日々の恐怖 12月23日 手紙
私は編集者をしており、主にイベントや食べ物屋さんなどの紹介記事を書いています。
こちらから掲載をお願いする事もあれば、読者からの情報を参考にしたり、その他お店からハガキFAXや、電話などで掲載以来を受ける事もあり、その場合、なんとなく興味がわいたら取材に行くという感じです。
お店を選ぶ基準は、このお店なら色々書くことありそうだな~、こっちのお店はなんかいまいちだな~といったフィーリングによるものが大きいです。
ある日、締め切り明けで暇になり、みんなどこかに遊びに行ったり、得意先まわりに行ったりで編集部からほとんど人が消えました。
私は特に行く所もなく、何か面白いことないかな~と、その日届いた読者からのハガキを眺めていました。
その中にあった一通の封筒の中には、1枚の写真と便せん。
写真にはいかにも老舗って感じの古めかしい和菓子屋さんが写っていました。
便せんには、なんだかインクのしみというか、書いて乾かないうちにこすってしまったような、とにかく汚い字で、
「 おいしいですよ、ぜひ来てください。」
と書かれているだけです。
なんだか気味が悪かったんですが、逆にちょっと興味を引かれ、
“ 暇だし、のぞくくらいならいいか・・・・。”
という気分になりました。
来てください、というなら恐らく自薦だろうと、便せんに書かれた住所を見て、だいたいの位置を把握しました。
いつもは道路地図やネットで(最低でも店の名前くらいは)調べてから行くのですが、その時は暇だったのもあり、なんだか調べるのが面倒にだったんです。
見つからなければそれでいいや、くらいの軽い気持ちで出かけました。
1時間ほど車を走らせ、目的地周辺まで到着した私は、近くにあったスーパーに車を止め、そこからは徒歩で探す事にしました。
写真を見ながらてくてく歩く事、十数分、だいたいの住所はこの辺だな、と見回すも、そこは閑静な住宅街といった感じで和菓子屋さんなんてありゃしません。
裏道かな?とわき道にそれると、一軒の(恐らく)空き家がありました。
雨戸は閉められ、庭は荒れ果て雑草が生い茂り、一目見ればわかるじめっとした雰囲気。
なんだか気持ち悪くなり目を逸らすと、突然上の方から視線を感じました。
はっとその方向を見ると、2階の一室だけ、雨戸が閉められていない窓がありました。
“ まさか、人がいるのか・・・?”
と、余計に気味が悪くなり、早々にその場から立ち去りました。
しばらく周辺を歩くもやはり写真のお店は見つからず、そのまま少しはなれた商店街まできてしまいました。
私は近くの雑貨屋さんに入り、ジュースを買うついでに店主のおじいさんに写真を見せ、詳しい場所を聞いてみました。
おじいさんは写真を見るなり怪訝そうな顔でしばらく考え込み、思い出したように言いました。
「 ああ、これ、○○さんとこか!
で、あんた、この写真どうしたの?」
「 あ、私Aという雑誌の編集者なんですよ。
それで、そのお店の取材に行こうと思いまして。
写真はそのお店の方が送って来てくれたんですが・・・。」
「 んん?そんなわけ無いよ。
この店、10年くらい前に火事おこして焼けちゃったから。」
「 え!?お店の方は・・?」
「 みんなそれで焼け死んじゃったと思うけどなあ・・。」
「 それで今はその場所、どうなってるんですか?」
「 そのあと新しく家は建って、誰かしら引っ越して来たんだけど・・・。
いや、まあ、その家族なんだかで長くしないうち引っ越しちまったから、いまは空き家だよ。
しかし、タチの悪いイタズラだなあ。」
“ 空き家・・・。”
先程の家かもしれませんが、視線を感じたこともあり、確認するのが恐かったので、おじいさんにお礼を言い、そのまま編集部に帰りました。
帰って来ていた編集長に事の経緯を話し、例の封筒を見せようとカバンの中をあさりましたが、なぜか無いんです。
どこかに落としたのかもしれません。
車の中か?と戻ろうとすると、
「 多分無いと思うよ、それ。」
と編集長に引き止められました。
「 5、6年前かな。
俺が新人の頃さ、同じようなことがあったんだよな。
そこに行ったのは、俺じゃなくて先輩だったんだけど・・。」
「 あ、そうなんですか。
行ったのは、どなたですか?」
「 いや、もういない。
取材に行ったきり帰ってこなかったんだよ。
××町の和菓子屋さん行くわ、ってふらっと出掛けたっきり。
当時はけっこう大騒ぎになったんだよね。
車ごと消えたから。
先輩も車も、結局見つからなくてさ。
で、俺は先輩が行く前にその封筒も中身も見たんだけど、お前が言ってたのとだいたい同じ感じだったかな。
先輩のは確か、“きてください”としか書いてなかったんだけどね。
もちろん、いたずらかもしれないけどさ。
気味が悪いよなあ。」
その後、車の中を探しましたがあの封筒は見つからず。
誰があの封筒を送って来たのか、なぜその先輩が消えたのか、私が呼ばれたのはなぜなのか、結局わからないままです。
それから3年経ちましたが、郵便が届くたびにあの封筒が来ないか、ビクビクしています。
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