日々の恐怖 9月7日 別れ道
交通事故で入院中のKさんの話です。
先日事故で意識不明、心肺停止状態で病院に運ばれたとき、気がつくと処置室で自分が心臓マッサージされているところを上から見ていたんです。
“ これが幽体離脱ってヤツだな。”
と分かって、自分の体に戻ろうとしたのですが、どこから入ればいいのか分からず、あれこれ試していたら、臍から繋がっていた糸みたいなものを間違って切ってしまったのです。
すると急に首のあたりを誰かに捕まれて、真っ暗な場所に連れて行かれました。
何も見えない場所でしたが、微かに人の声のような音がする方向へ歩いて行き、急に明るい場所に出たと思ったら、そこは洞窟の入口でした。
その洞窟に入って間もなく左右の別れ道になっていました。
どちらに行こうか迷っていると、白い着物を着た人たちが右の方へ入って行くので、僕もそちらへ進んだのです。
何時間か歩いてヘトヘトになった頃、前を歩いている人が急に振り返って、
「 ここから先は君の来る所じゃないよ、さっきの別れ道を左に行きなさい。」
と言うのです。
「 ずっと後を歩いているのに、なんで入口で教えてくれないんだよ!」
と憎まれ口を叩き、彼を無視してそのまま歩き続けたのです。
そこから先、何人も、
「 引き返せ。」
と言っていましたが、無視して歩き続けました。
10人程の忠告を無視した頃、また急に明るい場所に出たかと思ったところで目が醒めました。
気がつくと病院のベッドの上で、お袋が手を握り涙を流していました。
「 あの時周りの忠告通り戻って、左の道を進んだら、どうなっていたのかなぁ。」
とKさんは語っていました。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ