日々の恐怖 9月24日 やりかけの物件(3)
多分カビのせいだろうけど、きな臭い匂いとむせ返るような息苦しさがあった。
こりゃ長居はできんなと思ってメモを見ると、風呂場は一通り計測されてて安心した。ただその下に、『・風呂場やばい』って書いてあった。
普段なら「なにそれ(笑)」って感じだったんだろうけど、その時の俺は明らかに動揺していた。メモの筆跡が、書き始めの頃と比べてどんどんひどくなってきてたから。
震えるように波打っちゃってて、もうすでにほとんど読めない。えーっと、前任者はなんで会社に来なくなったんだっけ?病欠だったっけ?
必死に思い出そうとして、ふと周りを見ると、閉めた記憶もないのに風呂場の扉が閉まってるし、扉のすりガラスのところに人影が立ってるのが見えた。さっきの子供だろうか?
色々考えてたら、そのうちすりガラスの人影がものすごい勢いで動き始めた。なんていうか、踊り狂ってる感じ?頭を上下左右に振ったり、手足をバタバタさせたり、くねくね動いたり。
でも、床を踏みしめる音は一切なし。めちゃ静か。人影だけがすごい勢いでうごめいてる。もう足がすくんで、うまく歩けないんだよね。手がぶるぶる震えるの。
だって尋常じゃないんだから、その動きが。人間の動きじゃない。とは言え、このままここでじっとしてる訳にもいかない。
かといって扉を開ける勇気もなかったので、そこにあった小さな窓から逃げようと、じっと窓を見てた。
レバーを引くと手前に傾く感じで開く窓だったので、開放部分が狭く、はたして大人の体が通るかどうか。しばらく悩んでたんだけど、ひょっとしてと思ってメモを見てみた。
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