ですか?」
俺:「 いえ、違います。」
その後、詫びの言葉もなくそのまま切れたので、何だよコイツと思って居間へ戻ろうとしたら再びチャイムが鳴った。
俺:「 はい?」
訪問者:「 山口さんのお宅ですか?」
俺:「 いや、だから、違いますって、どちらさんですか?」
最初の訪問者と明らかに同じ声だった。
陰鬱な感じの女性の声。
話し方も最初の時とまったく同じだった。
表札はフルネームでドアの前に出してある。
しかし、俺は明らかに山口さんでは無い。
それどころか名前が一文字もかすっていない。
そして間髪を置かず3度目のチャイムが鳴ったので、今度は受話器を取らずに直接玄関口へ行った。
ドアスコープを覗いたのだが、見えるはずの相手の姿がまったく見えなかった。
不審に思ってチェーンのみ残し、鍵をはずしてドアを開けてみたのだが、見える範囲には誰もいなかった。
「 ピンポン・ダッシュかよ!!」
とムカついてドアを閉め、背を向けた瞬間に何故かチャイムがまた鳴った。
そこで背筋がゾッとした。
すぐに振り向いてドアスコープから見ても誰の姿もそこには見えない。
そんな馬鹿な、と思ってチェーンも外してドアをあけ、慌てて外の様子を直接目で確認する。
ドアの後ろ側の死角の部分も見てみたのだが、やはり誰もいない。
アパートの外は長い廊下になっていて、隠れる場所なんて何処にも無い。
呆然と玄関口で突っ立っていると、突然、
「 開けて・・・・。」
と、女の小さな声が背後から聞こえた。
その時の背後というのは俺の部屋の中の方向なのだが、怖くてまったく振り向くことなんてできなかった。
声を聞いた瞬間飛び上がって、サンダルのまま外へ飛び出し、近くのコンビニに駆け込んだ。
震える手でズボンのポケットから携帯電話を取り出し、不動産屋に電話を掛けた。
俺:「 ヤ、ヤマモト・ハイツ101号室の今野ですけど、不審人物が、不審人物が僕の部屋に入ってきちゃったんです。」
不動産屋:「 あの、警察に連絡されたほうが良くないですか?」
俺:「 いや、そ、その、なんて言うか、人じゃないというか・・・・。」
不動産屋:「 あっ、少々お待ちください。今、社長と代わります。」
不動産屋で対応してくれた女性は、俺の煮え切らない言葉から何かを察したようで、すぐに社長と代わってくれました。
その後、社長と話をしたのだが、どうやら俺のアパートには以前から時々、そういう妙な訪問者が訪れることがあったらしい。
社長が言うには、ここ最近はずっと、その被害に遭った人がいなかったので、もう大丈夫だと思っていたらしい。
ちなみに以前「山口さん」という男性が確かに、このアパートに住んでいたらしいのだが、ある時を境に家賃が滞るようになり、連絡も取れなくなったので部屋を調べてみたら、荷物もそのままに行方不明になっていたらしい。
その人が住んでいたのは俺の部屋とは違う部屋ということだったのだが、それからしばらくして、山口さんを訪ねてくる奇妙な訪問者が度々現れるようになったとのことだった。
結局それ以降は特にその訪問者が訪れてくることはなかったのだが、いつまた来るかと思うと、夜一人で居るのが耐えられなくなり、そのアパートを早々に引き払って引っ越してしまった。
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