日々の恐怖 9月3日 検査入院
数年前、風邪をこじらせて入院することになったときのことだ。
部屋は5~6人用だったけど結構空いていて、俺とおっさんの二人だった。
その部屋に入院予定の患者も無く、おっさんの他は誰もいなかった。
おっさんは、俺と同じく今日から入院だと言った。
おっさんは検査入院だそうで、点滴打たれてぐったりの俺とは違い普通に元気だった。
暇だったのか、おっさんは、
「 学生さん?」
「 家近いの?」
「 この部屋意外と眺めよくない?」
等と、やたら話しかけてきて、俺は、
「 はぁ。」
「 そっすね。」
と何とか返事を返していた。
おかげで消灯時刻になって会話が止んでからも目が冴えてしまい、入院初日からウツラウツラしては起き、ウツラウツラしては起きの繰り返しになってしまった。
翌日、おっさんは朝から検査に行き、俺は点滴打ちっぱなしで、することもなく、体はだるく、ひたすら外眺めたり昼寝したりしてた。
午後になっておっさんが帰ってきて、身支度を始めた。
「 もう退院なんですか?」
「 ああ、もともと検査で一泊だけだったから。」
そう言いながらおっさんは眠そうにあくびしてた。
“ おっさんも寝られなかったのか?”
と思って見てたら、
「 それにしても昨日の夜はひどかったな。」
とおっさんが言った。
一瞬、病人の俺に配慮せず話しかけ続けたことを反省してるのかと思ったが、そうじゃないらしい。
適当に、
「 はぁ・・・。」
と相槌を打つと、おっさんは更に続けた。
「 夜通し女の悲鳴がうるさくて眠れなかったよ。
近くに精神科でもあるのかね?」
俺そんなの聞こえなかったんですけど。
その時は体調が最悪だったのと、看護師の下手くそな点滴がめちゃ痛かったのとであまり気が回らなかったが、今思うとよくあの状況であれから一週間一人で入院できたなぁと思う。
おっさんは嘘をついているようにも見えなかった。
“ 一人残される俺に、あんなこと言いやがって絶対に許さん!”
と思ったが、おっさんの退院時に迎えに来たおっさんの家族が、お菓子くれたから許すことにした。
そのとき、やっぱり病院てなんかあるのかも知れないなぁと思った。
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