日々の恐怖 12月30日 ドッペルゲンガー
中学生の頃、A山の天辺を平らに切って乗っけたような校舎に通っていた。
眺めはいいが登校に一苦労。
中1の時、いつものように部活で第2音楽室へ向かった。
校舎の最上階で廊下側からは町全体と海が見える。
音楽室はピアノを中心に生徒側の席が段々になった構造。
特に第2音楽室は段差があって、一番上の席から見下ろすとピアノが谷底にあるような感じ。
その一番高い中庭側の席に、Y先輩が一人ぽつんと立っていた。
先に来ていた先輩に挨拶するが応答無し 無表情で中空を見つめ続けている。
普段から一人でも騒がしく、明るい笑顔の先輩なのに変だなと思ったが、そんな時もあるだろうと隣接した楽器置き場に入った。
そこでY先輩がクラリネットを組み立てていた。
「 え?!」
と変な声を上げた私に、先輩は顔を上げてハーイと挨拶。
「 さっき、向こうにいませんでしたか?」
と問うと先輩は第2音楽室を覗いて、
「 誰も居ないよ。」
続けて、
「 もー、冗談ばっかり。」
と言いながら、先輩は体当たりで私を弾き飛ばした。
他に目撃者もいないし、あんまり食い下がるのも失礼かなと思ってその件はうやむやになった。
中2の3学期、当時、変な遊びが流行っていた。
グループで歩いていて突然誰かが走り出す。
競争のように教室に飛び込み、最後の者が閉め出される。
この遊びは、扉に激突した生徒がガラスを割ってケガをする事故が多発したので禁止されていたが、それでやめる生徒は居なかった。
第一音楽室を使っていた打楽器組の1年生が、何故か木管組の私を呼びにきた。
例の遊びで第一音楽室の楽器置き場に、金管組の1年生達が閉じこもって楽器が出せないという。
見に行くと、取り残された一人が半泣きで引き戸を開けようと踏ん張っている。
中からはクスクスと笑い声。
他の2年生は未だ来ていないようだった。
私を打楽器組の2年と間違えたのか、半泣きの1年はヒュッと息を吸い込んで固まってしまった。
引き戸をノックし、
「 そろそろ準備しないと先生が来るよ。」
と言うが、
「 誰~?」
と笑っていて話にならない。
「 Nだよ。」
と言うと、更にテンションの高くなる笑い声。
ついこっちも笑い出してしまいそうなほど楽しそう。
そうして帰ってきた返答。
「 Nさんならここにいるよ。」
「 嘘はいかんぞ、私はここだ。」
と言うと、
「 だってここにいるもん。」
と勝ち誇ったような声。
「 いや、だから私だよ、Nだよ。」
と食い下がると、笑い声がピタッと止んだ。
次の瞬間、引き戸が開けられ、もの凄い形相をした1年生達が悲鳴を上げて飛び出してきた。
ギリギリでなんとか身をかわしたが、後は阿鼻叫喚。
以下泣きじゃくる1年生の証言。
・廊下を歩いていたら突然Nさん(私)が走り出した。
・例の遊びが始まったと思い、楽器置き場に飛び込んだNさんの後に続いた。
・さっきまで楽器置き場のカーテンに隠れていて一緒に笑っていた。
・話しかけようと振り向いたらカーテンの膨らみが消えていくのが見えた。
Nさんだったもん、Nさんだったもん、と泣きじゃくり、
私が近付くとヒステリーを起こすので、後から来た別の2年に任せることに。
最初はドッペルゲンガーとか思ったけど、彼女達が落ち着いた後に聞いてみたら、なぜか滅多に話したことのない「Nさん」と一緒にいて凄く楽しかったらしい。
座敷童だったのかな…。
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