大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 12月25日 クリスマス

2013-12-25 18:13:42 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 12月25日 クリスマス



 母さんが俺に言った。

「 ・・・よしっと。 
これで全部だね。
忘れ物は無いかい?」

 大学生活も無事終了し、今年の春から俺は東京で働く事となった。
正直、母さんを一人残して東京へ行くのは抵抗が有る。
母一人、子一人でここまでおれを育ててくれた母さん。
そんな母さんを一人残してはるばる東京へ行く。
 母さんに最初東京へ就職したいと話をした時は、一瞬戸惑った表情をした。
でも母さんはそれを必死に隠し、

「 裕史の事は、裕史が決めたらいいから・・。」(俺の名前は裕史です。)

と、後ろ髪を引っ張るような事はしなかった。

 思えばこの22年間
母さんは、おれがやりたいと言った事を遮った事は一度もなかったような気がする。
むしろ、何をやるにしても母さんは応援してくれた。
ありがとうな、母さん。

 母さんは今、荷造りの手伝いが終わって夕食を台所で作っている。

“ 小さくなったな、母さんの背中・・・。”

そんな母さんの背中を見ながら、おれは22年間過ごしたこの部屋で大の字になって寝そべった。
 天井を見る。

“ あ、あの染み・・・。”

天井の、入り口から見て右奥に小さな染みがある。
父さんとの思い出の染みだ。

 小学2年生の頃、友達がやっているというのを聞いて、おれはクリスマスパーティーをやってほしいと両親にダダをコネた事があった。
父さんは、

「 うちは仏教徒だから、そんなの関系ねぇ!」

って、前かがみになって、左ウデを上下させながら言ったっけ。

おれはワケもわからず、

「 オッパッピー!」

って怒ったんだ。
そしたら母さんが、

「・・おとうさん。 
やってあげましょう。 
できるのも、今のうちしか無いんだから。」

って、説得してくれた。
 しぶしぶ父さんはクリスマスパーティーをやってくれた。
あの天井の染みは、父さんがビビリながら開けたシャンパンの蓋がぶち当たった時に出来たもの。

“ 懐かしいな・・。”

そんな思い出を思い出しながら、おれは目を閉じた。
 目を閉じた暗闇の中、ふと、左の方に青白い光を感じた。
目をあけてその方向を見てみる。
家族の写真・・・。 
そのクリスマスパーティーの時に、家族三人で撮った写真があった。
少し照れる父さんと、左に笑顔の母さん。そして真ん中手前に満面の笑みで、赤いとんがり帽子をかぶったおれ。

“ もうあれから10年以上経つんだな・・・。”

 父さんを撮った写真は、この写真が最後になった。
この一ヵ月後に、父さんは入院し、そして数週間後にあっけなく息を引き取った。
おれは詳しく聞かされてはいないのだが、ひょっとしたら何か病気でそう永くない事を、両親共に知っていたのかも知れない。
今となっては、おれが知っていようが知っていまいが仕方の無い事だ。

「 裕史~、夕飯できたよ~。」
「 うん、今行くよ母さん。」

おれはゆっくり立ち上がり、さっきの写真を見て、

“ 今までありがとう、父さん。 
母さんをこれからもよろしくな。”

と、心で呟いた。
 照れ顔の父さんの表情が、一瞬微笑んだように見えた気がした。
母さんと一緒に生活する最後の夕飯を食べながら、いろんな話をした。

坂上がりの練習を、父さんと母さんが必死に公園で手伝ってくれた事。
参観日に白目を向いて寝てた事。
その時に父さんもつられて寝てた事。
鎌男に襲われた事。
給食のパンが机の中でカビだらけになったのをもって帰った事。
給食が食べれず、放課後まで机の上に置いたままという仕打ちを担任にされて、母さんにちくったら、母さんにも怒られた事。
中学になって引きこもりになりかけた事。
中学の暴力教師に反抗したら、ヤンキーが家にお礼を言いに来た事。
高校の頃、けっこう学校をサボってた時に母さんが悲しんでた事。
大学から帰ってきて、母さんが「あら? おばさんの顔が一瞬見えた気がしたけど・・・。」っていって、ビビッた事。

話し出したらキリがない。

「 向こうへ行ったら、体に気をつけるんだよ。」

母さんは、ずっとおれを心配してくれている。
今までも、そしてきっとこれからも。

 その夜、おれは自分の部屋では無く、母さんの隣に布団を敷いて、居間で寝た。
今日で、おれはこの家を出る。
最後くらい、小さい頃家族三人で布団を敷いて、話をしながら寝たこの部屋で寝ようと思ったからだ。
 いざこうやって布団をしいて寝てみると、少しばかり照れもあり、ほとんど会話も無いまま眠ってしまった。
そして、ふと夜中に目が覚めた。

“ 今何時だろう?
外はまだ真っ暗だ。 
三時くらいだろうか・・・。”

そんな事を考えていると、目に青白い光が入ってきた。
見てみると、バレーボールくらいの大きさでボーっとした、青白い塊だった。
 それが部屋をふわふわと浮遊していた。
不思議に思いながら、おれはそれを見ていた。
すると、その光はおれに気付いたからか、おれにゆっくり近づいてきた。
そしておれの頭を小さく三回ほど回り、そのまままたゆっくりと部屋の端に進んで行き、壁の中に吸い込まれるように消えて行った。
 不思議と怖さは無かった。
奇妙な事に、安堵感があった。
おれはそのまま眠りに入っていった。



 次の日、台所の方から母さんの声がする。

「 裕史!朝よ~。」

味噌汁のいい香りも漂ってきた。
 俺は起き上がり、ボサボサの頭をクシャクシャってして、ふと昨日の夜の青白い光の事を思い出した。

“ あれ・・何だったんだろう・・・。”

何気に、青白い光が消えていった壁の方を見てみた。
あの、クリスマスに家族で撮った写真があった。

“ あれ・・・、父さんだったのかな・・・?”

 顔を洗い、歯を磨き、台所に行って母さんと朝ごはんを食べる。
その時に母さんはこんな事を言った。

「 そういえばねぇ、裕史。 
父さんは、アンタが何かやるときは、必ず頭を三回、クシャクシャって撫でて、‘がんばれよ‘って言ってくれてたよ。 
きっと、もし生きてたら、今日も励ましてくれたろうねぇ。」

そうか、あの光は父さんだったんだ。

“ ありがとう、父さん。
おれ、東京に行っても頑張るからな。
ありがとう。”

 荷物をかかえ、俺は家を出た。
たまに振り向き、横目で後ろの母さんを見る。
 母さんは、見えなくなるまでずっと立って見送ってくれていた。
曲がり角を曲がって、母さんが完全に見えなくなってから、おれはハンカチを取り出して涙を拭いた。

「 ありがとう、母さん。」

二人の暖かさを胸に、おれは生まれ育ったこの町を出た。













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