日々の恐怖 9月5日 おかん
うちのおかんは妙な体験をしてきたことが、今になって分かった。
それは、今回の正月帰省した時に初めて聞いた話だ。
俺が幼い頃からおかんは食べ物を口に運ぶとき、周りをキョロキョロ見渡す癖があった。
俺はそれを癖だと思っていたんだが、どうも違うらしい。
今回の帰省時、あまりにもキョロキョロするため、
「 こぼすぞ!」
って注意したんだ。
そしたら、
「 いや、念のためね・・・。」
なんて意味不明な答えが返ってきた。
別に毒が盛ってあるわけでもなかろうに。
詳しく聞いてみると、おかんが大学生の時からその現象は始まっていた。
確か大学の講義が長引き、遅めの夕食を自宅で食べていたときだ。
作るのも面倒なんで冷奴を食べたらしい。
ふわふわとろとろの食感を期待して食べたら、口の中に違和感を覚えた。
何か鉄臭いんだと。
当時から付き合っていた親父も一緒にいたらしいんだが、親父が食べても普通の豆腐だった。
最初は歯茎から血が出たと思い手鏡で確認したそうだ。
すると視界の隅に一瞬人影が過った。
しかし、そちらを見ても誰もいなかった。
そのときは、気のせいだと思って放置した。
また、友人に誘われて飲みに行った時、その居酒屋というかバーは、一階がバーで二階から上は普通のマンションみたいな作りになっていた。
甘党のおかんは、ベタ甘カクテルを飲んでいたらしい。
しかし、そのカクテルが妙に酸っぱかった。
友人が飲んでも甘くて飲めないと言われ、おかしいなと感じていたらしい。
薄ら寒さを感じ、店内をキョロキョロ見回していると、バーテンのおっさんが数ヶ月前、ここの三階で腐乱死体が見つかった、と笑いながら教えてくれた。
そして、他にも色々あるらしい。
そんなこんなで今回帰省した時の話に戻る。
俺が帰ったことに気を良くし、酒をたらふく飲んだおかんは、急にプリンが食べたいと言い出した。
「 しょうがねえな、いい歳してそんな酔っ払うなよ。」
と言いながら立ち上がると、おかんは、
「 一緒に行く。」
とか言い出した。
まあ、年に2回程しか帰らないので、親孝行のつもりで一緒にコンビニまで歩いた。
お目当てのプリンを無事発見し、俺が、
「 さあ帰ろう。」
と言った時、おかんはプリンを食い始めた。
“ 大人気ねえな、どんだけ食いたかったんだよ。”
と思いながら、俺は、
「 ほら、さっさと帰るぞ!」
と言い歩き出そうとした。
その時、おかんは口にスプーンをくわえたまま、プリンの容器をまじまじと眺めていた。
また例の癖かと思って黙っていたら、おかんが、
「 これ、茶碗蒸しじゃないよね??」
と言った。
俺は、
「 カラメルの入った茶碗蒸しは、聞いたことない。」
と笑いながら答えると、
「 そうだよね・・・。」
と悲しそうな顔をした。
一口もらって食べたが普通のプリンだった。
おかんはキョロキョロと見回す。
「 あ、これか・・・。」
と、おかんが指差すので目を向けると、コンビニの駐車場の片隅に菊の花束があった。
おかんは三つ買ったプリンのうちの一つを、
「 これもらっていい?」
と聞いてきた。
「 いいけど、何だよ?」
とイラっとして答えた俺に、
「 子供・・・・。」
と一言だけ言い、未開封のプリンを花束の横に並べた。
お供えを終えたおかんは、またプリンを食べ始め、
「 ん~!!おいしい!!」
と言いながら歩き出した。
その帰り道、おかんに、
「 さっきのは、何だったんだよ?」
と聞くと、
「 自分の近くで人が亡くなっていると、食べ物の味が変わるんよ。」
と答えが返って来た。
酔っ払ってる時に聞いた話だから真偽のほどは定かではないが、俺はおかんの変な癖を幼い頃からずっと見てきていたため妙に納得した。
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